第83話【5万PV感謝特別編】魔王様としぶや駄菓子バーとあんず棒サワーと

「やった! 無限の霧に住む巨大魚をついにやっつけたぞ!」


 そう言った大剣を持った角の生えた美女は豪華な魔法の杖を持った青年と、貧相な弓、槍をそれぞれ持った青年と喜んでいる姿だった。禍々しい色をした巨大な魚が死んだ目で水面に浮かんでて、なんとも憐れを感じる。

 すると突然湖(?)がぶくぶくと泡立ち。そこから言葉に表す事もできない綺麗な女性が現れるとこう言った。


「勇者よ。よくぞ試練を乗り越えました。今こそ、水の精霊は貴女に新しい力を与えましょう!」


 おぉ! この角の生えた大剣をもった美女は勇者なのか、と思ったらどうやらみんなの様子がおかしい。全員で話し合った結果貧相な槍を持った青年が、


「訳あってここには勇者はいない。が、必ず勇者は……」

「勇者無しで、怪魚の命を殺めたというのですか? こ、この! 魚殺し! 最低! 死んでしまえ! 貴方達には水の精霊は永遠に力を与えないでしょう!」


 こんにちは天童ひなです。

 変な夢を見ました。彼らはどうなったのか気になりますが夢の事を引っ張るのもあれでしょう。

本日は1日オフなので夕方まで寝ていたのですが、鳴り響くスマホを見ると、魔王様より呼び出しを受けました。確か本日は魔王様はネトゲのオフ会に行っているハズだったんですが、一次会で解散後にオフ会メンバーの一人と飲みなおす事になったのでどうせなら私も、という事なんですが……気まずいですよね。

 だって、お互い、誰? みたいな間柄じゃないですか、まぁ言い出したら魔王様は聞かないので軽くメイクをして着替えて行きましょうか……場所は……


“ひな! 渋谷にいますぐ来るがいい! しかし転ばぬように周りをしっかりと確認してからな!”


 という事で、私は渋谷のセンター街に向かいます。今日、魔王様が帰ってこなかったら昭和レトロ系の店が揃う品川ゴールデン横丁にでも行こうかと思ってたんですけどね。


 表示される場所はどうやら駄菓子居酒屋?


「くーはっはっは! ひなここである! ミカンもここいるぞ!」

「おぉ! あれがアズリエルの家来! 普通なの!」


 そう言って手を振ってくる魔王様と! あの子はいつぞやの変な恰好をしている美少女! そういえば魔王様のオフ会友達とか言ってました。なんか恋人関係かと思ってたけど、そんな空気感じゃないですね。なんというか、小さい頃から知り合いのようなそんな幼馴染感を感じる二人。


「はじめまして、天童ひなです。魔王様を保護しているというか、そんな感じです」

「勇者はミカン・オレンジーヌなの!」


 やっぱり外国の人だったんですね。よくよく聞くと凄い名前ですね。

 握手をして私達は魔王様チョイスの本日のお店は……


『しぶや駄菓子バー』です。ハッピーアワーではないですが500円で駄菓子食べ放題。魔王様の本日のポイントはこちらですね。


「くははははは! 先ほどまでの冥途の喫茶も面白かった! 余の事をお帰りなさいませご主人様と申す! 魔王様と申せと言っても変わらぬ! 愉快である!」

「いやー、そういうコンセプトのお店ですから……てかそんなところ行ってたんですね」

「勇者とアズリエル以外お酒飲めない人ばっかりだからお茶とケーキだったのー!」


 未成年や下戸の人ばかりだったみたいです。記念写真を見せてもらったけど、魔王様とミカンちゃん程じゃないけど、みんな可愛いしカッコいい子ばっかりなんですねぇ……

 オタク文化もここ数年で激変してますね。

 お店に向かっている最中、今どきのJK二人組が、


「あっ! 魔王様と勇者ちゃんじゃん! はろはろ!」

「うむ! 暗くなる前に帰るであるぞ!」

「はろはろーなのー!」


 二人はそれぞれ渋谷の街でオタク系の人からさっきみたいなギャル系、ご老人や小さい子供にまで大人気です。一体何したんでしょう。

 そんなこんなでお店にたどり着きました。


「くははははは! 三名で予約の魔王である!」

「いらっしゃいませー! マオー様ですね! お待ちしておりました」


 スマホで店の予約までこなせるようになっている魔王様、凄いですね。しっかし魔王様、チェーン店大好きですよね。

 簡単にチャージ料等を教えてもらい。店内にある小さな駄菓子屋さん“ひよこ”で好きな駄菓子を取りに行く事ができます。それ以外は普通の居酒屋で駄菓子系を使ったカクテルなんかがありますね。


「余はあんず棒サワー!」

「勇者はわたぱちカリモーチョ―なの!」


 うわっ! 二人ともいきなりパンチ効いたの頼みますねぇ。じゃあ私は……


「だるま(サントリーオールド)のハイボールで」


 お酒を注文したらみんなで駄菓子を選びに行くタイムです。まず魔王様は、うまい棒・よっちゃんイカ、オリオンミニコーラ味。勇者ちゃんはこざくら餅・麦チョコ・どんどん焼き。


「ほう、ひな。貴様はベビースターラーメン、らあめんババア……酷い名前だな! クハハハハ! そしてラーメン屋さん太郎。貴様、余程ラーメンが食いたいのか?」

「ひなのチョイス偏ってるかもー!」

「う、うるさいですよ! 私好きなんですよ! ラーメンスナック。とりあえず飲みましょ!」


 そして魔王様が凍ったあんず棒が突き刺さった酎ハイのグラスを掲げて……


「クハハハハ! 皆の衆、苦しゅうない! 今日はたんまり駄菓子を楽しもうではないか! 乾杯!」

「かんぱーい!」

「乾杯かも!」


 ひゃああああ! だるまのハイボールおいしぃいいですぅ!


「うんみゃあああああい! わたぱちが入ったお酒スキー!」

「クーはっはっは! あんず棒め! 憂い奴よ! うまい!」


 ゲテモノに思えるお酒だけどよく考えたらお店でちゃんと出してるお酒だし、普通に美味しいだろうな。まぁ、私はあんなの冒険する勇気ないんですけどね。


「お待たせしましたー! じゃがりこポテサラピザです! こちらは柿の種の揚げ出し豆腐です!」

「うむ! ご苦労!」


 えっ? なんか凄いパワーワード聞こえましたけど? フードメニューも駄菓子なのね……これは面白くなって来ましたねぇ! 偏見ですけど、こんなの同じガールズバーの同僚のいろはさんや犬神さんくらいしか頼みそうにないんですけど……同じチョイスをする魔王様達。私が異世界の魔王様と一緒に生活しているなんて知ったらびっくりするだろうな。


「おぉ! これはうまい! うまいぞヒナ! ミカンよ! じゃかりこ感を残したままぴざになっておる! 実に面白し! クハハハハ!」

「むふー! おいしーのぉおお! 勇者じゃかりこスキー!」


 まぁ、合わなくはないわよね? どれ一口。


「んんっ! おいーひー! これ凄い美味しいですよ! ハイボールが進みますぅ!」


 続いて、お酒が無くなったので2杯目。一体二人はどんなお酒を頼むのでしょうか? 私も大人のミルメークというお酒たのんじゃおっかな?


「あの二人は何飲まれますか? 私は……」

「余は口の中が甘くなったからプレモルピッチャーで頼むぞ! クハハハハ!」

「勇者もビール! 勇者はかーるすバーグ!」


 えっ? いきなり普通のいくんですね……じゃああ私は……


「コロナエキストラで」


 まぁ、よく考えたら揚げ出し豆腐を甘ったるいお酒で食べるのはきつそうなので確かにビールか日本酒ですよね。二人は私以上にお酒の飲み方わきまえてますねぇ。


「うおー! うおー! 勇者感動! 柿の種のパキパキ感とこのふわふわの豆腐うましーーー!」

「クハハハハ! ミカン、実に面白い! 余の配下に加えてやろう! してこの揚げ出し豆腐とやら! 貴様もうまい! 魔王軍の連中に喰わせてやりたいな!」


 いやー、美味しいでしょうね。普通にここのフードメニュー美味しいですもん。というか二人は次の駄菓子を選びに行って、海外の人と異世界の人だからでしょうか? 沢山、取りすぎずに一つ、一つ遠足の時みたいに目を輝かせて駄菓子選んでて楽しそうですねぇ。


「お待たせしました! こちらフライドオレオです! あともっちりカマンベールのいも餅です!」


 なんて? 

 店員さん、今なんて言った? 私の目の前にはあのオレオが揚げられていた。いや、きっと美味しいんでしょうけど、


「おぉ! 余が食してみたかった火を通したオレオであるな!」

「魔王様、オレオは元々火を通してますよ!」

「サク、やわ! うまー! フライドオレオ! うまーなのー! 麦酒がすすむのぉお!」

「えぇ、そんなですか?」


 くっそ……凄い、美味しい。何これ? どういう事でしょう? 魔王様と勇者ちゃん、喜び全開で恐れを知らぬ戦士みたいに次々と色んな物を試して、時折駄菓子を見に行って、


「お待たせしました! ボンカレーです!」


 シメにカレーです。それもなんの変哲もないボンカレー! まぁ私もお世話になってますし美味しいんですけど、


「クハハハハ! ボンカレーを作りし者。余が褒めてつかわす!」

「ボンカレーうみゃあああ! かなりあのカレーの次にうみゃああ!」


 届け! 二人の声が大塚食品さんにですね。私も少しずつこのノリに慣れて大人のミルメークも飲めて、満足でお店を出る時、ミカンちゃんが出目金の形をしたがま口から一万円札を出して支払ってます。


「すみません、半分出します!」

「いいのー! さっきはアズリエルが全部出したから次は勇者なのー!」

「クハハハハ! 余達の中では次は誰かがご馳走がルールなのである!」


 最近って割り勘とかじゃないんですねぇ……勇者ちゃんは神田の方に帰るという事なので、私は魔王様と……


「魔王様どうせ渋谷来たんでクラブでも行きますか? 次は私がご馳走しますよ?」

「クハハハハ! 良い! 余は音楽が大好きである!」


 誰もが振り返る美形の魔王様が少年のような笑顔で私にそう答えるのを聞きながら、さっき確かにあの勇者ちゃん、“かなりあのカレー“って言ってましたよね? 犬神さんの事でしょうか? まさかね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る