第82話 ハーデスとペリメニとバルティカ(ロシアビール)と
本日はいろはさんのタワマンに来てます。人がゴミのようです。居候のみんなはミカンちゃんが神様の加護を使って競馬の大穴を当てたので焼肉を食べに行っています。私も行きたかったのにどうしても来て欲しいというから行ったら割と地獄みたいな状態だったのよね。
「そんなに、ワシ酷い事言ったかなぁ?」
「いやぁ、どうだろうね? でも奥さんだって妻じゃなくて一人の女として見てほしんじゃない? 知らんけど」
いろはさんは高そうなソファーに座って多分カルバドスを丸いグラスで煽っている姿。イフリーターさんがいないのは多分いろはさんに言われてミカンちゃん達焼肉組に参加してるんでしょうね。いいなー! 私も焼肉たーべーたーい!
いろはさんが話を聞いている相手は物凄い大きな人。三メートル、いや、四メートルはありそう。四人がけソファーが小さく見えるもん。
「こんばんわ……あの来ましたけど……どういう状況?」
私が入ってくるなり物凄い大きな人は私を一瞥。こわっ! 誰? いろはさんの飲み友? いろはさんは立ち上がると笑いながら。
「カナ! 今日ちょっぱやで来てって言ったの! このハーデスくんについて、前言ってたぢゃん? ペルセポネちゃんだっけ? 遊びに来たって? このハーデスくん、そのペルセポネちゃんの旦那! 今、別居されてんの! ウケるー!」
「いろはくん! そんな言い方ないんじゃないかなぁ!」
うん、ないと思うけどいろはさんそう言う人だからなぁ。あの美人のペルセポネお姉様の旦那様ということは名前的に薄々気づいていたけど、その旦那さんがなんでここにいるんだろう。
「で? 私はなんで呼ばれたんですか?」
「え? とりあえそう飲もうぜ! ハーデスくんとペルセポネちゃんの仲を取りもってやろうじゃないの!」
「焼肉食べに行きます」
帰ろうとしたその時、ごっつい腕で掴まれた。腕とかじゃなくて私のウェストを……普通に怖いんですけど、だってこの人冥府の王様とかでしょ?
「あの、離してください」
「この通り、金糸雀くん。嫁との仲をどうか!」
うわー! 冥府の王様に土下座されちゃったよ。こういう時はさ、もう……
「とりあえず飲みましょうか? 一応、こんなしょーもない事だろうと思ってたので、ぶっ飛べるビール持ってきました。バルティカのストロングです」
とんとんと二人にビールのロング缶を渡す。これはビールと言ってもロシアビール。度数は8%の凶暴仕様。異世界のみんなが高級黒毛和牛食べて、高級日本酒に舌鼓しているであろうのに私はこんなところでしょーもない飲み会ですよ! なら忘れれるくらい強いので意識飛ばすわよ!
「おっ、ツマミも届いたぜぇ! このマンション料理も部屋にいながらフロントのお姉さんに頼めるから最高なんだよね!」
届いた物は……偶然か、ロシア餃子と言われているペリメニ。これ美味しいのよね!
「ほんじゃあ! ハーデスくんの笑える夫婦喧嘩にかんぱーい!」
「……かんぱーい」
「…………」
見るからに辛そうな顔をしているハーデスさん。
地獄かよ。
いや、冥府の王様。ビシッとした格好してるのにそんな気弱でいいの?
度数が高いのに飲み安いこのビールをゴキュゴキュと力任せに飲んだ私は気分が大きくなったんだろうと思うの。
「そんなメソメソ、メソメソしてるからペルセポネお姉様も怒ったんじゃないんですか? てか何したんですか?」
ぐっとロシアビールを飲んだハーデスさんは、
「結婚400年目のお祝いに指輪を送ったら287年目記念のプレゼントとかぶって……」
うわー、地獄。いや、冥府なんだけど。というかそんな毎年プレゼントくれるの? いい旦那さんじゃない。
「でもアタシは奥さんの気持ちわかるかなー! だって思い出の品が同じとか適当感パナくなーい?」
いやいや、四百回もプレゼント渡してたらそういうこともあるでしょうよ! 私は俄然ハーデスさんの味方になった。
「それはハーデスさん、ペルセポネお姉様にもちょっと問題あると私は思いますよー! あっ、ペリメニおいしー! ロシアビールが超合いますってー! ほらほら、ハーデスさんも食べて食べて!」
「いや、あー! こりゃ美味い! 嫁さんだって最初は手料理とか振る舞ってくれたのに……最近は出来合いばかりで、たまには奥さんの料理でいっぱいやりたい時だってあるのになぁ!」
「言ったれ! 言ったれ! ハーデスさん! 私、アレなんですよ! カカア天下とか面白がって言う連中大嫌いなんですよ! だってそうでしょ? お父さんが仕事頑張ってるのに、それを家族全員で馬鹿にしてさー!」
私たちはバルティカを四本程飲んだあたりでテンションがぶち上がった。いろはさんはそんな様子を楽しそうに見ながらペリメニをおつまみにパクりと食べて、
「へぇ、ちゃんとロシアの味ぢゃん」
と酔ってなければちゃんと聞きたい事を呟きながら食べるいろはさん。
「いやー! しかしこのペリメニなる料理。実にうまい。中に入っている肉もやや癖があって何個でも食べられてしまうなぁ!」
「どんどん飲んで、どんどん食べて! ちょっとブチかましましょうよ! それにしてもこのペリメニ。ほんと美味しいですね。一体だれが作ったんでしょうか?」
いろはさんがプルプル増えているのがなんだか気になるんだけど、お酒が入っている間は無敵というのは本当に私もまだまだ呑まれる側だったんでしょう。本当に美味しペリメニ。多分、ちゃんと羊の肉を使ってる本格的な料理。それも……多分手作りだろう。スープの味も本当にしっかりしてる。私はロシア料理なんて専門店でしか食べた事ないけどこれはその国の人が作ったのかもしれない。
「ハーデスさん! 美味しい物を食べて、美味しいお酒を飲んだら元気出して! 時には強い旦那を見せてペルセポネさんに惚れ直させちまいなよ!」
「おぉおおお! 金糸雀くん。ありがとう! ちょっと、ペルセポネの奴に、ガツンと言ってくるかなぁ!」
私達は腕を組んでお互いのロシアビールを一気に煽った。もう私とハーデスさんは呑み友さ! 喜々として帰って行くハーデスさんを私は手を振りながら見送る。
なんか久しぶりに気持ちよく飲めた日だなぁと思ったのは束の間。
高級黒毛和牛を食べたミカンちゃん達の表情は幸せそうで、なんか私は一人風邪をひいて遠足に行けなかったのけ者感を感じ得ていたの、さらに追い打ち……いろはさんからのライン。
“あのペリメニ、ペルセポネちゃんに作り方教えて作ってもらったのよね! ウケるー!”
いや、今頃修羅場でしょ……
私はペルセポネお姉さまの耳に私の事が入らない事を心から祈るばかりだったわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます