第81話 占い師と冷やしトマトとタコハイと

 ミカンちゃんとデュラさんがテンションを上げまくって連日テレビを占領してWBCを見るので最近溜まっているサブスクのドラマが見れない事をデュラさんが危惧していたらミカンちゃんがいつの間にか連絡先を交換していたいろはさんとスポーツバーに本日は行く事になったので本日は私とルーさんの二人。

 

「二人っきりですね? 犬神様ぁ!」

 

 言い方。

 ルーさんは私のトレーナーやジャージを貸したら悪い意味でエロかったので、原宿で働いている友達に何着か服を見繕ってもらったの。結果としてお財布が随分軽くなったけど、居候を許したのは私だし、このくらいは責任を持たないといけないわね。

 

 今日は冷やしトマトとお肉が大好きなルーさん私のパパ直伝、鶏肉のチューリップよ。

 

 そう、世の中チューリップとか言って全然開かないチューリップを作る人がいるけど、アレは私の中ではただの鳥の唐揚げ。作り方としては皮を中に入れずに外側に出た状態で揚げる事よ、

 

「犬神様。凄いいい匂いがします」

「ふふっ、ルーさんの好きなお肉だから、お酒はどうしよっか? 最近数十年ぶりに再販されたらしいタコハイでも飲んでみる?」

 

 最近発売されたタコハイ。麦焼酎ベースに柑橘類薫るスッキリしたお酒ね。なんでタコなのか? 昭和の父親のことを年頃の娘がタコ親父的な言い方をしていたとかでコピーライターか何かがつけた名前だったかしら?

 

 要するに酎ハイなのよね。ルーさんも結構飲むから丁度いい度数だし、久々にまったり飲めるかしら?

 

 兄貴直伝の漬けダレにつけた鶏肉を二度揚げして隠し味にちょっとカレー粉を塗すの、ルーさんがもうよだれを垂らしそうなので食べよっか?

 

 ガチャリ。


「誰か来ました。私、見てきますね?」

「お願いしますね!」

 

 玄関にお出迎えに行ってくれたルーさん。今日はどんな変な人がやってくるのかしら? 変って言っちゃダメなんだけど、もう異世界から来る人なんて最近原宿か秋葉原にいるちょっと変な人くらいに思える私がいるのよね。

 

「おや? 占い通り異空間、いや? 異世界かな? 変な所にやってきたもんだ」

 

 普通の人来た。30代くらいのエキゾチックなお姉さん。紫色のでっかい水晶持っている事と、発言から占い師なのかしら?

 

「こんばんわ。私は」

「ミス・カナリア・イヌガミ。そしてそちらの人狼はミス・ルーだね? ここは理解の及ばぬ場所ってとこかい? 私はしがない占い師。名前はポルカ」

 

 なんだろう。やっぱり少し変な人だなぁ。私たちの名前を知ってるし、なんかこう人外が来るよりたまにややこしい人。

 まぁ、どんな人が来ても私が言う事は変わらないんだけどね。

 

「ルビーさん、今から一杯ひっかけようと思ってるんですどご一緒にどうです?」

「お言葉に甘えよう。じゃあ余興に私の占いでも提供しようかな? 恋愛運なんかどうかな?」

「是非!」

 

 ということでポルカお姉様をリビングに案内して私の作った特製チューリップに冷やしたトマトとモッツァレラチーズをスライスして交互に盛るとオリーブオイルを一回り。

 冷蔵庫で冷やしあるタコハイは……キンキンっに冷えてやがるぜ!

 

「では、私の未来の旦那様が本日占われる事に、乾杯!」

「かんぱーい!」

「不思議な形状の入れ物だね? 乾杯」

 

 タコハイ、なんだろうこの酎ハイらしい酎ハイ。柑橘類を思わせるフルーティーなタイプの麦焼酎に強すぎない炭酸。

 これ、普通に美味しいわね。

 

「ひゃああああ! 犬神様ぁ美味しいです!」

「うん、飲んだ事ないお酒だけど上品かつ力強い味わいだね。ソーダ水で割ってあるのかな?」

 

 ポルカさんは感動はしていてもそこまで顔には出さない。多分職業柄なのかな? 何度も頷いて飲んでるので相当気に入ったみたいね。タコハイ、良い意味で普通の酎ハイね。

 

「オツマミもどうぞ! 冷たいトマトと唐揚げです。昔ながらのお酒には昔ながらのオツマミが一番よ」

「こんな瑞々しい野菜、王侯貴族くらいしか食べない物だと思っていたよ。遠慮なくいただきます」

 

 トマトとモッツァレラチーズ、それにオリーブオイル。ヘルシーかつ栄養価もある最高の組み合わせで美味しいときたら女の子の味方ね。

 

「これは驚いた。前に王族のパーティーの催しで占いを行った事があるが、あそこの料理なんか軽々と凌駕してるね。そしてこのお酒が主張せずにスッと入ってきてくれる」

 

 タコハイの缶、そのふちをスッと触って食事を楽しんでいるポルカさん、それに対してルーさんはチューリップに手を伸ばして、

 

「はにゃああ、犬神様の作るお料理、どれも絶品れすー! このお肉も口の中で美味しさがぁ! んぐんぐ! このお酒で綺麗に流されるからいくらでも食べれちゃいますよぅ!」

「ミス・ルーが美味しそうに食べるので私も一つ頂こうかな? 肉はあまり好んで食べないんだけどね」

 

 チューリップを一つフォークで刺して口に運んだポルカさんは、ゆっくり咀嚼して「本当だ。絶品だね。こんな美味しい肉料理は食べた事がないよ。王族の料理番でも臭みを残してしまう事があるのに……これは一世一代の占いをしなきゃね! ミス・カナリア・イヌガミ。君の運命の人……だったね? 若い女の子は貴族も平民も不思議な場所にいる子もみんな気になる事は同じだね。じゃあはじめようか?」

 

 ポルカさんは丸い紫の水晶に何かを念じると目を瞑る。そして「アブラカタブラ、ナントカカントカ、我が主神・女神ニケの名に誓い祈らん!」

 

 ん? なんか嫌な名前を聞いたような気がするなぁ……

 

「見える。見えるよ! ミス・カナリア・イヌガミの運命の相手……こ、これは……! そんな馬鹿な!」

 

 えっ? なになに? なんか凄い怖いんですけどぉ! ポルカさんは何か凄い物を見るような顔で青ざめていく。

 

「ふぅ……んぐんっぐ!」

 

 手元にある二本目のタコハイを流し込むように飲んで、私と目を合わさない。ほんと、何を見たのか言って!

 

「ミス・カナリア・イヌガミ。運命とは乗り越え、自ら切り開く為にあると私は思う。まぁ、人の運命は星の導きによって決まっているとも言われているが……占い師としてはそこそこ名は知れている私も初心を忘れないようにある言葉を皆に伝えているんだ」

 

 そう言ってポルカさんはトマトとモッツァレラチーズのカプレーゼを食べて、三本目のタコハイをクイっと一飲み。

 

「占いは、当たるも魔導、外れるも魔導と言ってだな。いつかは当たるんだ! きっと素敵な運命の人が現れるに違いないよ! 私はどうやら飲みすぎてしまったみたいなのでそろそろ。邪魔したね?」

「ちょっと、何見たんですか? ねぇ、教えてくださいよぅ!」

「占い師はさ、言っていい占いと、ダメな占いがあるんだ。それじゃあ!」

「ちょ、ちょっとぉおお!」

 

 逃げるようにポルカさんが出ていく。そこには割とハイペースで飲んで船を漕いでいるルーさん一人。

 クルスさんに止められているのか、いつまで経っても部屋にやってこないニケ様にこの愚痴を聞いてもらおうと思ったのに……

 私は安心する味わいのタコハイを飲みながら、私が作った最高の冷やしトマトとチューリップを食べながらポルカさんが水晶に何を見たのか考えようかと思ってが、

 

 ガチャ。

 

「全勝ってやばくない? やばいよね! じゃあカナの部屋で飲み直そうー!」

「「「おー!」」」

 

 きっとWBCの結果にテンションを上げた四人が私のテンションを知らずに帰ってきた。

 うん、今日は飲もう。飲んで占い師がきたとか記憶から消してしまうのが一番いいかもしれないわね。

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