第84話 ギルドの職業鑑定士とサンマのかば焼きとドラゴンハイボールと

 今、私の家ではダイヤモンドゲームが一大ブーム到来です。2つ上の従姉とこの前近くでお茶をした時に小さい頃よくやったよねという話から派生してドンキで何故か買ってくれたのよ。凄くいらない……と思って持って帰ったところ、異世界の三人の心に刺さったみたい。


「デュラさんとルーの駒の上をぴょんぴょんぴょんと飛んで勇者の1抜けなのー! うぉー! おもしろすぎるのぉおお!」

「連続四段飛びとは勇者……おそるべしである。ならばルー殿と我の一騎打ちであるな」

「デュラさーん、もう勝ち筋は見えてまーす!」


 かるーく頭を使って遊べるボードゲーム。戦略性もわりとあって最近の凄くひねった物に比べると私達は物足りないんだけどこれくらいが丁度いいのかもしれないわね。従姉が東京に遊びに来た理由はクラブ、それも若者向けじゃなくて50代~60代を客層にしたディスコバー。物珍しさというわけではなく、そこのバーテンダーを1日するんだとか、普段はホテルのバーメイドらしいが今日は知り合いのヘルプだとか……

 私にもタダ飲みくらいさせてよね。で、ついでに買ってくれた何処にでも売ってる紹興酒を今日は呑もうと思うんだけど、そういえば紹興酒って久々に飲むわね。


「三人とも今日何か食べたい物ある?」

「さかなー!」

「野菜がいいであるな!」

「お肉です!」


 凄いなぁ、綺麗に割れた。あっ……買い物忘れた……、なんかあったかな? 缶詰……ストックしているサンマのかば焼きが5缶。


「えー、食糧庫の経済的理由で本日はミカンちゃん案になりまーす!」

「うぉおおおお! さかなぁああ!」

「まぁ魚も驚く程美味いであるからな!」

「魚肉ですからぁ。私も大丈夫でーす!」


 これ、野菜でも肉でも同じ反応っぽそうね。まぁでもかば焼きは甘いから紹興酒にぴったりかも。じゃあ塔牌どうやって飲もうかな?


「これ、中国って国の、そうね日本酒の祖みたいなお酒なんだけど、ちょっとクセがあるかも。ストレートも美味しいんだけど……最初はハイボールで出しますねー! ちなみに紹興酒で作るハイボールを、ドラゴンハイボールっていいまーす!」


 ドラゴンという名前を聞いて三人の目の色と顔つきが変わった。そういえばドラゴンって一回もまだ来てないわよね。レアな生物なのかしら?


「ドラゴン……地上最強の生物。単独で国を亡ぼせる怪物であるな。我のかつてのファミリアであったヒュドラもドラゴン亜種であるが、ドラゴンと名がつく者の力はあれを遥かに凌駕する」

「勇者ドラゴン苦手かもー、勇者以外全滅したり……槍使いとか弓使いとかザコじゃ勝てないのー」


 酷い言われようね。まぁ、とにかくすごい生き物なのねドラゴン。でもこれは紹興酒のドラゴンハイボールだから全然関係ないんだけどね。


 ガチャ。


 このタイミングで開かれる扉。私もみんな固まる。もしかしてドラゴン来たんじゃないかという緊張の中、こういう時ニケ様が来てくれればいいのにとか都合のいい事を私達は思いながら入ってくる人を待っていると……


「あれれー? なんだろうここ、知らない天井だ」


 ぴょこりと顔を出したのは狸顔をしたマシュマロ系の男の子……というかタヌキ系の亜人さんかしら? 手には鏡みたいな物を持ってるわね。


「こんにちは、私は犬神金糸雀です。で、ここは私の家兼、異世界の人の相席居酒屋みたいなもんですかねーハハ。で、後ろの三人は……」

「ご丁寧に! 僕はギルドの職業鑑定士、ムジーナです。そして、そちらの皆さんは……この鏡を使って! えっ? 勇者、それに魔王軍の幹部、えらいこっちゃー! 最後は人狼ですよこの娘ぉ!」

「うん、大当たりね! 色々あって居候してるのよ。えっと、タヌーキチさん?」

「ムジーナです」

「ムジーナさん、今から飲み会なんですけど、どうです? なんか勝手なイメージですけどお酒好きそうなので、タヌキですし」

「あはは、お酒は大好きです。タヌキとかいう方と相当似ているんでしょうか?」

「もうムジーナさん程、タヌキと言ってもいい方も中々いらっしゃらないですよ! はい! ちょっとクセがあると思いますけど、レモンと梅干しで味を調整した特製、ドラゴンハイボールです! それでは乾杯!」

「「「かんぱーい!」」」


 いやぁ、この紹興酒。初めて飲んだ時はヤックデカルチャーおぉ、なんという事だだったけど、慣れるとこのくぐもった中にある甘みがクセになるのよね! 初めて飲む時は甘みを強くしたドラゴンハイボールがオススメよ!


「おぉ、なんというかこれは不真面目な味であるな……不思議なハイボールである」

「勇者、このシュワシュワ苦手かもー」

「かー、これは癖強のお酒ですぅ」


 三人の反応はまさに未知との遭遇ね。うんうん、私も紹興酒飲んだ時こんな感じだったわ。


「美味すぎるです! このなんとも言えない口当たり、水かな? 水がいいのかな? そしてお酒と言うよりは薬湯のような味わいがまたいいですね!」


 おや、ムジーナさんは紹興酒好きみたいですね。原産の中国の方でも苦手って人がいるのに、軽ーく1杯飲むと、ムジーナさんモジモジして、


「金糸雀さーん、お代わりを」

「はいはい! もしよければレモンと梅干し抜きで作りましょうか?」

「いいんですか? このお酒そのものを味わってみたいです!」


 ムジーナさんの2杯目を作りながら、本日のおつまみ、マルハニチロのさんまの蒲焼です。甘くて味の濃いさんまの蒲焼、実は紹興酒との相性抜群なのよ。


「私の知る限り、最高のさんまの蒲焼の缶詰です!」


 噂によるとマルハニチロのホッケ缶もあるらしいけど私は見た事はないわね。ちょっとオーブンで焼いて七味をまぶすだけ、缶詰なんてこのくらいワイルドでいいのよ。


「ささ! みんなやっちゃって!」


 甘辛く、ホクホクとしたサンマの蒲焼をみんな実食。魚大好きミカンちゃんはもちろん!


「うきゃあああああ! さんまうみゃああああ! ……あ! この微妙なシュワシュワが合うのぉ!」


 ふふん、紹興酒の虜になるわね。うーん、さんまの蒲焼とドラゴンハイボールやばいわねぇ!


「缶詰とやらは実に謎多き食べ物であるな! 魔法アイテムに近い保存食と我は知る。調理された魚が開けると入っているのである! そして……恐ろしく美味い! ははっ、ドラゴンの名を冠するハイボールがよく合うであるな!」

「うーん! 甘くて美味しいですぅ! 欲を言えば、獣のお肉だともっと嬉しいですけど」


 そんな三人とは違う反応。

 たぬきもとい、ムジーナさんは缶詰の魚を見て驚くと共に冷や汗を流す。あら、魚嫌いだったのかしら? 何か他に出せるものあったかなぁ……


「さ、さかなー!! 金糸雀さん、これ魚ですよ! えっ? なんで? 干してるわけでもないのに!」

「え? えぇ、私の地域では庶民の味方ですよ。お金がない時は白米の弁当に缶詰でよく繋いだ物ですよ」

「こんな持ち運べる魚料理、金貨数枚と交換できますよー! えぇえ!」


 は、はーーん。

 物流の問題とかで場所によっては魚が高級品なのね。だからミカンちゃんも魚好きなのか、うん全て理解したわ。缶詰スーパーで買い占めて異世界で売ったら億万長者になれるんじゃないかしら……まぁ、そんなヤバい事考える人はいないでしょうね。


「ムジーナさん、その金貨数枚と交換できそうなこのお魚、心ゆくまでどうぞ! 熱い内に」

「い、いただきます……」


 恐る恐る箸を向けるムジーナさん、異世界の人、みんなお箸使うの上手いわね……そしてパクりと……カッ! と目を開いたムジーナさん。


「お、おいしぃい! 乾いてないお魚なんて殆ど食べた事ないですけど! これはその中でも最高ですぅ!」


 控えおろう! そこにおわすのは天下のマルハニチロ様! とか私は思いながら笑顔と無言で頷く。鯖の水煮とか出したら泣いちゃうんじゃないかしら……。


「うぅ、うめぇ、うめぇ……ここは天国だべか? 金糸雀さ、ドラゴンを冠するお酒、お代わりもらってええが? くにの母ちゃんにも食べさせてやりでぇ……」

「もうなんか、地元の言葉みたいなのが出てるけど、この缶詰でよければ全然お土産に持って帰っていいから、ゆっくり食べてくださいね! はい、あとドラゴンハイボールでーす!」


 缶つまというおつまみ専用の缶詰があるんだけど、アレと違い。普通の缶詰をおつまみにするこの大衆感は異世界の人でも田舎を思い出せてしまうのかしら?

 ミカンちゃんが、


「かなりあー、果物の酢のやつドラゴンハイボールに入れたいかもー!」


 美酢? あぁ、桃とかパイナップルとかなんかあったわね。ミカンちゃんがジュースと間違えてドンキで買ってきたんだったかしら? あぁ、確かに味付けに美味しいかも……

 ドラゴンなんで桃いってみましょうか? ちょっといろはさんの真似をして紹興酒の瓶と美酢のボトルをポンポンと投げて、グラスに入れる。氷、ソーダ水。軽く氷を持ち上げてステア。


「はい、ドラゴンハイボールの美酢もも味ツイスト!」


 少しだけ警戒したミカンちゃんだけど、それをごくんと飲んで、あら、相当美味しかったのね。ミカンちゃんの目が大きく開く。


「うんみゃああああああああああ! これ好き! 勇者、これぇ!」

「そんなに? あっ……ほんとだ! 紹興酒のコクを残しながらすごく飲みやすくなってるわね」

「金糸雀様、私ものみたいです!」

「我も我も!」

「オラ、じゃなくて僕もいいですか?」


 一度言ってみたかったセリフ。


「もちのロンよ!」


 私たちはいろんな飲み物を冷蔵庫から取り出すと、独自のドラゴンハイボールのツイストを楽しんでいると、ムジーナさんが、


「金糸雀さん、こんなに魚のお土産までもらって……お礼に職業鑑定してあげます! この鏡を見てください!」

「えっ? なになに?」


 私が覗いた先、デュラさんにミカンちゃん、ルーさんも覗き込む。一体、私に合っている職業ってなんだろう? と期待と不安が一杯で見つめた時、

 ガチャ。


「みっなさーん! 勝利の女神ニケでーす! 今日は2件目に金糸雀ちゃんのお家にきましたよー! こんにちはを言って欲しいでーす! あっ? 誰ですか? 異世界で魔道具を使っている人は! それを止めなさい! 皆さん揃いも揃って、そこに座りなさい!」


 なんか、今日のお説教は別の世界で魔法を使う事がどれだけ危ない事なのかという微妙にまともな事で怒られてしまい。とりあえず、すいませんと星座をしながら私達は天井のシミを数えていました。

 最後にニケ様に言われた言葉、


「そもそも、自分の将来の職業というものは経験や学びを得て選び進むものですよ! 先に見合っている物を知ってその道に進むなんて人生を損するんですからね!」


 とか普通の事を言われて、なんかちょっとムカついたわ。


 


 

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