第85話【中間選考突破記念 お稲荷様とレバーペーストと葡萄神話と】

 思えば兄貴の部屋が何故、異世界の人がやってくるのか? その謎について私は少し考える事にしたのよね。確か、この部屋に来て初めて一人で飲もうとした時に異世界で有名らしい銀細工師の人が来たりして……、ちょっと考えながら呑むと異世界の人や説教女神が来たりするので……

 

「みんな! 今日は代々木公園にピクニックにでも行かない? たまには芝生にブルーシートを敷いてまったりワインなんてどう? 桜もそろそろ咲いてるし、いつもとは違う場所でちょっと良いオツマミで美味しいお酒を飲みましょう!」

 

 毎回、私の部屋で呑むのも……快適すぎて別に苦じゃないんだけどね。今のまだ少し涼しいくらいが屋外で飲むのはもってこいなのよね! 

 

「えぇ、勇者お部屋でゲームしたい」

「我は構わんが」

「犬神様が行く所に私は行きますぅ!」

 

 という事で、私はミカンちゃんに伝える。

 

「じゃあミカンちゃん留守番ね。お昼はマックでも注文して」

「えぇ! 勇者、昨日バーキン(バーガーキング)食べたー」

「もう……じゃあ一蘭にでも行きなさい! サンプル蹴り飛ばしたりしちゃダメよ?」

「勇者をバカッターと同じにされるのは心外なりぃ! 不本意ながら勇者もヨヨギの公園に行き!」

 

 という事でミカンちゃんの壁抜けでルーさんとデュラさんも部屋の外へ、とてもレアないつものメンバーでおべんと持ってピクニックね。お弁当って言うかお酒とオツマミだけどね。

 御茶ノ水駅から代々木公園駅までの二十分間。デュラさんとルーさんは電車から見える眺めに感動し、普段私の知らない所で電車の乗り方もマスターしたミカンちゃんはスマホでソシャゲ。

  

「とうちゃくなのー!」

 

 基本インドアなミカンちゃんも流石に代々木公園の芝生を見てテンションあがっちゃったみたいね。

 フリスビーで遊ぶ犬とその飼い主を見てルーさんが追いかけようと……私は全力で止める。

  

「わふー!」

「ルーさん、落ち着いて! 後でボール投げてあげますから! やめて!」


 私は周囲がガヤガヤしている事で嫌な予感しかしなかったのよね。大体予想がつくんだけど……デュラさんが浮遊しながらブルーシートを設置してくれて……。

 

「何あれ? ドローン?」

「平将門の首じゃない?」

「デュラハンの首じゃね?」

 

 とか一部正解している人もいる中、私は恥を忍んで大声で……

 

「これハロウィンの時のドローンじゃん! へたこいたなー! さぁ、しまおうかなー!」

 

 とか言ってデュラさんをキャッチして……

 

「デュラさん、お願いですからじっとしててください! ただでさえ目立つメンバーなんですよ!」

「面目内である……」

 

 ふぅ! とりあえずデュラさんが敷いてくれたブルーシートに腰掛けてコンビニで買ってきたサントリーの烏龍茶で一息ついてから……お馴染み、ブルサンのクリームチーズ、パン屋さんで買ってきたバゲット、そして……本日のメインはレバーペーストよ。

 

「じゃあワインで乾杯しよっか? 本日はジャパニーズワイン。島根産のブドウ100%の葡萄神話です!」

 

 プラスチックのワイングラスに葡萄神話を注ぐと……香りはそこまで開かないのね。とりあえず……

 

「ワシにも一つくれんかね?」


 さて……と、いつの間にやら私たちのブルーシートに座っているクリーム色の長い髪をした美女。巫女服を着て、これみよがしに見せつけてくる狐の耳と尻尾から……あぁ、この人……

 

「狐の亞人がいるの! もふもふ!」

「いや、これはかなり禍々しい、より闇に近い者であるな!」

「えぇ、私と被るじゃないですかー!」

 

 ちょっと黙って異世界組。

 

「もしかして……代々木出世稲荷様ですか?」

「いかにも! タコにも! クフフフフ! ワシ、渾身の冗談!」

「「「「……」」」」

 

 しっかし、お稲荷様って本当に童貞の妄想が具現化したみたいな姿してるのねぇ。確かに、巫女装束に金髪って合うけども……まぁ、私は美人に死ぬ程弱いので……

 

「えへへ、私は犬神金糸雀です。あちらミカンちゃん、耳が生えた娘がルーさん、首だけのデュラさんです。お稲荷様、どうぞ一献!」

「おぉ! ワシを見ても驚きもせぬ肝の座った娘じゃ! そして妖怪変化達の宴とは面白し! これは葡萄の果実酒であるな? ではこの出会いに祝して! 乾杯」

「「「乾杯ー!」」」


 葡萄神話。これ、お手頃価格のワインなのに、さすがは島根ワインね。日本人の口に死ぬ程合うわ。あぁ、そういえば島根って日本神話の総本山だったかしら? お稲荷様がやってきてもおかしくないわね。

 

「ほぉ……これはまた、控えめでありながら果実感十分であるな!」

「うんみゃい! 勇者、葡萄酒スキー!」

「はい! 甘めで私も好きです!」

 

 さて、日本酒とかの方が普段飲んでそうなお稲荷様は……トーンでも貼ったみたいに顔を赤らめて、

 

「クフフフ! これこれ! こういうのがナウなヤングに流行るんじゃろ? 甘露甘露!」

 

 柔らかそうで綺麗な白い太ももをお稲荷様はパンパンと叩くとそう言ったんだけど、私たちは何を言っているのか……いまいち分からないので、オツマミを用意、一口サイズに切ったバゲットにブルサンとレバーペーストを塗る。

 

「はい! お好みでタバスコかけてくださいね!」

 

 ささっと作れるピクニックオツマミ。付け合わせに湖池屋さんのポテトチップスを紙皿にささっと出せば、私たちのコーナーね。

 

「ほうほう! ほうほう! このアバンギャルドな食べ物! お供物といえば油揚げか決まって稲荷寿司ばかりで、飽き飽きしておったんじゃ! というかワシが油揚げ好きって何処情報かの?」

「いやー言われてみればそうですよね。真夏とかだとお稲荷様もワンカップじゃなくてビール飲みたいですよね?」

「そう! よう言った金糸雀! しかし、このパン美味い! そなたらも食べておるかぁ?」

 

 ブルーシートにゴロンと横になるお稲荷様。尻尾がフヨフヨとミカンちゃんの前で動くので……

 

「おぉ! おぉ! 勇者、お稲荷様の尻尾触りたいかも?」

「構わんよ? 超越し娘、ワシの尻尾は美しいからのぉ! クフフ!」

「おぉ!」

 

 ミカンちゃんが落ちた。お稲荷様の尻尾を撫でて頗る嬉しそうに、お稲荷様は私だけでなくミカンちゃんも籠絡し、「金糸雀! 臓物をのせたパンを!」レバーペーストね! でも可愛いからいいや!

 

「はーい! みんなも一杯あるから食べてね!」

 

 お稲荷様は私の膝を枕がわりに横になると、お行儀悪く葡萄神話とレバーペーストのバゲットを楽しむ。「クフフフ! 実に美味」と、言いながらデュラさんに手を伸ばす。

 

「おぉ、お稲荷様殿。いかに?」

「無垢な暗黒、何処いずこから来た妖怪かは知らぬが、この臓物を塗りしパンを喰らうと良い! そう固くならずともワシが許す!」

「曰く、名のある神とお見受けするが、我はどちらかといえば人間にあだなす者であるが……」

「クフフフ! 許す! 日の本の神々は宴好きのべこのかぁばかものよ。無礼講で構わんて」

 

 そう言ってお稲荷様はワイングラスをデュラさんに向けるので、デュラさんも超能力で持ち上げたグラスを交わす。

 

「魔王様に匹敵するカリスマ! お稲荷様殿。感謝するである! そして、金糸雀殿が用意してくれたレバーペーストとブルサンのチーズがまた良い味を出している! うまい!」

 

 お稲荷様はデュラさんの攻略も終わらせ、私の膝を枕にしたままルーさんを見つめる。まさか……ルーさんまで? 「金糸雀、葡萄酒!」「はい!」目を瞑ってそれはそれは美味しそうに飲むので、私もついつい甘やかしちゃう。

 

「ルー、ちこう寄れ!」

「はい? えっ?」

 

 お稲荷様は起き上がると正座をしてルーさんをお稲荷様の膝枕に……いいなぁ! 私もして欲しいんですけど!

 

「どうも他人には思えんでな? 妖怪と神の違いではあるが、贔屓目に見たくなるよなぁ?」

 

 デュラさんもルーさんも妖怪じゃないんだけどね……

 そう言ってルーさんの頭を撫でるお稲荷様。「はわわわわわ! お稲荷様、そんな恐れ多い!」「よきて」

 

 このお花見、始まって15分くらいでお稲荷様は私達全員を虜にしてしまった。さすが……日本で一番可愛さで人気の狐の神様ね。

 お稲荷様を中心に私達も楽しく飲めるわ。

 

「かなりあー! 勇者ワイン、おかわりかも!」

「我も」

「ワシも」

「わ、私も」

「はい、はーい!」

 

 二本目の葡萄神話を空にした所で、味変の大葉、そして牡蠣醤油を使います。

 

「洋風から和風にアレンジです! ジャパニーズワインがまた合いますよぅ!」

 

 洋食は最初のパンチにはいいけど、食べ続けると重くなってくるのよね。そこでさっぱり風味の大葉と牡蠣醤油がレバーペーストとクリームチーズに別の顔を私たちに見せてくれるわ!

 

「みんな、ちょっと味を変えたんで食べてみて!」

 

 うーん、美味しい! 葡萄神話で流す口の中が喜んでるみたい! 何これ? 私天才かも……

 

「ほぅほぅほぅ! 醤油とはよぅ考えたな! 金糸雀! これは美味じゃ! のぉ? 皆の者?」

 

 にへらと笑うお稲荷様。みんなにも感想を聞くので、ミカンちゃんが「勇者はちょっと味にはうるさいかも!」とか言いながらむしゃむしゃ食べて……恒例の……

 

「うんみゃああああああああ! 勇者、しょーゆスキー!」

「うむ、この醤油という調味料……何にでも合うであるな……魔王城に持って帰りたいである」

「……」

 

 ルーさんは和風味のバゲットを食べて静かに何も言わない。美味しさで感動しちゃってるのね。

 はぁ……チーズとバゲットってなんでこんなワインすすむのかしら? みんなのグラスが次々に空く。珍しくお酒が回ったミカンちゃんがお稲荷様に抱きついて、

 

「勇者、お稲荷様がいい! あのクソ女神と交換して欲しいかもー!」

「なんじゃ? みかん。女神とな? アマテラスの大姐様の事かの? あれは酒癖が酷いが良い女神ぞ?」

「違うのであるお稲荷様殿、それが自らを勝利の女神などとたわけた事を言う者がおってな? 困り果てているのである」

 

 うーん、天照の大神も酒癖悪いのね……凄いそのお話聞きたいんだけど……、ルーさんがとんでもない質問をしてしまったの。

 

「お稲荷様はどんな神様なんですか?」

「ん? ワシか? 大した事はないぞ? 繁昌、五穀豊穣をはじめとした家内安全、病気平癒、恋愛成就、良縁、子宝、安産、金運、学業、勝負、建築、開運、厄除、道開きといった生活全般しかない微々たる神じゃ。恥ずかしい事を言わせおってからに、こいつめ!」

 

 ルーさんの鼻の頭をツンと押して恥ずかしがる。

 だけど……デュラさんとミカンちゃんの反応は……

 

「「す、すげぇ!」」

 

 異世界の神様とかって水の神様、とか勝利の神様とか一つの事に特化してるもんね。お稲荷様とか異世界じゃ創造主レベルなんじゃ……

 私達は控えめでお酒の飲み方も可愛いお稲荷様とのお花見を堪能し、お稲荷様の神社にお参りをして楽しい気持ちで帰る事になる。

 神社に帰るお稲荷様の巫女装束を引っ張って「帰っちゃダメ」とミカンちゃんが少しグズったけどまた遊びに来てくれるとお稲荷様が言ってくれたので私達は飲み部屋に帰る。

 とても幸せな気持ちで、次はお稲荷様はいつ遊びに来るかな? なんて話して鍵を開けた私たちの部屋……

 

「しくしく……ぽりぽり」

 

 暗い部屋で私たちを待っていたのは……

 

「あっ、勝利とウザ絡みしか脳のないクソ女神なの!」

 

 とミカンちゃんが言う通り、ニケ様がワンカップのおつまみにかりんとうを食べながら待っていた。なんでも私達の楽しそうな雰囲気を感じ取ったものの部屋には誰もいず、誰かは分からないが他の女神の雰囲気を感じ……

 

「皆さんそこに座りなさい! 私という完璧な女神がいながら! 浮気ですか! 恥を知りなさい!」

 

 多分、そういう所なんですよニケ様……私達はなんだかニケ様がお稲荷様を見た後だと酷く可哀想に思えたので、今日は静かにお説教を聞いてあげることにした。

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