第4話 スライムと中華とスパークリング日本酒澪と

 圧倒的中華の気分の時ってないかしら?

 ラーメンに餃子だとか、チャーハンにチューリップだとか、ダメだ。日高屋とか餃子の王将だとか私の選択する中華料理の日本感の強さ。


 中華のがっつり感ってお肉とは違うベクトルの矛先を持っていると思うの。なんだろう。お肉はなんというか、生存本能をくすぐるというか、効率よくタンパク質を摂取しに行くのに対して、中華料理は世の中のあらゆる業を受ける覚悟で油を摂取しにいく感じかな?


 まぁとにもかくにも私は今、中華料理※日本のなんちゃって中華※が食べたくてしかたがなかった。某コーヒーショップでバイトしている最中もその事しか頭に入らないくらいには禁断症状が出かかっている。バイト帰りに近所の激安スーパーで購入した豆腐とイオントップバリュー辛口麻婆豆腐の素、値引き価格で売られていた春巻きがありまーす!


 今日の私のオツマミはこの中華料理として7番、8番打者。安定してクリーンナップより期待はされないにも関わらず仕事はきっちりとこなす往年からの選手たち。


 中華料理といえば? ビール? それとも張り切って紹興酒や桃酎などの中国酒? 


 いいえ、いいえ! 中華料理には合うんですよ! ワインが! ワインは赤? それとも白? ここはスパークリングワインを選びましょう!


 モエ・エ・シャンドンとかのシャンパンや、銘柄不明の激安スパークリングワインもいいけれど、私がおススメするのは! そろそろ来るかな?


 ガチャリ。


 ほら来た産業。


「こんにちは、お邪魔します!」


 う~ん、そう来たか。たいていの来訪者には驚かない私だけど、今回部屋にやってきた人? には正直驚いた。


「クリスタルボーイ※さんのお知り合いですか?」

※スペースコブラのライバル


「えっとそれは誰でしょう? 私は、スライムロードの、自慢なんですが名前があるんです。スラちゃんと呼ばれています!」


 スラ=チャン

 中国っぽい名前の人、というかスライムが来た。薄く透き通った青い肌、スライムなので形状とか変えられるんでしょうけど、多分このスラ=チャン、面倒なのでスラちゃんと呼ぶ事にしよう。スラちゃんはかなりの美人だと思う。スライムに美人なんてあるのか分からないけど、人間の形を取っているスラちゃん、そして単細胞生物と思われていたけれど、完全に教養と知的生物である事が何気に私の中のスライム観念が音を立てて崩れたので尋ねてみた。


「私は金糸雀といいます。あの、今からお酒飲むんですけど、よかったら一緒にどうですか? 多分、ここに迷い込んだ的なアレですよね? よく来るんですよ。ここ迷子になった人が、まぁ人というか、分からないですが」

「あらあら、なんだか手馴れていますね! もしかしてここは山小屋かなにかなんでしょうか?」

「いえ、普通に私の部屋ですよ……(兄貴のだけど)、ちょっと簡単に麻婆豆腐作りますので、ちょっと待っててくださいね! お皿とか出しておいてもらえます?」

「はーい!」


 なんか普通に女子友の食事が始まる感じなのだけれど、スラちゃんは動くたびに全身が震える。どこに出しても恥ずかしくないスライムなのだ。というか、スライムってお酒飲むの? 


「珍しい食べ物が多いですね。普段はどちらの街でお買い物を? ノビスでは見ない代物ですね」

「だいたいドンキか、イオンですかねー、ははっ。生活費厳しいので」

 私は何かとんでもない事を言ってしまったんだろうか? スラちゃんは元々青い顔をより青くして※ように見えた※、私にこう言った。


「あの足を踏み入れたら二度と戻ってこれないというドゥオンキィ、それに神々から見放された地と呼ばれた生き物が存在しないイゥォンで仕入れた食べ物だというのですか?」


 どこだそれは? 私は少し困った笑顔をスラちゃんに見せると豆腐をトントンと切って麻婆豆腐の素と共に炒める。ここで少し業務用スーパーで大量販売されているひき肉を少し足して若干の豪華さを引き立たせる。


 総菜春巻きは銀紙の上に並べてオーブントースターに、少し油をはけであげてもいいんだけどめんどうなので今回はスルー。


 大体10分弱でオツマミの完成なのだわ。


 スラちゃん、じゃあこれで乾杯しましょう!


「これはとてもキレイな瓶ですね!」

「スパークリング清酒・澪です! 由来は水が流れた跡みたいな意味らしいです。キレイなスラちゃんにお似合いじゃないですか!」

「あら、お上手」


 なんだろう。私は女子だけど、スラちゃんと話しているとバブみを感じるなぁ、シャンパングラスに入れて世界も異世界も共通の


「じゃあ、スラちゃん、乾杯!」

「いただきます! 乾杯!」


 まずは一口。


「あら、すごい。おいしいですね!」

「度数もわりとあるのに飲み過ぎちゃう魔性のお酒、それが澪です。さぁ! オツマミもどうぞ」


 いただきます! とスラちゃんがお箸を持つ。このスライム、お箸持つのいやに上手ね。

 春巻きをパクリ、それにスラちゃんは驚く。お酒で少し赤みがかっている身体。あとスライムってものを食べると、しばらくしたら蒸発したみたいになくなるの! すごくない!


「これはなんと表現したらいいんでしょう! この薄い衣の歯ごたえと、どうやってこの中に納まっているのか数々の食材……金糸雀ちゃんはもしかして仙人と呼ばれた人ですか?」

「いえ、JDと呼ばれし人です。麻婆豆腐もおいしいですよ! お好みで山椒かけてみてくださいね!」


 トンと山椒の入った瓶を出す。

 ちょっと辛めの麻婆豆腐を食べたらどうなるんだろう?


「はち、あちっ、ふっ……か、辛い!」

 

 そして甘い澪で口の中をすっきりさせる。ちょっと、スラちゃん、可愛いじゃない!

 なんだか酔わせたくなってきた。

 酒豪と言われし私にターゲットされた事を恨んでね。



 麻婆豆腐も春巻きも全部食べ終えた跡、私とスラちゃんはもう数えるのもいやになる程澪を消費した。兄貴、備蓄分全部飲んだわ。ごめん。


 そんな事より……


「ちょっと、スラちゃん強すぎ……」


 別にお酒が強い事は自慢にはならないけど、私の唯一のアイデンティティだったのに……このままだとつぶれそうなので、炭酸水と、ラムネを摂取してギブ。


「スラちゃん、お酒つよすぎだよ!」

「私はポイズンスライムとも結合してますので、毒体制が強いですから、ふふふ。でも美味しいお酒じゃないとこんなにのみませんよ! あと金糸雀ちゃん、お酒の飲みすぎはメッ! ですよ。はいアンチポイズン!」


 優しく温かい手でふれられると、私の悪酔いは浄化された。すげぇ!というか初めて見る魔法、酔い覚ましだよ。


「ご馳走様でした! 今度、私達の大変素敵な人間のご主人様を連れてお礼にきますね!」

「いえいえ、そんないいですよ! でも、また飲みにきてくださいね! 女子会しましょ!」

「はい是非!」


 私はスラちゃんをお見送りし、どこか満足した気持ちで一杯だった。

 きっと理想のお姉さんがいるとすれば、あんな感じだろう。……人間じゃないけど、というかスライムだけど。

 私は少しばかり、現実逃避する事にした。

 後々まっている大量の瓶をかたずける事を考えるのが特別億劫なのである。

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