第3話 盗賊の頭と鳥レバ唐揚げとサッポロ銀座ライオンビヤホールスペシャルと

 揚げ物が食べたい。

 それもがっつりした揚げ物だ。


 しいていうなら……ごはんのお供にも、お酒のバッテリーにも最適な唐揚げ。

 もも肉を噛み締めた時に出る油じゅわっつ! にハイボールを合わせたハイカラもいいけど、今日の私は少しばかりダウナーなの。


 こうなると唐揚げは唐揚げでもレバー! レバカツではなく、レバー唐揚げが食べたいわけ! 毎日の講義と週三のバイト、私のSAN値はもうゼロよ! 


 という事で、近所のスーパーで私は本日の宅飲みのオツマミを作る事にしたのである。

 

 私の宅飲みには大体4パターンである。まず第一、カジュアルと私が呼ぶ総菜やお菓子等をお店で買ってくる飲み方。


 続いて第二に、モード、これはおススメや流行りのお店だったり、まぁ要するにデリバリーでオツマミやお酒を頼む飲み方。


 第三がキレイめ、これは自炊して食事兼宅飲みとする一番多い飲み方ね。


 そして最後が大人、お酒だけを純粋に飲む方法。これはちょっぴり良いお酒をゆっくり飲まないといけないわね。これがワンカップとかだと落伍者という飲み方に代わる。


 今回はキレイめなわけだ。とか語るけど、こんな事普段考えて飲んでいる宅飲みストはいないと思う。総菜やデリバリーを選ぶ時は何もしたくない時で、簡単にすましたい時なのね。逆に料理をするという時は心に幾分かの余裕がある時。毎日ママやパパ、あるいは恋人や奥さん、旦那さんがご飯を作ってくれる人は感謝しないといけないと一人暮らしをして心から思ったわね。


 じゃあ、昨日の晩から兄貴の冷蔵庫には楽しみにしていたお酒を入れているので……


 ガチャリ……扉が開く音。

 私は三回目ともなると、来たな! という気持ちで玄関に行く。するとそこには光り物を持った少しワイルドな男の人。


「なんだここは? あのクソ聖女から逃げてきたと思ったらこんなところに小屋か? そして女か、こりゃいい! 女!おとなしくしてないとひどい目に合うぞ!」

「えっ? ちょっと……土足」


 この男、いかにも切れなさそうな刃物を持って私の、というか兄貴の部屋に土足で上がり込んできた。でも危険な奴なので言う事を聞いておこう。


「おいおい、棚にこりゃ酒か! 見たこともねぇ酒だ! ツキがまわってきやがったぜ! これを売った金でもう一度盗賊団を……」


 あぁ、こいつ盗賊か。つまんね。ケモ耳美女とかゴブリンとか見るとインパクトにかけるなぁ。


「まぁ一本くらい飲まねぇとやってられねぇよな!」

「あっそれ」


 盗賊の男は一番下にあるボトルを取り出した。おいおいおいおい。ちょっと、上と下のお酒は兄貴の知人のボトルキープじゃなかったっけ?


「あの、そこと一番上以外なら何飲んでもいいので、それやめてくれませんか?」

「あぁ? 黙ってろ! おれは呑みたい時に呑んで、食いたい時に食う。当然、女も抱きたい時にな!」

「いや、それ飲まれると私があとで殺されるんでほんとマジで勘弁してくださいよ」

「いやだね」


 は? 人がせっかく下手にでてるのに……こいつ兄貴の知人の怖さ知らないからこんな調子のれるんだ。


「だから飲むなっつてんだろ! くらすぞこらぁ!」


 私は通信カンフー三段※誰でも取れる※岡山県人のママが中華かぶれの人なのでなぜかみんなバレーを習わされていた時、私だけカンフーを習っていた。ちなみに、中国地方の人間の事は一般的には中国人とはいいません。


 私の形意拳の基本の構え、崩拳を見た盗賊の男は突然、腰を抜かした。


「せせせせせ、セイクリッド神殺拳っつつ! あんたファナリル聖教会のイカれた信者か!」


 なにそれ? この人、めっちゃびびってる。


「違うけど、アンタ言うべき事あるでしょ! 人の家に土足で上がり込んで人ん家の物かってに飲もうとして、私でもそれ手を出したら首ちょんぱされるんだからね!」


 確か一番端の20年物のワインは目が飛び出る価格だったハズだ。ワインセラーとか入れなくていいの? 


 雑巾を渡して、盗賊の男に床掃除を念入りにさせる。盗賊の男はぽつりぽつりと身の上を語った。どこか私の知らない地で、百人を超える盗賊団の頭だったらしい。ある時、一人の聖女を名乗る少女がアジトに乗り込んできた。百人いた手下達はみな殴り飛ばされて、アジトは消されたらしい。えっ? どうやって? とか思ったけど、ちりじりになった中、この盗賊の頭。ザックさんは兄貴の部屋に迷い込んできたと……掃除終えてたザックさんのお腹の音が響いた。


「姉さん、これで俺はおいとましますわ」

「ザックさん、お腹すいてるんでしょ? ちょっと待ってよ。今から一人で呑もうと思ってたから玄関だけじゃなくて部屋全部掃除してくれたお礼にお酒飲んでいきなさいよ」

「えっ? いいんで?」

「ザックさんも手伝ってくれますか? キャベツを適当に切ってください。あと魚肉ソーセージも」


 という事で、料理開始。私は鳥レバーの水気を取って、臭み取りにショウガのつけ汁に漬けていた鶏レバーを取り出すと小麦粉と片栗粉をまぶす。油を大量に使うフライヤーは使わずにフライパンでささっと揚げてしまうの。


 適当にマジックソルトでもかければ出来上がり。



「キャベツは魚肉ソーセージとマヨネーズに大量の一味入れて和えてくださいね」

「がってんです。それにしても見た事のない食材に調味料ですね」


 今日のオツマミは、鳥レバー唐揚げに、キャベツと魚肉ソーセージのコールスロー。


 唐揚げといえばハイボールだけど、この少しクセのある鶏レバー唐揚げはビールね! それもちょっとこっちも特殊なので攻めたい!


「冷蔵庫で冷やしていた。サッポロ 銀座ライオンビヤホールスペシャル!」



 このビールは恐らく日本一古いビールだと思われるサッポロビール。そして銀座ライオン。日本でも最古参のビアホールでわりと都市にはお店があったりするあそこである。兄貴にとその友人のピンク色の髪の女の人に連れていかれたっきり行った覚えがないけど、あのビールが店頭販売されているなんて! 感激です!



「ザックさん、飲みましょう! 多分、今飲まないともう飲めなくなりますよ! これ、限定販売なので!」

「あっ、はい。これどうやって、この蓋か?」


 プシュっと泡を吹くこのビールを缶ごと行くのは少しもったいないのでビアホールグラスを使って雰囲気は出そうかな。


「ほらほら、ザックさんつぎますよ!」

「おっと、姉さんすみません、では返杯を」

「わかってるねぇ! ザックさん」


 乾杯!


 まずはビールを一口。


「うんまっ!」


 ザックさんの驚愕。


「ぷはぁああああ! たまん! これですよザックさん、さぁ食べて食べて」


 私たちは同時に、鳥レバー唐揚げを口に運ぶ。レバーは焼き鳥でも鳥刺しでも揚げても美味しい。ナニコレ? 私は思うの。美味しいお酒とオツマミがある事。神はいるってね!


「これは……今まで食べた事のない食感と味でさぁな。しかし、うめぇ! うめぇですよ姉御」

「でしょでしょ? ほら、ザックさんが作ったコールスローというかサラダも食べてみよ」


 マヨネーズをこれでもかといれ、さらに七味をこれでもかと入れたザックさんの男のサラダ。マヨネーズでしなしなになったキャベツと食感を損なわない魚肉ソーセージ、そしてあとからやってくる、小気味よいからみがビールを飲む手を助長する。


「くぅ、たみゃらん! これですねザックさ……ん?」


 ザックさんはビールをゆっくりと飲み、そしてサラダ、時に鶏レバー唐揚げをつつき静かにこういった。


「料理っていいもんですね」

「そだよ。特に自分の為に自分で作った料理程美味しい物はないよ。それで誰かが喜んでくれたらなおよしだよね」


 二本しか買っていなかった限定ビールはすぐに無くなり、兄貴のリカーラックにあるお酒を何か飲むか尋ねてみたところ、


「いやぁ、このお酒の味をもう少し楽しんでいたいんで、お気持ちはうれしいですが」


 やられた! 確かにこの限定ビールを飲んだ後に他のお酒で書き換えなんてもってのほかだわ! 多分、異世界の盗賊ザックさんに私はしてやられた気持ちだった。


「姉さん、俺。料理人目指してみますわ。今までの悪行を償ってからですけどね」

「ふーん、いいんじゃない! 評判になったら飲みに行くよ」

「ぜひお願いします!」


 私は空になった 銀座ライオンビヤホールスペシャルの缶を掲げて彼にエールを送った。このビールはラガーだけど。

 ザックさんの背中には何か強い覚悟を感じる事ができたようだった。


 酒の魔力が消えたところで私はふと思う。


「ザックさんのお店どこよ! というか、どこから来てるのあの人たち」


 私はもう少し酔った方がいいかとリカーラックのお酒に手を伸ばしてから、やめた。

 もう少し、堪能しておこう。日本最古のビヤホールの日本最古のビールの味を……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る