第5話 悪役令嬢と罪なき唐揚げとパーフェクトサントリービールと

 犬神金糸雀、大問題発生です。ここ最近、変な人が私の……実際は兄貴の部屋なんだけどにやってくる人が多くてですね。

 はい、正直凝ってしまったのです。色々と食べ物をですね。

 えぇ、まぁ。私は人よりほんのちょっとお酒が強くてですねぇ、えぇ飲み過ぎ、そして食べすぎるとどうなるでしょう?


 はい、太ります。


 太るんですよ! 人は、人間はチートとかないんですよ! 太るんです! 太ったわけで、私に今必要なのはダイエットなんです。

 でーすーが、私は禁酒するつもりはありません。えぇ、ありませんとも、私のママはワイン、パパはビール、兄貴はコニャックだったかな? 好きなお酒が大体決まっているんだけど、私はお酒といえばなんでも飲んでしまうのでダイエットに値するお酒を選ぶことも容易いのです!

 ということで、今日は……ビールを選びたいと思います。

 えっ? ビール? ビールなんてデブ一直線じゃない! とか思っている人がいたらそれは大間違いデース!

 ではおつまみですが……

 

 ガチャリ。

 来たな異世界来訪者。今日は誰? 何? ドラゴン? 魔王? もう何が来ても私は驚かないわよ。


「誰か? 誰か、いないのかしら? ねぇ!」


 偉そうな女の子かな? とりあえあず。


「はいはいいらっしゃ……なんだ。普通の異世界の貴族っぽい女の子か」

「なっ! 無礼ね! この狭い家の使用人かしら? 私の事を知らないということですら万死に値するというのに、よく聞きなさい。私はメリッサ・グェンラウター。グェンラウター侯爵家の長女、この意味分かるかしら?」

「知らないわよ。そんな事より貴女お酒好き?」

「なんと無礼な! 誰か? この者を捕えなさい! そして鞭で!」

「ここには誰もいないし、今からお酒飲むところなんだけど、貴女も飲む?」


 あー、この高飛車な感じはアレかな? よくある少し嫌味な貴族の令嬢。よし、聞いてみるか。


「えっと、メリッサさん。貴女。好きな男の人がいるでしょ? そして、その男の人はメリッサさんではない。別の女の子といい感じになりつつあるとか」

「!!!!っ!」


 うわっ! めっちゃ怒ってる。これは流石に失礼の極みだったかな?


「貴女、占い師か何か? みたこともない服を着ているし……」


 芋ジャーね。


「私は金糸雀。まぁ、わかりやすくいえば、学士ね。ところでメリッサさん、そして、その女の子。誰からも好かれていて、メリッサさんからすれば目の上のたんこぶでしょ?」

「……当たっているわ」


 うっはー! メリッサさん、あれだわ! あれ、あの悪役令嬢。それもマジもんの方だ。ここ最近、悪役令嬢とか言って超良い子ばっかりだったから、キャラクターとしてその存在が絶滅しつつあるのよね。これは大切にしないと。


「うふふ、とりあえず飲みましょうか?」

「あの……カナリアさん……私その……えっと」

「あら、お酒は嫌い?」

「いえ、そんな事は……」


 メリッサさん、割と可愛い顔はしているけど、もう性格の悪さが滲み出ている感じ、たまらん! 

 でも何かお酒を飲みたくない理由。


「もしかして太るのを気にしてる」

「……なぜそれを」

「恋する女の子が考える事なんて大体ダイエットだからね。そんなメリッサさんに、朗報です! 太らないお酒、そして太らないオツマミがあるとしたら、メリッサさん、どうする?」


 まぁ、私が体重気にしてるからカマかけてみただけなんだけど……

 私は宝塚歌劇団の女優さんのような声をあげて彼女にそう言った。そんな物あるハズがないという顔をするメリッサさんの前に私はある物を用意した。



「はい、こちらパーフェクトサントリービール! 糖質0です! このビールは太りません!」

「ビ、ビール! エールではなくて、ビールなのね!」


 そして、お次は湖池屋さん、ありがとうございます!



「こちらは? 何か揚げ物? 揚げ物は太るでしょ!」


 私は怯える子羊のような目で見つめているので、私は彼女の耳元でこう囁く。


「これはね? 罪なき唐揚げだよメリッサさん。お肉みたいに見えるだろうけど、これは大豆。植物の豆からできているの。だから、大丈夫」

 

 ここに、最強ダイエット飲み会セットが用意されたのね。兄貴のジョッキを取り出すと、パーフェクトサントリービールをジョッキに注ぐ。そして小皿に罪なき唐揚げを盛るとテーブルに置く。


「さぁ! メリッサさん、女子会しましょ!」

「ほ、本当に大丈夫なんです?」

「私を信じて、さぁジョッキを持って」


 ジョッキを掲げて私たちは世界、いや異世界でも共通の




「「乾杯!」


 ビールを恐る恐るメリッサさんは上品に飲むと……

「な、なんですこれ! 本当にお酒なのかしら?」

「でしょでしょ? このビール、糖質が0なので、酔いにくいのよ。オツマミも食べてみて」

 

 パクリと罪なき唐揚げを食べた悪役令嬢メリッサさん……少しばかり怪訝な顔をする。

「鳥の皮? だと思うと少し微妙だけど、これが豆からできているの? 豆なんて、下々の平民が意地汚く食べる物だと思っていたわ! 領民から豆を取り上げないと!」

 

 うわー! 容赦ねぇなとか思ったけど、ビールが進む、おつまみよね。二人でロング感を二本ずつ開けると、本来酔い難い糖質0だけど、メリッサさんはお酒にちょっと弱かったみたい。

 

「……もう、アイラなんかどっか遠くに行けばいいのよ……」

「メリッサさん、大丈夫? 帰られる?」

「うっしゃいわねぇ! 酔ってないりゃろ! 酔ってぇ……」

 

 酔ってる人は酔っていないという件……メリッサさんは驚くほど私に愚痴を捏ねてそして帰って行った。東のティルなんとかって領土のどこかの領主らしいので今度遊びにきてほしいとの事。

 だからどこ?

 

 悪役令嬢って、言う程悪い子じゃないわね。なんというか可愛らしい憎らしさ、だから主役にだってなれるのかなとか思って私は体重計に乗って少し現実を忘れたくなった。

 

「転生して体重が増えないチートが欲しいな……ハハッ」

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