第90話 レヴィアタンと焼鳥とキアンティゴヴェルノ(赤ワイン)とお別れと
安い方のワインセラーの整理をしようと思って本日はワインを開けようと思ってる私。赤、白、ロゼ、たまに色物の黄とかワインはなんでも好きだけど、それらの中でどれが一番好きか言われると俄然私は赤かしら、そもそも300円くらいの安価な物から5000円を超えるような物まで比較的これもう一つだなと失敗する事が少ないのよね。
これは兄貴の受け売りなんだけど、私もそう思う。結果としても5000円前後までの安い方のワインセラーも10万円を超えるようなワインも入っている高い方のワインセラーも殆ど赤で敷き詰められてる。兄貴はあれこれ買いすぎるので、そろそろ消化しておいてあげようという私の魂胆。
「今日はみんなにも珍しいかもしれない干しぶどうを使った赤ワイン。ゴヴェルノ製法って方法で作られたイタリアって国のワイン。キアンティ ゴヴェルノこちらを飲みます!」
「えぇ、勇者、赤い方よりシュワシュワがいい!」
「ほぉ、ワインであるか」
「干しぶどうからですかぁ?」
ワインはわりと異世界組の三人にも故郷を思えるお酒なのよね。というかビールとブドウのお酒って異世界でもメジャーなのリアルなのね。製法が比較的簡単というのもあるんだろうけど、でも地球産のお酒の美味しさは半端じゃないみたいなのでここは少しびっくりしてもらおうかしら、
「おつまみわー? 勇者魚がいい!」
「ワインといえばチーズが干し肉あたりが無難ではないか?」
ルーさんもお肉ならみたいな感じなので、本日は意外と赤ワインに合うオツマミとして、私は白ネギ、鳥のもも肉、つけダレを用意して、
「本日は焼き鳥を作ります! ネギまです! ルーさんはネギ大丈夫でしたよね?」
「大好きです!」
犬や狼に玉ねぎはダメという通説があるけど、異世界の人々にはあんまり関係ないのかあるいは量の問題なのかしら? 最悪ミカンちゃんあたりが回復魔法でもかけてくれるでしょ。
鳥のもも肉を一口大に白ネギを3cm間隔で切って、もも肉はつけダレでもみこむと串に交互に刺してグリルにイン!
がちゃり。
あら、誰か来た! ん?
「勇者、嫌な感じかもー」
ミカンちゃんが玄関側を嫌がる。それにルーさんも毛を逆立て、デュラさんに至っては……
「これはとんでもない奴が来たであるな」
そんなに? 誰もいかないので私が玄関を見に行くと……
「……はっ!」
私は一瞬気を失っていたみたい。目を開けた私の眼前には青い眼に青い髪、そして頬に鱗がある美女が私を心配そうに見ていた。
「貴女は? 私はこの家の家主の犬神金糸雀です」
「すまない。人には私の真の姿は毒だった。名をレヴィアタン、海の守り神にしてクラーケンの幼馴染だ」
「あぁ、クラーケンさんの」
にしては、ウチの異世界組がしり込みしているのは何故だろう。私がそれを疑問に思っているとレヴィアタンさんは語る。
「私がドラゴンだから、連中は驚いているのだろう。世界に十程いる眷属の一竜が私なんだ」
「だそうだけど、みんなそんな委縮しないでも大丈夫そうよー! とりあえずレヴィアタンさん、今から晩酌なんでよければどうぞ」
私のそのお誘いを聞いてレヴィアタンさんは目を丸く、驚いた表情で
「いいのか? 私はドラゴンだぞ? クラーケンはそんな事気にしないだろうと言っていたが……」
「はい! 私、色々経験したから種族差別はしないので、狭い部屋ですけどどうぞどうぞ」
テーブルに焼きたての焼鳥とキアンティゴヴェルノの赤を用意してワイングラスをみんなに配る。
「勇者、ドラゴンはじめてみたかもー」
「あぁ、宜しくな勇者」
「凄まじい覇気、魔王様に匹敵するである……」
「魔王か、昔はよく遊んだものだ」
「……ドラゴン様なんてお美しい」
「ルー・ガルーかドラゴン十の眷属フェンリルの残滓から生まれた種族か、苦労をかけているらしいな」
どうやら異世界ではドラゴンは相当レアで狂暴な種らしいの、デュラさんがかつて僕にしていたヒュドラもドラゴン亜種で街一つを滅ぼす力を持っていたけど、純主のドラゴンの力は未知数なんだって、であのビビりようだったけどレヴィアタンさんが優しいのでみんなもう慣れちゃった。
「じゃあ! 初、ドラゴンさんご来場に乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
「わ、わたしは嬉しいぞみんな……」
フルーティーで、香りがずーっと続くわねぇ、渋みも酸味も丁度いいし美味しい。仕事終わりの一杯とか、エリートOLとかはこういうの飲んでるのかしら?
あらあらレヴィアタンさん泣いちゃった。どうやらドラゴンというだけで相当謂われない恐れをいだかれていたらしく、クラーケンさんとかニケ様とか異世界上級生物とかしか関わり合いになれなかった事が寂しかったんだって、可愛いわね。
「勇者、クソ女神よりレヴィアタンがいいかもー!」
「うむ、そうであるな! レヴィアタン殿。あのクソ女神の代わりに毎日遊びにくるとよい」
「そーですよー。ドラゴン様ぁ!」
なんか、美女が泣いてみんなに慰められているの見ながら飲む赤ワイン、どちゃくそ美味しいわね。
「さぁ、焼き鳥も熱い内にどうぞ! 七味も用意したのでお好みでかけてね」
とりあえず30本。ミカンちゃんが両手で持ってはぐはぐと食べる。ほんと、可愛い子はどんな食べ方しても可愛いのずるくない? デュラさんは鶏肉とネギを同時に食べて、ルーさんとレヴィアタンさんは大きかったのか鶏肉を半分齧る。
「焼き鳥ってこう食べるんですよー!」
粋な食べ方、串からスッと抜いて食べてみせると、レヴィアタンさんから拍手。そして真似して食べてる。可愛い!
「美味しい! 金糸雀、美味しいよ! これ!」
「うまうまー! 勇者ニワトリの肉もスキー!」
「はぁ! 脂がのっておいひぃですぅ」
焼き鳥が美味しいのは43億年前から分かってる事なのよ! 焼き鳥と赤ワインのペアリングに酔いしれなさい!
干しブドウを使ってるからかしら、煮詰めたベリーみたいな甘さを感じながら凄い香りが広がるのよね。普段飲みでちょっといいワイン飲みたいなと思った時に丁度いいわね。
焼き鳥のタレも言ってしまえばソースなのでよく合うわぁ。むね肉やささみなら白、もも肉や皮なら赤。ってワインが焼鳥に合うというより、焼き鳥がなんにでも合わせやすいのかもね。
「金糸雀―! 美味しいよ! こんなワイン飲んだ事ない! それにこの鳥串も!」
「あはは、ドラゴンの口に合って良かったですよぅ! そろそろ、ウチの勇者様の名物である雄たけびが聞けるとおもいますよー」
ミカンちゃんがハグハグと焼鳥串を食べて、赤ワインをごきゅっと流す。
「うんみゃあああああああ! 焼鳥うみゃい! 勇者、かなりあの料理すきー! つよつよ!」
みんなに二杯目のワインを入れると空になったので二本目を開栓。私達日本人はワイングラスの細いステアを持つ事が多いんだけど、異世界の人は海外の人みたいにボウル部分を持ってワインを飲むが妙に様になっているのよね。デュラさんなんて自分の方に向けて回してかおりを開かせてるし、貴族っぽい。
「うっ、うっ、うっ……」
ワイングラスを持ちながらレヴィアタンさんがまたしても泣いちゃった。涙もろいのか、それとも泣き上戸か、どっちもか、
「レヴィアタンさんどうしたんですか?」
「うぅ、かなりあー! 私、いつも恐れられててこんな楽しいのはじめてでぇ……えっえっ、ワインおいしぃ、うわーん!」
まぁ、強すぎる力や存在というのは時として孤独になるのかしら、とはいえさすがにここに住むとは軽々しく言えなくなってきた人数なのよね。泣きながら焼鳥を頬張るレヴィアタンさん、凄いシュール。
そんな時、美味しそうに焼鳥とワインを楽しんでいたルーさんからまさかの提案が、
「ドラゴン様、差し出がましい申し出かもしれませんが、私でよければぁ、一緒にいますよぉ? そろそろ犬神様にもご迷惑をかけっぱなしですしぃ」
私達全員がルーさんを見る。そうだ。ルーさんはほとぼりが冷めるまで匿っているだけだった。
「えぇ、勇者。ルーがいなくなるの嫌かもー」
「これ、勇者! ルー殿が決めた事であろう。が、我も同じ気持ちである」
まさか、こんな展開になるとは思わなかったわね。レヴィアタンさんは涙と、少しだけ鼻水が出ているのでティッシュを渡してあげるとそれにチーンと、
「ルー・ガルーの娘よ。気持ちだけでいい」
「ドラゴン様、私は今までたった一人でしたけど、犬神様と勇者様とデュラさんが私にぬくもりをくれましたぁ。たった一人のさみしさは一番知ってますぅ、だからぁ一緒に行かせてくださぃ」
「……いいのか?」
はいとルーさんが頷くので、またしてもレヴィアタンさんがわーんと泣き出す。私はまさかと思って聞いてみる。
「あのレヴィアタンさんって、私の部屋に自由に来れたりします?」
「うん……迷惑じゃなければ」
それを聞いて、私はもちろんミカンちゃんもデュラさんも笑顔が満開になった。住む場所が違うだけでルーさんも遊びにこれるという事。ニケ様のパターンがあったからもしかしたらと思ったけど、ある程度凄い人は自由に行き来できるのね。
「じゃあ、ルーさんの門出とレヴィアタンさんが私達の呑み友になった事にもう一回乾杯しましょ! もう兄貴のワインセラーのワイン、全部開けちゃいましょ!」
泣きすぎて鼻を赤くしたレヴィアタンさん、笑顔の私、デュラさん、ミカンちゃん、ルーさん。その輪に入れないで玄関からじーっと私達を見つめている何かの女神様についてなんで誰も触れないのよ……
ルーさんには嫁入り道具くらい色んな食べ物やお酒、役に立ちそうな便利グッツをリュックに入れて私達は送り出した。なんなら仲間外れのニケ様ですら色んな加護をつけてくれた。
「犬神様ぁ、今までありがとうございましたぁ! 大好きです!」
「あはは、私もなんか犬……じゃなくて妹ができたみたいで楽しかったですよ。またいつでもレヴィアタンさんと遊びにきてくださいね!」
「はい!」
レヴィアタンさんと手を繋いで、私達と短い間だけど一緒に生活をした人狼の少女。ルーさんは部屋を後にした。なんだか泣きそうな私だったけど、翌日の晩に普通に遊びに来たので、この感動を返してほしかった事は墓場まで持って行く事ににするわ。
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