女子大生と居候達(勇者、デュラハン)とご近所さん(女神、人狼、海竜)

第91話 ミミックとサムゲタンと十四代(日本酒)と

「金糸雀ちゃん、お疲れ様! 本日、ヘルプありがとうね」

「いえいえ、最近はオンライン授業が増えたので全然大丈夫ですよ」

 

 私は昼のバイト先であるサードウェーブ系のコーヒーショップを後にする。なんで私が夜のバイト先はガールズバー、昼はサードウェーブ系コーヒーショップかというと……お洒落な世界観に身を投じていないと、流行やらなんやらが分からないからよ!

 言うなれば見栄ね。兄弟が姉貴ならもう少しマシだったかもしれないけど、兄貴なんで教えてもらった事はゲームの攻略法と酒の広くて浅い知識だけ、そりゃもう色々と苦労しましたとも……

 

「およ? カナじゃね?」

「えっ? 誰ですか?」

 

 チャイナ風ワンピースを着た病み系一歩手前のチャイボーグメイクの女性。長い黒髪を盛って祭りみたいな装飾の知らない人。


「ボクだよボク! 君の頼れる先輩じゃーん!」

「いろはさん? 何してるんですか? というかまた髪染めたんですか?」

「えっ? これカツラ(ウィッグ)! ちょっと官僚のボンボンに中華ゴチってたからその帰り、てかボクんち寄ってかね? いい酒あんのよ。勇者ちゃんとデュラさんも呼んでさ!」

「二人は今日、夢の国に行ってるから夜まで帰ってこないです」

「ざんねー。んじゃカナ暇っしょ? イフちゃんとボクと飲もうぜぇ!」

「まぁいいか、じゃあ何か作りますよ。何がいいですか?」

「まじで? じゃあサムゲタン!」

 

 参鶏湯か、まぁまだたまに寒いしいっか、

 

「分かりました」

「えっ? 作れんの?」

「まぁ、ネット見ながらなんとかなるでしょ」

 

 近くの石井城西で適当に材料を買って、いろはさんの住むタワマンに、いつ見ても金持ちの象徴よね。てかいろはさんって、

 

「さっきしれっと流しましたけど官僚のボンボンとか、このタワマンとかいろはさん普段何してる人なんですか?」

「えぇ? 言ったぢゃん。ボクは、女優で、声優でラノベ作家でガールズバーのエース」

 

 ガールズバーのエースくらいしか真偽の程が分からないいろはさん、年齢も不明だしいつもありし日の少年少女みたいに目がキラキラ輝いているなんか魅力的な変な人。

 

「とりあえずそういう事にしておきますよ」

 

 いろはさんの住む階層、そして部屋へと向かう。予想通りと言うべきかイフリータさんがお出迎えしてくれる。

 

「お帰りなさい様、いろは様……金糸雀様も」

「イフリータさんお久しぶりです!」

 

 はぁいと手を振って再会を喜ぶ私達。それにしても玄関に大きな宝箱があるんだけど……あのドラクエとかに出てくるモロ宝箱。いろはさんの事だから高いヒールとか入ってるのかもしれなけど……

 

「いろはさん、これなんですか?」

「えぇ? 何これ? 宝箱あんじゃん! ウケるー! 何入ってんの?」

 

 えっ? いろはさんも知らない宝箱。それを開けようとした時、

 

 パカっ! 

 

 と宝箱が開くとそれは生物のようで口、牙、舌がある。いろはさんは舌に体を巻き取られ今や捕食されそうに……

 

「ちょ! うひゃひゃ! 何これ! あははははは!」

 

 食べられかけれているのに爆笑、すげぇ……

 

「いろは様! 強欲な冒険者を捕食する謎の魔物、ミミックです! 今、助けます!」

 

 炎の精霊イフリータさん。彼女が睨みつけるだけでミミックさんはいろはさんを離す。いろはさんに危害を加えたミミックさんをイフリータさんは見下ろして、

 

「いろは様、どいてそいつ殺せない!」

 

 どこかで聞いた事のあるセリフを言いながら紅蓮に燃える腕を向けるイフリータさんにいろはさんは大ウケ。

 

「えぇ! 別に殺さなくていいぢゃん! ちょ、びっくり箱かよー! ミミック君、今からボク等は酒盛りなんだが君もどうだい?」

 

 嘘でしょ! とか昔の私は言いそうだなぁ。手足とかなくても言葉とか通じなくてもお酒というスペシャルレアアイテムがあれば意思疎通できるというね。

 

「いろはさんキッチンかりますね? サムゲタン作ります」

「よろよろぉ! じゃあ、酒でも出しますかい! カナ、ビビるなよ? 十四代買ってきたんだぜぇ?」

 

 なんて?


「今なんていいました?」

「十四代の双虹だけど、しんねーの?」


 知ってますとも……レア日本酒十四代。定価に対して10倍から20倍のプレミア価格で売られている日本酒。兄貴とその友人が好きで呑ませてもらった事があるけど、いい意味でそこまで特殊なお酒じゃないんだけど、全然酔わないのよね。


「十四代でもかなり上級のお酒じゃないですか、どうしたんですか?」

「ん? とある筋からもらっちった!」


 てへぺろ、なんか腹立つなぁ……実際の価格帯は他有名な日本酒群とさして変わらないんだけど、このブームという物は本当に迷惑よね。焼酎の時もそうだけど、全然買えないから飲めないんだもん。


「かな好きかなーって思ってサ!」

「好きですとも! 大好きですよ! いろはさん、感謝しますぅ!」


 ぶわっと泣く私を見てちょっと引くいろはさん、うん。そりゃ気持ち悪いわよね。さぁ、私のすべき事はサムゲタンをぱぱっと作る事。手羽先、南瓜、カブ、お米、和風だしの素、ショウガにお塩と胡椒そしてゴマ油。相手が十四代なら和風サムゲタンでキマリでしょ!

 ショウガと南瓜を薄切りにカブは皮をむいて食感が残るくらいに乱切り、鍋に和風だしの素、ショウガ、手羽先、お米を入れてしばらく煮込む。その後に先ほどきった野菜を入れて10分程コトコト煮込んで最後に塩とゴマ油をかけて完成!


「はい、おまたせしました! 和風サムゲタンです!」

「えへへぇ、すげぇ! サムゲタンとか焼肉屋でしか食った事ねーよ! じゃあ乾杯しよっか?」


 木製の一合升にお酒をトクトクトクと入れるといろはさんはまさかのミミックさんの前にも升を置く。


「んじゃ突発女子会! かんぱーい!」


 凄いな、中華系の恰好をしたいろはさんが韓国料理を肴に日本酒煽る姿。私は物怖じしながら升を掲げる。


「乾杯!」


 かんぱーい!

 ミミックさんは舌で升を持って掲げてる。まずは一献。


「んんんんーーー! これぇええ!」

「うひゃー、流石に美味いね十四代」


 いろはさん、椅子にあぐらかきながら、升酒を一気飲みするとペロリと舌を出す。いやぁ、でも確かに美味しい。ほんと、日本酒とはこれ! というくらい飲みやすいお酒。クセが強めの日本酒が好きな私はまだまだって兄貴達に言われたけど、原点回帰という言葉よく似合うお酒ね。


「うわっ……凄い美味しいお酒」


 イフリータさんも言葉が出ない。

 そしてミミックさん、


 バッたんどったん! 宝箱の体を揺らして舌を振る。私にはどういう状況か分からないけど、いろはさんは、


「そうかそうか! ミミック君にも気に入ってもらって嬉しいぜ! ほら、もう一献!」


 勿体無いと思っちゃダメなんだけど、いろはさんは宝箱に十四代をドバドバ入れているヴィジュアル。ミミックさんはそれにパカパカ何ども宝箱の蓋を開け閉めする。


「かーっかっか! おもしれェ! ミミック君、人間より美味いもんあるんだぜぇ! カナが作ったサムゲタンさ!」


 いやいや、そこまで持ち上げられるとちと恥ずかしいな。


「まずはスープで一杯、次にお野菜で一杯、そして鶏肉で一杯。あとは好きな食べ方でお酒を合わせてくださいね!」


 土瓶蒸し飲みみたいな感じを想定してみんなに伝えると、私もみんなもまずはスープをゴクリ、うん。うまい! からの十四代。


「うっはー! カナ料理の天才かよー! もうボクと結婚しちゃうかい?」

「ははっ、なんかいろはさんなら面白いかもですね。うん、野菜ともよく合いますね!」


 和風サムゲタン、十四代を邪魔しないし、十四代もサムゲタンに対して主張しすぎないベストパートナーね。


「このお肉ほろほろで……金糸雀様、美味しいですぅ! はぁ、お酒が進みます」

「イフちゃん呑むねぇ! はいお代わり。ミミック君は鶏肉食べるかい? 人間の一千倍うまいぜぇ!」


 そう言って手羽先をぼとんと宝箱に廃棄……じゃなくてミミックさんに食べさせて続いて十四代をドバドバと入れる。ドンペリのピンクより高い日本酒を勿体無い……


「およ酒切れた」


 おい、いろはぁああああ!


「じゃあ二本目いっとくー!」


 様ぁああああ! 好き!


「いろはさん、お代わり!」

「えぇ、猫の真似したらついであげる」

「にゃおーん!」

「……えっ……冗談だったんだけど、カナほんと酒好きだね! はいどうぞ」


 ご飯の入った部分を最後に食べてしめと十四代。

 ダメ、永遠に飲んでいられそう。だって全然酔いが回らないんだもん。なんなのこのお酒……


「おっ、なんか面白そうなニュースやってんぜぇ! アレクシス! テレビをつけてニュースにしてちょ!」


“分かりました“


 いろはさんの家のネットワークスピーカーがそう言うとテレビをつける。その映像を見た時、私はどれだけお酒に酔っていれば良かったかと顔が青ざめていく。


 デュラさんの首を抱えたミカンちゃんがお手柄とか言われてテレビに出ている様だった。どうやら、夢の国の帰りにミカンちゃんとデュラさんは回転寿司屋さんに行き、そこでどうやら寿司屋で迷惑動画を撮影している連中をひっ捕えたとか……


そこでミカンちゃんは取材を受けた人に


『今回どんな気持ちで迷惑な人を注意したんですか?』

『勇者、食べ物を粗末にする奴は絶対に許さなぬ!』

『うむ! 我も同感である!』


 デュラさんの事は腹話術だと思われ、笑いをとれたみたい。はは……


『かなりあー! 見てる? 勇者とデュラさん、ヒーロになりぃ!』


 いやぁあああああああ!

 私の名前をもれなく出された事で、いろはさんは転げ回って大爆笑。現実逃避する為に、二本目の十四代をとりあえずガバガバ飲ませてもらう事にした。

 

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