第92話 キャラバンの商人とエッグチーズカレーパンと伊良コーラ酎と

「二人とも、これはどういう事か説明してくれるかしら?」

 

 例の回転寿司屋さんの出来事から謎の腹話術美少女・ユウ・シャーちゃんと銘打ってメディアにミカンちゃんとデュラさんが映りまくっているのよね。今の所私の部屋までは特定されていないけど……

 

「ちょっと、動画配信者がこの部屋を特定して押し寄せてきたらどうするのよ!」

「心配には及ばぬと言えり! 勇者の力を持ってすれば一体の記憶を改善せり!」

「そういう事じゃなくてどうして目立っちゃったのよぉ! こっちなんか、夢の国でキャストと間違えた他の入場客と記念撮影なんかしちゃって……」

 

 SNSでもバズってしまっているミカンちゃん、夢の国に遊びに行ったミカンちゃんとデュラさんをキャストと勘違いした人達が写真撮影お願いの為に長蛇の列ができていたらしいの。しかもなんでミカンちゃん、こんなに撮影慣れしてるのよ……あーーもう!

 

「まぁ、いいか。過ぎた事だし、気をつけてよねぇ!」

「勇者、かなりあの立ち直りの速さ感服せり」

「うむ! いつもながら我も尊敬の念を隠せないである」

 

 ぐちぐち怒っても何にも変わらないし、別に悪い事したわけじゃないし、どこぞの迷惑な連中と違ってミカンちゃんはその回転寿司チェーンを世界一美味しいと笑顔で宣伝してたので少しは株価の回復に買ってくれたんじゃないかしら。

 

「かなりあおなかすいたー」

 

 本当に反省してるのか分からないミカンちゃんは“塩対応“と書かれた白いTシャツにハーフパンツ姿という超だる着でいつものソファーに転がりながらそう言うので私は冷蔵庫を開けて何かないか見渡してみる。

 

「卵とチーズ……オムレツかな?」

 

 デュラさんが思い出したようにふよふよと浮いてきて、コンビニの袋を私のところに持ってくる。

 

「金糸雀殿、我、巣篭もりカレーパンとやらを食べてみたくてこちらを勇者に“こんびにぃえんすすとあぁ“にて購入してもらったのだが」

 

 巣篭もりカレーパンとは……あぁ、ああ! あぁ! 少し前に流行ったカレーパンの真ん中くり抜いてチーズを引き詰めて卵を落としてオーブンで焼くだけね。簡単なのに多分絶対美味しいと分かるのが凄いわね。

 

 ガチャリ。

 あら? 誰か来たわね。

 

「ミカンちゃーん、玄関見てきて!」

「勇者、今パズルゲームなう。故にこの場にとどまれり!」

 

……ミカンちゃんって本当に勇者なのかしら、仕方がないのでカレーパンをオーブンに入れてから玄関に行くと、何かしらとても怪しげなおじさんがいるんだけど……

 しかも揉み手で。

 

「こんにちは! こんな素晴らしいお宅にお住まいの、これまた美しいお嬢様、その黒い線の入った服がなんとも素敵ですな!」

「異世界の人はみんなジャージになんらかの高貴さを感じるんですかね? えっと、私はこの家の家主の美しいお嬢さんの犬神金糸雀です。異世界セールスマンの方ですか?」

「いやはや、私はキャラバンの商人バイト・アルですはい! 珍しい品々の数々を街で売って生計を立てているんですが、気がつくとこちらに、少し驚きはしましたが、ビジネスのチャンスとお見受けしました。世にも珍しい魔法のシロップ等いかがでしょうか?」

 

 そう言ってバイトさんが取り出した魔法のシロップとやら……ほう、ほうほう……これは、咳止め薬の瓶みたいな入れ物。というか咳止めシロップの入れ物を意識して作ってあるのよね。

 

「伊良コーラ酎ですね」

「よ、読めるのですか? 金糸雀さん」

「鹿児島の超美味しい焼酎を作る大山甚七商店さんとクラフトコーラメーカー伊良コーラさんのコラボのフレーバースピリッツですよ。一応、種別としてはジンなんですけどね……ってなんでこんなお酒持ってるんですか?」

「コポルトガールを連れた男性からなんとか譲っていただいた名品です」

 

 あぁ、あのガルンちゃんのご主人様の……なんか既視感あるのよねぇ。私が考えを巡らしている時、チーンとオーブンレンジが鳴る。

 

「今から食事なんですけどバイトさんも一緒にどうですか?」

「宜しいのですか? 是非……宜しければこの魔法のシロップを」

「あぁ、大丈夫です! ウチの部屋にも同じ物ありますので! 兄貴が好きで何本かストックしてるんですよ」

 

 と私が同じ伊良コーラ酎を持ってくるとバイトさんは目が飛び出しそうなくらい驚く。これ自体は結構高いお酒なんだけど買おうと思えば私たちの世界では手に入るけど異世界じゃそりゃね……

 

「ミカンちゃーん、ご飯食べるわよー! こなかったからもうないからねー!」

 

 私がバイトさんを連れてリビングに、そこで既に待っているデュラさんとパズルゲームを途中でほったらかして走ってくるミカンちゃん……中断できるじゃない!

 

「ほほー、悪魔の方。魔王軍大幹部デュラハンさんとお見受けします。やや! こちらは勇者様ではございませんか?」

「バイトさんご存知なんですか?」

「えぇ、キャラバンの商人をしていると色んな事を学びますから」


 バイトさんがそう言うと目を凝らしたデュラさんが「おぉ! 貴殿は魔王城によく珍しい物を持ってきて魔王様を楽しませていたバイト殿か」

「あー! おっちゃん、勇者知ってる! 村の子供に飴を与えてその親にアコギな商売しているおっちゃん!」

 

 ははっ、どこの世界にもいるのね。ちょっと怪しい行商の人。縁日とか夏休みとかに私の地域でもたまに現れてたわ。

 

「じゃあ、そんな再会に伊良コーラ酎で乾杯しましょうか?」

 

 作り方は炭酸水で割るだけ、レモン風味強めの高級コーラサワーって感じの味ね。まぁ、まず炭酸が苦手な人以外は美味しくいただけるでしょう。

 

「じゃあ! 乾杯!」

「これはこれ、皆様、乾杯!」

「「かんぱーい!」」

 

 ごきゅごきゅっと飲めるんだけど、あぁ……なんだろうこれ、家では再現不可な美味しいコーラサワーをお手軽に再現できる感じかな。

 

「うんみゃああああああああああ! 勇者これしゅき! しゅきぃいいい! コーラ味のシュワシュワのお酒なりぃ!」

 

 うん、絶対ミカンちゃん好きよね。コーラ中毒だもの。さて、デュラさんも「おふぅ、これは言葉にできぬコーラハイであるな……」普段飲んでるので問題ないでしょうけど、バイトさん、自分の商品、しかも味も知らないお酒の感想はどうかしら?

 

「かー! 口の中がバチバチと焼け……いや、健やかですなぁ! エールのような発泡、にしては凄い力強く、なんともスパイシーなお酒、これはまさに魔法のシロップ、いやはや美味しいです。はい!」

 

 口の中がさっぱりしたところで、超コッテリしたデュラさん曰く巣篭もりカレーパン。そして一般名称は、

 

「お待たせしました! エッグ・チーズ・カレーパンです! ナイフで卵を潰してパンをつけながら食べてみてくださいねぇ!」

 

 パン屋さんで購入したら400円くらいするけど自家製だと130円くらいで作れるわね。でもまぁ作ってみて分かったけどこれはなんか見た目で楽しいし、できてきたら嬉しい料理ね。

 

「ははー、金糸雀殿。これは美味い。後ほど我も作ってみるので味見を所望するである。成程成る程! して、このコーラハイがよく合うであるな!」

「うまー! 勇者カレーパンスキー! うまうまぁ! んグング! かなりあーコーラのお酒お代わりなりぃ!」

 

 はいはい、いくらでもお飲み。いつもの二人と違いバイトさんはナイフとフォークを前に感想。

 

「これはパンに詰め物をして揚げているのですな? さらに鳥の卵と質のいいチーズを中に入れて焼いているとは……王宮料理人も真っ青の手の込んだ料理と……味は……贅沢に様々なスパイスを使い。食べた事がないのにどこか懐かしく口の中に広がる風味。私のような商人が食べていい料理ではありませんな。はい」

 

 四十年以上の歴史を誇るヤマザキのカレーパンの美味しさは余裕で異世界の人たちの胃袋を掴むのね。高級ワインでも飲むようにバイトさんは伊良コーラ酎を飲んで物思いに耽ってる。

 カレーパンとコーラって字面でも絵面でもジャンクな組み合わせなのに、異世界の人達からすればそれはそれは贅の限りを尽くした組み合わせなのかもね。

 

 はぐはぐ食べているミカンちゃんはカレーパンと伊良コーラ酎をなん度もおかわりしてるのに、フレンチでも食べるように優雅に、じっくりと味を記憶するみたいに食べてる。

 

「でもよく考えればそうよね」

 

 飽和の時代に生まれたからか、食に関して異世界の人から学ぶ事も沢山あるわね。

 とか思ったけど結局伊良コーラ酎を二本開けて、いい感じでほろ酔いになったところでお開き。

 

「すっかりご馳走になってしまいました。それもこのパンまで頂いて」

「いえいえ、私もバイトさんから教わる事もたくさんありました。まぁ、年の功ってやつですね」

 

 バイトさんは土産に開けてないカレーパンをいくつか持って帰り、代わりに私にと小さな箱をお土産にくれたのよね。

 

「本当につまらない物で、金糸雀さんにお渡しするのは恥ずかしいですが、魔法のシロップ以外では一番良い品ですので」

「そんな悪いですよぅ!」

 

 と私は断ったけど、どうしてもということでいただくことにしたわ。みんなでお見送りした後にその箱を開けてみるとそこには金属製のコップ?

 

「なんだろうこれ、錫のグラスかな?」

「ほぉ! 見事なアダマンタイト鉱石のグラスであるな! 銀細工師のクルシュナ作と書かれておるな」

 

 あぁ! あのクルシュナさんの確か髪飾りもらったわね。聞いた事ない鉱石で出来たグラスだけどありがたく使わせてもらおうかな。

 そんな事を思っていた私だけど、水道水ですらびっくりするくらい美味しく飲めるようになる魔法のコップなんだけど、そもそも美味しいお酒を飲むのにしか使わなかったのでその効力を知る事が永遠に来ないのよね。

 

 ミカンちゃんがソワソワしだしたからニケ様がそろそろ来そうなのね。デュラさんを抱えてミカンちゃんが、

 

「勇者、アキバのヨドバシにガンプラを買いに参り!」

「あー、私もドンキに用事あるか行くわよ。ニケ様も行きますか?」

 

 実はもう入室してたニケ様を見てえっ? という顔をするミカンちゃんに対して私は、

 

「お酒じゃなくて甘い物なら大丈夫でしょ」と。

「もう! 仕方がないですねぇ! 金糸雀ちゃん! 私はクレープが食べたいです!」

 

 はいはいと、私は三人と秋葉原に向かう。

 ちなみに原宿と秋葉原は異世界人なのかこっちの人なのか不明な人がわんさかいるので割と目立たないのよね。

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