第93話 ベヒーモスとじゃがりこサラダ味とサントリー生ビールと
本日ですが大学のお花見に参加しました。スーパーで売ってるオードブルやマック、ポテチにストゼロと第三のビール。私? 私は烏龍茶を飲んだわよ。
男子陣は揃えたかのように前掛けのショルダーバック、あれクッソダサいのよね。なんで流行ってるの? 女子は女子でみんなジェルスチュアート、私? 私もジェルスチュアートよ……
「犬神さん飲んでる?」
「はーい! 飲んでまーす!」
音楽かけたりしないのかしら? というか大学生の飲み会ってなんなの? ほら、飲めもしないのにストゼロのロング缶ハイペースで三本も開けるからいい感じになっちゃって……それにしても惣菜の柔らかい衣の唐揚げ美味しいわね。サクサクした唐揚げとは似て非ざる食べ物だわ
そして大学生の飲み会あるあるとして、お酒とオツマミが大量に余るのよね……という事で
「じゃがりこいる人!」
誰も手を上げない。こうなると大学生という連中は平気で廃棄してしまうので、私はしかたなく手を挙げる。もしかするとカルビーの内定貰えるかもしれないので4個も5個もどうするつもりだったのかじゃがりこの入ったビニール袋を持って私はずらかる。
家に帰る最中、考え事をしていた私はドンと誰かにぶつかってしまった。
「あっ、ごめんなさい!」
「くーはっはっは! 許す! 娘よ。よほどのじゃがりこ好きであるな? 余のこれも貴様にやろう! 泣いて喜ぶとよい! くーはっはっは!」
「あ、りがとうございます」
すっげぇ美形のお兄さん。でも両目で色の違うカラコンを入れてギザギザのつけ歯をつけてるコスプレイヤー的な痛い人。自分の事。余とか言っているし、温かくなると変な人増えるわよね。極めつけに私にじゃかりこサラダ味の大モリを渡して去っていったんだけど……
こんなにじゃがりこどうするのよ……
私は家に帰っている最中に新発売の缶ビールの試飲から気が付けば購入してしまってた……悲しいかな犬神家の酒好きの一族。
「ただいまー!」
「おかえりであるぞ……じゃがりこの山であるな」
じゃがりこという名前を聞いてミカンちゃんが走ってくる。ミカンちゃんジャガビーとかじゃかりことか凄い好きよね。
「おぉー! うぉー! 勇者じゃがりこすきー! すとぜろと合わせるのうまし!」
「あぁ、うん。今日はこれ買ってきちゃった。ちょっと安かったし」
新発売のサントリー生ビール。それ持って家に入ると、なんか大きな人(?)が……
「我が盟友、デュラハンを手厚く保護してくれているという人間、金糸雀女史か、邪魔をしている」
えっ? 誰? デュラさんの友達かしら?
巨大な牛の角があって筋肉隆々の巨大なオオカミ犬みたいな姿をしたモンスター。
「こちら、我が魔王軍において大幹部が一人、ベヒーモス殿である!」
「それはそれはこんにちは、この部屋の家主の犬神金糸雀です」
「それではデュラハンの無事も確認した事だ。そろそろ」
「もし良かったらベヒーモスさんもどうです? じゃかりこ超あるんで消費手伝ってくれませんか?」
「じゃかりことな?」
異世界の人からすれば謎食べ物でしょうね。こっちの世界にどっぷりはまってるミカンちゃんとデュラさんがいかに美味しい食べ物かを説明するとベヒーモスさんはとても期待の眼差しを私に向けるので……しゃーない。普通にばりばり食べようと思ってたんだけど、レッツじゃがりこクッキング!
じゃかりこサラダ味にお湯を入れて数分ふやかす。潰して混ぜ混ぜ。切ったニンジン、マヨネーズとブラックペッパー、トリュフ塩で味付けして完成。じゃがりこポテサラ。
溶き卵にハム、牛乳、じゃがりこを混ぜて数分放置。その後に熱したフライパンで焼いてスパニッシュじゃかりこオムレツ。
「はい、お菓子をオツマミに変える背徳レシピです。これに合わせるのは! 新発売のサントリー生ビールよ! ベヒーモスさんはプルトップ、私が開けますね! はいどうぞ!」
「あぁ、ありがとう。これが一部魔物達の中で有名な世にも不思議な盃に入った麦酒か」
缶ビールとかそりゃ珍しいでしょうね。みんな最初はそうなのよ。じゃあ! 大学生の飲み会後の呑みなおしに!
「乾杯!」
かんぱーいと三人と私は一口ビールを口にして……
「うまい! ビリビリと切れ味があってほんのり甘い後味を感じる。こんな麦酒があるのか……いや、これが摩訶不思議な酒の正体か、恐れ入った……」
「うんみゃい!!」
「おぉ! サントリー殿はプレモルやザモルツというイメージであったが、これは驚きである」
いつかやると思ってたのよね。麒麟の一番搾り糖質ゼロの対抗ビールもPSBとして出してたし、アサヒのジョッキ生対抗のビールとして最初に新商品出すメーカーはここでしょうね。
まぁ、美味しい物を各メーカーが切磋琢磨作ってくれる事はほんとありがたいわね。うん、美味しい。
「じゃあ一口目……というかみんな飲み干してるので二本目でじゃかりこレシピを食べましょうか! ベヒモスさん遠慮せずどうぞ!」
ベヒモスさんはじゃがりこで作った料理の前にじゃかりこそのものをポキりと恐る恐る食べて咀嚼。大きな身体、4メートルくらいありそうなベヒモスさんがビビりながら食べてるのを見ると食文化の違いってみんな同じ反応をするのね。私も始めで沖縄で海ヘビ食べさせられた時とかこんな顔してたわね。
「おぉ! これはなんと美味い。食べる手が止まらぬ! これを材料に使った両料理……我が魔王軍ベヒモス料理団を遥かに超える手の込んだ料理、いただこう」
私たちは一人だけ異世界から来たみたいなベヒモスさんを見つめる。というか悪い意味でミカンちゃんとデュラさんはこっちに染まってるわね。じゃがりこポテトサラダ、そしてじゃかりこオムレツをお箸にパクリ、異世界の人ってなんでこんなにお箸使うの上手なのかしら……
「くっ…………」
ベヒモスさんが一粒の涙を流す。もはや美味しくなかったというわけじゃないんだけど、一応聞いておきましょうか、
「ベヒモスさん、お口に合いませんでしたか?」
「いや、これら料理に対して我が料理団の作るものなど料理とは呼べず……」
じゃかりこにお湯入れたのと、じゃがりこと溶き卵一緒に焼いただけなんだけど、魔王軍は一体何食べてるのか気になるわね。
「今から覚えて帰ってみんなに作ってあげればいいじゃないですか! さぁ、元気出して飲みましょう!」
私はクイッとビールを飲み干して見せる。そしてじゃがりこポテサラをパクリ。うん、この元駄菓子とは思えない本格派の味。たまらないわね。
「勇者ポテサラだーいすき! かなりあのはニンジンも入っててデパ地下のあじぃ! 麦酒があうぅうう!」
ゴキュゴキュとビールを飲み干して私に缶を見せつけるように差し出してくるので新しい缶をミカンちゃんに渡す。デュラさんもオムレツを食べて「んまい! さすがは金糸雀殿!」とめちゃくちゃ褒めてくれる。自慢じゃないけどぉ! ちゃんとじゃがいもからでも美味しいポテサラ作れるんだからね!
「ベヒーモス殿、我も金糸雀殿に料理を教わっている身、これは少ないが我が学んだレシピである! 我らの世界でも手に入る具材で作れるように書き記したである! どうか魔王軍で使っていただけると有り難い!」
「おお! 我が盟友デュラハン。しかし……いいのか? このような手柄」
「気にする事はない、最初から卿に渡すつもりで書き記していた物である!」
魔王軍って何人か今まで来たけどみんな仲良いわよねぇ。余程魔王様ってのが人徳ある人なのかしら? まぁ、人じゃないけど。
「感謝する! すぐに魔王軍の皆に食べてもらいたい。ちそうになった金糸雀女史! この恩はいつか必ず」
「いいですいいです! それより、じゃがりこめっちゃ余ってるんで、お土産にどうですか?」
「いいのか?」
「えぇ! 皆さんで食べてください」
すっ! とベヒーモーすさんはまた涙を流した。すぐ泣く人もといモンスターね。
「ふっ、金糸雀殿。ベヒーモス殿の漢泣きは千年以上前に一度流したきり、流石である」
でも二回目よ? とかツッコンだらダメなんでしょうね。なんか、ベヒーモスさんとかルーさんとか犬系の魔物っておばーちゃん家で昔飼ってた犬思い出すのよねぇ。ベヒーモスさんももう尻尾をブルンブルン振りながら玄関からどうやって出るのかしら?
「しかし、ベヒーモス殿が来たことで我もここより元の世界に帰らせていただくか、金糸雀殿、勇者よ! 健やかにな!」
「えぇ、勇者。デュラさんいなくなるの嫌かもー」
「確かにちょっと寂しいですね。また何処かで」
とか思っていると去り際に、ベヒーモスさんが
「盟友デュラハンよ。魔王様が少し前より行方不明であり、卿に出会った者は魔王様の三柱であらせられる暴獣王ディダロス様より、魔王様が近くにいないか現地滞在の命が出ている! 故に共には魔王城には帰れぬ」
「うむ! あの三柱のお一人、ディダロス様の命であれば我はこの命をとしてその任務受けるである!」
「ディダロス様より、異世界ではどのような病や呪いがあるか分からぬ故、暖かくして寝るようにとの言伝もあり、しっかり3食を食べ、飲みすぎず、夜更かししすぎず、しっかりと歯を磨くようにとの事だ!」
「賜ったぁああ!」
すごい健やか集団ね。魔王軍って……ベヒーモスさんは玄関に吸い込まれるように戻っていく。なんかデュラさんが帰らなくてホッとしている自分がいるのが情けないわね。きっとデュラさんも帰りたかっただろうに……
「まさか、魔王様がこの世界に? ふっ、それは考えすぎであるな。我のワガママであるが、まだここに入れてホッとしたである」
デュラさんのその一言に……
「「デュラざぁああああんん!」」
「か、金糸雀殿。それに勇者。はしたないであるぞ! ふふっ全く」
と私とミカンちゃんはデュラさんに抱きついて感動を分かち合っている時、まぁそろそろ来るかなとか思ってたけど、
「か、金糸雀。ルーと来たけど……帰った方がいいか?」
「こんばんわですー! わふー!」
あっ、ニケ様来たかと思ったけど、レヴィアタンさんとルーさんが来た。まぁこの後、飲み疲れたあたりでニケ様が来る地獄を私達はまだ知らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます