第64話 冥府の女王と串カツとキリン一番搾り糖質ゼロと
「ゆ、勇者は町をぱとろーるに行き」
「わ、我も」
二人ともずるい!
というのも何故かニケ様が朝から朝食を食べにやってきていた。豆腐の味噌汁とイワシの生姜煮と納豆を堪能してお茶を飲みながら少し古い洋画なんかをサブスクで見てるのよね。というか女神ってもう少し仕事とかあるんじゃないのかしら?
「あのニケ様、いつもはどのようなお仕事をされているんですか?」
「それはいい質問ですね金糸雀ちゃん。王族、勇者や冒険者に託宣を与えて、代償としてお供えをしてもらったり、魔物たちや魔王軍に注意勧告をして酷いようならペナルティとしてお供えを送らせたり、時折村娘のふりをして町で食事をご馳走になった後で女神である事を伝えてサプライズどっきりなどをして世界を見守っていますよ!」
想像以上に猛毒だったわね。ほとんどたかりみたいなニケ様。美しくなかったら多分私の家は出禁にしてるわね。それを差し引いてもちょっと甘やかしたくなるくらいの美人なのはずるい!
「ははっ、そうなんですね。ところでニケ様。そろそろお仕事にお戻りにならなくても?」
「……金糸雀ちゃん、私は先日。みんなが楽しそうに食べていた焼きそばなる食べ物。食べてないんですよぅ!」
知らねぇよ! 食べ終わった頃にニケ様が来たんでしょうが! 要するに焼きそばを食べるまでテコでも動かないという事なんでしょうね。
「あいにく焼きそばの麺は切らしてるので今日のお昼は串カツを食べようかと思ってたんですけど、いかがですか?」
そう言って冷食の串カツを二種類ニケ様に見せる。お昼なんで麦茶でも出して……
「お酒の方は何にするんですか? 金糸雀ちゃん!」
飲むつもりなんだ。いやぁ、ニケ様絡み酒だし、やってきた人にもれなく迷惑かけるのが確定なのよね。とはいえ、出さないとそれはそれでヘソを曲げそうだし、酔いにくいお酒ってなかったかしら……薄いハイボールでも出して……
「金糸雀ちゃん、麦酒がいいわぁ!」
確実に泥酔するやつね。度数の低い水曜日のネコとかなかったかしら? そう思って冷蔵庫をあけると、濃い青い缶。これなら酔いが回りにくいかも、
お酒を選んだ時にガチャりと、
「人間の住処やん、なにココ? あっ、行き遅れのニケやん!」
凄い豪華な黒いドレスに身を包んだ超美人やってきたけど誰かしら、長い黒髪、挑発的な三白眼、人を見下したような余裕のある態度。
「わ、私は犬神金糸雀です。この家の家主で、ニケ様は朝ごはんとお昼ご飯を食べに来ているといいますか」
「はぁ? アンタまだそんな事してたん? もうそういうのが通じる年ちゃうやん! よう考え―や! この人間の女の子可哀そうやろ!」
凄い蔑んだ目でそう言ってニケ様をぐわんぐわんゆらしている謎の超美人、お知り合いという事はこのお姉さまも……
「あの、女神の方ですか?」
「あぁ、じこしょまだやったな! ウチはペルセポネ。冥府の女王。かつては女神やってたでー! カナちゃん、こんなん相手にしてたらあかんでぇ! もう、ウチが連れて帰るから堪忍なー」
そう言ってペルセポネお姉さまはニケ様の首ねっこを引っ張って玄関に連れて行く。これで嵐が去ったかと思ったのに、
「いやぁあああ! せめて串カツ食べてからにしてぇ」
「串カツ? なんなんそれ?」
「あれよ。ペルセポネ」
そう言って私の持つ串カツの袋を見るので、こうなると「あの、食べていきますか?」と言うしかないので、そう言うとこの神様的な人たちは、
「ほんまにええのん? 迷惑ちゃう?」
と凄い西日本の人みたいな、でも人懐っこくこんな美人に言われたら私は当然顔がにやけて、「どうぞどうぞ! お姉さま、こんな物しかないですがビールもありますので」
「なんなん! これビールなん? 異世界すごない?」
とか喜んでくれるので、「じゃ、じゃあフライヤーで揚げますね」
冷凍庫に入ってたのは豚串とチーズ串、とりあえず十五本の5本ずつ揚げて、つけダレはソース、マヨネーズ、からし、塩、レモン汁。宅飲みで串カツすると二度漬けし放題なのが強みよね。
「じゃあ、女神様と元女神様との女子会に! 乾杯!」
「「乾杯!」」
くっくっくっと、ペルセポネお姉様は一番搾り糖質ゼロを一気に飲み干すと……
「ぷはー! なんこれ! めっちゃ美味いやん! 旦那のハーデスが買ってきてくれるのより1,000倍はうまいで!」
「はぁー、本当に美味しいですぅ、露骨に旦那。とかいう冥府の女王がいなかったらもっと美味しかったんですけどねぇ、金糸雀ちゃんオツマミは?」
はいはい、ただいま!
「熱いので気をつけてくださいね! 多分、ビールとの相性は破壊的ですから!」
私は先陣を切って豚串にソースをつけてパクリ、少し咀嚼するとビールを一口。うっ、これはたまらない! ミカンちゃんならうきゅう案件ね!
「うまっ! これめっちゃ合う! サクサクして揚げてるだけやのに中の具材の味もふわーって……」
「あら本当! 大きさも殆ど同じように作られていて、なんというかこれは神々が食べるべき物ですねぇ!」
そりゃ日本の工場生産の技術は凄いですから! なんならレストランの味ですら盗んじゃうくらいですもん。最近の冷食。
「確かにそやな。旦那にも食べさせたいわ」
「……金糸雀ちゃん麦酒おかわりお願いできるかしら?」
「はーい」
「カナちゃーん、あーしもお願いなー? ごめんなー」
「はーい」
ペルセポネお姉様あざとい八重歯がまたクソ可愛い。ニケ様もうざ絡みしてこない時は本当に女神なのよね。豚串の減りが早いので私はチーズ串を食べて、一番搾りの糖質ゼロをゴクり、サントリーのPSBもそうなんだけど、糖質ゼロのビールって辛みがややあるからホップの効いているビールが好きな人にはもってこいなのよね。かくいう私もラガーに関しては糖質ゼロじゃないのより好きだったりするの。
しかし水のように350mlの缶がなくなっていく。
「追加揚げますね!」
空になった缶を片付けて新しい物を用意。そして追加で揚げた串カツをお皿に並べて、口の中が油っぽくなってきたあたりでザク切りのキャベツを用意。時折キャベツで口の中をさっぱりさせながら串カツは進むの。
「ペルセポネ! 貴女に足りないものは配慮です! 本音だけで生きているとですね! 聞いていますかペルセポネ!」
「はいはい、聞いてる聞いてる。うんそやな。麦酒うますぎやな?」
「ですから! 旦那とか結婚とか禁則事項です!」
いい感じで回ってきたのでニケ様の説教上戸が始まってしまったわね。だけどペルセポネお姉様という防波堤のおかげで私は静かに串カツとビールを楽しめてる。異世界の人はソースとかマヨネーズが未知との遭遇すぎてそちらばかり使うけど、衣のサクサク感を楽しむのに塩もいいのよね。
塩味の豚串をひと齧りして、私はミカンちゃんの真似をしてみる。
「うみゃあああ! ……おいしー、からのビールを」
ごきゅっと飲んで、はぁ天国。そしてミカンちゃんのあの絶叫は滅茶苦茶可愛くないと痛いわね。封印しましょ。ニケ様とペルセポネお姉様、二人ともほんと超美人よね。まぁ女神と元女神だからなんだけど……この二人を見ていると思い出す日本酒があったんだけど、なんだったかしら……確か両関のお酒だったような。
今度飲むお酒を考えながら串カツとキャベツを楽しんでいた私に意表をついたニケ様のお説教が始まった。
「いいですか金糸雀ちゃん? 必ずしも結婚をする事が良い事ではないんですからね?」
「は、はぁ」
おいおい、ペルセポネお姉様どうしたんですか? 普段ミカンちゃんのコーナーであるソファーで丸くなって寝ている。酔うと眠たくなる系の人なんですね。で、私に説教の矛先が向いたと、地獄か……
基本的にこうなったらニケ様には何も言わない方がいい事は経験済み。そしてニケ様は結婚という言葉がデスワードであることも本日知ったわ。でも、今日は買い物も行かないといけないので……
「よっし、潰すか」
私はビール置き場にある大量の一番搾り糖質ゼロを二パック持ってくると、メーカーズマークというバーボンをジョッキと共に持ってくる。ビールにショットグラス1杯分のバーボンを落とすカクテル。
「ニケ様、ボイラーメーカーです! どうぞお納めください!」
「なんですか! このような美味しい酒で誤魔化そうとしても……んっんっ、これはききますねぇ!」
でしょうね。20度くらいありますもの。
ストロングゼロが裸足で逃げ出すやつですよ。私は普通のキリン一番搾り糖質ゼロで、こうやってお持ち帰りされる女の子がいるんだなと思うと、私も飲み方は気をつけないといけないわね。
ニケ様もボイラーメーカーを3杯程飲んだところでぶっ倒れたので、ペルセポネお姉様とニケ様に毛布をかけて今日の晩御飯の買い物に出かけることにした。
帰ってきてまだ二人がいたらどうしようかとか、そんな未来の事を心配するより、今はスーパーのタイムサービスに遅れない事の方が重要よね?
きっと、多分……
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