第65話 バジリスクとオクラのベーコン巻きとクリアアサヒと

 荷物が届きました。兄貴宛のようですが、開けてみましょう。兄貴の知り合いが住んでいる地域で蔵開きがあったらしく、干支の兎がラベリングされた濁り酒が入っています。それだけじゃありません。要冷蔵の酒粕チーズ、そして米麹。そして秘蔵のメモという物が……

 

“拝啓、敬愛する酔いどれ部カーネル。ようやく試行錯誤の上、最高のどぶろくの作り方を見つけたので報告する。まず米だ。米はできれば粒が揃ってない複数配合米をおススメする。炊いて食ってもボソボソしてて美味しくない奴だ。それを三合、二合分の水で炊く、その際安っい日本酒をお猪口一杯入れると尚よし、そして水はミネラルウォーターを1.5L。ドライイーストを3g、そして雑菌を繁殖させないようにプレーンヨーグルトをスプーン一杯入れるといい。そして次が重要だ。日本には悪しき文化【酒税法】が存在する事はカーネルもご存じだろう。アルコール度数が1%以上の酒を無許可で醸造してはいけない。違法だ! だが安心してくれ! 砂糖を入れなければいいんだ! 砂糖を50gも入れてしまうと、それはそれは十数度の度数になるからな! 絶対に入れるなよ! 絶対だぞ! 俺との約束だ! それがどれだけ美味しかろうとルールを守って楽しく酒造だ! ちなみに天井に穴の空いた土鍋で作ると楽でいいぞ! 三日ほど発酵させると呑みどきだ。コシ袋で濾して空瓶に入れて60度くらいで湯煎してそれ以上の発酵を止めるべし、濾したカスは酒粕になっているから粕汁にするなり甘酒にするなり楽しむといい! 今回酒蔵開きは白鹿、大関、日本盛だったが、個人的に大関が美味かったので送っておく。いただいたラフロイグは大事に楽しんでいる。ではまた飲もう“

 

 兄貴、酔いどれ部とかいうのに所属してたのね。で、カーネルってのは部長のことかしら? それにしてもけしからんメモね。

 

「かなりあー、勇者小腹ベリー! 何それ食べ物?」

「米麹よ。甘酒とか作れる物なんだけど、ちょっと面白いメモがあったので試してみましょうか? 確かにうどんだったから小腹すいたわね。デュラさんは今頃ニケ様といい物食べてる頃でしょうね。何か簡単な物も作ろっか?」

「おぉー! 勇者はその言葉を待ってり!」

 

 ニケ様、夕方にやってきて焼肉が食べたいと駄々をこねたのよね。どこで知ったのか分からないけど……ミカンちゃんがお金を出して一人で食べてくるように言ったところ私の世界の勝手が分からないからと誰がに付き添いを所望し、じゃんけんで負けたデュラさんが拉致されたというのが今に至る経緯よ。デュラさんは首だけでミカンちゃんとドンキホーテにいく程度しかこの世界の事は知らないのに……ニケ様の酔った後のウザ絡みが嫌すぎて私はダンマリを決め込みました。

 ごめんなさいデュラさん、今度デュラさんの好きな物ばかりでパーティーしますから許して!

 

 と、星になったデュラさんを偲びながら冷蔵庫と睨めっこ。オクラがあるわね。あとベーコン。どちらかといえばアスパラガスの方が好きなんだけど、オクラ巻くか。

 

「レンチンしたオクラにミカンちゃんベーコンぐるぐる巻いて爪楊枝を刺して行って!」

「おぉ! 勇者やる! これ絶対うまいやつー!」

 

 うん、絶対美味いわよ! さて、お酒はどうしようかしら、そういえばガールズバーでお客さんが最近の第3のビールが美味しくなったとか言ってたわね。ベタに金麦赤……は普通に美味しいし、喉ごし生も安定よね。ホワイトベルグも普通に行けるし、ここはゴールドスターでも飲みましょうか?

 

 あっ……! メーカーがそもそもクオリティアップしたとか言ってたお酒があったわね。クリアアサヒ! 一口目はスーパードライを彷彿させるんだけどいかんせん丸すぎて薄すぎて微妙だった思い出が先行する第三のビール。

 今日はクリアアサヒがどう変わったのか試してみましょうか!

 

 ガチャリ……

 

 お客さんもいいタイミングでやってきたわね。玄関を見にいくと……、さてこの人は、下半身が蛇、上半身は女性。以前やってきた人がいるので種族を当ててみましょうか?

 

「ラミアさんはこの前来られたのでエキドナさんかナーガさん?」

「人間の娘、妾をそのような下々と同じ目で見るでない! その耳で聞けることを喜ぶといい! 妾はバジリスク。それらの女王でありティアマット様の声を聞く者ぞ!」

 

 バジリスクかぁ! 確かに小さい王冠つけてるもんね。バジリスクってゲームとかで出てくるでっかいトカゲのイメージ強いけど蛇なのね。

 

「それはそれは大変失礼しました。私は犬神金糸雀です。今からちょっとした晩酌なんですけどご一緒にいかがですか?」

「酒か? 妾の為に用意するとは本来であればこの妾の神々しい姿を見た人間は生きては返さぬが、特別に許そう。金糸雀と言ったな? 無礼があれば喰うてやるぞ?」

「ははー、ありがたき幸せ」

 

 と寸劇を終えて、バジリスクさんを部屋にあげる。ミカンちゃんがバジリスクさんを見ると、目を何度か細めて……何か考えるように、そして思い出したみたい。手をポンと、

 

「あっ! 勇者の実家の近くの洞窟にいたモンスター!」

「ぎゃあああああ! ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆ、勇者様! どうしてこのような所に?」

「勇者はかなりあの家に居候してるー! かなりの作るご飯ちょーウマー」


 おや? お知り合い。そしてなんだか旗色の悪そうなバジリスクさん。

 

 「かかか金糸雀……様。とても素晴らしいところですね? もう掃除が行き届いて……あの、すみません」

 

 深々と土下座するバジリスクさん。

 要するに小山の大将的な存在だったみたいねバジリスクさん。ミカンちゃんの実家付近にある洞窟にいたボスモンスターで、その地域の人たちの最初の冒険でレベリングがてら必ず周回してボコられてるらしいの。なんだか可哀想ね。

 

「あはは……自分を大きく見せる事も時には必要ですよ。まぁ、お気になさらず。そういう嫌な事忘れて飲みましょう!」

 

 クリアアサヒをミカンちゃんとバジリスクさんに渡す。クリアアサヒはグラスに入れ直して飲んだ方がなんでか美味しいのよね。

 

「え? え? 黄色と白色で素敵な色合いの入れ物ですね! か・わ・い・い!!」

 

 アサヒビールさん、きっとクリアアサヒの缶をここまで褒めちぎる人、異世界のバジリスクさん以外にいないと思いますよ。可愛い小物でもみてうっとりするようなバジリスクさん。

 じゃあ乾杯しましょうか? ミカンちゃんがクリアアサヒを缶のまま持って、掲げると!

 

「近所の幼馴染のバジリスクに乾杯なのー!」

「「カンパーイ!」」

 

 確かにある意味幼なじみよね。さぁ、クリアアサヒの味は、ん? んん?

 

「ぷはーーー! あっさりしててウマーなの!」

 

 そうね。一口目はいつも通りの感じで、その後味がしっかりビール感出てきてるわ。これはこれで美味しいわね。料理メインとかだと主張しすぎないのでなんでも合わせられるわね。

 

「なんですこれ! こんな麦酒があるんですかー! 凄い発泡が強くて! 香りも上品ですー! 後味もおいしーー!」

 

 そっかそっか、炭酸。異世界では後いれできないから発酵した発泡の微炭酸だもんね。さてフライパンでいい感じに焼いたオクラのベーコン巻きも完成よん!

 

「はいおまちどう様! クリアアサヒによく合いますよー!」

 

 爪楊枝を抜いて、パクリと。うん、アスパラの歯ごたえとは違った味わいで勝負してくるこの感じと塩加減がクリアアサヒ進むわぁ。

 

「うきゅううう! ウマー! ウマー! にょーんて伸びるオクラウマー! ごきゅごきゅ麦酒がすすむのー!」

「はあぁああん、おいしー! 私の身体がウエットになりそうですぅ! ああん、金糸雀様、麦酒お代わりいただけます」

「はいはい、いくらでも飲んでってくださいね! ケースで配るくらいあるので」

 

 二本目からロング缶に移行したんだけど、やっぱり第三のビール飲むと、どうしても焼酎とか追加したくなるのよね。度数は上がるんだけど、第3のビール特有のアルコール臭さを消してくれるの。最近のは随分マシになったんだけどビールと差別化を図る意味でもこの即席ボイラーメイカー飲みは犬神兄妹の鉄板ね。

 

「ぷはぁああああ! やっぱこれね! このジャンク感がちょうどいいわ! ベーコンもオクラもうまうまね!」

 

 私のその飲み方をみて、ミカンちゃんとバジリスクさんが喉をごくりと鳴らす。分かってるわよ! 私は無言で宝焼酎を二人に向ける。グラスを持ってくるのでそこに分量なんて考えずに混ぜる。

 

「うみゃあああああ! そしてこのバフ(度数アップ)のかかった麦酒キクーーー!」

「はぁ、これはキツい。でもより美味しいですー! もう、毎日毎日寝る間もないくらい冒険者に襲われているのでこんな安息久しぶりです。勇者様が幼い頃は三日を開けずとしてレベル上げに使われましたから……」

 

 ミカンちゃん鬼ね。しかもその頃はミカンちゃんは勇者じゃなくてただの果物農家の娘だったハズなんだけど、

 

「あの頃はバジリスクをやっつける遊びが周りで流行ってたー。もう勇者も大人! 無闇矢鱈に傷つけるような事はしない!」

 

 そう言ってクリアアサヒを飲み干して三本目に突入。そんな話をしていると、バジリスクさんはチビチビと度数アップしたクリアアサヒを飲みながら、

 

「勇者様、襲う方はそうやって過去の事として話せますが、襲われる側は永久に忘れないんですよ?」

 

 あら? 悪い方のお酒入ったかしら? まぁ、でもイジメもそうよね。イジメをしている側はその時限りかもしれないけどイジメられている側は一生ものだもんね。そう考えると異世界も大変ね。

 

「だったらバジリスクが出て行けばいいの! あそこの洞窟。勇者のおじいちゃんの土地。勝手に住み着いているから討伐されり!」

「……うっ!」

 

 想像の斜め上をいく返しがきたわね。泣きそうになっているバジリスクさんが私に助けを求めるように見つめてくるので……そうねー。バジリスクさん魔物だけどめちゃくちゃ可愛いし……

 

「一つ、バジリスクさんにお酒の席の戯言として聞いて欲しいの。缶空きましたよね? どうぞ飲んでください。オクラのベーコン巻きもまだまだありますので! さてボコられるのを半減させ、もしかすると少し良い思いもできるかもしれない方法があります」

 

 ゴクリと喉を鳴らすバジリスクさん。私たちはクリアアサヒを飲み、時折オクラのベーコン巻きを食べながらあるお話をした。それにバジリスクさんは最初乗り気ではありませんでしたが、私は強要はしない。お酒の席のお話なんて夢現みたいなもの、ただしそれなりの勝算はある……と、

 

 私の話を聞いて少し考えてみたいとバジリスクさんは私の部屋から元の世界に帰って行った。私は兄貴の贈り物の中にあったどぶろく作りをその日初めてみた。三日後が楽しみね。

 

 まぁ、私の知らない世界の噂話なんだけど、とある農村の洞窟にやたら大勢の男性冒険者がドレスや宝石やお菓子なんかを持って行くようになったらしいのね。戻ってくる冒険者達はレベルが上がるわけでもなく、なんなら持ってきた物は全て失っているのにその表情は満足そのものだとか、

 ある小さな農村の蛇神信仰、砕いていえばアイドルが生まれたらしいわね。プロデューサーは私かもしれないけど、今は土鍋の中で息をしているどぶろくを早く飲みたいなと思う私がいるわね。

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