第66話 暗殺者とハムカツとサッポロ・チューハイ99.99<フォーナイン>クリアレモンと
どったんばったんと私の部屋もとい兄貴の部屋でしばし騒動がありました。
私は沢庵をかじりながらその様子をみていたんだけど、そろそろ沈静化しそうね。
「おぉお! そこでそのスキルと魔法を複合させるとはさすがは勇者である!」
と本来敵対しているハズのデュラさんがミカンちゃんの行動に関心しているのよね。というのも、本日部屋に入ってきた人。所謂、裏稼業の人。暗殺者と書いてアサシンの人だったのよね。入ってくるなりミカンちゃんと凄い攻防を繰り返して、結果ミカンちゃんに後れを取って今にいたるというところ。ミカンちゃんって本当に勇者なのねとつくづく思うわ。
「むふー! 勇者うぃん!」
私の目には止まらぬ速度で何かをしていたみたいだけど、暗殺者の人は仮面までミカンちゃんにはぎ取られて、あら? 結構いい男じゃない! 年の頃は20代~30代くらい。目が死んでるけど、中肉中背で切れ長の目、黒を基調とした服装で静かにこちらを見つめているイケメン、異世界の人だけどどちらかというとアジア系みたい。
「殺せ」
とか穏やかじゃない事を言ってるのよね。
チン♪
と言うオーブントースターの返事を聞いて、私は温めていた物を取りに行く。殺伐として空気を一人だしているアサシンさんに私は遠目から、
「あの、アサシンさーん。私はこの家の家主の犬神金糸雀でーす。今からみんなで一杯やるところなんですけど、呑んできませんかー? あと暴れて散らかしたところかたずけてくださいねー」
と言ってみる。
「殺せ」
とか言うので、
「あの、死ぬのはアサシンさんの勝手ですけど、自分で散らかした分はちゃんとかたずけてくださいよー」
ミカンちゃんが欠伸をしながら私のところに来るのを見て、アサシンさんは起き上がると、倒したゴミ箱を元の位置に戻してゴミを入れ、キチンとかたずけを終えると、
「これでいいか?」
「はいよくできました。じゃあ、アサシンさんもこっちきて、お酒飲める?」
「……たしなむ程度には」
「じゃあ決まりね。二言目には殺せ! というアサシンさんに本日は呑む福祉とか言われているストロングゼロ! ではなく、もう少し上品な味のするサッポロが作っているストロング酎ハイ。99.99<フォーナインです>」
「フォーナイン……俺の名前だ」
「えっ、そうなんですか? じゃあ何かの縁ですね。ややこしいのでフォーさんと呼びますね」
そんなフォーさん。視線の先にはデュラさんがいるので、私はデュラさんについても説明。何処かの強欲領主を暗殺に来たハズのフォーさんは領主の寝室に入ったところここに出たらしく罠に引っかかったんだと思ったらしい。
「信じられないが、ここが別の世界とは、非礼を許してほしい。あの鬼畜領主を殺した後に命で償う所存だ」
「まぁまぁ、間違いは誰にでもありますから、そんな事より、本日はお肉屋さんで購入したハムカツです! ぶ厚くて美味しそうでしょ?」
ざっくりと半分に切ったハムカツと、ストロング酎ハイ99.99を前にして、フォーさんの缶のプルトップを開けてあげる。酎ハイ系は缶のまま行くのがしきたりよね!
という事で、
「「「乾杯!」」」
私たちに遅れてフォーさんが「いただきます」と、ストゼロと同じ暴力的な度数で攻めてくるのに、フォーナインったら!
「かーっ! ストロング系だと一番アルコール臭さが少ないのよねぇ! うまっ!」
「うんみゃい! 勇者、ストゼロすきー! でもコレストゼロじゃないけどスキー!」
「ははっ、我を泥酔させてこの首のままにした酒の亜種であるな。これはまた飲み易く度し難い酒である」
フォーさんは最初は美味しいと思って飲んでたんだけど、一瞬でこのお酒がぐんと回る事に気づいたみたいね。
「まさか……何か盛ったのか? 身体が熱い。そして気分が高まる……」
「違います違います。それ飲みやすさに反して度数が高いのでゆっくり飲んでくださいね。あとお水も用意したので交互に飲んでください。さぁ、熱々の内にハムカツもどうぞ!」
フォーさん、私に警戒して食べないから、私が目の前で食べてみせる。サクっ、んまっ。なんだろう想像と違わぬ美味しさって逆に体に良さそう。赤い分厚いハムを揚げてくれるお肉屋さん。しかも一切れ140円で販売してくれてありがとう! 私が至福の表情をしているのを見て、恐る恐るアサシンさんもハムカツをパクリと、
「……うまい」
「でしょ? ほら、ミカンちゃんなんてあーなるから」
んぐんぐと99.99を飲み干して二缶目に突入するミカンちゃん、ハムカツに粒マスタードをたっぷり塗って大きく頬張る。
「勇者、お肉もスキー、ハムもスキー! うきゃああああ! 揚げ物はもっとスキー!」
ハムカツ、99.99、99.99、ハムカツ、99.99とミカンちゃんは無限ループのようにこのペアリングを楽しむ。デュラさんはマヨネーズとケチャップを混ぜたソースでパクり、
「うむ! やはりこのマヨケチャップで食べるのがベストである! 恐ろしい物を開発してしまったやもしれぬな!」
まぁ、オーロラソースってそれ言うんですけどね。デュラさんは自らが作ったソースをフォーさんに向ける。
「これで食してみるといい! 実に暗殺者的なうまさに変わるであろう! あと金糸雀殿。フォー殿に炭酸水を、薄めて飲むのがよかろう」
あー、ストゼロを炭酸で薄めて飲むあれですね……度数を下げて多く飲む貧乏学生御用達の飲み方。まぁ、でもここはレモン味の炭酸水で割ってみましょうか?
「これ、レモンの味がついてます。私、99.99って好きなんですけど果実の味があんまり主張しないんで追いレモンしてあげると多分美味しいはずです」
そう言って私はフォーさんと私の缶にレモン味の炭酸を入れてそれでごキュッと!
「これ、ヤバ!」
「あー、確かにより旨くなった」
大学には度数の高いお酒を飲める事や、量を飲める事をアピールする人が一部いるんだけど、お酒はいかに美味しく自分好みに呑むか、そしてまわりに迷惑をかけない事が一番重要なのよね。そういう意味では経済的にもストロング酎ハイの炭酸割はありかもしれないわね。
フォーさんも警戒をややといてくれて、調味料をあれこれつけながらハムカツを楽しんでくれてるし、そんな中で、フォーさんはトンカツソースをかけたハムカツを食べて、
「どれも美味しいけど。これが一番だな」
分かってるじゃない! やっぱりお肉屋さんの揚げ物にはソースよソース! そう、大学生になるとなんでもかんでも塩をかけて食べる塩厨もあらわれるのよね。かくいう私も沖縄の塩をかけてハムカツを食べているし……
「ふぅー。さすがに酔った。このままだとあの鬼畜領主を暗殺するなんてできそうにないな」
先ほどと違い饒舌に語るフォーさん、もうゆでだこみたいに顔が真っ赤に染まってる。なんども頷いているけど多分酔ってるんでしょうね。デュラさんも、
「ふははははは、愉快愉快。さて次はいかにして食べるか」
わりとお酒飲める方なデュラさんも結構回ってるし、やっぱストロング系酎ハイって同じ度数のハイボールとかと違って妙に回るわよね。そんな中で、四本目に突入しているミカンちゃん、ほんと見た目は愛くるしいのにびっくりするくらいお酒強いわよね。
そんなミカンちゃんは私と目が合うと、腰を上げた。
「あれ? ミカンちゃん何処かいくの?」
「氷が切れたの、ちょっとそこのココカラファインに行き!」
と言って部屋を壁抜けで出ていくミカンちゃん、あれ? 確かこの前私がロックアイスは買ってきたハズなんだけど、と冷凍庫を開けると、
「やっぱりあるじゃん」
ガチャ。私はやられたと同時に気づいた。気持ちよくなって部屋の中を浮遊しまくっているデュラさん、そして死んだ目だけどめちゃくちゃいい笑顔で船を漕いで夢の世界にいるフォーさん……鬼畜領主殺しは大丈夫かしら? そんな二人とは違い素面なのに、凄い嬉しそうな顔でやってきたお美しい女神様は私にその艶まかしい唇で綺麗な小鳥のような声でこう言った。
「きちゃった!」
ニケ様、それが来たら絡み酒確定
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