第67話 ハイエルフと酒粕チーズと大人のコーラ(ランブルスコ)
「ただいまなのー! ナビスコのプレミアムくらっかーとルヴァン買ってきたのー」
「おかえりなさいミカンちゃん、そうそうこれこれありがとう!」
本日は兄貴の友人が送ってきた酒造メーカー白鹿の酒粕クリームチーズを食べようと思うのよね。私の知る限り、このクリームチーズ以上のクリームチーズは存在しないとすら思うわ。ディップして食べる為に本日も定例の街を徘徊しにいくミカンちゃんにクラッカー購入をお願いしたの。私はオイルスプレー方式のルヴァンの方が好きなんだけど、ミカンちゃんやデュラさんはソーダタイプのクラッカーを好むのでプレミアムクラッカーの二種類を用意。ふふん! お酒もねおススメのを用意してるのよ!
「金糸雀殿、酒は黒松白鹿あたりを飲むのであるか?」
もうね。デュラさん、私の世界のお酒に関しても結構詳しくなっちゃって……確かに白鹿のオツマミだから白鹿のお酒が合うわよね。もし、私が日本酒を合わせるなら白鹿でも黒松じゃなくて、白鹿超辛にするかしら? でも今回は日本酒じゃないの。
「はいこちら! どーん! 大人のコーラ、その名も発泡性赤ワイン。ランブルスコ・ロッソでーす! ちょっとコーラっぽい赤のスパークリングワインよ!」
がちゃり。
はいはい、いらっしゃいいらっしゃい。
「いらっしゃいま……はぅ!」
あらヤダイケメン! 耳が長いしこの人は前にルヴァンパーティーをした時に来たヘイン君と同じ、
「ここは……人間の住処まで来てしまったのでしょうか?」
「エルフの方ですか?」
デュラさんが私の様子を確認しにくると、
「ハイエルフであるな。我も初めて見るが」
「魔物? お嬢さん離れて! 邪なる存在が命の在り方を無視し顕現しているアンデット。私の精霊魔法で滅してくれようぞ!」
「おぉ、さすがに我もハイエルフクラスの魔法を受けるとまずいであるが、落ち着くと良い。我は今現在、こちらの金糸雀殿の家に居候中。この世界に迷い込み家来が助けにくるのを待っている身分故、いわばそこの勇者と共に金糸雀殿の傭兵であるな」
ハイエルフさんは勇者というミカンちゃんを見て、頭を抱えると、突然私達の知っている女神に祈りだした。
「我が主神ニケよ。魔王のしもべと勇者が同じ場所にて不戦の混沌。いかようにすればいいのかお導きください!」
すると、なんという事でしょう! 奇跡が起きました。私達にも聞こえるあのニケ様の美しくも優しい声で、
“エルフを導く者。ナラティブよ。私の声が聞こえますか? これは託宣です。そこにいる金糸雀ちゃ……こほん。金糸雀は来た者に神の水と食した事のない美味を振舞ってくれるでしょう。それを頂きなさい。さすれば、私がそこに顕現する準備が整います。あ、出されるお酒や食べ物は食べ過ぎないように! ちゃんと残しておくのですよ!」
ニケ様、ちゃっかりこの後来るつもりね。
「奇跡だ! 幼少の頃に一度聞いたニケ様の声を2228歳になって再び聞けるなんて、金糸雀様。恐らくは人を超越せし方よ。どうか」
あらやだ! イケメンに跪かれるとかたまらないわね。20歳と2228歳って、もう20歳と28歳の関係でもいいわよね!
「是非是非! ナラティブさん、そんなところ立ってないで座ってくださいよぅ! うふふ!」
「かなりあきもーい」
「うむ、金糸雀殿は色男に弱いであるからな」
うるさいなー、うふふ。色男に弱いのは私だけじゃなくてこの世界における女子全員よ(私調べ)。お皿にクラッカーを並べて、冷やしたワインクーラーにランブルスコをいれて……というかクラッカーを食べるとエルフが来るってルールでもあるのかしら? とりあえずシャンパングラスを人数分用意して、ランブルスコを注いでいく。あぁ、チェリーみたいないい香りが既にただよってくる。そういえばこのお酒は知り合いのバーのマスターにおススメされてから飲むようになったんだっけ、コスパもいいのよね。
大きなスーパーとかいけば1000円くらいで売ってるそんなお酒を前に、
「これがニケ様が仰っていた神の水、確かに今までに嗅いだ事がない程の香しい芳香。ワインの類でしょうが、味の想像もできません」
ふふん、ナラティブさん。安心してください。もう虜になっちゃいますから!
「では、かんぱーい!」
「金糸雀様。お待ちください」
「はい?」
「ここは私にお任せいただけませんか?」
「あ、はい」
ナラティブさんはグラスの香りを楽しみながらシャンパングラスを掲げ、
「我が主神。女神ニケによるお導きに感謝し。乾杯!」
「かんぱーい!」
「勇者の主神はマフデト・ガラモンなの、とりあえず乾杯なの」
「我が主神は魔王アズリエル様であるな。まぁ乾杯である」
勇者ちゃんとデュラさんのニケ様に対する辛辣な態度にややナラティブさんが不機嫌になるけど、ランブルスコを一飲みしたらニケ様の事なんか秒で忘れますとも。
「うまーい! 美しいピンクの色合いに想像と違わぬ甘みと安心する香り、フレッシュでそれでいて若さ故の適度な渋みがまた魅力的ですね。こんなワイン、神々ですら口にする事がないのでは?」
ははっ、まぁイタリアワインは美味しいですからね。でもほんと飽きない美味しさよね。ワインが苦手な友達やハイボールしか飲まないガールズバーのひなさんも美味しいって言ってたし、確かバーのマスター曰く、オペラのディーバにも愛されたお酒だっけ?
「うみゃあああああ! 勇者これすきー! あまー! うまー! でしゅわしゅわー!」
炭酸大好きなミカンちゃんはこうなるでしょうね。微炭酸だけどね。デュラさんはランブルスコをテーブルでゆっくりまわして香を楽しみ一気にクイっと。
「おぉ! これは凄い! ナラティブ殿が仰るとおり、口の中が幸せになるであるなー!」
ウェルカムドリンクにもおススメだし、このお酒に合うと思ったのよね。酒粕クリームチーズ。
「お好きなクラッカーに酒粕クリームチーズをぬってたべてくださいね!」
やっぱり私はルヴァンね。ミレービスケットみたいで美味しいのよね。たっぷり酒粕クリームチーズをつけて、むふ! ひょいぱくと一口、そしてそれらの味がある間にランブルスコを……
「やーん! やっぱり合う! うまし!」
金糸雀さんのガッツポーズが出る程よ! 最高の組み合わせね。
三人もそれぞれクラッカーに酒粕クリームチーズをのせて、パクリと。
「なんと、口の中で溶けるようなこれがチーズですと? 硬いパンに擦り付けて食べてきたアレらとは大違いですね。風味も豪華で、同じ重さの金と取引されてもおかしくないレベルです」
あー、それはまたチーズの種類が違うんですよねぇ。それを差し引いてもおつまみの為に開発されたであろうこの酒粕クリームチーズにクラッカーの組み合わせは神以外の何物でもないですよ。
「フハハハハ! これは実に美味い。酒盗を乗せたクリームチーズよりスイーツ感が強いであるな! うむ、子供や若い女性にもさぞかし人気であろう! そして金糸雀殿が選んだこの発泡性のワインとよくあう事この上なしである!」
プレミアムクラッカーに薄く塗ってデュラさんは楽しんでいる中、さぁミカンちゃんは……あぁ! サンドするタイプね。べったりと塗った酒粕クリームチーズをプレミアムクラッカー2枚でサンドして、
パリパリ、モグモグと。そこに追いかけるようにランブルスコを流す。
「はにゃああ……うんみゃい! 勇者がっつり系が好きー! でもこう言う軽いのも好きー! かなりあおかわりかもー!」
「はいはい、デュラさんにナラティブさんもどうぞ」
お酒もおつまみもスイーツ感が強いもんね。楽しい会食の時間、そんな中でナラティブさんが、
「このような美味しいお酒にお食事。さぞかし我が主神、ニケ様もお喜びされている事でしょう」
ん、そういえばいたわね。そういう名前の絡み酒と説教の女神様。ミカンちゃんは急いで酒粕クリームチーズサンドを何個か作るとバクバク、モグモグと食べてランブルスコで喉を潤すと、
「勇者氷買ってくるー」
「ミカンちゃん、氷は沢山あるわよ」
「勇者オフ会」
「オフ会は来月の日曜日って言ってたわね」
「勇者よ。もう覚悟を決めるといい。死なば諸共であろう?」
「……いやー! 勇者ドンキかラウワンのゲーセンいくー」
私たちの騒動にナラティブさんは頭に疑問符がいくつも浮かび、覚悟を決めた私とデュラさん、そしてひっくり返って駄々をこねているミカンちゃん。
当然というべきか、神聖なる雰囲気とどこからともなく聞こえる福音の鐘の音と共に、なんの女神様かいまいち私も知らない、それはそれは見てくれだけは美しい女神様がやってきました。
ナラティブさんだけが、
「まさか! 貴方様は……!」
「来ちゃっ……コホン、私の名前は約束された勝利を与える女神ニケ。ナラティブ、あたなの実直な行いによりこうして奇跡的にこの部屋に顕現する事ができました! 賢者金糸雀、勇者ミカン・オレンジーヌ。魔王軍大幹部デュラハン、久しいですね!」
なんだろうこの茶番。ニケ様貴女、昨日の晩もミートソーススパゲッティー食べに来て口の周り真っ赤にして3時間は説教して帰ったじゃないですか? まぁ私も馬鹿じゃないんです。ニケ様にはランブルスコではなく、ランブルスコのボトルに入れたコカコーラをご用意しましたので、存分にお楽しみください。
まぁ、結局ノンアルコールでも自分の信者がいる事でテンションをぶち上げたその場の空気に酔ったニケ様の説法を日付が変わるまで3時間程聞かされ、ナラティブさんだけが感激の涙を流していました。
女神が来れないようにする特級呪物とかないかしら?
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