女子大生と居候達(勇者、デュラハン)とご近所さん(女神)

第61話 女神とチョコレートリキュールとリンツのチョコと

 水商売という物はイベントごとに敏感なのよね。クリスマスならミニスカサンタだったり、本日のバレンタイン。私の働いているガールズバーはニット生地の制服になり来店した人にチョコを配り、かわりに100倍(私調べ)のお支払いをしてもらうというのが伝統みたいです。


「はい、大蔵さんチョコです。ハッピーバレンタイン」

「カナちゃんからチョコレート貰いたかったんだぁ! 嬉しいな」

「そうですか? 良かったですね。お飲み物は?」

「どうしようかなぁ。今日はモスコじゃなくて何か特別なの呑みたいなぁ。おススメある?」

「はぁ、カフェドパリですかねぇ」


 私の接客術、おススメを聞かれると一番高いお酒をおススメする。ちなみにガールズバーでキャストの女の子に喜ばれるお酒は同じシャンパンでもアルマンドなので、それを頼んで一緒に飲んでくれる人は好印象になりがちね。まぁ、兄貴の部屋にもあるんだけどね。


「じゃあそれ頼んじゃおっかなぁ」

「ありがとーございます」


 一人目の客に2万円程のシャンパンをつけたので、私の今日の仕事は終わりね。少し離れたところでいろはさんが新人の女の子にフレアを教えるフリをしながらお客さんから無茶な事を言われないように見張ってるわね。あの人、面倒見はいいのよね。ひなさんはトークの上手さからコンスタントに粗利を稼いでる。とはいえ本当のトップ3の人たちが来るまでの繋ぎなんだけどね。クラブとかキャバクラを掛け持ちしている人たちが先にそっち出てから交代でやってくるので後半の売り上げを加味してもオーナーは大満足でしょう。


「このチョコ美味しい! カナちゃんの愛が入ってるからかな?」

「リンツのパティシエの長年の技じゃないですか?」


 前回、コアラのマーチを大量に買ってきてオーナーを悩ませた私、結局オーナーがリンツのチョコレートを買ってきたのでそれを小分けにして今現在配ってます。

 店内は満席近くなってきたわね。


「席詰めて、椅子もってきてあげなよー! ここ!」


 常連客達の連携で待っている人もなんとか収容。そんな中、ガールズバーには珍しい60代くらいの綺麗な身なりの落ち着いたオジサンがやってきた。

 近くで貿易関係の会社を経営している人だったかしら?


「こちら皆さんに! 海外では男性から女性に贈り物をする日ですからね」


 はい、こういう人も好印象ですね。交代のメンツが来たので私は上がり、いろはさんとひなさんはラストまでいるみたい。なので、贈り物を持って家路につくわ。リンツのチョコレートもお土産にもらったし!


「たっだいまー!」

「おかえりなのー!」

「金糸雀殿。お勤めご苦労様である!」


 二人は今日はウーバーイーツで親子丼を食べたみたいね。私の分も用意してくれているのでささっと平らげて、今日はお洒落な晩酌としましょう!


「はい! こちらチョコレートリキュールのモーツアルトもらっちゃいました! これ飲みましょう!」


 がちゃり、「こんにちはー」

 おや? 透き通った綺麗な声の女性、でも私は姿を見るまで騙されないわよ!


「うっ……どえらいべっぴんさんきたーーー!」


 キラキラ輝いている女の子。顔よし、スタイルよし、なんだかいい匂いもする。これはあれかしら? 間違って銀座という名の異世界の高級クラブからやってきた人かしら?


「どうした金糸雀殿、うぉっ! 女神が来ておる!」

「げ! 女神きてるの……」


 私のテンションの上がり方に対して、二人はあまり歓迎ムードじゃないわね。薄い水色の髪になだらかな撫で肩、長すぎるわけでもなく均整の取れた手足、主張し過ぎない背中の純白の翼は今までやってきた天使のそれとは違う。まさにサモトラケのニケみたい。


「えへへ、こんにちは。私はこの家の家主の犬神金糸雀です」

「貴女が金糸雀ちゃんですね! 噂は常々聞いています。私はニケです。一応、勇者ミカンちゃんや魔王軍大幹部デュラハンの世界で女神やってまーす! 異世界の食を楽しませてくれる方がいると、どうしても気になって、来ちゃった!」

「はぅ……」


 しかも名前ニケさん、いいえニケ様ね。この人みてサモトラケのニケの彫刻作られたんじゃないでしょうね! というかそうに違いないわ。

 ダメよ。私ってイケメンと超美人に弱いわね。でもなんか、こんな人くると顔がにやけちゃう。



「あのニケ様。つまらない物ですが、今からこちらを飲んで、こちらを食べようかと……」


 私がいつになくきょどっているので、それを見たミカンちゃんが「かなりあきもーい!」と、煽ってくる。きもくないし!


「まぁ! 噂に聞いているチヨコレイトですね!」


 じゃんけんでチョキ出した時に言うイントネーション! でもニケ様可愛い! そうです。そうですと私が頷いているとデュラさんまで私にちょっと引いてる。


「コホん! 今日はこのチョコレートリキュールを飲みます。まずはホットミルク割りを作りますね!」


 ニケ様がいなかったら多分私は電子レンジでホットミルクを作ったでしょうね。ちゃんとミルクパンでホットミルクを作るとお揃いのマグにそれを注いで大体ホットミルクの1/4の量のチョコレートミルクを、


「はぁあああ! 凄いいい香りですねぇ! 金糸雀ちゃん!」

「えへへ、はいー。ニケ様どうぞ! はいミカンちゃんとデュラさん」


 みんなにマグが行きわたった事で私はマグカップを軽くみんなにチンと合わせて


「かんぱい!」

「これはぁ、なんて優しくて甘くて、この世の至宝のような味がしますねぇ」


 私が用意したお客様用の椅子に座り、片膝を立てかけて後ろ髪は束ねているのがもう既に芸術のようで私は見惚れてしまう。


「うきゃああああ! ウマウマ!」

「うん、おいしーね。ミカンちゃん少し静かにしてね」


若干ないがしろにされていると思ったのか、ミカンちゃんが口をへの字にしているから機嫌とらないとね! はい、


「リンツのチョコレートです! はじめてとろけるチョコを作ったとかでゴディバより安価な質のいいチョコです! おおさめください」


 ニケ様はボンボンチョコレートを1つ摘まむとそれをパクリ、そしてすぐに両手で頬に触れて、「ああん、これも口の中でとろけておいしー」

 ゆっくりとチョコレートリキュールの入ったホットミルクを飲んで温まる。


「いつも食べるチョコ菓子とはまた違った贅沢な味わいであるな? ホットミルクの酒とよくマッチしている」

「勇者チョコすきー! ウマー!」


 特に異世界の人は甘い物に目がない印象よね。ニケ様も顔が蕩けに蕩けまくってそれでも綺麗なのは反則ね。


「金糸雀ちゃん、おかわりくださらない?」

「はい、ただいま!」


 ニケ様じゃないけどチョコレートリキュールのホットミルク割り最高に落ち着くわねぇ、お酒飲んでる感じしないもん。時折チョコレートを食べて幸せ!


「ところで、勇者ミカンちゃん、どうして勇者の役割を果たしませんか?」

「……勇者骨休めちゅう」


 バン! とテーブルを叩くと据わった目でニケ様はミカンちゃんに対して、


「口答えは許しません! ミカンちゃんは魔王を滅するという役割がおありでしょう! なのにこんなところでダラダラと羨ましい! いけませんよ! それは神の特権です!」

「女神よ。飲み過ぎである!」

「まぁ! 魔王軍の大幹部でありながら貴方も同じですよデュラハン!」


 あー、女神様。怒り上戸なのね? それであの反応。というか女神様ってそんな認知度高い存在なのかしら、


「金糸雀ちゃん! 貴女もですよ!」


 えぇ、私も? はい聞きますよ。


「こんな美味しい物を私を放ってみんなだけで飲み食いして! ずるいじゃないですかぁ!」


 ニケ様、自らの我欲の為には何も隠さない所素敵だなぁと私は思いますよ。でも飲む手は止めないのね。ミカンちゃんは上の空で何か考えている。


「ミカンちゃん、私はこれでも女神。神ですから、この部屋から追い出してもまた来れるんですからね!」

「げ! そんなのしちゃダメなのー」

「うむ、我が言うのもなんだが不謹慎な力の使い方であるな」

「そんな事ないわよね? 金糸雀ちゃん? 私間違ってないわよね?」

「は、はぁ」


 やばいな、こういう人周りにいないから対処の仕方が分からないぞ。そしてとても面倒だ。とりあえずチョコレートリキュールをこれ以上飲ませない方が良さそうね。


「金糸雀ちゃん。おかわり」

「あのぉ、そろそろお開きに」

「金糸雀ちゃんもそこに座りなさい!」


 私達は女の子が気になる男の子にチョコレートを押し付けるお菓子メーカーの陰謀に騙されつつも割と盛り上がるイベントの日、何故か朝方まで女神様のお説教を受ける事になったわ。


「甘い物は堪能したので今度は辛い物を希望します! これは次回への宿題ですから! 考えておいてくださいね!」


 と言って女神ニケ様は疲れ果てた私たちに女神の微笑みを残して玄関から帰って行った。もう朝なので、


「何か食べましょうか? コアラのマーチくらいしかないけど……」

「勇者、当分チョコはいいの」

「うむ、強烈であったな女神のやつ……」

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