第60話 ワーウルフと焼き牡蠣とオイスタースタウトと
皆さんこんにちは、私の本分は学生です。本日はキャンパスライフです。私の専攻は経済学なので端的に言えばヒト・モノ・カネの動き方を学び、各種語学学習が主になります。その関連で材料力学なんかの授業も学んでいます。将来は海外に拠点を持つ商社なんかに入れればいいなと思いますが、まぁ今の日本の経済を鑑みるに無理ね。学びたかった経済学から知りたくなかった日本の現状を得るのもまぁ来るものね。
これからの日本の現状もそうだけど、私の財政状況は今少しマシなの。ミカンちゃんがお金を入れてくれるという事もあるけど、実家から色々食べ物が届いたの! ママが作ってくれたお店でも買えないような艶々のいかなごのくぎ煮。それをオニギリにしてほうじ茶で今日のランチ。
学食? あれは上級国民が使う場所よ!
お昼を食べて少しだけ学校の資料室で自習をしたら本日の勉強はおしまい。今日はガールズバーもコーヒーショップのバイトもないのでこのまま家に帰って実家から送られてきたアレ……焼いちゃおっかな!
結局勉強中もアレのことばっかり考えていたので、早めに切り上げて帰りましょうか!
アレには日本酒? 白ワイン? どっちがいいかしら? まぁ二人に聞いてみよっかな。
「たっだいまー! 昨日言ってた通り! 本日はバルコニーで焼き牡蠣よ!」
そうなんです! 牡蠣が届いたんですぅ! 大粒のが50個以上あるので生もいいんだけど今日は全部焼きます!
「おかえりなのー!」
ミカンちゃんが私の帰宅に合わせて子犬のようにお出迎えしてくれる。そしてデュラさんはベランダで準備してくれてるみたいね。焼き牡蠣セットを!
「ねぇ、二人とも。お酒どっちいっとく?」
テーブルワインのメルシャンの白と辛口日本酒やまたのおろちを見せると、
「めるしゃん!」
「辛口の日本酒も興味深いがここはワインが合いそうであるな!」
うん白か、無難ね。私は戸棚の下にあるメルシャンワインを取りに行くと、玄関からガチャリと来訪者。
「麦酒、それとコカトリスの揚げ物!」
第一声がとても渋い声、どんなナイスミドルが来たのかしら……と思うと少し毛深いわね。と言うかうん、
「犬?」
「ワーウルフだ! と言うかここギルドの酒場じゃねぇのかよ?」
「はいここは私の家で私は犬神金糸雀です。コカトリスの揚げ物はありませんが、麦酒はありとあらゆる種類がありますよ。飲んでいきますか?」
「何っ?」
私が一般的な物からクラフトビールまですぐに用意できる物を並べてみると、ワーウルフさんは鼻をスンスンと動かして、
「このいい匂いはなんだい?」
「牡蠣って言って貝を焼いてます」
レモン汁、牡蠣醤油、ポン酢、タバスコ。好きな物をかけて食べる準備も整ったわよ! そんな中、ワーウルフさんが、
「じゃあ、この貝を食べるのに適した麦酒をもらおうか!」
……んん? 牡蠣に適したビールですと……全然普通にビールも合うんだけど、考えた事無かったわね。でも、適当に並べた中にあったのよね。私も飲んだ事がない、これぞ牡蠣に合いそうなビール。
「オイスタースタウト?」
オイスター、牡蠣。牡蠣のビールとやらが飲んで欲しそうに私たちを見つめているので、クラフトビールなんで十度前後に冷やして、一旦こちらをペアリングにしてみましょうか!
「デュラさん、ミカンちゃん。白ワインの前にこのオイスタースタウトで乾杯しない?」
「我は構わぬぞ!」
「勇者も一向に構わない!」
そんな二人の言葉を聞いてワーウルフさんは、
「えっ? 魔物と勇者? どいう組み合わせ?」
100億回は説明したようなお話をワーウルフさんに伝えて、各々にオイスタースタウトを手渡す。
「じゃあ! ある意味牡蠣尽くしに乾杯!」
「「「カンパーイ!」」」
黒ビール系は私はあまり好んで飲まないんだけど、あぁ! やっぱり普段のビールとは違って独特なクセあるわね。
「はー! 旨い! 黒い麦酒か、すげぇや」
ワーウルフさんの口にはあったようで、ミカンちゃんは爽快感を求めて飲んだ結果これじゃない感がありチビチビ飲んでるわね。
デュラさんは、
「これはなんともコクが強いであるな? 黒い麦酒というのも中々に興味深い」
いける口ね。
さて、牡蠣を食べながら合うかどうかなのよ! 酸味のあるワインや日本酒と違いカラメルみたいな味のオイスタースタウトがどこまで焼き牡蠣の味を引き出せるのか……お手並拝見ね!
「牡蠣の殻は私が取りますから! こんな感じでナイフで殻を開けます」
片手に軍手、牡蠣小屋で極めた私の牡蠣の殻剥きに酔いしれなさい!
パキ、パキ、パキ、パキ!
はい4個あがり!
「好きなのかけて食べてみてくださいね! おすすめはレモン汁にタバスコです!」
プルプルとした牡蠣を前に、私は率先してレモン汁とタバスコをかけて、一口にパクリ! そしてオイスタースタウトで!
「!!!!!」
何これ! めちゃくちゃ合うんだけど! 美味しい!
「勇者、ぽんずぅ!」
ミカンちゃんポン酢好きよね。ポン酢をこれでもかとかけてミカンちゃんは焼き牡蠣をつるんと……
「うみゃああああああ! この貝凄いのぉお!」
さらに喉を潤す為にオイスタースタウトを口にして、ガンと足を踏ん張るとミカンちゃんは、
「ンマー!!! ウマー!」
焼き牡蠣で牡蠣の天然のスープと各種調味料の奏でる美味のレクイエムにやられたようね。
「そんな大袈裟さな……嘘だろおい……こんなうめぇ貝食った事ないぞ!」
ワーウルフさんはそう言ってオイスタースタウトを一口。大人な楽しみ方をして少し申し訳なさそうに、
「もう一個もらえたりするか?」
「何個でもどうぞどうぞ! 開けますね!」
デュラさんは和食が好きだから牡蠣醤油で楽しんでるわね。2個目はみんな当然調味料を変えて、ガブガブ飲むわけじゃないのにオイスタースタウトも進むわぁ!
しっかし兄貴、よくこんなビール買い溜めてたわね。
牡蠣醤油に少し日本酒をちょっと垂らして、嗚呼。まらない。海のミルクとか言われるくらい栄養豊富なのよね。実際は牡蠣の方が遥かに牛乳より栄養豊富なんだけど、まぁそこは牛乳の知名度の高さかしら? 三つ食べるとほぼ不足しがちな栄養素を取れるのに、めちゃくちゃ美味しい! 牡蠣万歳!
「この貝殻にこの麦酒を入れて呑んでも美味いかもしれないな」
日本酒ならまだしも、ワーウルフさんそれはかなりゲテモノに近いわよ! ダメよダメ、そんな食べ方しちゃ……あっ、ダシ割ってそういえばあるわよね。海外だとビールで煮込むシチューもあるし……常温ならいいかしら?
「冷やした物より、常温でどうですか? ワーウルフさん」
「金糸雀。悪ぃな。じゃあ試させてもらうわ」
まず当然のように常温のオイスタースタウトをワーウルフさんは一口のんで「うめぇ」と言うと自分の食べる焼き牡蠣にオイスタースタウトを少し入れて、そのまま汁ごと身をぱくりと、
「くぅうううう、思った通りだ!」
ゴクり、いや。絶対それをやるなら日本酒よ。ダメよ私!
「勇者もやる! 勇者も!」
「わ、我もその食し方、ぜひに」
「おう分かってるじゃねぇか! それ入れてやるよ!」
デュラさんとミカンちゃんの食べる牡蠣にオイスタースタウトが注がれ、ミカンちゃんはまかさのポン酢を、確かにポン酢って飲む事を実は推奨してるけど、それは販促でしょ!
「おぉ、我もレモンで味付けとしよう」
二人はオイスタースタウトを殻に注いだ即席の酒蒸しみたいな食べ方で牡蠣を、
「うきゃああああああ! うみゃあああああ!」
「はっはっは! これはたまらない! うまみ成分の魔王軍であるな!」
そんなの見せつけられたら我慢できるわけないじゃない!
「私もーー!」
五十個くらいあったのに、次々と私達は狂ったようにオイスタースタウトと共に牡蠣をラッコのごとく食べ続けた。
「ふぅ、うますぎる。金糸雀。こんだけ食っておいてなんだが、今手持ちはこのくらいしかないんだ。足りない分はまた今度払うよ」
そう言って律儀に袋の財布から全財産を出そうとするワーウルフさんに私はそれをしまうように言って、
「あー、これ実家から送られてきた牡蠣なんでお金なんて大丈夫ですよ! 私もワーウルフさんに教えてもらったあの飲み方堪能できましたし、また機会があれば一緒に飲みましょうね!」
そんな私を見て、ワーウルフさんが私の両手を持って笑った。
「こんないい女、もう二度と会えないかもしれないな。俺が冒険者じゃなかったらすぐにでも嫁にもらいたいところだ」
パパ、ママ! 生まれて初めて口説かれました! 顔が狼のワーウルフさんに! もう笑うしかないけど、まぁはっきりいって悪い気はしなわね!
「こりゃしばらくは何喰っても味気なさそうだな。金糸雀、デュラハン。勇者。楽しかったよ! またな!」
そう言ってウィンクをしてワーウルフさんは帰って行った。凄い満足な晩酌だったわけだけど、とんでもない量の牡蠣のガラとベランダで焼き牡蠣作ってたのに、妙に部屋の中も磯の香がただよってくるのよね。
焼肉と燻製と同じく、貝の網焼きも自宅では諸刃の刃ね。私は一つまた賢くなったわ。
ハァ……明日も大学なのにファブリーズで匂い消えるかしら……
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