第59話 Sランクパーティーから追放されたヒーラーとチートスとあつ燗本醸と
「どうしても相談には乗ってくれませんか?」
「何度も言ってるの。勇者は動かざる事山のごとしなの!」
私とデュラさんは今困っていました。いつも通りミカンちゃんが街を徘徊してドンキでお菓子を買って戻ってきた時に、まさかの異世界からの住人、Sランクパーティーから追放されたらしいヒーラーさんも一緒にやってきたのよね。
「凄まじい力を秘めた冒険であるな。がしかし勇者の知り合いではなし」
「めちゃくちゃミカンちゃん口説かれてますね?」
私たちはスーパーで安売りしていた太刀魚を焼くか煮るかの相談をしようと思っていたんだけど、これがまたややこしくて、
「ミカンちゃん、ヒーラーさん。太刀魚、煮るか焼くかどっちにする?」
「焼きなの!」
「煮魚でお願いします!」
と意見が割れる。
そう、黒いローブに身を包んだヒーラーさん。歳のころは私と同じくらいだろうか? 名前の通り冒険者パーティーの回復役だったらしいんだけど、使える魔法の事やらなんやらで揉めた結果まさかのパーティーを追放されちゃったらしいのね。そんな連中を見返してやろうとどこかのパーティーに参加しようにも次はSランクという称号が逆にマイナス要素となり中々加入先が決まらない。就職浪人みたいになってるらしいの。
そんな時、迷い込んだ私の家にいるのはSランクどころか勇者事ミカンちゃん。ネームバリューはランクどころのお話じゃないからどうにかパーティーに参加させて欲しいと頭を下げている所。
「しかし我の経験上だがパーティーを追放されし者は大体厄介な強さを持った者が多い傾向にあるな」
うん、私も知ってる。大体ラノベとかの知識だけど、嫌々言っているミカンちゃん相手にガンとして譲らないヒーラーさん。
「とりあえず一旦休憩にしない? 今日はヒーラーさんがお客さんという事で太刀魚は生姜醤油で煮付けます。作って冷ますのに時間かかるからお酒でも飲んで温まりましょう! はい、熱燗用のお酒、あつ燗本醸」
まぁね。熱燗なら“まる“とかでもいいんだけど、たまには面白いお酒を飲んでみるのもいいでしょう。電子レンジを使わずに湯煎でとっくりを温める。このお酒の飲み頃は五十度前後、
「ささっ、ヒーラーさんにミカンちゃん! とりあえず一献」
「すみません家主様」
「ふわっと香る日本酒なの!」
デュラさんのぐい呑みにも入れて当然私のも。まぁ、グイっとやるよりはちびりと飲む感じだけど!
「とりあえずカンパーイ!」
皆ぐい呑みを掲げて「「「乾杯!」」」
はぁ、日本人で良かった。日本酒を飲む度に思うわね。
「あら? あらあら? まぁるいお酒ですね。ポカポカと」
「おや? ヒーラーさん。いける人ですねぇ!」
「うむ、熱燗の味が分かるとは中々話が分かる冒険者であるな」
「そうですか? 家主様に首だけのデュラハンさん。だそうですよ! 勇者様、私と勇者様の相性も抜群ですね!」
「勇者はそうは思わないの! それよりかなりあーお腹すいたー!」
煮魚はもう少し時間かかるのよね。熱燗だし酒盗でも出しておこうかしら、と思った時ミカンちゃんが、ドヤ顔で、
「むふー! 勇者が先ほど街を探索していた時にドンキでチートスを購入したり! かなりあがいつもご飯の前のお菓子はダメって言うからー」
「今回は……うん、金糸雀さん権限で許します!」
パァン!
とチートスをパーティー開けするミカンちゃん、というかスナック菓子と熱燗ってどういう組み合わせよ。太刀魚のペアリングに用意したお酒だったんだけどまぁなんでも経験ね。
私は恐る恐る、他のみんなは普通にチートスをぱぁくりとポリポリ食べて、熱燗を……私は三人の反応を見てから……
「うみゃああああ! 熱燗とちーとすうみゃあああ!」
「ほんと! 美味しいですね! チーズ味の揚げ物」
「これはアレであるな? 金糸雀殿! 日本酒とチーズは発酵食品同士、素晴らしいマリアージュであるな!」
あぁ! あぁあぁ! 確かに! デュラさん料理に関して勉強家だもんね。というかペアリングじゃなくてマリアージュだなんて言っちゃうんだ。
そうよね。揚げ物とチーズ味なんだから日本酒と合わないわけないじゃない。という事で私も安心して、
「んんっまい! いけるわね。ジャンクフードと日本酒!」
しばらくバリバリ、ポリポリとチートスを摘む私たち、まぁジャンクフードだから私達はこんなもんかなくらいで思ってたんだけど、ヒーラーさんは違った。
「それにしてもこれ、このチーズの揚げ物おいしーですねぇ! 食べたことないですよ! あっ……沢山食べちゃいましたけど……銀貨10枚はしますよね?」
ドンキで98円って書いたレシートがゴミ箱に入ってるわね。ミカンちゃんは少し考えて、
「いかにも! 勇者は舌がベヒーモスみたいに肥えてる。だから勇者の食事はお金がかかるの! ヒーラーの所持金では勇者を満足させられないの」
ミカンちゃん、息を吸って吐くように嘘つくわね。嘘つく時、凄い目が泳いでるのよね。まぁ、面白そうなので熱燗の肴に見学しておきましょうか、あつ燗本醸ってぬる燗より少し熱めにするのが一番の飲み頃なのよね。
「して金糸雀殿。お銚子もう一本温めますかな?」
「そうですね。ちょっと熱めにお願いします」
「心得た!」
ミカンちゃんの嘘の説得でヒーラーさんはチートスをポリリと食べる。ちょっと私には分からないけどチートスの美味しさの余韻に浸ってるわね。化学調味料一杯入っているから口にしたことのない味わいなんでしょうけど……
ヒーラーさんはもう冷めたあつ燗本醸を一口飲むとミカンちゃんに微笑んだ。
「わかりました! 今は就職活動中なのでほとんどお金はありませんが勇者様の食を満足させられる程の纏まった路銀があればパーティーに参加させてもらえますか? この家主様とデュラハンさんと勇者様の異色のパーティーに……」
「いかにも! 勇者はヒーラーのその言葉を待っていたの! 追放されたヒーラーがもう一度立ち直り、その時初めて勇者パーティーを名乗れるん! その時は勇者サチを尋ねるといいの! きっと力になってくれるの」
まぁ、私たちパーティーじゃないけどね。
ミカンちゃんはしれっとかつてこの部屋にやってきた勇者の剣をあげた女の子、サチちゃんに丸投げして笑顔でヒーラーさんに手を振った。
ヒーラーさんは、
「勇者様に恥じぬよう精進します! ご馳走様でした家主さん! デュラハンさん!」
「うむ! 追放された事。あまり気にする事はなし、世の中有能な者程煙たがられるものでな。一芸を磨く事に努めるが良い。生きていれば良いこともある。達者で」
「ヒーラーさん、何もおもてなしできなかったので、太刀魚の煮付けお弁当にしたので持っていってください! それとここにやってきた方がたまにお金置いていくのでそれも旅の足しに」
私の世界では換金できない純度の低い金貨と銀貨をヒーラーさんに渡してあげる。それにヒーラーさんは感激の涙を浮かべる。
「即死魔法しか使えませんから瀕死の仲間を楽にしてあげる事しかできない、芸のないヒーラーですが一芸を磨き必ず勇者様のパーティーに!」
背中で語るヒーラーさん、きっと私もデュラさんもミカンちゃんもこのヒーラーさんが追放された理由がよく分かったと思うのよね。まぁ異世界って変わった人だらけよね。
そんな事よりそろそろいい具合に太刀魚の煮付けに味がついた頃合いだから、
「二人とも夕飯にしましょうか!」
私たちはヤバいヒーラーがやってきた事とか忘れて太刀魚の煮付けでご飯3杯はお代わりした事の方が強く今日の思い出に残ったわね。
さぁ、明日は何を食べて飲もうかな。
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