第58話 ポーションに転生した人とクリームコロッケとスーパーハイボール



 いつも行く駅近のバーで私は面白いお酒を飲ましてもらったのよね。そう、ハイボール。ハイボールの何が面白いお酒だって? ハイボールに笑う者はハイボールに泣くわよ。並みのバーくらいお酒が揃っている兄貴の部屋だからできる飲み方。

 スーパーハイボール。ブレンデットウィスキーにシングルモルトを混ぜて呑むというびっくり仰天なカクテル。ハイボール好きでもあんまりこの飲み方はしないわね。というか私は知らなかった。兄貴は角瓶に山崎混ぜたりしてたのでこの飲み方を知ってたわね。

 教えなさいよ。天才兄貴!


 という事で私はもちろんハイボール好きな二人がまつ我が家へ帰る途中。ライフで安売りされているお惣菜を見つけたの。家で作ると超手間なんで買う方が手っ取り早いアレ!


「ただいまー」

「お帰りであるぞ金糸雀殿、そしてお勤めご苦労様である」


 お風呂の準備もしてくれているデュラさん、そしてお腹を空かせてブーブー言うだろうと思っていたミカンちゃんは……


「じゃっきーん! 三日後はサバゲーなの!」


 と言って通販で購入したエアーガンを構えてる。最近、ネトゲで知り合った人たち、とくにマオーさんという方と意気投合しているらしく、しかも男性らしいのよね。ちょっとミカンちゃん、もしかして青春! きゃあああ! という状況。そんな春が訪れそうなミカンちゃんに私は30%割引シールの張られたカニクリームコロッケを見せる。


「今日はミカンちゃんの大好きなカニクリームコロッケよ!」

「おぉー! おぉー! コロッケのアークデーモン! カニくりーむころっけぇ!」

「うぬ、一度我は作ってみたいのであるが……」


 ごめんなさいデュラさん、凄い面倒くさいの。兄貴方式だとホワイトソースを冷凍して固形になった物を揚げるという裏技もあるんだけどあんなのは邪道よ。


「こ、こんど時間のある時に作りましょうね」

「是非に頼む! 魔王様にいつか食べて頂きたいものである!」


 こりゃあ、こんど金糸雀さん本気でお料理教室しなきゃいけないかしら。来週あたりにでもね。今日はこの揚げ物でスーパーハイボールよ。


 ごとん!


 なに? 何か音がしたけど……玄関を見に行くと、何やら異世界っぽい小瓶が……


「これって二人の持ち物かしら?」


 それを見せるとミカンちゃんが、


「それポーションなの! 傷が癒えたり体力回復したりするのー、やりすぎると依存症が出るやつー! のむー!」


 うーん、私の知るポーションと違って凄いヤバい薬なのね。とか思ってたら、ポーションが突然私の手から飛び出した。そして手を伸ばしたミカンちゃんに向かって。


「ごふっ……」


 ミカンちゃんの水月(みぞおち)を突く。すかさずミカンちゃんはポーションの瓶を睨みつけて掴もうとするけど、ポーションは空中で急旋回。そしてミカンちゃんの左頬に綺麗な一撃を与えた。


「ポーションに化けたゴーストであるか? 勇者。助太刀する!」


 首だけのデュラさんが空中に浮かびあがり、空中に浮かんで高速移動しているポーションの瓶と激しい攻防。なにこれ、どういう状態? なんか意志があるっぽいのでk


「あのー。ポーションさん。私はこの家の家主の犬神金糸雀です。二人には飲まないように言って聞かせますのでどうかお怒りをお鎮めください!」


 そう言って私は土下座してみる。するとポーションさんの動きがピタリと止まる。なので、私は、


「ミカンちゃんも土下座、デュラさんもほら頭さげて!」

「勇者は断固拒否、うわぁ!」

 ミカンちゃんを土下座させ、デュラさんは私に従ってくれて頭を地面につける。するとなんという事でしょう!


 ポーションさんはその怒りを鎮め、テーブルに降り立ってくれました。というかなんかヤバい宗教みたいね私達。ポーションさんはテーブルに自らのポーション液をこぼすと、それが文字になったの。


“はじめまして、ポーションです。というか、色々あってポーションに転生した元日本人です”


 転生先って選べないのかしら、スライムとかクモとかあるでしょうに、ポーションさんは要するに冒険者達に依存しながら本人の持つ強力な回復その他効果で奇跡を起こしつつ問題解決をしているかとしないとか、さすがにポーションさんじゃ、いやもしかしてがあるかもしれないので、


「今から私達、晩酌なんですけどぉ、さすがにぃ、ポーションさんは」


“金糸雀嬢、お酒大好きです!”


「マジか! すげぇ!」


 私は声を上げて叫んでしまった。だって、ポーションの瓶よ? どうやって呑むの? というか、まぁ瓶に注げばお酒は飲むというか入れれるけどぉ、


「オツマミ、カニクリームコロッケなんですけどぉ……」


“大好物ですね。生前よくハンバーグと一緒に食べました。もちろん、いただきます!”


 あぁ、ダメだ。どうやって飲み食いするのか気になってしかたがないので、私はスーパーハイボールを準備する事にした。


 やっぱブレンデットの一流選手。兄貴のフェイバリットリカー、ジョニーウォーカーの黒ラベル。ジョニ黒をベースに、シングルモルトはラガヴーリンといきたいけど、ここはタリスカーにしましょう。何故なら、ラガヴーリンは勝手に呑んじゃダメなお酒置き場にあるのよね。


「デュラさん、カニクリームコロッケの油抜きと温めお願いできますか?」

「うむ! 任せておけ!」

「勇者は? 勇者も何かするー!」

「ミカンちゃんは、みんなのグラスに氷入れて、私がウィスキーと炭酸水入れるからあとはステアもお願い!」

「らじゃー!」


 分量は行きつけのバーテンダーさんに教えてもらったわ。いつものハイボールの作り方、氷を入れたグラスにブレンデットウィスキーは30ml、そして氷に当てないように炭酸水を入れまぜずに氷をあげてステア。


「ミカンちゃん変わって、ここからバースプーンを使ってシングルモルトのタリスカーをフロートさせるの」


 二層のハイボール、香りも味も段違いに変わっちゃうのよね。日本が流行らせたハイボール、さらにスーパーハイボールも日本産だとかいうカクテル。


「さぁ! 今日はスーパーポーションさんのご来訪に! 乾杯!」

「「乾杯!」」

“かんぱい!”


 はぁ、ハイボールがいきなり超上品な飲み物に変わったわ。


「うんみゃあああああ! いつものハイボールと違う! 全然違うのぉお!」

「うむ、金糸雀殿。一体どのような魔導に手を染めたのか……」

「ふふふ、それはね」


 私が説明しようとしたら、ポーションさんが、ストローを所望されたので、ストローをさしてあげると、もう片方をスーパーハイボールに、そして吸ってるわね。一瞬ポーションの色が変わったけど、元の透き通ったブルー色に戻る。


“ジョニ黒のキーモルト。タリスカーを使って香と味わいをブーストさせたハイボールですね! 美味しいです”


 という事、おや? おやおや? ポーションさん、前世は呑兵衛だったのかしら。そう、要するにスーパーハイボールはブレンデットウィスキーのベースになるお酒と同じ種類の物を足して味わいを深めるハイボールなの。まさに言葉通りスーパーよ! これに合わせるのはしっかりフライパンで油抜きをしたカニクリームコロッケ、お惣菜系だとライフは美味しいのよね。


「オツマミのカニクリームコロッケもさぁどうぞ!」


 しっかり油抜きしてあるから、サクサクで中のホワイトソースもとろっとろだぁ!


「ああん! 勇者、カニくりーむコロッケスキー、ウマー! じゅわっとしてとろっとしてウマー! はぁあああ!」


 イっちゃいそうなミカンちゃん、デュラさんはお手製のケチャップソースに満足したように、


「うむ。自ら作るときはこのソースでよさそうであるな!」


“へぇ、今はお惣菜もバカにできないくらい美味しいですね“


 そう、ポーションさんは自らのポーション液で溶かすようにカニクリームコロッケを食べてるのよね。まぁまぁホラーだわ。というか、ポーションに転生させた神様、ここにいたらお説教ね。


“金糸雀さん、あの。スーパーハイボールのおかわりを、できればデュワーズとアバフェルディで“


 銘柄指定されちゃったわね。まぁ、兄貴の部屋。両方あるから恐ろしいわ。


「はいはい、ただいまー!」

「勇者も勇者もぉ!」

「我もよろしいか?」


 みんなスーパーハイボールの虜になっちゃってぇ! 確かにカニクリームコロッケとスーパーハイボールのペアリング、ヤバすぎ!

 これ、各々の好みが分かれそうだからあまり頻繁にはできない飲み方よね。今、何本ボトル開けてるか私も把握してないのよ。

 それにしてもスーパーハイボール、度数が普通のハイボールより高いから回るわねぇ。いつもよりも早く酔いが回った私達。オツマミも無くなったのでここいらでお開きなんだけど……


「ポーションさんはどうやって変えられるんですか? というか無理ですよね?」


“あぁ、大丈夫です。ご馳走になりっぱなしは悪いので、何か瓶を用意してくれませんか? できれば小瓶を“


「えっと、はい」


 私は格安ウィスキーREDの小瓶の空いたやつを持ってくると、ポーションさんgそこに自信の液体を満たして、


“何かあればこれを飲んでください。大抵の病気なら治りますから! 金糸雀さん、勇者ちゃん、デュラさん。楽しかったよ! またね!“


 そう言ってポーションさんは自らの液体を手の形に変えてドアのぶを開くと、元の世界に戻っていった。

 うん、一体ポーションさんにこれからどんなドラマがあるのか、気になるけど流石にポーションの名声は私たちの耳には届かないわね。

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