第57話 超魔導士とパエリアとフランチャコルタと
地球のみなさん大変です。地球ヤバいのヤです!
さすがに古いかしら? 地球に推定地球の約5倍の大きさの巨大隕石どころか惑星が凄まじい勢いで向かってきている事は世界規模で有名ですよね。
そう、ハラヘリー彗星です。地球全土でもうお通夜みたいな状態です。今日世界滅ぶんだという事でネットを開くと清純派アイドルとかがゲスい暴露したり演歌の硬派歌手か下ネタを連呼したりこの世の地獄みたいな状態になってるのよね。そんな中ででもネット民達はどうにかできないのか、とか終末思想を語る連中のディベート大会。
「さすがのあのサイズは勇者でも無理かもー」
「うむ、魔王様がいればあるいは……我もこのような姿であるし」
大丈夫。二人は異世界の人なんだから、
「ミカンちゃん、デュラさん。恐らくこれが私達が一緒に食べる最後の食事になるわ。二人はというかミカンちゃん、デュラさんの頭を抱えてあの扉から二人の元居た世界に戻りなさい。だから最後はちょっと手のかかる料理作るわね」
兄貴の隠しワインセラーからフランチャコルタのロゼを持ってくる。
「おぉ! シャンパンであるか?」
「ううん、これはフランチャコルタ地方のスパークリングワインだからフランチャコルタよ。デュラさんの言うシャンパンはシャンパーニュ地方のスパークリングワインなの。万人に知られているスパークリングワインのシャンパンだけど、私はこのフランチャコルタもおススメなの! 特に、今日二人に食べてもらいたいシーフードとトマトのパエリアにはばっちり合うんだから」
パエリアの作り方は超簡単。
まずスープ作り、350mlのお湯にコンソメスープの素と白ワイン(なければ料理酒でも大丈夫)それにサフランという高級調味料は私の家にはないのでカレー粉で黄色を出すわ。
これは放置しておけば黄色くなるので次は具材ね。フライパンにオリーブオイルはないので、米油を入れて代わりにアンチョビのオイルをちょっと足す。みじん切りにしたニンニク2片と玉ねぎのみじん切りを炒めて香を出すの。そこにシーフードミックスとミニトマト、赤と黄色のパプリカを入れて火が通ると一旦取り出すの。
「金糸雀殿。何か手伝うであるか?」
「ううん、二人は待っててね」
最後の食事はちょっと得意料理で驚かさないと、お米3合を洗わずにそのままフライパンで炒める。しばらくすると先ほど作ったスープを入れて先ほどのシーフードミックス。そこに大きいブラックタイガーを4尾入れてフライパンに蓋をして炊き上げる。炊きあがったフライパンにさっき炒めたミニトマトとパプリカを載せると。
「はい! 呑兵衛ご用達の犬神家のパエリアよ!」
キィ、ガチャ。
やってきたわね。最後の来客。
「ここは? 狭い場所じゃ。小間使いの便所か?」
やってきたのはミカンちゃんと背丈が変わらない女の子。凄い禍々しい帽子と凄い禍々しい杖を持っているから只ものじゃなさそうね。魔王とか? 薄い紫色の髪にアースアイ。見ているだけで吸い込まれそうな息が止まりそう、そんな彼女が鼻をスンスンとさせているので、
「あの、この部屋の家主の犬神金糸雀です。パエリア作ったんで食べていきますか?」
「この魔法を統べる者。ドロテアに食事を誘うというのか? 頭が高い、がよい。滅ぼす世界の珍味を喰らうのも余の特権、そこな魔物、そして勇者。震えるな。取って食おうというわけでもあるまいよ」
そう言ってドロテアちゃんはミカンちゃんの特等席であるソファーに飛び乗った。
「あぁ!! そこ勇者の! 勇者の場所!」
「黙れ、勇者風情が余に馴れ馴れしく話しかけるな!」
「勇者は強烈な憤怒を覚える!」
あらあら視線がバチバチと、今にも喧嘩が始まりそうなので私はテーブルにドーンとパエリアを置く。そして、フランチャコルタロゼの開栓。
シュポン!
小気味いい音と共に香が広がっていく。あぁ、これこれ。
「酒か、まずまずの香りと味であろう。良い。それを口にしてやろう」
「ドロテアちゃんは、その……お子様?」
「小間使い部屋に住みし者金糸雀よ。余を舐めるな? 6万ととんで14歳よ。滅ぼした世界数知れず。そやつらの魔法もまた余が生み出した物の改悪にすぎぬ」
要するに大人だって言い張るので、あれね! 古来の呪文。
「この作品はフィクションなのよね。登場する人名、団体名、地名などはぜーんぶ架空のものよね兄貴? だからじっさいのものとはなーんにも関係ないの。それから作品中に出てくる人物はみぃんなお酒を飲める年齢なんだから(その世界基準の)!」
「かなりあが壊れた……」
「うむ、たまに金糸雀殿は訳の分からない事を言うであるな」
はたしてこんなテロップを入れるだけで全てのメディア作品が許されるとは私は到底思わないけど、まさかの一言をドロテアちゃんに言われる。
「ほぉ、不可視領域への侵入承諾呪文か、使える者がいるとは思わなんだな」
あれって、れっきとした魔法だったのね。という事で、みんなにパエリアをよそって大きなエビを一人一尾ずつ、そしてシャンパングラスにフランチャコルタロゼを入れて。
「じゃあ凄い魔法使いドロテアちゃんと終わりゆく私の世界に!」
「「「乾杯!」」」
「ふん、乾杯か」
くぴくぴと飲み、私はオッサンみたいにくぅうう、これだ! とガッツポーズ。デュラさんはグラスとボトルを眺めてその味をヴィジュアルと共に認識。
いつも通りミカンちゃんは、
「うきゃあああ! うみゃあああ!」
と喜ぶ中、ドロテアちゃんは……一口含むように飲んで目を閉じる。味覚と嗅覚でフランチャコルタを楽しんでいる大人な飲み方、そして一言。
「うまい」
一人の間みたいな物を保っているドロテアちゃん。こういう飲み方をするセレブとかが、もっと気楽にシャンパンやフランチェコルタを楽しみましょう! とか言ってくるんだけど、気軽に手が出ないから無理なんですけどね。
さぁ、地球最後の食事に私が作ったパエリア、それをミカンちゃんは、
「ウマー! ウマー! かなりあの作ったご飯のやつウマー!」
「おぉ! ふっくらと、それでいて各種素材の味も引き締まっておるな! 見事である金糸雀殿!」
えへへ、結構自信ある料理なのよね。うん! パエリアとフランチェコルタ合うわー! ドロテアちゃんはどうかしら? 上品にスプーンを持つと、パエリアをパクり。ゆっくりと咀嚼。そしてフランチェコルタ。見た目は割とちんちくりんなのに、凄い大人の女性。
「ふむ、まぁまぁであるな!」
と言いながら、ドロテアちゃんはミカンちゃんの特等席であるソファーから腰を上げるのでミカンちゃんがすかさずソファーを取り返す。大人気ないなぁ。
ドロテアちゃんはというと、私のところにやってきて、私の膝の上に座ると、
ミカンちゃんが大声を上げる。
「あぁああ!」
叫ぶミカンちゃんを無視してドロテアちゃんは綺麗な顔で私を見上げる。
「???」
「何をしている?このシュワシュワとしたワイン、はようつがんか!」
「あーはいはい。どうぞぉ! 美味しいですか?」
「まぁまぁだと言っている!」
ドロテアちゃん、ツンとデレの配合が神がってるわね。もきゅもきゅとミカンちゃんはパエリアを食べ、デュラさんは一口一口味を覚えるように食べて、ドロテアちゃんは優雅なディナーを楽しむように時折フランチェルコルタで箸休めをして地球最後の日を私たちは迎える事になる。というかそろそろ多分ヤバいから、
「ミカンちゃん、デュラさん、それにドロテアちゃん。名残惜しいけどそろそろ帰らないと巻き込まれちゃうわよ」
「勇者はかなりあに永久就職した所存。例え元の世界で麒麟一番搾りが飲み放題でも戻らない」
何言ってるのよ。
「そうであるな。これほどの恩のある金糸雀殿を置いて自分だけのうのうと生きるなど我も考えた事はなし、魔王様の言葉をここで伝えよう。例え生まれた日、種族が違えども滅ぶ時は同じ日、同じ時を願わんとな」
桃園の誓い的なアレね? どっちが先なんだろう? もしかして三国志のあれも異世界から逆輸入なのか、あるいは三国志から異世界にもたらされたんだろうか? まぁ、もうでも地球オワタだし、もうどうでもいいか、二人を嫌でも元の世界に帰さないと! と思った私に
「貴様ら、黙って聞いておったら余がこの世界を喰らい尽くす前から殊勝な態度誉めて遣わす! まぁ別れの時間に1日くらいは待ってやっても良かろう」
「ええっと、ドロテアちゃん。私の世界。もう目の前まで巨大惑星が来てるから、今晩で終わっちゃうのよ。だからドロテアちゃんも早く元の世界に帰って」
私がそう言って、ミカンちゃんとデュラさんに凄い可哀想な子みたいに見られているからか、ドロテアちゃんはダンダン! と地団駄を踏み出した。
「気に入らぬ! 気にいらぬ! 余を差し置いて、石ころ風情が恥を知れ! いいだろう。小間使いの部屋に住みし者、金糸雀の世界を滅ぼすべく余の究極崩壊魔法。あの石ころを砕くのに使うてやろうぞ!」
ドロテアちゃんは私の部屋の窓を破ると外に飛び出していく。もうそこまで来ている規格外の惑星に対して、竜巻みたいな魔法を放った。
「余は全ての魔法を生み出しし者。ドロテア。究極崩壊魔法ジュデッカ。そして世界は幕を下ろす!」
「……あれは伝説の超魔道士ドロテアの魔法なの!」
「おぉ! なんという事だ! 実在していたのか!」
小さな竜巻は地球の5倍はある惑星をズタズタに切り裂いて宇宙のチリに変え、私たちの青い惑星を救ってくれた。
という夢を見たのよね。
朝の情報番組で問題になっている芸能人のやらかしを見て、
「うわー! アイドルがゲスい発言したり、硬派系演歌歌手のセクハラ問題と、世の中腐ってるわね! デュラさん、ミカンちゃん! 今日は私の特製パエリアよ!」
でも少しだけ不思議な事があるの。フランチャコルタのロゼが2本程なくなってるのよね。もしかして、あの夢は本当にあった事?
なわけないか。
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