女子大生と居候達編(デュラハンと勇者)
第24話 ガーゴイルとカツオのタタキと日本酒ハイボールと
「ミカンちゃん手伝ってくれてありがとう!」
「構わない。勇者は居候の身だから」
私より頭ひとつ分くらい小さいミカンちゃん、身長は150cm前後くらい?
なのに、勇者所以か、両手にお酒のボトルが入った袋を持っても涼しい顔をしているのは地味に凄い。
というか怖い。
兄貴の部屋の下に住んでいる人の天井、そして私の住んでいる部屋の床の改修が終わり、お酒を元ある場所に戻していく。四段のリカーラック、上段は大事な友人のボトルキープ、下段は割れないように高級なお酒置き場。二段目は値段がそこそこ張るけど、下段程じゃないお酒と、焼酎コーナー。三段目はハイボール用の各種ウィスキーとカクテルベースのお酒、
続いて日本酒用冷蔵庫に日本酒を入れて、ひとつ目のワインセラーに普段飲みのワインをしまう。その後ろに隠してあるもう一つのワインセラーにはお高いシャンパンとワインを入れるようになっている。私の予想だけど、飲んではいけないと言われていないんだけど、隠しワインセラーの中にあるロストチャイルド(値段の0が一つ多いワインね)を飲んだら多分私は兄貴に吊るされる気がする。
「二人ともご苦労であったぞ! 冷蔵庫には麦酒がよく冷えている。風呂も掃除をして沸かしてあるから先に入るのも良いかもしれんな!」
デュラさんの家事能力の高さには本当に脱帽。力仕事はミカンちゃんに任せ、このシェアハウスみたいになっている兄貴の家、流石にミカンちゃんが住み着いている時点で、一人暮らしから契約を二人暮らしに変えないといけないんじゃとか思ってたんだけど、兄貴の部屋は一応複数の入居可物件、管理会社に連絡したところ、簡単に許可が出ちゃった……
ミカンちゃんがウィンクしているので何かしたのかもしれない。
「ふぅ、じゃあお風呂入ろっかな。今日はスーパーで半額で売ってた鰹のタタキがあるので楽しみなのよね!」
どちらかと言えばタタキより普通のカツオのお刺身の方が好きなんだけど、たまに食べたくなるのは何故かしら?
かけゆをして、銭湯じゃないから髪を上げずにそのまま湯船にin。
風呂は心の洗濯と誰かが言っていたけど、本当にその通りだと思う。あーいうフレーズを考える人は天才ね。
そしてその人が好きなお酒を今日は飲もうかしら、
「だっさーい、君を愛して良かった〜♪ これからずーっとずーっと……」
と日本酒を讃える歌を湯船の中で歌っていると、ガラガラガラとお風呂の扉が開かれる。
「えっ?」
思わず身体を隠す私、そこにいたのは一糸纏わぬミカンちゃん。その傷ひとつない白い肌とか、黄金比率とはこの事を言うのだろうとエロスよりも芸術を感じるミカンちゃんの体よりも気になるもの。
両手に缶ビールを持っている。
「ミカンちゃん、何やってんの! 今は私のお風呂タイムだよ!」
「かなりあ、勇者は常々思っていた。風呂の中でこの麦酒を飲むとどうなるのか? ぶっ飛ぶんじゃないかと」
あっ、美味しそう。いやでもダメよ! お風呂の中でビールなんてはしたない! そんな温泉で日本酒とは違うんだから……
あぁ、確かアメリカのホテルではお風呂でビール飲み放題とかがあるのよね……いやいやいや……
ちゃぷんとミカンちゃんが湯船に入ってくる。風呂桶の淵に缶ビールをトンと置く。
「飲むか、飲まないかはかなりあ次第だ! 進めば二つだ」
最近ミカンちゃんがハマっているアニメの名言を悪魔の囁きとして私に使用するこの娘は本当に勇者なんだろうか? 実は悪魔なんじゃないだろうか……
「熱った身体に冷たい麦酒、おいしーだろーなぁー」
「ダメ! だって今日はカツオのタタキと日本酒を飲むんだから!」
私はミカンちゃんを湯船から出すと私はわしゃわしゃと髪を洗ってあげて、体も洗ってあげてまさに洗濯機のように湯船に浸からせて、
「はい! 十数えて上がる!」
私はお風呂でビールという考えたこともないけど、相当そそられる誘惑から勝ったわ! 今度こっそりしよ。
お風呂から上がるとデュラさんが1cm間隔でカツオのタタキを切ってくれているので、私はネギ、生姜、そしてニンニクの薬味三銃士をカツオのタタキの上へ野蛮に、それでいて満遍なくふりかける。
「生の魚、お腹壊さない?」
「大丈夫よミカンちゃん、周りを炙ってあるでしょ? かつて、お上からカツオはあたるから食べちゃダメと言われた民草達は! 炙ってますー! 生じゃありまーせん! という屁理屈で食べたという伝統料理、カツオのタタキよ!」
「なるほど! その考えは嫌いじゃない」
でしょうね。
ペアリングは決めていたの。獺祭、多分日本一有名な高級日本酒……違う。今日はこれじゃない。
私の頭の中には先ほどのお風呂でのビールがまだいたの。私が手にしたのは、超辛口百万石。兄貴の部屋にある日本酒の中ではそこまで珍しい銘柄でもないけど、キリリとしたこの辛口の口当たり、冷やで飲むと最高なのよね。
これを……今日は、
「二人は日本酒ハイボールまだ飲んだ事なかったよね?」
そろそろ来るでしょう。
ガチャリとやってきた人は、頭は鳥のようで、体は人間、そして翼を持った……なんだろうこの人、とデュラさんを見ると、
異世界魔物博士、もとい悪魔の侯爵デュラさん曰く、
「今宵はガーゴイルが来るとは実に興味深い」
ガーゴイルって日本で言う所の鬼瓦よね? でも異世界とかだと普通に魔物だったり、さぁどっちだろう。
「デュラハンに神の加護を受けた人間、そして……」
「あっ、家主の犬神金糸雀です。えっと、ガーゴイルさんも道に迷った口ですか?」
「いや、とある王族の屋敷を守る為にとある高名な魔道士によって生み出されはや五百年、同じ景色を見ていたのだが、ふと気がつくとここに」
おぉ! ガチ、ガーゴイルさんだ。
「こいつら近づくと動き出して襲ってくる」
ミカンちゃんの補足。ガーゴイルさんは現在進行形で動いているので、私はグラスを四つ用意するとクラッシュアイス、超辛口百万石をそれに注ぎ、同じ量炭酸水を入れて軽くステア。
「とりあえずたまの自由なんですよね? ガーゴイルさん、飲みましょ!」
「ふふっ、酒など飲んだ事もないが、これはひとつの夢か? ならその夢楽しむのも一興」
ずーっと同じ所でじーっとしていただけあって何か悟っているわね。私なら気が狂いそう。みんなの手元にグラスが行き渡ったので、
恒例の、
「「「「乾杯!」」」」
君の人生は……って小学校の音楽の教科書に載っていたけど、今はどうなんだろう。まぁ、まずはみんな日本酒ならではのこのハイボールを楽しんで頂戴!
時期が夏ならもっと良かったんだけど、スッキリとしていてるけど、焼酎やウォッカみたいなスピリッツじゃないので、ふんわり酔いが回るのよね。
おつまみの事を肴というように、魚は日本酒と合わせる最高のオツマミなのよ。
「ポン酢も刺身醤油も用意したから好きな食べ方で食べてね! ……一応マヨネーズもあるから」
私はポン酢、デュラさんとガーゴイルさんは刺身醤油、ミカンちゃんはマヨポン。薬味を沢山載せて口に運ぶ。
「んんんんっ!」
ガーゴイルさん、目をぱちくりさせながら、私たちを見る。もしかしたら生まれて初めての食事だったのかしら? 私はお酒を飲むようにジェスチャー。ガーゴイルさんはそれに倣いゴクリと。
「はっはっは! 今宵の食事も酒もなんという美味さか! 魚とは思えぬ肉肉しさ、魚ならではの臭みを殺すのに沢山これら香料を使ったのか? 金糸雀殿、どこでその技量を得たのか、追いかけるこの日本酒ハイボールがそれら臭みもまた珍味として流し込んでくれる」
なんかデュラさんが食通みたいになってきたけど、今はネット開けば、簡単に料理なんて出てくるのよ。ミカンちゃんは炊飯器からご飯をお茶碗に盛るとそこにカツオのタタキと薬味を乗せてマヨポンをかけてかっこんでいた。
「うまうま! そしてこの酒。麦酒と違ってほんのり甘くて、ぴりりと辛くて、うまい!」
そう、お酒の席は自由、あえてカツオのタタキを少し炙って食べてもいいし、ガーゴイルさんはすでに四杯目の日本酒ハイボールを所望。
大丈夫? 帰って寝落ちしちゃわない?
「はっはっは! 良い飲みっぷりである!」
「うん、ガーゴイル。戦闘時と違って酒は強い」
「そうか? てんで分からんが、ただ一言、うまい。円環から外れた疑似生命たるこの身がそう言うのだ。誇るといい金糸雀」
「あはは、そりゃどうも、グラス空ですけど入れましょうか?」
「頼めるか?」
なんかさぁ、この寡黙に酒を飲む感じ、ガーゴイルさん、ちょっとかっこよくない? ガーゴイルさんに性別とかないんだろうけどさ……
しかしよく飲むとなぁ。
私は忘れていた。ガーゴイルさんのこの飲み方、酔ってて止まらなくなっている事を、きゅっと五杯目を水みたいに飲み干して、
「そろそろ、おいとますることにしよう。ぬ!」
すてーん! とガーゴイルさんは転けた。私とミカンちゃんで慌ててヘルプ。
「ガーゴイルさん、大丈夫ですか? 今日は危ないから泊まって行ってください」
「大丈夫大丈夫、全然酔ってない」
酔ってる人の常套句でたー!
私達の静止も虚しく、ガーゴイルさんは部屋から出て行く。
「ガーゴイルの上にも三年と言ってな......」
完全に泥酔したガーゴイルさんは誰に話しかけているのか、独り言を言いながら去って行った。それから忘れた頃に来た異世界の住人から、一つだけ仰向けで寝転がっているガーゴイルの像がある王族の屋敷が観光地になっていると聞いたが、いかんせんお酒の席だったので聞き流してたのよね。
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