第102話 ピクシーと揚げ出し豆腐とチリワインと(エコ・バランス ピノ・ワール)
最近、デュラさんの作るご飯が恐ろしく美味しいのよね。昭和時代には男子厨房には近づかず的な事を言われてたけど、かつては料理は男の仕事みたいな感じで侍とかも料理好きが多かったとか、結果モンスターとはいえ、元々騎士だったデュラさんも料理が趣味なのかしら?
そんなデュラさんのお気に入りの調味料があるのよね。それはデルモンテのリコピンリッチ。調味料というかトマトジュース。温めたらトマトスープになるくらい濃いのね。これをかけるとあら不思議、なんでも洋食に変わっちゃうのよね。
「今日は何を作るの?」
「ふふっ、本日は揚げ出し豆腐をと考えているである」
「いいわねぇ。日本酒できゅっと」
「金糸雀殿、日本酒もいいであるが、ワイン等どうだろう?」
ワインね。まぁ、合わなくはないと思うけど、ここは冷酒がマストだと思うんだけど、デュラさんが言うなら合わせましょうか、
「ワインはどんなのがいいんですか?」
「ふむ、香りは甘めで味はやや渋めの赤とかどうであるか?」
じゃあどうしようかな、天井裏のワイン置き場に国ごとにまとめてある中からチリワインを一本取り出すと、グラスを出してティスティング。うん、これよさそうね。
ガチャリ。
本日のご来店は誰かしら? ミカンちゃんはひっくり返って動物図鑑を見ながらお昼寝中。このままニートになるとミカンちゃんの世界大丈夫かしら? 本日のご来場は……あら、小さい人? がいるわね。
「こんにちは、少し宿をお借りできますか?」
「あぁ、はいはい。大丈夫です。私は犬神金糸雀。この家の家主です。貴方は?」
「ピクシーです。森に果物を取りに入ったら気が付くとここに迷っちゃいまして」
てへっと笑うピクシーさん。なんだろう。レース状のひらひらとした可愛い服を来た妖精さんね。男の子なのか女の子なのか分からないけど、小さくてかわいいわね。
「今から、食事なんですけどよかったらどうですか?」
「ほんとですか? 金糸雀さん。じゃあじゃあ、お言葉に甘えて」
私達がそうやってリビングに戻ると、デュラさんはキッチンで木綿豆腐の水切りをして、電子レンジでさらに水分を飛ばす。片栗粉と小麦をまぶして170度の油で揚げる。基本に忠実な作り方ね。凝り性のデュラさんは鰹節、コンブと自ら揚げ出し豆腐にもっともあったダシ汁を作ってるわ。で……出たわねリコピンリッチ。ダシ汁とトマトジュースを半々に混ぜて揚げ出し豆腐にかけると、それを耐熱皿に入れてオーブンに……チーズで焼くの……
「お待たせである! イタリアン揚げ出し豆腐である!」
「成程、これならワインにばっちりですね!」
「そろそろ我も、書いてある通りのレシピからアレンジをと思ったである」
そう! 料理って殆どしない人がたまに独自アレンジとかしちゃうんだけど、デュラさんみたいに料理という物の基本を抑えてから行うべきなのよね。そもそもデュラさんは料理の素質があるというのも強いけどね。
「ミカンちゃん! 起きなきゃご飯ないからね!」
高い鼻をすんすんさせて、ミカンちゃんはぴょんと飛び起きる。私のジャージを掛け布団代わりにするのやめてほしいわね。そのジャージを上着に来てミカンちゃんはテーブルにやってくるので、私はワイングラスを三つ、ピクシーさんの用の小さいブランデーグラスを用意すると、チリワインを注いでいく。
「じゃあ、デュラさんの創作料理とピクシーさんとの出会いに」
かんぱーい! ワインのグラスなので軽くコツンと合わせる。ティスティングした時よりデキャンタに移した事で味が少し
「おいしー! あまーい! こんなワイン飲んだ事ないです! 雑味もないし、ゴミとかも入ってないし!」
「ピクシー殿は田舎の村とかでイタズラをする妖精であるからな! しかし、これは魔王城で出すワインよりも遥かに質が良いであるな」
「うんまぁい! でも勇者、すぷらったーにして欲しいかもー!」
スプリッツアーね。それもルージュ。ワインの炭酸割り、ミカンちゃんほんと炭酸好きねぇ。私は炭酸水と氷を取り出して、ミカンちゃん用のスプリッツアー・ルージュを作ってあげる。トンとミカンちゃんの手元にロンググラスを置くと、本日のおつまみ。
洋風の揚げ出し豆腐。トマトジュースとダシ汁を合わせたデュラさんの特性ソースと揚げ出し豆腐をホワイトソース代わりにしたグラタン。
多分、余裕で美味しいやつなんだけど……
実食。
「んんんっ!」
「これ、おいしーです!」
「うみゃあああああああああ! 勇者これ、好きー!」
すっごい美味しい。上品なフレンチ? イタリアン? いいえ、ネオ和食よ。何この美味しさ。お手軽にできてかつ普通のグラタンよりヘルシーでかつ健康的なこの料理。
私達の感動に満足したようにデュラさんが、
「フハハハハ!それは良かった。では我も」
超能力でナイフとフォークをかちゃかちゃと上品に動かしてぱくりと租借、そしてワインを一口。「うん、我が思った通りの味であるな! しかし、金糸雀殿の世界の料理には驚かせられる。煮る、焼く、揚げる、蒸す。どれも我等の世界にもあるが、我らの世界の料理はまだ深淵の入り口である。その深淵の中にこれほどの美味が眠っているとはな」
まぁ、料理は科学って言うし、今なお進化し続けてるからね。簡単でかつ美味しく作れる方法なんかが動画サイトとかでプロの料理人が教えてくれるのもつよつよね。ミカンちゃんがはぐはぐ一心不乱に食べているので相当美味しいのね。
「ひゃあ、これ美味しい。上品な口当たりなのに、どこか家庭的で」
ピクシーさんはイタズラ好きだけど、貧しい人の仕事を手伝ったり怠け者を懲らしめたりする本当に私達の妖怪概念に近い妖精さんなのね。だから家庭で作られる料理が口に合うのかしら。怠け者を懲らしめる。
「ミカンちゃん、あんまりぐーたらしてたらピクシーさんに懲らしめられちゃうわよ!」
だなんてワインを飲んで気も良くなった私が言ってみると、ミカンちゃんが食べる手を止めてピクシーさんを見ると鼻で笑った。
「勇者の力はあらゆる不条理に耐性があり! 懲らしめらぬなりぃ」
「まぁ、そうですねぇ。相手は勇者ですからー! あぁん、ワインもおいし」
異世界の力関係最悪ね。力こそが正義みたいな法律もあったもんじゃないわね。揚げ出し豆腐のがっつり感をグラタン風にして焼いてあるこの料理、お腹もちもいいし、なんてったって日本酒よりワインの方が合う揚げ出し豆腐の食べ方にデュラさんは日本料理界に一石を投じたわね。
「デュラさん、ピクシーさん。グラス空いてますよぉ! お代わりどうですか?」
しゅぽんと二本目のエコ・バランス ピノ・ワールを開けて見せるので、二人はグラスを離してお代わりを所望するから私は片手でソムリエばりに注ぐ。
「勇者もシュワシュワのおかわりなりぃ!」
「はいはい、待っててね」
「金糸雀さん、踊りませんか?」
ピクシーさんがワインを飲んで洋風揚げ出し豆腐にテンションを上げたから私をダンスにさそう。ミカンちゃんのお酒を作ってから小さいピクシーさんの手を取ると、私はスマホで音楽をかけてピクシーさんの両手を握ってピクシーさんに合わせる。ミカンちゃんの指笛、デュラさんが食器をドラムセット変わりに鳴らして私達は楽しんだ。
そう……
「夜分すみません、こんばんわー!」
「金糸雀、邪魔するぞ。邪魔じゃなければ……」
お昼に飲み始めたのに、気が付くと深夜の零時。そして踊っていたハズのピクシーさんの姿はない。ピクシーさんと遊ぶと時間の感覚を奪われるという話を深夜にやってきたレヴィアタンさんに教わり、ルーさんと二人にもワインを振舞って二次会。
もし、今日誰もやってこなかったら私達は一体いつまで終わらない飲み会をしていたのかと思うとぞっとするわね。
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