第101話 回復士(勇者PT)と鶏皮の甘唐揚げとジャックコーク(缶)と
今まで何故か売ってなかった商品ってあるのよね。逆にそれ販売終了にしちゃうんだ! みたいな商品もあるわよね。アレって本当に何故なのかしら? 何か大きな陰謀を感じてしまうのは私が信心深い日本人だから?
「今宵呑むお酒はこちら、なんとジャックコークです」
私はそう言うと黒い缶のお酒を取り出してデュラさんとミカンちゃんに見せる。二人はポカーンとした顔を私に向ける。
「勇者、じゃっくこーく好きー! でもよくかなりあが作ってくれり」
「うむ。金糸雀殿の作るジャックコークは絶品であるからな」
「二人ともありがとう。でもね。不思議な事があるのよ」
私はそう言って角瓶を取り出し、その横に角ハイボール缶。次はジムビームアップル味の瓶の隣にジムビームアップルハイボール缶。そしてジャックダニエルの瓶と今回飲もうと思っているジャックコーク缶を置く。
「缶販売されている味に何故かならない問題があるのよね。まぁ、缶の味がついているという事もあるんだろうけど、こればかりは世の中の謎ね。という事で私の作るジャックコークと今回新販売されたジャックコークと飲み比べをしてみようかなって事」
私は角瓶とかを片付けると鶏皮をお肉屋さんで買ってきた事をデュラさんに見せて「デュラさん、今日は鶏皮でハイカラにするので手伝ってくれますか?」と伝えると浮かび上がり「任されたである!」とお手伝いしてくれるのね。ミカンちゃんはいつものソファーで寝転がってるから、
「ミカンちゃんはお皿とグラスを二つずつ出しておいて」
「えぇ、勇者。皐月賞の予想に忙しけりぃ!」
「どうせチートで勝つ馬分かるんでしょ。ズルしちゃだめよ。準備しておいてね」
お皿とグラスを出すだけでミカンちゃんはこの世の終わりみたいな顔をしてのそのそと手伝ってくれる。
さて、私たちは鶏皮を一口大に切り分けていくと片栗粉をまぶしてさっと揚げてしまう。普通のハイボールならプリップリの唐揚げ。でも何故かジャックコークはこのジャンク感を感じる鶏皮唐揚げが恐ろしくマッチするのよね。
さらにジャンク感を増す為に……アメリカ人にチーズ。のように今回は甘だれを作って揚げたての鶏皮にそれをささっとかけて……
「ミカンちゃん。炭酸作る機械で炭酸水作って」
「えぇ……勇者、もう働きたくないかも」
ストレートに言うわね。私の知り合いにミカンちゃんみたいな子がいるんだけど、こういう子ってひくくらいモテるから大体取り巻きの男子が餌与えにきて何故かいい暮らししてるのよね。世の中って不公平だわ。
ガチャ。
誰か来たけど。ミカンちゃんは当然見に行かない。漫画雑誌をひっくり返って読みながらあははははと笑ってるわ。
「はいはい、いらっしゃい!」
「こんにちは、貴女が金糸雀さんですね?」
「えぇ、はい」
そこには紫がかった綺麗な長い髪の女の子。服に十字架なのかスイスの国旗なのか、そんな模様が入っていて、これまた高そうな宝石のついた杖を持っているわね。
「私は勇者パーティーの回復士を務めている。ポカ・リスエットと申します。リスエットとお呼びください」
「まぁ、中へどうぞ」
あぁ、ミカンちゃんのね。
リスエットさんは会釈するとミカンちゃんを一瞥する。そしてミカンちゃんんに、
「即死魔法! ラ・デス!」
何やら穏やかじゃない魔法をミカンちゃんに放ち。ミカンちゃんはとても嫌そうな顔をして自らに触れると「勇者は加護で即死が効かぬなり」と呟く。
「槍使いも弓使いもミカンを連れ戻すのに甘いけど、私は違いますよ? 死体にしてでも連れて帰りますから」
本末転倒よね。異世界のこっち系の職業の人、ヤバい人多いわよね。ミカンちゃんを殺る気満々のリスエットさん。
その緊張を横から妨害というか救ってくれたのはデュラさん。
「みな、色々つけダレも作ってみたである! さぁ、一杯やろうではないか!」
あの短時間でデュラさんはおろしポン酢。ヨーグルトとレモンのソース、マヨネーズとタバスコ、そしててんつゆとトマトジュースのソースを作っていた。
「魔王軍、大幹部デュラハン! でも首だけ……」
「おぉ、そういうそなたは勇者の知り合いであるか? まぁ座っておると良い。今日はジャックコークであるからな。金糸雀殿、そろそろ」
「そうね。ミカンちゃんもリスエットさんも座って座って、飲み比べるわよ」
私は二つずつ用意したグラスに同じだけ氷を入れる。そして右側には缶のジャックコークを注ぎ、缶のジャックコークが7%なので左側には氷の分差し引いて6%で自家製ジャックコークを作る。もちろんコーラはコカコーラ。
「できたわね! じゃあ、ミカンちゃんのお友達と、世界がまちに待っていたジャックコークの新販売に乾杯!」
「乾杯である!」
「乾杯かもー! 回復士もせり」
「……か、乾杯です」
黒い液体というのがちょっと躊躇するのかしら? 私たちがゴクリと飲んで、ぷはーっと楽しんでいるのを見て、リスエットさんも口にする。
「えっ? えっ、えっ! エール? にしては甘い。炭酸ガスの入ったワインでもない……おーいしー! ミカン、美味しいじゃないですか!」
あら? 先ほどまでの私、殺しにかけては失敗しませんからみたいなクールな女の子から愛らしく。
「回復士はお酒が入らないと機嫌が微妙に悪し」
それって……ちょっと大丈夫な子かしら……、まぁ機嫌が良くなるだけならどこかの勝利の女神様と違って迷惑かからないからいいわね。
「鶏皮唐揚げもどうぞ」
パリっと、それでいて噛み締めるといい油も取れてこのジャンク感。鶏の中のチャンピョンね。コーラと鶏皮の相性、神。
「うんまぁあああ!」
「きゃー! 勇者、鶏皮、超好き! 超つおつおぉ!」
「おぉ、おろしポン酢は当然として、トマトジュース天汁。癖になるである」
鶏皮の美味しさに感動している私たち、リスエットさんは、ひょいパク! ひょいパク! と鶏皮唐揚げを食べて、ジャックコークをゴクりと呑む。
そしてブワッと泣いた。
え?
「こんなに薄い揚げ物なんて、どれだけの凄い技術を持った料理人がいたのでしょう。そしてこの三千世界に轟くようなソース達、いずれも王宮料理人の中でも頂点を極めたような人が作ったと言って過言はありません。さらにこのお酒、同じ味でも少しだけ違います。右側はブレのない完成度、左側はなんでしょう。優しい味わいです」
料理作ったのは私とデュラさんですね。そして、リスエットさんしか飲み比べるという事をしていなかったわ。でも異世界の人が感じるくらいだから、缶のお酒は何か製法が違うのか企業秘密がありそうね。
「勇者、正直しゅわしゅわ好きだからどっちもうましと思えり!」
「ふむ、味の違いはあれど、我は金糸雀殿の作る方に一票であるな。缶の方は上品すぎるである」
それだけ製品が完璧ってことね。さすがだわ。それにしてもなんでジャックコークってこんな美味しいのかしら。コーラ使ってるからちょっとカロリー意識しちゃうのよね。
「お代わりなりぃ!」
本日はお代わりと言うと缶と私が作るジャックコークが2杯来る仕様よ! デュラさんもゆっくり楽しんでから「我もお願いするである!」とお代わり所望。
「リスエットさんはどうですか?」
「いただきます! 何杯でも何杯でも! このお酒おいしー! それにこの王宮仕様の食べ物も」
あはは……超、平民仕様のおつまみですよ。鶏皮で口の中がベタベタしてきたのだ。キャベツをささっと刻んでコールスローを作るとおつまみにそれを持ってくる。
「箸休めにどうぞ!」
大根おろしもいいけど、こっちも口の中がさっぱりするわね。リスエットさんはコールスローを鶏皮唐揚げに乗せてパクリと、
「はぁあああ! おいひー! お酒も、んぐんぐんぐ。はー! 金糸雀さん、お代わり」
呑むわねぇ。鶏皮唐揚げのコールスロー乗せ新しい扉を開いたらしく黙々と飲み食いするリスエットさん。
ガチャリと扉の開く音。今日はおつまみも沢山あるし、ぶーたれる事はないだろうと私も思いながら、ジャックコーク缶に酷似したゼロカロリーコーラ缶を冷蔵庫から取り出すとニケ様のご登場を待つ。
「皆さんの勝利の女神が来ましたよー!」
デュラさんとミカンちゃんの温度感が推定二度下がったわね。でも奇跡が起きたの。
「ニケ様、うそ! ニケ様ぁ! 私の信仰心が勝利の女神ニケをお呼びになったんですね! そうだ! 金糸雀さん、綺麗なお水はありませんか?」
「あー、はい! ミネラルウォーターでいいですかね」
「女神ニケはお酒などという浅ましい物は飲まないんです! 純粋な水と澄んだ空気を食事にしていると言い伝えられていますので」
へぇ、へぇ。じゃあ空気清浄機も起動しておこうかしら。リスエットさんはいかに女神ニケが尊く、人々の為、世界の為に悩んでいるかを私たちに解いてくれた。当然、そんな強烈な信者がいる建前、ニケ様は……
「あのぉ、少しくらいであれば私もお酒やその食べ物を」
「ダメですニケ様! そのような慈悲で体を穢すのはおやめください! さぁ、この綺麗なお水と、金糸雀さんの凄い力で空気も澄んでいますので」
「は、はぁ……お水おいし……金糸雀ちゃん、勇者、デュラハン! あのちょっと」
私とミカンちゃんとデュラさんはとりあえず有り難い者を拝む感じで鶏皮を肴にジャックコークを呑み。素面の状態でニケ様はなんか当たり障りのない事を説法してリスエットさんを喜ばせて一緒に帰っていったわ。
で……なんで勇者パーティーの人はウチにくると必ず忘れ物していくのかしらね。この魔法の杖とかどうしたらいいのよ。
まぁ、これも物干し竿にすっか……
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