第100話【到達記念特別編】ナーイアスとマス釣り場と獺祭大吟醸45と
「犬神さんですよね? 付き合ってくれませんか?」
「え? へ? はい!」
イケメンに大学のキャンパスでナンパされると起こる事について話そうと思います。まず学校に近い喫茶店やカフェに行きます。これはチェーン店問わずです。そして第一声に
「犬神さんって可愛いよね」
「えぇ、そんな事ないですよぉ!」
まず褒められます。
かーらーの。
「お金持ちになりたいとか思った事ないかな?」
ん? お金持ち、というお話に突如変わります。もっと私がどう可愛いのかというお話を小四時間くらいしてくれないかしら。
「えぇ、なりたいですね」
「その為に努力している事ってある?」
「そうですね。世界経済系のインデックスファンドと、VTI、VOO。念の為に新興国系のファンドとか少しずつ積み立ててますかね」
さて、このくっだらねぇマルチ商法ふっかけてくるシャバ僧に軽いジャブを放ってみる所から始めてみるわ。
「あー、それじゃダメ! 全然ダメだよ! この写真見てよ、俺の知り合い達とのパーティーなんだけどさ!」
そこで見せられる写真には微妙な芸能人とこのシャバ僧と見知らぬ男性が写っている。人脈が広がるのでお金を持っている人はお金持ちと繋がるという謎理論を語るのだ。それ言うと私の部屋なんか女神とか来る異世界と繋がってるけど私は女神になれないわよ。
「
「否定はしてないんだよ! なんつーかな」
マルチ商法に引っかかった人には二通りあり、完全に信者になっている人とどうにかして同じ不幸を共有させたいと思う大学デビューしたこんなシャバ僧に分かれるのよね。
「話は以上ですか? 外に勇者とデュラハン待たせてるので帰りますね」
「は? 何言ってるの? ちょっと、頭大丈夫?」
「てめーにだけは言われたくねーよ。田舎帰って母ちゃんに泣きつけよクソほっこが」
と、汚い言葉を使ってしまったわ。おほほ! 本日はこれからマス釣り公園に行く約束になってるの。
何でか? お魚好きのミカンちゃんが釣りたての魚を食べたいと駄々を捏ねたから。ググったら案外近くにあるのよね。簡単に誰でもニジマスが釣れてその場で塩焼きや素揚げにして食べさせてくれる所。近くにキャンプ場も併設しているので、テントを張ればデュラさんの件も問題ないかなって。
「おぉー! かなりあー! おーい! おーい!」
ぴょんぴょん飛び跳ねてミカンちゃんが私に意思表示。いつもの格好にウサ耳パーカーを羽織っている。ただでさえ目立つ子は何着せても目立つのよね。
「ミカンちゃん、そこに車(レンタカー)待たせてるから行くわよ!」
皆さんは車の運転好きですか? 私はですね。所謂ペーパードライバーというS級ライセンスを持っています。車で行って大丈夫? お酒飲むんでしょ? ノンノンノン! 帰りは運転代行を呼ぶわ。私は人を乗せた事はないけど多分運転は上手い方だと思う。しばらく一時間程運転した後。
「ふぅ、ついたわよミカンちゃん。んーん、空気が綺麗ね」
「…………」
「どうしたの? 車酔いしちゃった?」
「…………勇者、車乗るの初めてだけど、かなりあ車乗らない方がいいとおもー」
「もう! 確かにお酒飲めない事多いもんね。とりあえず本日のオツマミ取りに行くわよ」
ちゃちな竿を借りて、一匹いくらで買取タイプの割と上級国民システムね。まぁ、私が超度庶民というだけかもだけど。まぁ、今回はガールズバーの常連さんが何故かチケットをくれたのでお魚代だけで済むからいいけどさ。
「この餌つけて放り込んだら釣れるらしいわよ。私も釣りなんてした事ないから……」
びっくりするくらい余裕で釣れます。
「かなりあ凄し! 勇者でも加護をつけないと中々魚は釣れないと言えり!」
「ミカンちゃんも餌つけて落としてみなさい。秒で釣れるわ」
入れ食いというか、なんなのかしら、餌をもらいにきた金魚くらいの感覚でバンバン釣れるわ。ただ凄い小さい。中には大きいのもいるから……
「勇者に任せり! 我が、信仰せし、マフデト・ガラモンよ! 我に魚釣りの圧倒的な神秘の力を与えん! カモン! バニッシュ・フィールド!」
ミカンちゃん、お得意のチートで大きなニジマスしか私たちの餌に食いつけないような結界を貼っちゃったわ。
結果大きいニジマスも五匹。計二十匹ね。
支払いと共に、料理してくれるところに持っていき、小さいニジマスは唐揚げ、大きいニジマスは塩焼きにしてもらう事にしたわ。
「うおー! うおー! こんなに魚、すげー! すげー! 勇者、早く食べたいと宣言せり!」
「留守番してくれているデュラさんにお土産なんか買って行ってあげようか? 鯉の洗いなんていいわね。ちなみにお酒は川で冷やしてるわよ」
「つよつよー! 早く戻れり!」
ミカンちゃんと私は私達の借りたテントに戻る。
すると話し声が聞こえる。まさかと思って私はテントの扉を開けると、
「おぉ! 二人ともお疲れ様である!」
「おかりなさい〜!」
知らない女の子、というか河童がいるわ。河童って実在したのね。あー、モンスター存在するし、お稲荷様いたから河童くらいいるか。
「デュラさん、その河童さんは?」
「えぇ、やだなー! 河童とか魔物の類と一緒にしないでくださいよぉ〜! 私、ナーイアスですよ。川の流れに身を委ねてたら気がつくとこの小さな部屋の中です」
河童、頭に皿があって、甲羅があって緑色の人。今目の前にいる人、おでこにお皿があって、木と草でできたリュックを背負っていて髪の毛と瞳が緑色の美人。ははーん、異世界組ね!
というか異世界に河童って別でいるのね。
「それはそれは失礼しました。私は犬神金糸雀です。まぁ、二人の保護者ですかね。で、ナーイアスさんはどなたですか?」
「かなりあー! 川の妖精なりけり! 勇者も子供の頃はよく一緒に潜水をしたり」
異世界ってミカンちゃんの子供の頃の話を聞くと妖怪的な人が身近にいるのね。私の世界でも妖怪は人と一緒に存在してるとか何とか言われてるからね。まぁ、来ちゃったなら仕方ない。
「ナーイアスさんも一緒に飲みませんか? 今釣ったばかりのお魚調理して来たので! あと、これデュラさんにお土産です。食べたいって言ってましたからね。鯉の洗い」
酢味噌で食べるお刺身というのがデュラさんには想像できなかったらしくて一度テレビで見てから興味持ってたのよね。
「おぉ! これはかたじけないである!」
私は川で冷んやり冷やした獺祭を持ってくると全員にぐい呑みを配る。獺祭を注いでいき。紙皿に揚げたニジマスと焼いたニジマスを、
「それじゃあ自然の中なのにテントというレア空間で乾杯!」
日本酒って何飲んでも甲乙つけ難いのは味わい方が全然違うのよね。獺祭に関してはぐい呑みから香る香りと同じ物を口に含んだ時に強く感じるタイプなのよね。で、甘っ! と一瞬思うんだけど、一応辛口なのでその甘みがスッとなくなる日本酒ね。
「うきゃあああああ! うみゃあああああ」
「くぅうう。スッとくるであるな」
「…………これなんですかぁ? 色のないワイン、でもこんな味わい飲んだ事ない」
ナーイアスさん、そう! それが異世界の人の反応ですよ。なんかデュラさんとミカンちゃんは俗世に染まりすぎなんですよ。御神酒として獺祭を飲んだ後は、先ほどまで生きていたお魚さん。
まずは揚げ物から、小ぶりだから頭からいけちゃうわね。普通に美味しい。ただ揚げただけなのに何これ、
「さかなうみゃあああ! 勇者、ニジマス好きー! お酒との相性つよつよ」
「この魚、臭みとかもないであるな」
日本の養殖技術は世界一だからね。異世界って養殖とかしないのかしら、ナーイアスさんは塩焼きの方を、
「きゃあああ! おいしー! この透き通ったワインがまた引き立ちますね」
「ナーイアスさん、分かりますね! そう、今回は新鮮な川魚なので獺祭がより引き立つと思って選んだんです。ささ、もう一献」
なんかアウトドアなのにテントの室内で飲むの、たのしー! 何これ、お酒も一升で持ってきたから大丈夫でしょう。
「鯉の洗いもうまいである! みんなもどうぞどうぞである! 我一人で食べるなんて勿体無いであるからな!」
川魚のお刺身なんて鮭くらいしか普段食べないものね。はぁ、お酒が進む! 美味いなぁ。塩焼きを時折つついて獺祭をクイっと。
「くあー、うめー! 今日はここに泊まるし、飲み明かそっか?」
するとデュラさんから冷静なツッコミを私はもらうことになるのね。もう半分程に減っている獺祭。ニジマスも殆ど食べ終わり、オツマミがなくなってきている事。
「金糸雀殿、それは名案であるが、我らの呑む量からして、勇者に関しては食べる量からしてやや心細い状況ではあるまいか?」
「勇者、ハラヘリヘリハラなりぃ」
「勇者ちゃん、一度病院行った方がいいですよー! 結構私の可愛い川の幸を沢山食べたじゃないですかー!」
精霊さん? 妖精さん? に病院行った方がいいって言われる勇者って何なのかしらね。でも確かにミカンちゃんは太らないとはいえ食べすぎなところはあるわ。
私は再びみんなのぐい呑みに獺祭を注ぎ、自分のぐい呑みにも注いでからクイっと飲み干すと最後の一匹、揚げたニジマスをパクリと食べる。
くぅ、たまりゃん!
「安心して! 私がさっきから腰掛けているこれに注目! このテントを借りた時、私とミカンちゃんを見てレンタルサービスしてくれたクーラーボックスです! 中身は道中のスーパーで購入したお酒と軽く調理すれば食べられる食材満載です」
ミカンちゃんの拍手、そしてデュラさんの私への賞賛の声。やっぱりこの三人+αで飲むのたのしー! ニケ様も来たらいいんだろうけど、とりあえず部屋にお湯を沸かしたポットとカップ麺置いてるから大丈夫でしょう。
「金糸雀ちゃん、お誘い嬉しいけどー、そろそろ私の川が心配なのでお暇しますねー!」
「あ、残念。お酒の味が分かるナーイアスさんと飲めて楽しかったです!」
「私もでーす! お礼にこの地にいる間、お酒がいつも適温で飲める魔法与えちゃいまーす!」
えぇ、そんなのいいのにぃ! ありがとうございます!
ナーイアスさんはテントの外に出ていく、すると元の世界に帰って行ったみたいで、私の部屋みたいになってるわね。
いつもの三人になった事で再び獺祭をみんなのぐい呑みに注ぐ。夜は長いわ、そして明日は運転代行を呼ぶの忘れないようにしなきゃ。
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