第99話 忍者とチキンラーメンと深山葡萄(葡萄リキュール)と
土曜日の午後ってどうしてこんなにお腹がすくのかしら……とはいえ何か買いに行くのも作るのも面倒。デリバリーは高いしあんまりミカンちゃんとデュラさんのいる家に頼みたくないのよね。
「おぉ! おぉ! ひよこちゃんのどんぶりなりぃ!」
また何を買ったのかしら……日清チキンラーメンのマスコットキャラクターのひよこちゃんね。最近ではなんかぶっ飛んだ事をしはじめてSNSでも人気の……チキンラーメンか、最近食べてなかったわね。ミカンちゃんの事だから多分この丼でチキンラーメン食べるつもりなんでしょう。
「ミカンちゃん、チキンラーメン買ってきた感じ?」
「当然と勇者は自信をもって言えり!」
5袋パックを買ってきたので私達も食べれるわね。じゃあ……
「今日はみんなで各自チキンラーメンのアレンジして呑みましょうか!」
ガチャリ。
今日は誰が来たのかしら? 私が玄関に向かうも誰もいない? 気のせいかしら?
「かなりあ危なし!」
キン! とミカンちゃんが何者かと対峙、そこにデュラさんもやってくる。そこには黒い装束を纏った。
「忍者?」
「せ、拙者は忍者ではござらん!」
うん絶対忍者ね。クナイを逆手に構えて、何処に出しても恥ずかしくない忍者。でも忍者って司馬遼太郎の創作じゃなかったかしら?
「私はこの家の家主の犬神金糸雀です。貴方は?」
「拙者は、エリザベルト国境付近にある小国の行商人でござる」
あぁ、異世界の人なのね。で、その恰好で行商人は無理があるわ。でもそういう事にしておきましょうと思った時、
「どこからどうみても忍者なり」
「うむ、これほどまでに忍者らしい忍者はおらぬであるな」
異世界組からしても忍者なのね。忍者いるんだ。というか恰好どうにかしなさいよ。ミカンちゃんとデュラさんにそう言われ、くっと忍者さんは膝を折る。
「見破られるとは……かくなる上はここで自決し」
「はいはいはい、忍者さんストップ! ストーっぷ! 私達は忍者さんの正体が忍者とわかっても特にそれを口外するような事はしませんし、むしろ今から飲もうと思ってたのでこんな所で死なれると困りますよ。忍者さんもご一緒にどうですか? ちょっと美味しい葡萄酒というか葡萄リキュール貰ったので」
私はドンと深山葡萄の一升瓶を見せる。ワインはミカンちゃんとデュラさんもよく飲んでるだろうけど、葡萄リキュール系はきっと初めてよね。日本は法律の問題で葡萄の果実酒が作れないのもあってわりと飲む機会ないのよね。
「飲み方どうする? ストレート、炭酸、お湯、ロックなんでも美味しいわよ!」
今からチキンラーメン食べるからここは、水割りかロックかソーダ割りがベターかしら。
「勇者しゅわしゅわー!」
「我は水割りで」
「忍者さんどうしますか?」
忍者さんはまさかの一言を私に言う。本当に想像していなかったというか盲点の一言。だったのよね。
「果物を凍らせてそのお酒を注ぐと美味しそうでござるな!」
あるんですよね。ミックスベリー……ちょつとグラノーラに足しておしゃれ女子大生しようとか思っていた時代が私にもあったのよ。
でも、普通にご飯とお味噌汁や、トーストと目玉焼きの方が美味しいから秒で使わなくなり、冷凍保存しているんです。
「忍者さんはベリーカクテルですね。じゃあ私はどうしよっかな……とりあえずオンザロックで飲もうかな」
全員分のお酒をそれぞれ用意すると、ひとまず乾杯よね。グラスをコツンと合わせて、
「じゃあ乾杯!」
かんぱーい! とんぐんぐとみんなそれぞれの好きな飲み方で……いやん、超甘くておいひー! 葡萄のお酒って言うだけでお洒落なのに、ジュースみたいに飲みやすいとかもうずるいわよね。
「うきゃあああ! うみゃあああ! かなりあお代わりかもー!」
「ハハッ、なんと言う美味さか……我感激である」
「甘露甘露でござるな……かような酒が存在するとは……」
ミカンちゃんのお酒を作りながら、私はチキンラーメンの袋を四つ取り出すと、ドンブリと共に冷蔵庫にある食材を適当にテーブルに並べた。
「厚生省が特殊栄養食品、妊産婦の健康食品と推奨までしている袋麺で最も素晴らしいラーメン! すぐ美味しい。凄く美味しい! チキンラーメンよ!」
「うおー! うおー! 勇者、この世界でチキンラメーン程の衝撃はなし!」
「煮込んでぐずぐずになっても美味いであるからな」
もうこの二人、日本に染まりすぎでしょ。でも、チキンラーメンの美味しさは天井知らずよね。お湯にさえ気をつければ小さい子ですら作れてしまうし。
「保存食でござるか? 芳しい香り、このままかぶりつきたいでござる!」
「それはねー。また別のチキンラーメンがあるんですよ! 今回はお湯を入れて作るんですが、色々材料があるので、好きな物を入れて食べてくださいね!」
「心得た!」
私たちのチキンラーメンアレンジ合戦が始まったわ。ライバルと呼べるのはデュラさん、貴方くらいね! 私が生まれてこの方どれだけチキンラーメンを食べたと思っているのよ! デュラさんも私の視線を見てビートが上がってきたわ。
「勇者は卵! キムチ、チーズ、そしてウィンナー也ぃ!」
王道・ザ・王道の卵のみにミカンちゃんは一般的にそれ絶対上手い奴を贅沢に使う。チキンラーメン・インペリアルザロード。うん、ほんと子供なんだから、私のトッピングは……あえて卵を使わずに、トマトジュース、タバスコ、そして水で鍋に火をかけて沸騰するとチキンラーメンをイン! 粉チーズをかけてチキンラーメンナポリタンよ!
「ほぉ、見事であるな金糸雀殿。が、それはチキンラーメンである必要性がないと我は思う。故に、我は札幌風チキンラーメンである! 札幌行った事ないであるがな!」
や……やられた……私は自分の料理スキルを無駄にひけらかしてたのね。青のりにガーリックチューブ、バター……素晴らしいチキンラーメンよ。デュラさんの優勝ね……
「おぉ、この冷やっとした甘い物が合いそうでござる! うん、うまい!」
嘘でしょ……誰か嘘って言って! 忍者さん、チキンラーメンにバニラアイス落としたんだけど……しかも美味しいとか言っているんだけど、
「勇者、忍者のラーメン食べてみたいかもー! 勇者のとちょっと交換を希望なり!」
「どうぞどうぞでござる! では、こちらもいただきます! おぉ、うまいでござる!」
ミカンちゃんが忍者さんの作ったヤバめのチキンラーメンを一口食べて……
「うんみゃああああああ! 勇者これ好きー!」
嘘でしょ……それに釣られるのはデュラさん、料理に対して貪欲すぎるでしょ……
「わ、我にも一口いただけぬか」
「悪魔さん、どうぞどうぞでござるよ! そちらのも頂くでござるな!」
デュラさんは自らガランティーヌ(フランス料理ね)を作るくらい美食家であり、料理にはうるさいハズ……そんなデュラさんが美味しいだなんて……
「わ、私もいいかしら忍者さん」
「素人料理でござるよー! まぁ、下忍の中では料理番ではあったでござるがな」
料理に精通している忍者さんなのね。というか自分で思ったけど凄い言葉ね。チキンラーメンにバニラアイスなんて……忍者さん、アンタがナンバー1や!
こんなに美味しくなるの……意味が分からない。
小皿を配って各自のチキンラーメンをシェアしてオツマミにする。なんてみすぼらしく、かつ素敵な飲み会。チキンラーメンの塩っからさに、深山葡萄の甘さが引き立つわ。この地味に喧嘩しそうな組み合わせだけど、チキンラーメンといえば濃厚なチキンスープ、フレンチでも白ワインやスパークリングワインを合わせるから、奇跡のマリアージュね。
「どれも今まで食べた事のない料理でござる。ここはエリザベルト領ではないと……」
「いまさらですねー、ここはなんか異世界からの人たちが何故か迷い込んでくるんですよね。ミカンちゃんとデュラさんは色々あって居候です。グラス、空ですね! どうですか? もー1杯!」
私はちょっとほろ酔いで一升瓶を忍者さんに向けると、忍者さんはグラスを見つめてから手を合わせた。
「これ以上、理想郷にいては拙者の気持ちがゆらぐでござる。遠い地、果てしなく遠いノビスの街までこの文を届ける事が拙者の役目、幾たび命を魔物に狙われ逃げ出そうと思ったが、決心がついたでござる! これより、拙者。修羅に入る! ご馳走様でござる!」
そう言って、忍者さんは印を組むと私の扉を開き、どろんと消えた。忍者さんの信念と愁いを帯びた瞳を私は一生忘れる事はないだろう。と思ったのだけど……
「して、勇者よ。エリザベルト領のノビスの街といえば忍者殿の言う国境付近から目と鼻の先ではないか?」
「うん、アマゾンよりもアナログ回線よりも速く届くなり!」
要するに忍者さん、びっくりするくらい方向音痴なのね。忍者やめて料理人になりなさいよ。残り1つ余ったチキンラーメンはバリバリに砕いて本日の夜のお鍋のシメにおじやにしたわ。珍しく誰もこないと思ったら、シメの最後の1杯を食べた辺りで、ニケ様いらしましたわ。
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