第98話【6万PV感謝特別編】魔王様と吉野家とせんべろと

天道ひなです。魔王様が家に住み着いてしばらく経つのですが……とんでもない事が起きました。本日魔王様が吉野家の日本酒を飲んでみたいというので、昼のバイト明けに近くの吉野家前で魔王様の待っていたら、

 

「やっほー! ちゃんひな! 何してんの? 牛丼食うの? ウケるー!」

 

 いろはさんに遭遇してしまいました。いつもおもしろおかしく生きていて、楽しい人だし、仕事中はとても頼りになる先輩なんだけど……

 魔王様と会わせてはいけない気がしてならない。多分、絶対にややこしい事になるので……

 

「あぁ、いやーそのいろはさん。今日は、その人と会う約束があるんですよー。それじゃあ!」

 

 一旦ここから逃げよう。そうしようと思った矢先、すっごく楽しそうな顔をしていろはさんは親指をあらぬ方向に向けてる。

 嗚呼、嫌な予感がする。

 

「あのイケメン知り合いでしょ? 名前呼んでるぜぃ!」

 

 信号の向こう側から見知らぬお婆さんのリュックを運んであげている優しい魔王様が満面の笑みで手を振りながら「クハハハハ! ひなー! 余はここであるぞぉ!」と叫んでいるんですよね……

 

「えぇ、まぁ……知り合いですね」

「すげぇ原宿ファッション? マントしてんぢゃん、ちゃんひなあーいうのが趣味なのかい? まぁいいや! ボクにも紹介してくれよぅ!」

  

 あぁ、国の母さん御免なさい。混ぜるな危険を混ぜてしまいました。自信満々に魔王様を待ついろはさんと、信号が青になると横断歩道をずんずんとわたってくる魔王様。

 

「男前のアンタ、ありがとうね? 私もあと二十年若かったら口説いてたわ」

「クハハハ! 余はモテモテであるからな! では気をつけて行くのだぞ!」

 

 魔王様はお婆さんにそう言うと少年のような表情で私を見つめる。そしていろはさんを見て、

 

「ひなよ。この者は何者だ?」

「ボクかい? ボクはひなのパイセンにして友達だぜぇ! 君こそ誰だい? くっそイケメンじゃんかよ!」

「クハハハ! 余はザナルガラン、闇魔界の支配者。魔王アズリエルである! して、ひなは余の可愛い家来である」

 

 あー、言っちゃった。絶対いろはさんにいじられるやつじゃん……と私は全てに絶望してたら。

 

「そなんだー! よろよろー! で、アズリエル君はひなと吉牛デートかい?」

「クハハハ! 吉牛の日本酒が美味いとてれびでやっておった! そして安い! 貧しいひなとしても旨き物を好む余としても悪くない選択である!」

「へぇ、できた魔王様じゃん! よし! じゃあボクもご一緒していいかい? それともお邪魔かな?」

「クハハハ! よい! ひなの友人であれば余の家来である! 共に行こうぞ!」

「えー、ボクは家来じゃなくてアズリエル君、君の飲み友だぜぇ!」

 

 なんだかバトルの予感が……と思ったけど、魔王様。いろはさんを見て、手を自分の顔に当てて大爆笑。

 

「クハハハハ! 面白し! 許す! 余に友と呼べる者は女神ニケ、精霊王、そしてあった事はないが勇者くらいであろう。いろはよ! 喜ぶといい! 貴様は余の友達である!」

 

 す、すげぇ! いろはさん魔王様の友達になっちゃったよ……私たちは吉野家に入るとお店ではサラリーマンや学生達が取り憑かれたように牛丼を食べている。

 

「うっわー! 吉牛久しぶりすぎて上がるなー! 帰りにイフちゃんに牛丼買っていってあげよ」

 

 とかいろはさんが言っている間に私達が三人客だと知ると、テーブル席に通され、

 

「ご注文の方は?」

「クハハハ! 吉牛の日本し……」

「アズリエルくん、ちょい待ちだぜ! ここはまずビール3だぜJK?」

「今日はひなとせんべろである。ビールををキメると800円、日本酒を頼めばツマミが減るではないか?」

 

 不穏な空気が、

 

「ま、魔王様。ちょっとくらいのオーバーは全然大丈夫ですから……」

「ならぬ! 1000ベロとは1000円でいかに楽しめるかという興のある飲み方ではないか、余はルールを守ように家来達に話しておる! 余が守らぬのはならんぞ!」

 

 なんてできた魔王様……でもいろはさんには通用しなさそう。

 

「えらい! アズリエルくん! 偉いぞ! でもあれだね。日本酒を飲む通過儀礼さ、とりあえず生! グラスは222円で飲める。なら飲もうじゃないか! そして日本酒は376円。残り402円。ここには三人いるんだぜ? ✖️3は1206円。おつまみパラダイスさ!」

 

 魔王様は、ん? という顔をしている中、いろはさんは

 

 ネギだく、牛だく(半額の為2つ)、銀シャケ、キムチ、納豆、ネギラー油、のり、ポテトサラダ、あさり汁を頼む。持ってきてもらう順番はあさりの味噌汁は一番最後に頼む形。

 

 

 魔王様が目を瞑って少し考えると、

 

「25円余っておる! いろはよ! 見事なり!」

「ウェーイ! んじゃビールで一杯やろうぜ」

 

 私達はビールを掲げると、

 

「「「乾杯!」」」

 

 グラスビールだけどぐいっと飲み干さない。小料理屋のように吉牛を使ういろはさん、何者だろう。

 

「ぷっはっああああ! うんまぁああ!」

「クハハ! 美味い! ポテチサラダがよくあう!」

「キムチとポテサラが最初なのはビールに合うからですか?」

「そうだぜぇ! あとネギだくもね! 牛だく、ネギらー油、銀シャケはどっちでもおけ、納豆、のり、あさり汁は日本酒がベストさ!」

 

 ぽりぽりとキムチを食べて魔王様が笑顔で頷く。

 

「クハハハ! いろはよ。余の魔王城にて雇いたい程の軍師である! 褒めて遣わす!」

 

 小鉢をシェアしているので割とすぐなくなるけど、ビールもちょうどなくなった所で、

 

「じゃあアズリエル君、お待ちかねの吉牛の日本酒さ! こいつはうめーぜぇ! ほい一献! ちゃんひなも!」

「うむ!」

「あ、ありがとうございます! じゃあ、私も」

 

 いろはさんにお酌をして返盃。お猪口でコクンと飲み、へぇ、普通に美味しいですね。日本酒ってあんまり私は飲まないんですけど、魔王様は大好きなんですよね。

 

「ほぉ、ほぉほぉ! これは美味いな! クハハハハ!」

「本当、いい酒出すよねぇ、飯屋で飲めるなら十分だよ」

 

 牛だくで一杯。牛鍋食べてるみたいだなぁ。美味しい。魔王様は銀シャケを食べてニコニコ。いろはさんは私達二人を見て、

 

「二人は一緒に住んでるんでしょ? どうなの? どこまで進んでるんだい?」

 

 ゲスいなぁ……

 

「そういう関係じゃないですよー!」

「えぇ、でも若い男女が同じ屋根の下だぜぇ!」

 

 魔王様はのりに納豆を巻いてパクリと食べて日本酒を一口。「うまい!」と一言話すと、

 

「ひなは家来であるからな! 余の伽の相手は対等な者でなければならん! 例えば、いろは、貴様であるな! クハハハ!」

「えっ……そう言う……やるじゃんアズリエル君! 気に入ったよ! 飲もう!」

「クハハハ! 余もいろはを気に入った! 飲むぞ!」

 

 凄いなぁ。量を飲むんじゃなくて、今ある材料だけで最大限楽しめるんだもん。これがお金持ちなのかもしれないな。私とかお金なくてもイライラする時とか、ストゼロ買い込んで飲んじゃうのに……

 

「あさり汁お待たせしましたー!」

 

 お酒もあと僅か、おつまみも綺麗に無くなったところでお味噌汁がやってきた。これは〆と言うわけではないんですよね……

 

「アサリ汁は日本酒の最高のつまみなんだぜ! ちょっと飲むじゃん? でアサリの実を食べて、日本酒をちびり、はい楽園」

 

 何その貝の酒蒸しみたいな食べ方……ちくしょう。美味しいじゃないですかぁ! 三人でシェアする事でいろんなおつまみを食べれて私達は満足。そしてお酒あんまり回っていない。

 

「あっ、牛丼並四つねー! 一つはお持ち帰りで! ここはボクが奢るさ! 牛丼屋きて〆に牛丼食わないとか冒涜だかんね」

 

 私は一食浮いた事に感激しながら牛丼をかっこんだ。あぁ、美味しい吉野家。確かにせんべろも楽しいけど、吉野家は牛丼食べに行く所ですよね! そう、向かい合った相手といつ喧嘩が始まってもおかしくない殺伐な状態で牛丼に紅生姜をどんどん乗せていき、真っ赤に染まった牛丼を食べて出ていくお店なんですよ! 

 

「ん? 二人ともなんですか?」

「ひなよ。余は家来の食癖にとやかく言うつもりはないが、それはやめよ」

「……うん、ちゃんひな。ちょい引くぜ?」

 

 えっ? 皆さんは牛丼に紅生姜を真っ赤に敷き詰めて食べないんですか? これって普通ですよね?

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