第97話 王宮料理人とハイローラー(BLT)とタンカレーNo.10と

 本日、いろはさんがコストコに連れていってくれたのでヒナさんの分もみんなでシェアして日用用品が安く手に入ったわ。キッチンペーパーとトイレットペーパーの大きい事。あれなら年間費を払ってもいいかもしれないわね!と思ってしまったけど、私は貧乏学生。年間数千円も払っていられないわ。でもちょっと食材とかも魅力的だったわ。

  ミカンちゃんとデュラさんにお土産と本日の食事を買っちゃったわ。お腹空かしているだろうからいろはさんのお誘いを今回は断って足早に家に帰る私。

 最近はデュラさんの料理スキルが凄いから何か作ってくれる事もあるんだけどね。

 

「たっだいまー! 二人とも荷物入れるの手伝ってー!」

 

 いろはさんに借りた折りたたみ台車を使って大量の日用品と購入した物の運び込みをデュラさんとミカンちゃんにお願いする。

 

「おぉ! おぉ! こすとこおぉ! 勇者知ってる! やる事のないテレビ局が度々買い物してる番組してるー!」

 

 うん、最近はテレビも撮影費用とか大変なのよ。経営学を学んでいる私からすればテレビ番組がどこも似たり寄ったりの番組をしているのはme too戦略と言って正しい選択なのよ!

 

「我も一度見てみたいものであるな! 魔王様の食物庫に匹敵するというコストコ倉庫」

「ウフフ、魔王様の食物庫どんだけ大きいのよ! あっ、これ二人にお土産! ミカンちゃんはカロリー振り切っている1キロポテチ」

「うぉおおおお! かなりあぁ! ありがとーーー! 勇者感激なりぃ!」

「そう? よかったわ。デュラさんにはこちら! サーモン塩辛」

「なんと! 鮭のクリームパスタが簡単にできるというアレであるな! 金糸雀殿。かたじけない……」

「いえいえ、欲しがってたもんね? それにデュラさんのご飯も美味しいので期待してまーす!」

 

 私? 私へのお土産というか、

 

「これ、みんなで食べようと思って買ってきたの! アメリカのラップサンド。ハイローラ(BLT)よ!」

 

 なんだろうケンタッキーのツイスターを一口大にして中の具がBLTサンドって感じね。これは炭酸系のお酒が合いそうね。兄貴のリカーラックを見て私はこの料理に合いそうなお酒を取る。

 

「プレミアムジンでジントニックを作りましょうか?」

 

 普段飲んでいるタンカレーの隣にあるタンカレーNo.10。そのボトルを取ると、グラスを人数分、そしてロックアイスとトニックウォーターにライムを用意する。

 

 ガチャ。

 

「すみません、迷ってしまった。少し宿をお貸し頂けまいか?」

「はい、どうぞ! 入ってください。あー、靴はちゃんと脱いでくださいね」

「助かった」

 

 そこに現れたのは恰幅のいい男性。何やら木製の箱に道具を持っているらしい。見た感じ帽子といいコックさんってところかしら?


「こんにちは、私は犬神金糸雀です。この家の家主ですが、貴方はコックさんですか?」

 

 私がそう聞くと男性は首元から何やらメダルを取り出して私たちに見せてくれた。

 

「王宮料理人のリコピンと、宿のお礼で何かお作りしましょう。厨は?」

「厨房はそこですよー!」

 

 そう、ガス、電気の調理器具を見てリコピンさんはポカーンとした顔をする。そしてガスコンロを捻って。

 

 しゅぽっ!

 

「おぉ! 魔法刻印が見当たらないコンロ、一体どういう仕組みなのか……これは蛇口か? み、水が無限に出てくる……」

 

 料理人からすれば私たちの世界は本当に脅威でしょうね。私はティファールでお湯を沸かし、IHヒーターでフライパンも使える事を教えるとリコピンさんは戸惑いながらも手持ちの材料で料理を作ってくれた。


「干したリザードの肉を塩味で味付けし、ハーブを効かせたスープだ。さぁ、遠慮なく!」

 

 ミカンちゃんが何処で買ってきたのか、海軍カレースプーンでリコピンさんの作ったスープを飲んで、

 

「まずい!」

「そんなバカな! 王宮料理人のこの私が……」

 

 デュラさんも一口。

 

「うむ。金糸雀殿の料理に慣れたせいか、うまくはないであるな。これはコンソメを入れるか中華スープを入れるである」

 

 そう言ってデュラさんが料理に手を加えて、この前残ったカブなんかをさっさと入れてひと煮立ち。

 

「食べてみるといい!」

 

 ミカンちゃんはそれを一口「うんまぁい!」そして私も一口「あー、美味しいですねこれ」と口にするのでリコピンさんは、デュラさんの作ったコンソメリザードカブスープを飲んで……

 

「完全に私の料理を凌駕している……」

 

 カランとスプーンを落として放心しているリコピンさんに私は慰めるようにグラスを差し出す。タンカレーNo.10で作った私の中では最高のジントニック。

 

「リコピンさん、まぁそんなに気を落とさないで、こっちの料理の味を盗んでいってください。それと今から飲み会なんでリコピンさんもどうですか?」

 

 リコピンさんはジントニックを前に香りを嗅ぎ、これもまた飲んだ事がないお酒だと分かると、少し苦笑した。

 

「不思議な場所ですな。悪魔と勇者とそして金糸雀さん、貴女という一番不思議な人が一緒にいる場所。おそらく夢、あるいは異空間か、料理の真髄を極めようとしている私からすれば願ってもない! エリザベルト王国に更なる美食を求めて、乾杯!」

 

 あら、乾杯の音頭取られちゃったわ。

 

 私達はかんぱーいとグラスをカツンと合わせてジントニックをぐいっと飲み干す。さすがはNo.10。いつものタンカレーとは全然違うわね。

 

「うきゅううううう! うんみゃああああああ!」

「さすが、金糸雀殿のジントニックは絶品であるな!」

 

 私の部屋にはジンも色んな種類がストックされてるけど、普段はタンカレーとブードルスが多いからたまには今回みたいに違うジンに浮気するのもありね。

 

「金糸雀さん」

「はい、どうですか? お口に合いませんでしたか? ボタニカルが割と苦手って人もいますからね……」

「いや、これは酒だけで完成してるよ……こんな酒に合わせられる料理、思いつかなくて」

 

 自信を喪失するくらい美味しいって事ね。私はコストコのハイローラーを小皿に取ってみんなに配る。

 

「リコピンさん、そう思える事って大事だと思いますよ! 私、あんまりこの言葉好きじゃないんですけど、きっとこれ以上は無理だって思える時、人は成長するんじゃないでしょうか? 私はこのジントニックってカクテルを作るのが得意なんですけど、今回は少し趣向を変えて作ったんです。いつも使っているトニックウォーターではなく、キナのエキスが入った苦みのあるトニックウォーターで作ったイギリスという国の本場のジントニックなんです。さぁ、このお酒にハイローラーを合わせてみてください」

 

 あぁ、なんか従姉妹のお姉ちゃんがバーメイド(女性バーテンダー)やってるからその受け売りをまんま言ってみたんだけど、なんか私かっこよくない?

 

 ミカンちゃんとデュラさん、そしてリコピンさんがコストコのハイローラー(BLT)を口にする。私も初めて食べるんだけど、かなり人気商品っぽいのよね。

 

「うみゃあ!」

「ハハッ、これは美味い」

「……なんという事だ」

 

 みんなそれぞれ味わってるので私もいただきまーす!

 

 あっ、

 

「これおいしー! なんかあのコストコ特有の海外っぽさがないわね。普通に美味しいわ。ジントニックが……あうー!」

 

 かー、美味しい。何これ? トルティーヤ生地にトマト、ベーコン、レタスって神かよ……私はここに禁断の……

 

「ハイロールにチーズを乗せて焼きます」

 

 料理人のリコピンさんはもちろん、デュラさんに、ミカンちゃんですらそれがヤバい事に気づいたみたいね。生のサンドイッチなのにそれをあえて焼くというこの所業。

 

「みんなグラス空ね? 2杯目作るからグラスも回収するわよ!」

 

 トントントンと三人のジントニックを作り、オーブントースターで焼かれていくハイロールを見つめる。

 

 チン!

 

「はい、できた! お好みでタバスコやアンチョビ乗せて食べてみて」

「これは……食べなくとも分かる。これ、絶対美味いやつ!」

 

 リコピンさんがキャラ崩壊する程のカルチャーショックなのね。まぁ、でも説明ありがとう。完全にこれ絶対美味いやつよ。

 

 

「じゃあ、せーので食べましょうか?」

 

 せーの!

 

「んんっ!」

「ふほっ!」

「うんみゃああああああ!」

「かー! 美味し!」

 

 当然というべきか、本来冷たいラップサンドにチーズをトッピングして焼いただけなのに、美味しすぎるし、熱い方がジントニックによく合うわ。

 

「お代わりなりぃ!」

「うむ、我も」

「私もよろしいか?」

「おけおけ! 私ものもー!」

 

 私達はハイロールを食べ続けた、そしてタンカレーNo.10で作ったジントニックを溺れる程飲み私達は肩を組んで歌い飲み明かしたわ。

 リコピンさんは色々学ぶ事もあったと喜んで私の部屋から元の世界に戻って行った。

 そして来る我らが勝利の女神様。

 

「こんばんわ! うーんいい匂いですねぇ! 本日はなんですか?」


 私達は空になったタンカレーNo.10の瓶と食べ終わって何もないハイロールの容器。私達は顔を見合わせて……

 

「…………あのリザードのスープがあります」

 

 リコピンさんの作ったクソまずいスープとストロング系酎ハイを与えたあと、私達は久しぶりに朝方までと言わず、次の日のお昼頃までお説教をされました。女神様のお供えというのはちゃんと残しておくべきであると、数え始めてから25回、口を酸っぱくして言われ続けたわ。というかお供物ってこっちが誠意でお供えする物であって催促するものじゃないのよ……日本とかこっち側の世界ではね

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