第96話 ファフニールと桜エール(網走ビール)と桜餅と
はい、墓守のアルカンさんが守っているというファフニールさんがやってきたのだけど……デュラさんとミカンちゃんのビビり具合からガチ系の人(?)なんでしょうね。でもアルカンさんは……
「またまたぁ、ファフニール様は伝説の破滅竜ですよ! ずーっと昔にいたかもしれないというそれはそれは凄いドラゴンです! さらに言えばお嬢さんの様に狂おしい程愛らしいわけがないじゃないですか!」
「……………ッ!」
すっごい嬉しそうなファフニールさん、そりゃあ自分の事をよく言われれば私もあんな感じにニチャるかもしれないけど……でもファフニールさんとっても可愛いのは可愛いわね。ザ・不思議の国のアリスね。
「こんにちはファフニールさん、この家の」
「貴女が金糸雀さんね! レヴィアタンから聞いてるわ! ドラゴンの中でも有名よ!」
へぇ! へぇへぇ……え? レヴィアタンさん一体何を仰ったのやら……殆ど家にいながら名前だけが一人歩きしてるのなんか不安ね。ミカンちゃんとデュラさんをチラリとみるファフニールさん。
「勇者と悪魔? ふふっ、時代が進むとそれぞれ質が落ちるわねー!」
「ゆ、勇者はナンバーワンじゃなくてオンリーワン目指している勇者だから……」
「わ、我も安全第一を掲げている魔王軍であるから……」
「何それ! ぬるま湯かしら? 昔の勇者や悪魔は凄かったのよ! ドラゴン相手でも平気で喧嘩売ってきたんだから!」
そう、しばらくファフニールさんは昔は良かった昔は良かったとそんな話をする。自分のあまりの美貌に種族の垣根なく婚姻を迫られたり、機嫌一つ悪くなれば厄災として国一つ滅ぼした的な話。
う、うぜぇ。
あれね。飲み屋に一人は必ずいる車の話と女の話と昔悪かった話ばっかりする古参おじさんみたい。
ミカンちゃんの眉間に皺が増え始め、魔王も見る目がないと上司の悪口を言われたデュラさんは目に見える程の瘴気を放って……あぁ、もう! 二人とも煽り耐性低すぎ。ニケ様のお説教で鍛えられたハズなのに。
「ファフニールさん! お酒飲みませんか? さっき食事取ったばかりなのでデザートにも使えるお酒と、はい! 東西桜餅です!オヤツ的な物になりますけど、甘い物はファフニールさんお好きですか?」
「えぇ、大好きよ!」
という事で、私は冷蔵庫から二つの和菓子を持ってきた。一つ目は長命寺。それを見たデュラさんは「おぉ! 桜餅であるな!」と、かたやミカンちゃんは「えぇ、勇者がこの前買ったのとちがうー」という事で、道明寺を見せると「ああー! それー! 勇者の買ったさくらもちこれー!」はい、元祖桜餅の長命寺と、シェア率80%強。誰もが知っている桜餅、道明寺。
「関東圏は長命寺と道明寺がどっちもあって関西圏やその他地域は道明寺が多いみたいね。製法が違うけどどっちも美味しいわよ!」
長命寺を食べた事がない人は是非食べてもらいたいし、道明寺を食べた事のない人も是非食べてもらいたいわね。どっちも良さしかないから。甘い和菓子に合わせるお酒。日本酒? ノンノン、まさかウィスキー等のスピリッツ? ノンノン。
「はい! じゃあ桜餅風味のビール。網走ビールの桜エールで乾杯しましょ!」
クラフトビールコレクターの兄貴の部屋に春季限定のお酒が届いたのでありがたく頂こうと思っていたんだけど、丁度いいわね。葉桜になっちゃったけどお酒とお菓子で桜を思えるのもまた風情かしら。
「じゃあみんなのグラスに注ぐわね」
このビールの素敵なところは、色が桜のピンク色なの。エールなのに桜風味。もうね。来年の桜が今から待ち遠しいわ。
「うわぁあああ、綺麗ね金糸雀さぁん!」
エプロンドレスのファフニールさんが頬杖をついてその様に長い溜息をつくのなんか絵になるわねぇ。凄い少女少女した感じなのに破滅のドラゴンって異世界は分からないわね。全員のグラスに注ぎ終えると、グラスを掲げて。
「じゃあ、ファフニールさんとその墓守のアルカンさんとの初出会いにかんぱい!」
かんぱーい! と綺麗な色の桜エールを一飲み……うーん、これ意外とエールね。ほのかに桜風味がするわ。実はもっと桜餅みたいな桜ビールも世の中には存在するんだけど、甘い桜餅には少し苦味があるクラフトビールの方が合うのよ。兄貴がショートケーキおつまみにビール飲んでるのバカにできないわね。
「あら! あらあらあら! 美味しいわ金糸雀さん!」
「あははそりゃよかったですよ。まだまだあるので遠慮せずにどうぞ」
アルカンさんはさっきと同じで無言で感動している。デュラさんは口に含み味を確かめて「ほぅ、こんな麦酒があるとは……美しい」だなんて言ってるんだけど、ミカンちゃんは……
「勇者と桜のエールとの2ショットなりぃ! うんみゃあああ!」
インカメラじゃなくてアウトカメラで自撮り撮影する今どきの子、映える写真なんでしょうね。ミカンちゃん、無駄に可愛いから。
「じゃあ桜餅もどうぞ! 東西食べ比べしてみてください! 製法が違うのに味わいが同じで凄いですよー!」
私は実は桜餅のイメージといえば道明寺なのよね。ママが西の方の人で子供の頃は道明寺ばかり食べさせてもらってたの。友達の家とかでは長命寺をよく食べさせてもらってたので、桜餅ってそもそも二種類あると知ってたわ。
まずは長命寺から、このサクッと切れて口の中で溶けるような桜餅に桜エールを合わせると……私とミカンちゃんは目があった。
「「うんみゃああああああああああ!」」
はぁ、甘いは正義。甘いは美味しい。甘いは幸せね。ファフニールさんは長命寺を上品に切ってパクリ。ゆっくりと咀嚼してから桜エールをコクンとワインでも飲むように……
「あらあらまぁまぁ! 金糸雀さん、私と世界滅ぼしませんこと?」
「あはは! 美味しかったんですね。滅ぼしません。道明寺もどうぞ」
「こんな美味しいもの沢山食べていいのかしら? でも遠慮なく……あら、もちもちと吸い付いてきて瑞々しいのね。先ほどのと比べて口に残るのね。こちらも美味しいわ」
なんだろう。お茶菓子食べながらお酒を飲むこの会、私はなんだかちゃんとした女子会とは無縁なのかもしれないわね。ファフニールさんはとてとてとてと私の元に来ると、私の膝の上に座る。えっ? ちょっと可愛いんですけど!
「金糸雀さん食べさせて、あーん」
「えぇ、ファフニールさん甘えん坊ですねぇ」
私はどうやらイケメンや美人以外にも可愛い者にも非常に弱いらしいです。ニヤニヤしながら私は一口大に切った長命寺と道明寺をファフニールさんい、
「はい、あーん!」
「うーん、美味しい! かつて私を鎮める為に世界各国の美味しい物を用意させたのだけど、その中でも五本の指に入るわ!」
「そうなんですかー」
「えぇ、そうよ! ミードの4000年物だって用意させたんだから!」
出た! ミードの4000年物! と私は女子会の女神様達を思い出した。あぁ、これフラグじゃんとか思ったら。
バタン! と玄関の扉が開かれ、ニケ様がやってきた。
「金糸雀ちゃーん! ふふふ、イシュタル様をギャフンと言わして……なにと一緒に食事をしているんですか! 金糸雀ちゃん!」
何って破滅の竜ファフニールさんですけど。実は本当にヤバい系の人なのかなとか思ったけど、まぁニケ様関係ならそんな事ないでしょう。
「あら、いつも私が羨ましくて泣いて帰って行った駄女神のニケじゃない。プププ、もしかしてまた私に泣かされに来たのかしら?」
しょーもねー……でもミカンちゃんとデュラさんの先程までとファフニールさんを見る目が変わった。
「ゆ、勇者。破滅の竜の自慢話もっと聞きたいかもー」
「わ、我も我も」
この二人、天秤にかけてファフニールさんの方がマシだと思ったな。ほら、ニケ様泣きそうじゃない。なんとかしなさいよ!
「に、ニケ様も桜エール飲みますか?」
のけものにされて泣いて帰ってしまいそうな感じのニケ様に私は助け舟を出すのでニケ様はだんだん笑顔が戻っていく。ほんとこの女神様。素面だと美人なのに……お酒やめなさいよ。
しばらくファフニールさんの自慢話とニケ様の説教がを聞いて私たちは混ぜてはいけない組み合わせについてとても賢くなった。そんな桜が散った日。
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