第72話 ピポグリフとうまかっちゃんとサッポロラガービールと

 こんばんわ、犬神金糸雀です。飲んだくれのように思われがちですが、私の本業は学生で現在将来の為にとある資格試験の勉強中なわけですが、当然と言うべきか、勉強時間は夜間帯か早朝になります。いかにして睡眠時間を稼ぐかと言うのが私のスタンスなので、結果的に夜中に勉強する事になります。

 夜中に勉強をするとどうなるか? はい、めちゃくちゃ……


 要するに小腹が空いたのよね。深夜ってなんでこう小腹がすくのか分からないけど、深夜の間食は罪作りで自分に間違いなく返ってくるのに美味しいから止められない。コンビニに行く程じゃないんだけど何かないかしら?


 嗚呼、見つけてしまった。カップラーメンより背徳感がないように感じる袋麺。ミカンちゃんがドンキで買ってきたであろう“うまかっちゃん”袋麺なのにわりと本格的な豚骨ラーメンなのよね。ダメよこんなの食べたらファットになっちゃうわ。


 ビリビリと袋を破り、コンロに鍋を置いて火にかける。私の意志に反して身体は正直だったみたいで、気が付けば作り始めていたわ。焼き豚の代わりにハム、ダイソーで売ってた味玉作る容器で作った味玉に炒めたもやしと刻んだネギを振りかけて、最後に紅ショウガをのせると……


「まごう事無きカスタマイズうまかっちゃんの完成ね」


 静かに食べて勉強して寝よう……と思っていたんだけどお手洗いに起きたのかミカンちゃんがこっちをじーっと見てるのよね。


「……それ、勇者の買ったやつー」

「あぁ、うん。お腹空いたからもらったわね?」

「勇者もたべるー」


 ミカンちゃん、加護とかいうチートでいくら食べても太らないのよね。しかたなくミカンちゃんの分も作ってあげると、ミカンちゃんは冷蔵庫から、


「おぉ! きん、キンに冷えてやがるぜなの!」


 サッポロ黒ラベルじゃなくて、まさかのサッポロラガービール。通称赤星を二本持ってきて、「はい、かなりあー」とさもあたりまえのように……深夜に袋ラーメンの時点でアウトなのに、ビールまでってオーバーキルよ!


 プシュ! 意志に反して以下略……私はプルトップを開けた時、ゴンゴンと扉が、私がまさかニケ様? と思ったけど、ミカンちゃんは不敵に笑う。


「あのクソ女神はこの時間は起きてないのー、安心してぷはー! できるかもー!」

「まったくちゃっかりしてるなー、でも誰だろ?」


 私が玄関に向かうと……四つ足のおっきな鳥が……これは、まさか……グリフォン?


「ぴぽぐりふー!」


 嗚呼とミカンちゃんは両手を広げてだきつく。ネットでググるとグリフォンの亜種。馬とグリフォンを交配させた私達の世界で言うところのレオポン的なモンスター? 大きさはライオンくらいでとてもしなやかな身体をしてるわね。


「勇者様、これはこれはこのようなところで何を?」


 ミカンちゃんの知り合いみたいで、

 しかも喋ったーーーー!!


「こ、こんにちはピポグリフさん、私は犬神金糸雀。この家の家主です」

「これは丁寧に、以前勇者様を背に乗せてマグマの川を越える手伝いをしたピポグリフです。今日はグリフォンの群れとお見合いをする道中だったんですが、こちらに」


 合コン前? 


「ピポグリフ、らーめんと麦酒!」


 そう言ってミカンちゃんが別の器に自分のラーメンを半分入れて、ピポグリフさんが飲めるようにビールもボウルにロング缶二本分入れると、ミカンちゃんが缶を掲げて!


「もふもふに乾杯なのー!」

「勇者様かんぱーい!」

「……かんぱい」


 そんなに五月蠅くすると……奥からデュラさんの首がふよふよ飛んできて、「何の騒ぎであるか? おぉ、ピポグリフとは珍しい。そして夜食ですかな? 金糸雀殿」

「あぁ、うん。勉強の合間にと思ったらミカンちゃんも起きてきて」

「はっはっは! あまり根詰めてはならぬであるぞ! して、酒盛りの場であれば我も参加せざるをえない」


 そう言ってサッポロラガーを持ってきてみんなの缶とピポグリフさんのボウルにこつんと合わせる。


「ひゃーーー! なんて美味しい麦酒なんですか! それにこのスープも言葉で言い表せない複雑な味わいで……」

「かがくちょうみりょーの力!」


 食べ過ぎなければインスタント食品の味もありがたい物よね。自家製でもなく、お店で出てくる味でもなく、どこかケミカル感を感じつつも頭は美味しいと認識しちゃうんだから、


「麦酒とラーメンの関係は勇者とかなりあの関係に通じると言えり」


 ずるずるずると麺を啜って、スープをゴクリと、その後にミカンちゃんはんぐんぐとビールを流し込むように飲んで、


「うんみゃい! 切っても切れない縁なの!」

「我の分も無言で用意してくれるあたり、金糸雀殿との縁は切れてもどうにか結たい物であるな!」


 まぁ、そんな風に言ってくれると、悪い気はしないわね。うまかっちゃん、ほんと袋麺の星よね。いつもはサッポロ一番なんだけど、切らしてて良かったわ。それにしてもラーメン屋とはまた違ったこのジャンク感が袋麺のおつまみ感を助長させてくれるのよね。


「細長い小麦粉の食べ物、スープに絡んで永遠にたべてられますね……、人間から食べ物を何度かもらった事があるんですけど、どれにも属さないですし、さすが勇者様のお知り合いの金糸雀様。きっと高尚な賢者様なのでしょうね? 魔物の大幹部まで一緒にいるんですもん。いやー、この何かの卵もめちゃウマです」


 そう食レポをしてくれるピポグリフさん、うんうん言いながらサッポロラガーで喉を潤して楽しんでるみたいね。ミカンちゃんとデュラさんは私の世界に慣れすぎたからか、自分のお箸で器用にずるずるラーメンを啜ってる。


「しかしピポグリフと言うと魔導生物であるからな。我ら魔王軍の軍門にも降らずツガイをえる事もなく、孤独な生き物であるな」


 と遠い目でデュラさんがそんな事を言ってるけど、なんかピポグリフさん合コン前じゃなかったかしら?


「いやー、それは昔のピポグリフの話で、今は恋愛する者も多いですよ、この前まで自分もヒュドラと付き合ってましたし、その前の前はワイバーン。最初の頃はグラマーなフェンリルをずっとナンパしてたんですけど上手くいかなくて、そもそも種を残せないのが悪かったんでしょうね。でたまには近縁種もいいかなって思って今回はグリフォン狙いですね。自分の仕事は勇者様をマグマの川から端に渡す仕事なんで、それを終えた今は愛に生きることにしましたから、あっ。金糸雀様。この麦酒お代わりいいですか?」

「えっ……はい」


 すごい、海外の人みたいに恋愛に関してオープンなのね。私はサッポロラガーをピポグリフさんの器になみなみに注ぐ。んぐんぐとビールで喉を潤し、うまかっちゃんを平らげたピポグリフさん、


「ちなみにピポグリフさん、人間はそのストライクゾーンに入ってないんですか?」

「ストライ……あー、ファイアーボールゾーンの事ですか? 人間もいいですよねー、小さくて可愛いですし、ただ寿命の件で割と敬遠してるんですよ。いつも先に逝ってしまいますから……」

「そうなんだ。じゃあピポグリフさんはミカンちゃんとかに求愛とかしないのね?」

「にゅ?」


 ミカンちゃんがビールを飲んでいる時に名前を呼ばれて変な声を出した。ピポグリフさんはミカンちゃんを見て苦笑。美的感覚が少し違うのかしら? ミカンちゃんは異世界で言うところのファイアーボールゾーンにはいなさそうね。


「勇者様が男の子ならヤバかったですねー!」


 んん? 声は高めだけど結構低いし、ピポグリフさんの性別は多分男性だと思ってたんだけど、もしかして……


「ピポグリフさん女子ですか?」

「いいえ、雄か雌かと言う話をすると雄ですね。生殖能力ないですけどね。まぁ、やっぱり他の種でも雌より雄の方が見ていると悶々としますね。デュラハンのデュラさんはヤバいですね! 結構タイプです」

「ぬぉ!」


 デュラさんが、いきなり意味深な事を言われて変な声を出した。要するにピポグリフさんは、まぁセクシャルマイノリティーの方という事ね。うん、デュラさんを見ながら頬を染めるピポグリフさん、やばいやばいやばい! とデュラさんの心の声が聞こえそうな午前2時、私の部屋の玄関が開かれた。


「こんな時間にまだ寝ていない悪い子は誰ですか? クンクン、なにやら美味しそうな匂いがしますねー!」


 まさかの女神、ニケ様が深夜にご登場。それにミカンちゃんは青い顔をして、いや……それ以上に青い顔をしたのはピポグリフさん。


「えっ、女神。気持ち悪いなぁ、勇者様。金糸雀様、デュラくーん。自分帰りますね! チュ!」


 ウィンクに多分、投げキッス。そしてのしのしとピポグリフさんが帰って行った後、ニケ様がうまかっちゃんを所望する前にデュラさんが、ニケ様に、


「女神! 感謝する!」

「大変素晴らしい心がけですねぇ、では私に何か……」

「おぉ! 袋麺なら我が作って差し上げよう! 金糸雀殿、クソ女神にサッポロラガービールをお出ししてほしいである!」


 朝の5時まで説教をされるんだけど、デュラさんだけはめちゃくちゃ真剣にニケ様の話を聞いてたのよね。私は深夜の夜食時には絶対にお酒を飲まないようにしようと心に誓ったことだけはいうまでもないわね。


 

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