第364話 ウンゴリアントとチーズあられの炒め物とタランチュラウオッカと
※バグズファームで売られているお酒を買ってみました。
「かなりあ、これ持ってけりぃ!」
ミカンちゃんが私にドンと見せたのは、お徳用。コストコで売られているチーズあられ。一つ、二つなら美味しいけどこれを大量にバリバリ食べるミカンちゃん、太らない加護とかあるからいいけど、一つ食べたら止まらない辞められない。悪魔のおかきよ。
「勇者、金糸雀。こんな酒があったんだけど」
「ん? あー、タランチュラウオッカかぁ」
言葉通り、ウォッカの中にタランチュラが漬け込まれているお酒。このお酒、蜘蛛が普通に漬け込まれてるから、甲殻類アレルギーの人は飲めないのよね。私は蜘蛛とか別に好きでも嫌いでもないけど、これが不思議な事にお酒になると凄い好きなのよね。
「これはねぇ、このタランチュラを眺めながら、クイッとやるのがいいのよ」
「うぉおお! なんとも、この世界の酒は蛇が漬けてあったり……驚きの物が多いであるな」
私の部屋にも何十年もののハブ酒があるけど、本当に体にいいのは実はハブ酒でもキングコブラ酒でもこのタランチュラウォッカでもなくて、マムシ酒だけらしいのよね。
「今日はこれを飲みたいんだけど!」
ケートスさん、どうしたのかしら? タランチュラを眺めながらワクワクしてるわ。虫とか苦手じゃない女の子って私の中でポイント高いわ。
「じゃあ、なんかおつまみ作りましょうか?」
「かなりあ、チーズおかきでおけまるぅ!」
これを使って、おつまみ? もうそのままで良くない? とはいえ、お菓子アレンジレシピ系は苦手なのよね。じゃかりこポテサラは本当に戦犯よ。あんな美味しい物を世に出したからみんな色んなお菓子を次々にアレンジしちゃって、お菓子ってのはそのまま食べる事に意味があるのに……
「カレー粉にお餅、粉チーズ。それで一体何を作るのであるか?」
それはねぇ、キャベツの千切り、そして砕いたチーズおかきをサラダ油で炒めるだけ、味付けは粉チーズとSBのカレー粉。この大学生男子が作ったかのような雑な料理と言えるのか分からない食べ物、こういうのがキツいお酒にはよく合うのよね。
ガチャリ。
「いらっしゃーい!」
ゾワゾワゾワ! と入ってきたのは巨大な大蜘蛛。私は少し驚いて、ケートスさんとデュラさんは珍しい物を見るような目で、ミカンちゃんは目を輝かせて、
「うおー! うおー! ふかふか、もふもふのクモー! きゃわわわわ!」
ミカンちゃんは生き物ならなんでもいいのね。熊よりも大きなクモが入ってきたけど、この人は喋られるのかしら?
「ウンゴリアントであるな。初めて見たである!」
「私は2回目だけど、珍しい」
「こんにちは、私は犬神金糸雀です。この部屋の家主です。ウンゴリアントさんも今からお酒一緒に飲みませんか?」
「!!!!!」
ザザザザ! とウンゴリアントさんは天井によじ登って私たちを警戒してるわ。そりゃそうか、同じ仲間のクモが漬けられたお酒を見せつけられたんだもんね。そしてウンゴリアントさんは大きな蜘蛛だけど、どうやら臆病みたいね。
「ウンゴリアントさん、怖くないよー! お酒、ここに入れて置いておくから飲みたかったら飲んでくださいねー! あと、これ、チーズおかきの炒め物です。じゃあ、私たちはやりましょうか? スパイダー! 乾杯!」
「乾杯なりぃ! 勇者、しゅわしゅわが良きー」
「乾杯であるぞ」
「乾杯だけど」
生物を漬け込んだお酒というものはどれも独特の香りと味がするのよね。これを私の兄貴は死の香り、命の味と言っていたっけ? 少なからタンパク質の味の事なんでしょうね。このお酒はパカパカ飲むお酒じゃないわ。一口一口を薬湯でも飲むように楽しむお酒ね。
「うみゃあああ! これうみゃああああ!」
「うむ。このタランチュラ殿の命が溶け込んだ味であるな」
「深みのある美味しいお酒だけど!」
異世界組が盛り上がっていると、天井のウンゴリアントさんが、じーっと自分のお酒が入ったグラスを見つめ、興味を持ち始めたわね。飲食は生きる事だからね。
「じゃあ、チーズおかきの炒め物も食べてみて!」
生のキャベツに砕いたチーズおかきでもよかったんだけど、それだとオシャレなおつまみになりかねないから。今回は火を通してみたわ。
いざ、実食。
しゃくしゃく、パリパリ。うん、チーズとカレー粉がいいアクセントになってるわ。そこにタランチュラウォッカを一口。うーん、なんだろう。おつまみのジャンク感とお酒の薬感が凄いヤバマッチね。
「うみゃうみゃ! かなりあくそ天才なりぃ! お代わりなりぃ! 勇者、しゅわしゅわにて所望っ!」
ミカンちゃんはコーラで割ってあげようかしら、同じ薬感があるこのお酒はスパイシーなコーラと合わせて。
「はい、ルシアン・コーク・スパイダー!」
「うきゃあああ! うみゃあああ!」
グビグビグビと飲み干して三杯目を所望、デュラさんはストレートで二杯目を、そしてチーズおかきの炒め物をパクりと食べて七味をパラパラとかけて味変。
「うまい! スナック菓子系は全て薬味との相性バッチリであるな!」
「デュラさん、芋焼酎・魔王と半々で割ったトゥワイスアップ。土蜘蛛です」
「ほぉ、これは時折口に含んで転がすのがたまらんである!」
ふぅと熱い息を吹く、そんなデュラさんをみてウンゴリアントさんがついに天井から長い手を伸ばして、いやまだダメみたい。
なら、ケートスさん。
「いただくけど……なんでお菓子と野菜炒めを一緒にしたのか分からないけど、めちゃくちゃ合うけど」
「ケートスさん、どうぞ! ウォッカマティーニ・アラクネです」
「へぇ、オシャレだけど」
それぞれ、タランチュラウォッカをベースにしてみたカクテル達、ジャンクなおつまみは脇役に、お酒をメインに楽しんでいる様子をウンゴリアントさんに見せると……ついにウンゴリアントさんは、
「金糸雀ちゃん、ゴミムシがいます! 滅します!」
私たちは、絶対そうくるだろうなと思っていたからミカンちゃんが勇者の剣で、デュラさんが魔族の魔法で、ケートスさんが神様の力で、勝利の女神ニケ様の無慈悲なまでのウンゴリアントさんを殺害しようとすると狂気の……いいえ、勝利の力を捻じ曲げてくれているわ。
「ウンゴリアントさん! 早く、今のうちに味わって、そして逃げてぇ!」
「!!」
ウンゴリアントさんはゆっくりとタランチュラウオッカを、そしてチーズおかきの炒め物をサクサクと食べているわ。多足で上品に、そして八つの単眼が私たちを見つめるとお辞儀をするように……ささっと高速で移動して……
「行っちゃったわね」
「かなりあー、あれでよき?」
「ウンゴリアント、でかかったであるな」
「玄関から出て行かなかったけど」
私はニケ様が勝手にタランチュラウォッカをがぶ飲みしている事とか、チーズおかきの炒め物にバクついている事とかよりも、玄関から出て行かずにバルコニー側の窓から出て行ってしまったウンゴリアントさんの事が気がきでなかったけど、次の日にテレビをつけると…………
『見てくださいみなさん! 現在、動物園で保護されているこちらの巨大な蜘蛛、専門家も新種として首を捻っています。大人しく、果物なんかを食べている様子は可愛く見えてきますね』
動物園で保護されて、世界中の生物学者が研究対象にしようとしているらしいから、ミカンちゃんにお願いして、異世界に帰ってもらったわ。忽然とウンゴリアントさんが消えた事でしばらく大騒ぎになったけど、その騒ぎもしばらくすると忘れ去られる事になり、時折思い出されたかのようにオカルト番組で取り上げられるくらいの知名度になり、一部の地域で巨大蜘蛛饅頭と巨大蜘蛛煎餅がいまだに売られているらしいわね。
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