第363話 バユンとキルバサソーセージと未来のレモンサワー オリジナルレモンサワーと

「ママが置いて行ったお土産ね。なにこれ?」


 U字型のソーセージ、お洒落なランチとかやってそうなお店でプリュッツェルと一緒に出てきそうなそれがあるわ。まぁ、絶対美味しい奴なんでしょうけど、この前の飲み会の時に出さなかったのはお酒と合わなかったからと、お土産はあげる物で自分は手を付けないというママなりの流儀が見え隠れするわ。


「おぉ! キルバサソーセージであるな!」

「うおーうおー! 勇者、これ食べてる奴沢山見た事ありっ!」

「あー、なんか配信乞食が食べてたけど」


 ケートスさん、配信でお金稼いでる人を配信乞食とか言わない! 最近日本のミームに影響されつつあるわね。常識人(?)の一人なのに、日本に染まるとダメねぇ。なんでも某国のテロリストも日本に染まって犯行せずに滞在してたら気が付くと本巣が壊滅したとかしないとかって話を前に場末のパブで聞いた事があるわ。


「じゃあ、今日はこれを食べるとして、完全に炭酸系のお酒よね。一部のワインやスピリッツでも合うんだけど、確実に合うのはビールやレモンサワーだから冒険せずにいきましょうか?」

「うきゃあああ! 勇者、しゅわしゅわ党なりにけりぃ!」

「うむ、麦酒もレモンサワーも外れる事がないであるからな」

「そういう事なら、さっき酒屋さんがこれを置いていったけど」


 あー、兄貴がサブスク的な感じで近所の酒屋にお金を先払いして買ってるんだった。何か欠品商品が届いたのね。と言う事で届いた物を開けてみると……

 

「あー! 未来のレモンサワーだ! そういえばこれ、西日本で本日発売だったわねー。それでこっちでも物が補充されたんだー! よし! 今日はキルバソーセージと未来のレモンサワーで一杯やりましょう!」


 ガチャリ。

 

 さぁ、今日の最高の組み合わせを楽しめる幸運な人はどんな方かしら?

 

「あれ? 長い猫? 都市伝説にいたはよねこんな猫」

 

 ドタドタドタ!

 猫というワードにミカンちゃんが走ってきたわ。

 

「きゃわわわわわー! ぬこなりにけりぃ!」

「三味線にする為に胴の長い猫を作っているとかっていう都市伝説の」

「違う。吾輩はバユン。人喰い猫にして吾輩を使役せしものに仕え、優しい物語を聞かせし者。愚かな人間どもよ喰ってやろうかぁああ!」

 

 デカくて胴の長い猫にそんな事言われてもミカンちゃんがもふもふしてるだけなのよね。私達がそんな風に騒いでいると、デュラさんとケートスさんがやってきて、

 

「おぉ、猫の魔物であるな」

「雑魚モンスターだけど」

「うわぁあああ! 大悪魔に大精霊ぇええ!」

 

 言葉通り借りてきた猫みたいにブルブル震えているので、ミカンちゃんが「かなりあー、ぬこ飼ってよし?」「だめよー。絶対お世話しないでしょ?」「お世話せり」「絶対しないわね。じゃあ、今からお酒飲むんですけど、バユンさんってお酒飲める方ですか?」と聞いてみたら、

 

「はい、頂かせていただきます。はい」

「じゃあ、フライパン……じゃなくて、ホットプレートで焼いちゃおうか?」

 

 オリーブオイルを引いて、人数分ホットプレートにキルバサソーセージを焼いていいる間に未来のレモンサワーを……。

 

「じゃあ、皆さん。蓋を開けてください!」

 

 パシュ! 生ジョッキ缶と同じ、タイプの蓋を使ったレモンサワー。そしてそれを開けると、中にはレモンのドライフルーツが入っているという素敵さ。

 

「じゃあ、乾杯!」

「乾杯なりっ!」

「乾杯であるぞ!」

「乾杯だけど」

「あっ、いただきます」

 

 ごきゅ、ごきゅ、ごきゅ。

 !!!!!!

 

 ごきゅ、ごきゅ、ごきゅ!

 

 私たちは無言で、一缶飲み干すと、二缶目に手を伸ばすわ。何これ? ほんとなんなの! アサヒ、やるわね!

 

「うんみゅうああああああああ! うにゃああああああああ!」

「うぉおおおおおおお! うまい!」

「えっ、めちゃくちゃ美味しいけど!」

「いや、ほんと美味しいですね! はい!」

 

 お店で出てくるレモンサワーというレベルを超えてるわね。これは、バーで出てくるレモンサワーだわ。私たちは二本目もごくりと飲み干して、3本目へ、そしてこのお酒に合わせる最高のオツマミ。

 

「もういい感じなんでそれぞれ、好きな物をつけてどうぞ!」

 

 私は当然粒マスタード、ミカンちゃんはケチャップね。デュラさんは塩、ケートスさんは黒胡椒。バユンさんは素材をそのまま。

 

 いざ、実食。

 

 ぱきん!

 

 シャウエッセンに負けず劣らずのパキパキ感、そして中は肉肉しくてもっちりしてるわ。これは普通にママ! 美味しい!

 

「うみゃうみゃぁああ! かなりあママ、つよつよぉ!」

「うむ! これは、日本のソーセージにはない野生味を感じるであるな」

「うん、レモンサワーに合うけど」

 

 とっても大きいから味変もたくさん楽しめるわね。私もレモンサワーを飲んで味をリセットしたあと、バユンさんは、

 

 モッモッモッモッモッ!

 

 一心不乱にキルバサソーセージを食べてるわ。私たちは美味しいという事に慣れてるけど、異世界の人はこの世界の食べ物は麻薬的に美味しいみたいだから……

 

「今まで数多の人間を喰らってきたがこれほど美味い肉はない!」

 

 と野生解放してるわね。ギロリと私にミカンちゃんを見るけど、デュラさんとケートスさんが未来のレモンサワーを飲みながら、

 

「獣の魔物がイキるのを見るのはなんとも懐かしいであるな」

「たいてい討伐されるけど」

 

 二人の辛辣な小言にバユンさんはふにゃあああと再び弱々しく首を垂れるので、ミカンちゃんが抱きしめる。

 

「デュラさん、ケートス! ぬこいじめるなし! ぬこはきゃわわで神様になり」

「勇者ミカン、それはバステトだけど。バステトは可愛いけど、その獣の魔物は不細工だけど」

「ぶさぬこ可愛けり!」

 

 ブサイクはブサイクなのね。まぁ、私的には特徴的な顔だと思うけど、どんどんバユンさんのやる気がなくなっていくわ。

 

「さぁ! 未来のレモンサワーはまだまだあるのでどんどんやりましょう!」

 

 ガチャン!

 

 強めに開かれる扉、当然当たり前のようにニケ様が乱入してきて、「金糸雀ちゃん! お酒におつまみ、それとなにかお洋服貸してください!」

 

 ととーとつに言われたわけだけど、未来のレモンサワーをニケ様に出しながら話を聞いてみると、キルバサソーセジをぱきりと食べてニケ様は答えるわ。

 

「神々のパーティーがあるんです! 金糸雀ちゃんの世界のアクセサリーやドレスを着て驚かせたいんです!」

「うーん、そう言っても私もそんな服とか持ってないんですけどねぇ」

 

 バクバク、ごきゅごきゅと飲み食いしたニケ様は「このレモンサワー、美味しい!」とキレ気味にそう言って、据わった目でバユンさんを見つめると、

 

「な、なんでしょうか? 女神様」

「ここにいい首巻があるじゃないですか! これとレモンサワーをもらっていきます!」

 

 バユンさんを首に巻いて、未来のレモンサワーを一箱盗んで行ったわ。あれ、一缶300円くらいするから結構高いのよね。

 

 怒涛、まさに怒涛のニケ様の暴挙だったんだけど、バユンさんを使役すると優しい物語を聞かせてくれるらしく、神々の世界で優しい物語を披露したバユンさんは神々のパーティーで引っ張りだこ。

 

 成功の秘訣をバユンさんはこう語るのよね。

 

「U字型のソーセージと、未来のレモンの酒を、金糸雀邸で食した事ですかね」

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