第362話 犬神夜永(母)とクリームチーズとびことエバークリアと
恐るべき事態が起きてしまったわ。異世界の住民がやってくるとか、そういうレベルじゃない緊急事態ね。
“金糸雀へ、偶然日本に帰る機会があるので家に行きます。ママより“
「ママが来るわ! たいへん!」
私のママ! パパと結婚する前までは世界中を放浪しながら生活していて、今も紛争地域なんかで色々交渉の仕事とかしてるらしいけど、謎ね。
そして……尊敬すべきママだけど、今の状況を見たら大変だわ。
「金糸雀殿の母君であるか?」
「それってもしかして私たち邪魔? ゲーセンとかいくけど?」
「勇者、かなりあママに会ってみたし」
そうなのよねぇ。なんというか……なんというか、
ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!
あぁ! このインターフォン連打は完全にママだわ。
「金糸雀ぁ? いるんでしょ? ママには分かるわよー! あと、1、2、3……4。気配を感じるなぁ? 開けてくれないならぁ。勝手に開けちゃうかんねぇ?」
カチャカチャ……ガチッ。
キィ!
やりやがったー! ママ、鍵開けとかしちゃう人なのよねぇ。
「「「!!!!」」」
ミカンちゃん達が、ヤバい系の人が来た時の表情をしてるわ。玄関……には既に人の気配はないわ。
「あらぁ。個性的なお友達ぃ? ママに紹介してして!」
「ママ!」
私の後ろに私より頭一つ分小さい、私によく似た女性、迷彩服に身を包んでいるママがお酒とお土産らしきものを持って立っているわ。
「うおー! かなりあママ、気配なき! 強者の予感なりにけり」
「金糸雀の母上、めちゃくちゃ若いけど、人間?」
「うむ、金糸雀殿の母君、我らこの部屋に居候させてもらっている」
「あー、上の子も耳の長い女の子とか吸血鬼の子とか連れ込んでたけど、アンタ達本当兄妹ねぇ、初めまして! 犬神夜永、金糸雀の母でーす! 娘がお世話になってまー。という事で御礼にこいつで一杯やろうね?」
ドン! とママが置いたお酒。
これは……ママのフェイバリット・リカー
「え、エバークリアぁ」
「ウォッカなり?」
「ウォッカであるか?」
「ウォッカみたいだけど」
そう、無色のお酒といえば、ジンやウォッカ、焼酎が有名だもんね。でもね。これーはトウモロコシとかが原材料のアメリカスピリッツ。
そんな事より、お酒の度数がね……世界第2位。
「95度もあるであるな!」
「首だけのイケメンくん」
「デュラハンである! 皆からはデュラさんと呼ばれているであるぞ! 母君殿」
「95度も5.5度のビールも同じ同じ、さぁママがみんなについであげるから乾杯しようね!」
あっ! 三人がヤバい人を見る目でママを見てるわ。なんか辛いわねぇ、自分のママがヤバい奴認定されるの。
「夜永さんがやってきたことにかんぱーい! はい、みんなご一緒に!」
あ、やっべー! みんなドン引きしてるから、ここは娘の私が、
「はい、ママに乾杯! 私に乾杯!」
「か、乾杯なりにけりぃ」
「乾杯である……」
「乾杯だけどー」
しゅわしゅわ教徒のミカンちゃんですら、ショットで出されるエバークリアに文句も言わずにグラスをかかげるわ。基本的にこんなヤバいお酒をショットで飲んでるこの集団が既にヤバいんだけど。
にしてもこのエバークリアの味わいはお酒初心者にはちょっと苦手な味なのよね。
「うみゃ!」
「うまい!」
「美味しいけど!」
あ……これはヤバいわ。
「そう? そうよね! やっぱり金糸雀のお友達は味の分かる子ね! じゃあ、ママ。おつまみ作るからみんなはそれヤッて待っててねー! 金糸雀、お台所借りるわよ!」
「えっ、あ。うん」
きゃいきゃいとショットで楽しんでいるミカンちゃん達、ママはこれにお塩だけでガブガブ飲んじゃうのよね。
「お待たせー! はい! とびこクリームチーズよ! それに、綺麗な子が隠れてたから連れてきたわ!」
「げっ、クソ女神なり!」
ママは確かに私いがい、四人の気配を感じ取ってたわ。すでにニケ様が潜んでいた事を察知してたの? なんなんの?
「金糸雀ちゃん! この子は誰ですか? 金糸雀ちゃんの妹ですか?」
「あら! 金糸雀のお友達、もしかして天才なの? ママ嬉しい!」
「ニケ様、ウチのママです」
「えっ! 金糸雀ちゃんのお母さん! いつも金糸雀ちゃんをお世話しています! 勝利の女神のニケですよぅ!」
「うふふ! 面白い子ねこの子! でも女神みたいに綺麗よー! いいわねー! 若い子はー! さぁ、ニケちゃんも座って、ヤりましょう!」
ニケ様とケートスさん、ミカンちゃんに囲まれてママ嬉しそうね。私と同じで美人とイケメン大好きだもんね。
ママの作ったとびこクリームチーズを一口、それからエバークリアで流す。
くっそ……なんでママの作る物はこんなに美味しいのかしら。
「うんみゃああああああ!」
「これは良く合うであるな! 実にうまいである!」
「美味しいけど!」
「金糸雀ちゃん! 金糸雀ちゃんのママ、ごーいん!」
ニケ様がそう言うとママがイケメン顔でニケ様の顎クイ! 女子校の王子だったとかいうママ。
「強引なのは嫌かい? ニケちゃん」
「……嫌じゃないです!」
ニケ様を籠絡した! にしてもとびこクリームチーズと純粋なスピリッツ合うわぁ。ママの友人のロシア人のオジサンがウォッカでイクラを食べるのが最高だって教えてくれて、犬神家は魚の卵はスピリッツで呑むのがメジャーになったわねぇ。
ガチャリ。
「おーい! 金糸雀ー! 水ー! そして酒ー! 今日はチョコバット買ってきたんだー! これで飲もう!」
「この声はセラちゃんね! やっほー! ママよー!」
我が物顔でやってくるセラさんの顔が凍りついてるわ。あー、兄貴がこの部屋に住んでた時にママと認識があったのね。
「こ、これはこれは、夜永さん、なぜここに?」
「セラちゃんがどこにでも存在するように、ママもどこにでも存在するのよ」
「ひぃいいい!」
ニケ様を籠絡し、セラさんをドン引きさせて、ママはショットグラスからいつの間にかロックグラスでストレートでエバークリアを煽ってるわ。ボトルは2本目に突入。一般人ならこの人数でも致死量のアルコール量よ。
「かなりあママつえー!」
「ミカンちゃんもつえーわね! はい乾杯」
デュラさんはダウン、ケートスさんは船を漕いでるわ。ミカンちゃんならママの相手が務まる酒豪だろうけど、ママのテンションはちょっと今の令和のテンションじゃないから……
「ママ、私ももらうわ! ロックグラスで」
さぁ、ミカンちゃんと私で化け物退治ができるかしら……パパ程じゃないけど兄貴以上の怪物。酒を飲む為に生まれてきたような人間。
犬神夜永。
「はい、ミカンちゃん、お代わりどうぞ!」
「りょ! かなりあママも!」
「ありがとー! はい、金糸雀も」
「あー、うん、はいママ」
「ありがとー! はい、ミカンちゃん」
ダメだ! 二倍で飲ましてるのに排水溝みたいに飲み込んでいく。時折とびこクリームチーズを食べながら、ブランド物のキャリーバックから3本目を取り出したわ。あのセラさんが逃げ出して、ニケ様は良い潰れ、
ダメだわ……
私も目の前が真っ暗に……
翌日、私が起きた時はキッチンは綺麗に片付けられていて、みんなそれぞれの部屋で寝ていて、頭も痛くないわ。ママ直伝の謎のお茶を飲まされたんでしょうね。ミカンちゃんとママとの酒の飲み比べの結末は私には知らないけど、ミカンちゃんは
「かなりあママ、ぽんゆー!」
というくらいには仲良くなったみたいね。台風のようなママ、空になったエバークリアの瓶が5本転がっている事だけがママがいたのだという軌跡を残して、私は二度寝する事にしたわ。
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