第50話 槍使いと納豆とウーロンハイと
コテージから自分の部屋に戻ってきてまずは大掃除。一週間家を空けていたので空気の入れ替え、水回り、トイレ、お風呂、キッチン、リビングと寝室。三人いるので分担すればすぐに終わるでしょう。
私は異世界の人、というかデュラさんとミカンちゃんが驚くと思ってある食材を朝食で出したのよね。でも普通に食べてたの。
その食材の名前は納豆。
糸をひく様を見ると海外の人は寒気がして、日本でも苦手な人は多い発酵食品。私は普通にサラダに入れたりするし好き、嫌いという感覚で納豆を食べた事はなかったわね。ミカンちゃんはぐるぐる混ぜるという行為が好きで熱いご飯にかけて食べるのが好み、でもこの食べ方をすると納豆菌死んじゃうんだけどね。デュラさんは納豆をおかずとして別々に食べる江戸時代スタイル。
そんな二人に、納豆はお酒に合うのか? という考えた事もないバカちんな質問をされたのね。
プロの宅飲みストである私に対する挑戦と受け取るわ。という事で、スマホという人類の知己を使ってググった所、あるわあるわ。みんな納豆で結構飲んでるのね。簡単に作れそうなのは二品くらいね。作ってみたい物も沢山あるけど今の冷蔵庫と私のお財布事情から泣く泣く断念。
冷蔵庫にはイカの塩辛、酒盗、卵……以上と、逆にお酒はまぁ選びたい放題。兄貴は一体お酒にいくらつぎ込んだんだろう? 特に趣味のある兄貴ではなかったけど友達だけは異常にいて私とは違う人種、パリピだった。
今日は……白玉醸造の元老院あんじゃん……
多分、魔王作ってる所の焼酎といえば理解が早いかしら……私、割と好きなのよね。じゃあ、ちょっと高級なウーロンハイといきましょうか、
「本日はウーロンハイにするわね! 正直、納豆をおつまみにした事がないからとりあえずお酒は大体なんでも合うウーロンハイね」
ガチャガチャ。
「ミカンちゃん、玄関みてきて!」
「はーい」
今日はどんな人が来たんだろう。というか納豆大丈夫かしら? とそんなことを考えていると、
「ミカン! ミカンじゃないか!」
「…………槍使い」
あら、ミカンちゃんの知り合いきた感じね。声からした男性みたいだけど…………やってきたのは、あらイケメン! 多分鎧に隠れた引き締まった身体、優しい雰囲気に甘いマスク、ロン毛が似合う清潔感。
「ミカンちゃん誰この人?」
「槍使い、名前は……なんだっけ?」
そう私に説明しようとしたミカンちゃんの前に立ち私を見ると、跪く。
えっ? なになに? もしかして私の魅力に気づいちゃった? やだなーもう!
「私は勇者ミカンのパーティーで槍使いのゲータ・レドと申します。弓使いのアク・エリアスと魔法使いのポカリーに狂戦士のトーカと共に魔王討伐の為日夜旅を続けていました。此度、私たちの勇者を保護してくれているとトーカには聞いており心からお礼申し上げます」
「あー、槍使いそんな名前だった」
「私は、犬神金糸雀です。保護というか、住みつかれているというか……」
ゲータさんはそう言いながら槍を器用に取り回してくれるたので、とりあえずパチパチと拍手。そんな様子に、
「何事であるか?」
「魔物! ミカン、金糸雀さん離れて! 魔物めこの精霊達が鍛え上げた魔王を討つ為の武器が一つ、私の魂。聖槍ドングリニールが相手だ!」
「槍使い、槍を下ろして! ここでは争いはダメ、デュラさんは飲み友。かなりあのお家、あと今からご飯食べるから帰って!」
「それではミカン、私と一緒に帰りましょう」
「それはできない」
「なぜ! いつも私たちが熱いスープを冷ましてあげるのが嫌でしたか?」
「それもだけど違う。帰って!」
「いいえ帰りません! ミカンを連れて帰ります!」
埒が開かないので、私が助け舟を出すことにしたの。
「とりあえず食事にしませんか? そんなに出せる物もないですけど、ちゃちゃっと用意しますね」
納豆とイカの塩辛とキムチの和物に納豆いりオムレツ。それにウーロンハイを人数分用意。
「ううむ、勇者のパーティーもややこしいのであるな」
「あはは……とりあえず乾杯しましょ」
大体のオツマミに合う主張しないお酒、ウーロンハイ。納豆という私の中では未知のお酒つまのジャブとして飲んでみるけど、
「「「乾杯!」」」
「いただきます」
ゲータさん、静かにウーロンハイを飲んで、「! 珍しいお酒ですね」
そう主張しない健康を意識したお酒ウーロンハイ。流石のミカンちゃんも今日は叫ばないけどペロリと舌を出すのでおいしいのね。
「うーん、金糸雀殿の世界の酒文化は恐るべきであるな。お茶と酒を混ぜるというこの異文化交流。が、それがいい!」
ゲータさんはデュラさんを見つめて、
「何故デュラハンの首だけがここにいるのですか?」
体だけ酔っ払って帰ったからですよ。と言ってもゲータさんは「ご冗談を」と信用しないので、オツマミタイムね。
「まずは和物からどうぞ! 意外と納豆が他を引き立ててるくらいあるわ! まぁ全部発酵食品だからかしら?」
癖のある塩辛、キムチ、納豆。それらがどういう化学変化なのかめちゃくちゃお酒進むオツマミに変わるんだけど、それを元老院で作ったウーロンハイを飲むと癖がさっぱりと流される。
「うみゃああああああ! なっとーうみゃああ! これご飯にかけたい!」
「うむ。確かにご飯のおかずとしても逸品であるな!」
私たちは美味しく食べているのをみて、ゲータさんも……「うっ……」にょーんと糸を引くのをみてゲータさんは青い顔をする。
「みなさん、この食べ物腐っています! 口にしてはなりません」
「ゲータさん、御言葉ですが腐っているんじゃなくて発酵してるんですよ。私の世界の食べ物で納豆。畑のステーキだなんて言われる大豆の成れの果てです」
あはははは!
うふふふふ!
と私たちが納豆塩辛イカキムチをオツマミにお酒を楽しんでいる姿にゲータさんは手が出ない。美味しいのに! でも嫌がる人に無理やりは強制しちゃダメよね。ならオムレツならどうかしら?
「二品目、オムレツでーす!」
卵をみて、ゲータさんも「こ、これであれば!」とナイフとフォークで納豆オムレツを切り、中の納豆がむにーと糸を引く、そして納豆って火を加えると匂いが結構増加するのね。
「うわぁ! これは……」
はぁ、この匂い。私別に気にならないのよね。あぁ! 納豆オムレツおいしー! むしろウーロンハイを選んで正解だったかも! 他のお酒だと喧嘩してたかもしれないし、ビールならワンチャンかしら?
「ほぉ! 熱々で卵と納豆がいい塩梅であるな! ウーロンハイという酒がよく合う合う! 金糸雀殿、ウーロンハイお代わりである!」
「勇者も! かなりあ! 勇者もお代わりなのー! 納豆オムレツうまーーー!」
「あの、金糸雀さん、私にもお酒のおかわりを」
元老院のウーロンハイは大人気ね。でも本当に美味しいわ。ウーロンハイの中に上品な後味がついてくる。ゲータさんはそれからも納豆のオツマミには一切手をつけず。
「金糸雀さん、お酒のおかわりを」
「はい」
「……金糸雀さ、お酒を……」
「あの、飲み過ぎですよ。空きっ腹に入れると悪酔いしますって」
「ぜぇんぜん、酔ってませんからぁ……ミカン、私はですね! 貴女の将来事も考えて……聞いてますかぁ?」
「聞いてる。槍使い、飲み過ぎ、勇者が運んであげる」
「……おぉ、ミカン……帰る気になりましたか……」
これはフラグね。ミカンちゃんはゲータさんの肩をかしながらゆっくりと玄関まで向かう。そしてドアを開けると、ゲータさんをドアの外に放り投げてドアをガチャンと閉めた。
「ふぅ! 一丁上がりなの! かなりあ。お酒お代わり!」
「全く勇者よ! 貴様という奴は! 我ももう1杯付き合おうではないか!」
「おぉ! それでこそデュラさん!」
私は元老院が切れたので、ブラックニッカかいいちこでも持ってこようと思った時、“精霊達が鍛え上げた魔王を討つ為の武器が一つ、ゲータさんの魂。聖槍ドングリニール“がその辺に転がっていたので誰かが取りに来るまで我が家の物干し竿になっています。
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