第343話 魔女の使い魔とハロウィン・サンドイッチと魔女の涙と

渋谷、ギャーギャーと知能指数が落ちた人間がこの時期になるとわくのよね。日本人はお祭りが大好き。同じアホなら踊らにゃ損と遺伝子にお祭りになると知能指数が落ちるという設定でも書き込まれてるのかしら? 

 ほんっと、たかだかハロウィンごときで浮かれすぎなのよ。

 

「か、かなりあ……その格好は……」

「狼……女的な?」

「き、き、き……! かなりあ、キモ可愛いいー!」

「キモいいらなくない? 脊髄反射でキモいってミカンちゃん言ってるでしょ!」

 

 そう、私は本日狼の耳をつけて狼グローブに尻尾、仮装しているわ。大学のハロウィンパーティーがあって女の子って大体無難に魔女選ぶのよ。

 魔女。で、私も魔女のコスをドンキあたりで購入しようと思ったらまぁ売ってないわよね。当然ね! だってハロウィンだものも、みんな買うわよね。で、仕方がなくバイト先のガールズバーもハロウィンイベントしてるので衣装借りに行ったらこれしかなかったのよね。

 

「いやいや、似合っているであるぞ! 野生のウルフェンのようである」

「デュラさんありがとう。ウルフェンが何か分からないけど」

 

 私達は渋谷と池袋のハロウィンを見ていこうかと駅近で待ち合わせをしたの。今日はデュラさんを見ても誰も驚かないでしょう。

 

「ミカンちゃん、ところでその格好は?」

「聖女コスなり! 毎年、クソゾンビ共がわくから勇者が払えり!」

 

 あー、崩しかぁ……シスター的な格好をしているミカンちゃんは、定番の逆をいく崩しのテクニックを持ってきたけど、これはね。くっそ可愛いからできる事で、なんでみんなJKゾンビとか魔女とか同じ仮装をするか分かる? みんなでやればかわいー! ってなるからよ。ミカンちゃんみたいに単独でアイドル化する逸材はね。

 

「あのー、すみません。少しいいですか? 私、芸能関係のスカウトをしていまして」

「勇者、働きたくない」

 

 こんなキャッチに合うのよ。

 

 ウロウロしながらその辺でお酒でも買って飲みながらと思っていたら……

 

“路上飲酒 ○○時〜禁止“

 

 あぁ、まぁ行儀は悪いけど、日本の醍醐味路上飲酒もついにできない時代が来たのね。それもこれも、全部自分達が招いた事ね。

 

「なんか虚しいから家で飲みなおそうか?」

「そうであるな」

「あれ? ミカンちゃんは?」

「向こうで写真を撮られているであるな」

 

 カメコ達が集まってたり、JKゾンビの仮装の女の子達にチヤホヤされて写真撮られてるわ。ミカンちゃん、あーいうカリスマあるわよね。

 

「ミカンちゃーん、キリの良いところで帰るわよー」


 小さく整った顔、長い手足にモデル体型。ガールクラッシュという言葉を体現してるわね。可愛い、カッコいいと女子が憧れる女子。

 そしてうっすらあざとい。

 

「ここで列切りなりぃ! 勇者、小腹べりー、これにてドロンに候!」

 

 終わったみたいね。

 戦いを終えた顔して帰ってくるミカンちゃん。

 

「ちょっとスーパー寄っていいかしら?」

「おけまるぅ!」

「我も食材や調味料をみたいであるな!」

 

 という事で、ちゃちゃっと今日食べる物をいくつか買い足して兄貴の部屋、もといマンションへ戻るわ。

 

「ふぅ、ただいまー」

「ただいまなりー」

「ただいまであるぞ!」

 

 私達は誰もいないはずの部屋に帰ってきた自己申告をする。

 

「……返事はないわね」

 

 どっとミカンちゃんとデュラさんに笑顔が戻る。そう、ニケ様達がいないかの確認だったりするのよ。

 

「ただいま」

「「「!!!!!!」」」

 

 斜め上の所から挨拶が帰ってきたと思ったら、私の肩に何か乗ってるわ。そしてそれは来るんりぱと宙を舞ったコウモリ……が、男の子に変わったわ。

 

「ふぅ、ファミリアの姿も大変だぜ。飯にしよう。魔女ロスウェル……あれ?」

 

 私達と男の子は目が合うと、男の子はキョロキョロと周りを見渡して、

 

「ここどこぉ?」

「ここは私の部屋で、私は犬神金糸雀。ちなみに※魔女ロスウェルの弟子よ」

 

 ※25話参照

 

「勇者は勇者なりぃ! 魔女ロスウェルの弟子にて候」

「我は大悪魔のデュラハンである。ちなみに魔女ロスウェルの弟子であるぞ!」

 

 そう、私達はロスウェルさんに弟子認定されてそのままロスウェルさんは帰って行ったので弟子のままなのよね。

 

「マジか! 魔女ロスウェルは弟子を取らない事で有名なのに、すげーぜ! 俺は魔女ロスウェルのファミリア。ディンバットだ! 宜しくな!」

 

 可愛らしく自己紹介をしたらグゥウウウウ! ディンバットくんのお腹がなったので、

 

「ディンバットくん、今からご飯食べるから食べて行きないさいよ。ロスウェルさんところの子がお腹空いてるなら身内みたいなものだしね」

「マジで? 金糸雀お前、長生きするぜ!」

「すぐ作るからミカンちゃんとテレビでも観て待っててね。デュラさん、お手伝いお願いします」

「あい分かった」

 

 今日はサンドイッチよ。バターロールに甘く似たカボチャを挟んだハロウィンサンド。チーズやハム、トマトなんかと意外にも甘いカボチャは合うのよね。少し辛子を混ぜたマヨネーズで味を整えて完成。


「ディンバットくんはお酒は?」

「飲むに決まってんだろ? こんななりだけど、大人だ!」

 

 コウモリだから小さいだけなのね。小学生くらいにしか見えないけど……まぁ、異世界あるあるね。じゃあ、今日はハロウィンにちなんで、

 

「本日のお酒は焼酎です! えっ? ハロウィンに焼酎? と思ったかもしれないけど、魔女が美味しすぎて涙を流しちゃうから、魔女の涙です!」

 

 福岡県福岡市の西部地区限定のお酒で昔は少しだけ手に入れにくかったらしいけど、今はネット通販で簡単に手に入るようになったのよね。

 

「じゃあ、最初はソーダ割りにしてシャンパングラスで乾杯しましょうか! 私達の師匠ロスウェルさんに!」

「ロスウェルになりぃ!」

「うむ! ロスウェルに!」

「ロスウェル人気なんだな! 感動だわ! 乾杯!」

 

 ぐいっと私達は飲み干し……そう、これよこれ! 物凄い飲みやすいイモ焼酎なのよね。魔王みたいに逸脱したスッキリ感じゃなくてしっかり芋なのにグイグイ行けちゃうこの美味しさ。

 

「うまい!」

「んみゃあ!」

「美味しいなこの酒!」

 

 と、カジュアルに美味しいのよね。昨今の若者の焼酎離れを解消できるんじゃないかしら? 

 

「お腹空いてるでしょ? ハロウィンサンドも食べましょう。アメリカ的に付け合わせはポテトチップスにしてみたわ。小池屋の青袋ね」

 

 じゃあ、いざ実食。

 

「金糸雀、うまいぞ! 甘くてしょっぱくて柔らかくて美味い!」

「うむ、カボチャをサンドイッチに挟むのはありであるな! お芋さんみたいな甘さが癖になるである」


 バクバクとミカンちゃんがハロウィンサンドを食べて、魔女の涙のソーダ割りをガブガブと飲んで、一旦休憩。

 からの!

 

「うんみゃああああああああああ!」

 

 来たわね! 1うんみゃあ頂きましたぁ! ハロウィンサンドは卵とチーズとピーマンにカボチャの入った物も用意してるわ。時間がなかったから顔はケチャップで描いてるけどね。

 

「お次はストレートで、行きますか? ミカンちゃんは炭酸割りでしょうから、デュラさんとディンバットくん、どう?」

「付き合うであるぞ!」

「俺もとことん付き合うぜ! 金糸雀」

 

 という事でシャンパングラスにつつつとストレートを注ぐと、質の良いワインのようにグラスに残るわねぇ。香りもクセがなくて口当たりも良い魔女の涙。黒麹使用で25度。これはお酒をあまり飲まない人には飲ませちゃダメね。

 

「おぉ! 最近のこの焼酎のプレミアム感は良いであるなぁ」

 

 出ました! 異世界組なのに、長年日本に住んでいたかのようなデュラさんの発言。

 

「うまいけど、これはちっとキツいな」

「炭酸割りに変えましょうか?」

「頼むわぁ。舐めてたわ。悪いな金糸雀」

「いえいえ、苦手な物を無理して飲むより早めに言っていただけると助かりますよ!」

 

 そっか、異世界ってあんまり度数の高いお酒ないんだったわ。これは少し反省ね。炭酸割りに変えるとディンバットくんも美味しそうに飲んでくれて、時折箸休めのポテトチップスなんかをつまみながら私たちのハロウィンは夜が更けていったわ。

 

「ふぅ、食った食った。すっかりご馳走になっちまったぜ! ごちそーさん」

「お粗末様でした! ディンバットくん、ロスウェルさんにお土産作ったから持って帰ってあげてもらっていい?」

「あん? そりゃ構わないけど……」

「カボチャのケーキでーす! ホットケーキミックスで作った簡易的な物だけど、戻ったらロスウェルさんと一緒に食べてね」

「マジかー! 何から何まですまねぇな! 魔女ロスウェル、きっと喜ぶぜ!」

「だと嬉しいです!」

 

 玄関までお見送りすると、ディンバットくんは欠伸をして私たちに軽く手を振ると、バサバサと羽の音を立てて帰って行ったわ。

 

「ハロウィンも、わざわざ外に出歩かなくても家で宅飲みしてれば毎日ハロウィンみたいなものよね? というか、今日ニケ様来なかったわね」

 

 何気なしにテレビをつけると、そこにはニケ様とセラさんが泥酔した姿で写っていたので、すぐに電源を消したわ。

 

 知らない。

 

 私は知らないからね。

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