別世界線宅飲み編(女子大生と勇者と別世界線の女神)

第273話 シャドウとイル・ド・フランス(ミニカマンベール)とジムビームハイボール缶ピーチハイボールと

「大学の講義も課題もほぼ同じ内容ね」

「勇者のゲームがなし、格ゲーばっかりになってり」

 

 とか言いながらミカンちゃんは私の部屋にないゲームをご満悦でプレイ中。別世界線の私とミカンちゃんに相当する人は似て非ざる者である事は間違いないみたいね。

 

「とにかく私、というか、アトリさんはチーズに並々ならぬ力を入れてるわね。何種類あるのよ」

「勇者スライスチーズ派なりぃ!」

「プロセスチーズがあんまりないのよね」

 

 使いやすいという事で私の部屋では徳用のプロセスチーズを常備してるんだけど、こっちの部屋にはプロセスチーズはおつまみ用のが少しあるだけ。マンションに住んでいる人も大体同じだけど、なんという事でしょう。アン博士の姿が見当たらないの。こっちにもアン博士がいればタイムマシーンを作ってもらえたのに。

 

「ちょっと待ってミカンちゃん、何これ……」

「ジムビームなり?」

 

 そう、私は冷蔵庫の中にジムビームハイボール缶を見つけたのよね。それもピーチハイボールだなんて書かれてる。こんな商品、私は私の世界では知らないわ。

 ※2024年5月21日発売ね。

 

「これは私達が別の世界にいるという証明ね。そしてこれを飲めば、本来私の世界では存在していないお酒を飲んだ事になるわね!」

「ピーチのしゅわしゅわ、有りよりの有りけり!」

 

 ハイボールグラスを用意してロックアイスも冷凍庫には当然準備されているので、さて飲もう! と持った時。

 

 ガチャリ。

 

 ヴィクトリーアさんでも来たのかしら? 私とミカンちゃんは来訪者を確認しようと玄関に向かうと、そこには黒子の格好をした人がいるわね。クナイ構えたわ。忍者の人かしら? それを私にめがけて? えっ?

 

 ガキィンン!

 

「!!!!」

 

 安定のミカンちゃんがナイフみたいな大きさの勇者の剣で止めてくれたわ。こういう瞬間、ミカンちゃんって勇者なのよねって再認識するわね。普段はただのネオニート美少女でしかないのに。

 

「何やつ! このシャドウの一撃を」

「雑魚モンスターの一撃。大草原なりぃ!」

 

 黒子の格好をしているけど、一応モンスターなのね。という事で別世界でも恒例だけどちょっと違う挨拶よ。

 

「こんにちは、私は犬神金糸雀です。ここは別世界線の私の部屋です」

 

 正確には私の部屋ではなく犬神天鳥(アトリ)さんの部屋。残念ながら天鳥さんって名前は親戚にもいないわ。私の言っている意味をあまり理解できずにいたシャドウさんに私は、

 

「まぁ、とりあえず中でお酒でも飲みませんか? 聞きたい事もありますし」

「なっ! 魔王軍先兵のこの私に聞きたい事?」

 

 まぁまぁとリビングに招いて私達はジムビーム缶・ピーチハイボールを開栓。そして氷の入ったグラスにそれを氷に当てずに注ぐ。あぁ、ピーチの良い香りがするわね。

 余談だけどイベント出展していたジムビームバーで私はジムビームハイボールを提供していた事あるのよね。ルパンやらブラックラグーンやら、お酒のよく出てくる作品でもメジャーなバーボン。

 それがサントリー傘下になっただけで、こんなお洒落な飲み物に変わるのね。

 

「じゃあ、シャドウさんとの出会いに乾杯!」

「乾杯なりぃ!!」

「いただきます。か……かんぱい」

 

 んっんっんと私達は喉を鳴らして一杯目。これはダメね! ダメダメ。美味しすぎるわ。アップルハイボールの時もそうだったけど、ジムビームってなんで癖つよめのバーボンなのにこんなにあうのかしら。

 

「うんみゃあああああああああ! 勇者これ、好きぃ! おかわりなりぃ!」

「うまっ! 魔王城でもこんなうまい酒ないぞ! なんだこの美味さ」

 

 そりゃそうでしょうね。シャドウさんは株式会社魔王の一員なので、デュラさんの事知ってるのかしら? 私は全員分お代わりのジムビーム缶・ピーチハイボールを用意しながら、

 

「デュラハンって魔王軍にはいるのかしら?」

「あぁ、いるとも、しかし異界に行って今は首の部分しかお戻りになられていない」

 

 あー、逆パターンなんだ。私はふーんと話を聞きながらフランスのカマンベールチーズ。コストコで売ってるひと口と言うと大きいけどミニカマンベールチーズを用意、付け合わせにブロッコリーや生ハム、クラッカーも用意して、「おつまみにどうぞ」と言うと恐る恐るシャドウさんはミニカマンベールをヒョイとつまむとパクリ。

 

「うま……」

 

 完全に意識が持っていかれてるわね。そう、ナチュラルチーズ、それも海外の物って結構クセ強めなんだけど、このイル・ド・フランス。クセとかいい意味でなくて滅茶苦茶美味しいの。一個一個、封入されてるから日持ちもするし大人気商品なのよね。特にこっちの私、こと犬神天鳥さんはワイン通みたいだし、基本ストックしてるみたいね。

 

「うきゃあああああ! チーズうめぇえええ! つよつよぉお!」

 

 出たわね。ミカンちゃんの最上級褒め言葉、つよつよ。私はクラッカーとブロッコリーと一緒にいただきます。

 

「んまっ! で、口の中に上品なチーズがある間にピーチハイボールよ!」

 

 んぐんぐとスパークリングワイン代わりのピーチハイボール、いい仕事してるわぁあ。

 

「アズリたんちゃんは元気でいるのかしら?」

「アズリ・タン・チャン? 誰だそれは?」

「魔王様の一人娘のハズなんだけど」

「姫殿下の事か? それならエルシファー様だろう」

 

 ここに来て世界線が違う事を思わせる知らない人出てきたわね。どうやら魔王がそもそも違う人っぽいみたいね。という事は異世界の様子も違うのかしら?

 

「魔王軍の世界侵攻は進んでいるのかしら?」

「魔王様はそんな無粋な事はしない。まぁ、魔物達は魔王様の為にと人間の領地を奪おうとしているがな!」

 

 あー、魔王様はもしかすると同じ人かもしれないわね。私は三本目、ミカンちゃんだけ四本目のジムビーム缶・ピーチハイボールを用意すると次は生ハムでミニカマンベールチーズ。イル・ド・フランスを包み込むように巻いてからパクリ。

 

「あぁ! あああああああ、美味すぎる!」

 

 シャドウさん感動してるわね。まぁ、美味しいけど、異世界の人にはこれは衝撃が強すぎたかもしれないわね。ミカンちゃんはバゲットにカマンベールを塗りたくってかぶりついてるわ。

 ワインメインにしようかと思っていたけど、さすがは世界線が変わっても犬神家ね。新商品らしいお酒に関してはチェック済み。

 そして、私は驚くべき書き置きを見つけてしまったわ。

 

“セラさんへ、下段のお酒は姉貴のなので飲んだらブッ殺す!“

 

 セラさん、何やってるんですか! あの人、神様よりも長生きのエルフだったわよね? もしかして別世界線くんだりまでたかりに来てるの? 

 怖っ!

 

 そして、姉貴。姉貴。姉貴……と、こっちの世界では兄貴じゃないのね。私の兄貴相当の姉貴がいるという事のようね。

 

「金糸雀さーん? おーい?」

「シャドウさん、どうしたのかしら?」

「お酒おかわりを」

「あー、はい。どうぞ!」

 

 とりあえず24缶買ってあるのが犬神家っぽいわ。三人なら十分な量でしょう。ミカンちゃんが十本程飲んでなくなってもリカーラックのジムビームのボトルでハイボール作りましょうか。

 

「勇者、ここ気に入ったかもー!」

 

 ゴロンといつものソファーに寝っ転がりジムビーム缶・ピーチハイボールを飲むミカンちゃん。私も私の部屋風のどこかという意識をして忘れていたのよね。ここにはアルター・勝利の女神がやってくる事。

 

 ガチャリ。

 

「金糸雀ぁー! 勝利の女神がなんとやってきたぞー!」

 

 ほら来た。なんと! とか言われても別に来てほしくないし、反応に困るわね。

 

「はぁ、もう世界滅ぼしたい。金糸雀がで迎えてくれない」

 

 ほら病んだ。またぴえん系で承認欲求高めの子みたいにファッション病みのくせに凄い力持ってるから厄介なのよね。

 

「そんな事ないですよー。今、手を拭いてたから遅れただけです」

「ハァ、もうマヂ無理。私と手洗いとどっちが大切なんだよ」

「ヴィクトリーアさんのお出迎えに手を汚して出迎えたら失礼でしょ?」

「そうやって! いつもいつもいつも! 金糸雀は言い訳ばっかりぃ!」

 

 私、貴女と出会ったのこれで二回目なんですよね。ほんと面倒くさいわねぇ。私は中腰で、癇癪を起こしているヴィクトリーアさんより目線を下げて、

 

「そんな事ないですよ。ほら、笑ってヴィクトリーアさんは笑顔とお酒が似合いますよ」

 

 私は女子校の王子役くらい甘い言葉の数々をヴィクトリーアさんにかける。時折ミカンちゃんに「金糸雀、キメェ!」と罵られながら、ようやく機嫌を直したヴィクトリーアさんがリビングまでやってくると、シャドウさんを見て、

 

「あっ! 魔物! ディザスター・セイヴァー!」

「あっ!」

「あぁなりぃ!」

 

 

 先程まで泣きながら、うまいうまい言ってたシャドウさんを跡形もなく消し飛ばしちゃいました。

 ほんと勝利の女神ぱねぇわね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る