第332話 カッパと粒ウニと男山と
「それなんなり?」
「ウニ……のようであるが……」
ウニ! 雲の丹と呼ばれる日本三大珍味にして高級食材。でも、それを安価にというか雲丹成分少なめで瓶詰めされて売られている物があるのよね。
「これは粒ウニよ! ウニの風味がする生じゃないウニって思ってもらえればいいわ! もちろん、生のウニに風味や味わいでは負けるけど、この独特の塩味とお酒感が凄いオツマミになるのよ。丁度、寒くなってきたし、今日の晩酌はこれでどうかしら? ウニクレソンとか作っちゃわない?」
居酒屋高級おつまみ、ウニクレソン。あれが粒ウニならお安く作れちゃうのよね。お店で食べれると2000円は少なくともするし、家で作っても一人分1000円以上はするわよね。でも粒ウニなら、材料費たった400円でウニクレソンができちゃうわ。
「勇者、ウニ好きぃいい!」
「うむ! 我もあの磯の味はたまらんと思うである」
「二人とも、そこまで期待して粒うにを食べちゃダメよ。これは酒のアテだと思って」
ガチャリ。
おいでなすったわね。今日はなんか……嫌じゃない。水の匂いが……私が玄関に行くと、そこには……上部がお皿みたいな帽子を被った目の大きな、何かが鳥の嘴みたいなマスクをして立ってるわ。
「あのぉ……すみません。この帽子のウォーターサークルに水を入れて……くれませんかぁ……ウォーターサークルが乾いて……やばい」
「えっ? なにこれ? カッパ的な? ミカンちゃん。お水持ってきて」
ミカンちゃんは嫌そうに飲みかけの“いろはす“を持ってきたわ。「この人のあの帽子のお皿にかけてあげて」「いじめなり? かっこ悪ろし!」「違うわよ! なんか緊急事態っぽいわ!」
ミカンちゃんが“いろはす“をかけてあげると、謎の人は生き返ったような表情で「助かりましたー……自分、ここでしか言えないんですが、カッパなんです。地球より遥遠い惑星からやってきました」
うん、今までの流れでカッパかな? って思ったけど、カッパって宇宙人だったのね?
「カッパー! きゅうり食べり?」
「えぇ! めっちゃ好きです。地球できゅうりを食べた時、アホかと思いました。こんなうまい食べ物があるなんて、ここだけの話。かっぱ寿司ってカッパが奥でネタを切っててきゅうりが給料なんで、あんなに安く提供できるんですよ!」
えぇ! それって都市伝説じゃないの?
「うおー! うおー! かっぱ寿司すげぇえええ! でも勇者スシロー派」
「そうだ。申し遅れました。私、こういう者です」
名刺を渡されたわ。
アマ・ガッ・パ星、駐日大使・フランシスコ・カパエルさん。
「ザビエルみたいな名前ですね」
「あー! 先代ですね。あれもカッパです」
「「!!!!」」
ザビエル、やっぱりカッパだったわ!
「カッパは大酒飲みなり?」
「そりゃもう、惑星でも私は相当飲みますよ」
「へぇ、カパエルさん、今から私たち、いっぱいやるんですけど、ご一緒にどうですか?」
「いいんですか? 助けてもらっただけじゃなくて、お酒まで」
「私も、お酒飲みの象徴、カッパさんと飲める機会なんて滅多にないですから!」
サケノミストは天狗とカッパとお酒を飲みたいなーって思うものなのよね? 私だけかしら?
日本にはバッカス的な神様はいないけど、各種神様がお酒が好きという設定があるからお酒は神様が飲む甘露ということで神格化はされなかったんでしょうね。
「首だけの騎士さん……噂に聞くデュラハンさんですか?」
「我の事を知っているであるか?」
「えぇ、日本の駐日大使になってからラノベやアニメは欠かさずチェックしてますから!」
へぇ、カルチャーを学ぶのも仕事なのねー!
「金糸雀殿、いくつかおつまみを作っておいたであるが、流石に日本酒であろうな?」
「そうですね。今日は、男山。いっときましょうか?」
10月1日は日本酒の日、ということで日本酒に感謝して今回用意したお酒は男山。
北海道は旭川の地酒といえば、真っ先に出てくるであろう有名な銘柄ね。甘口でまろやか、燗付けすればより味わいが広がる有名ラベルね。今回は同じ全国どこでも飲めるお酒の中でも八海山や辛丹波なんかじゃなくてこちらを選んだのは甘口であるという事。辛口の日本酒は確かに万人受けしやすいんだけど、今回食べるウニといえば? そりゃ、北海道よね。北のお酒は甘口の物が多くて日本酒中級者以上向け。
日本酒を楽しみたいなー! って思う初心者の人はやっぱり超辛口の関西の日本酒から入るのがベストかなと私は思ってるの。
甘い、辛いというのはキレの事で糖度じゃないのよね。だから甘口だけど東北のお酒は男酒って言われるくらい男性ファンが多いとか。
男山って日本中に同じ名前の銘柄があるんだけど、実は、兵庫県伊丹のお酒の銘柄を譲って北海道旭川が作ってるのよね。
だから、旭川の男山が一応本家という事になるの。
さて、ステマ宣伝みたいな私の妄想はこれくらいにして。
「まずは男山をストレートで楽しみましょうか?」
大きめのぐい呑みを用意して、
「?」
「どうしたり?」
「今日はしゅわしゅわーってあざとい事言わないのねって思って」
「さむしー! 日本酒ぽかりーなー!」
なるほどね。寒い時はミカンちゃんも炭酸回避する事あるんだ。年がら年中コーラ飲んでるから今日も一応、日本酒ハイボール作ろうかと思ってたけど、甘口の日本酒でハイボール合わないからあんまり作りたくなかったのよね。やっぱり甘口は燗よ!
「じゃあ! カパエルさんと日本の将来に! 乾杯!」
「乾杯なりー!」
「乾杯であるぞー!」
「ありがとう! そしてありがとう! 乾杯!」
グイっ!
ふぅ……なにこれ? 合法? もう時期完全に寒の入りがくるからその露払いに丁度いいわね。まだ燗付けしてないのにポカポカしてきたわ。
「酒二合、ペロリとみなさん飲んじゃうんですね! こりゃたまげた」
「へぇ、普通ですよー! カパエルさんももうないじゃないですかー! じゃあ、次行きましょう! の前に、おつまみですね」
デュラさんが、粒うにを海苔に巻いて、刺身醤油を垂らしたこれまたお手軽で間違いない一品。
いざ、実食。
「うんみゃい! 回転寿司っぽし!」
あー! あー! 美味しいいいいい! ここで男山を一口。
だめよダメダメ! 次は熱燗で飲むんだから!
熱燗セットで沸かしたお湯の中に徳利を4本浸からせる。5分ほどくぐら瀬て、飲み頃よ。
「さぁ、熱燗をどうぞ! 次は私のぱりんこにしらすと粒うにをのせただけおつまみでーす!」
これがまた馬鹿みたいに美味しいのよね。さてさて、熱燗の方は? もしかして点滴? 輸血? あぁ、私が作った完璧な熱燗だったわ。男山はややぬる燗が私の好みなんだけど、普通に今回は熱燗でみんなに楽しんでもらうわ。
「うんみゃ〜あ。勇者、お風呂で飲みたしぃ」
「これ、勇者! 行儀が悪いであるぞ! 昨日も麦酒と漫画を持ち込んで風呂に入ったであろう?」
お風呂でお酒、命縮めるんだけど、最高なのよねぇ。
※お酒で死ねれば本望だという人以外は絶対に真似しないでくださいね。
「いや、うまい! 本当にうまい酒だー!」
「カパエルさん、次が今回のメインディッシュ。ウニクレソンです。飲み方は……」
焼いたクレソンに粒うにをのせて蒸し焼いて、レモン汁と牡蠣醤油をかけて完成。牡蠣醤油は生のウニ感をアップさせるための裏技ね。
お酒は……男山と白ワインの。
「白ワインであるか?」
「これをトゥワイスアップで割るの甘味と酸味が丁度分散されて飲みやすくなるけど度数も上がってるからお洒落にね。名付けて、ジェントル・マウンテン」
紳士の霊峰よ。白ワインは酸味が強いものがオススメで、ソーヴィニヨン・ブランなんかのブドウを使ってるのがいいかも。
「じゃあ、御神酒がわりにどうぞ!」
ワイングラスを持つとデュラさんとミカンちゃんが異世界の人なんだなーって思うのよね。使い慣れてるもの。今時、ヨーロッパの人でもこんなにワイングラス使わないのよね。
※ヨーロッパで当方が毎食、毎日酒飲んでたら、お前飲み過ぎだぞ。馬鹿なのか、よしなさい! 的な感じで怒られたので日本人の飲酒習慣はやっぱり異常のようです。
「う、う、うみゃあああああああああ!」
はい、本日のうみゃああいただきました。
カクテルが口の中にある内に、ウニクレソンを一口。かー、このクレソンの癖。それとウニの癖。それを日本酒と白ワインが優しくエスコートしてるわ。壁の花でもダンスに誘うのが私流よ!
「お酒も、食べ物も逸品。おいしすぎる。これは、日本国との今後について真剣に考えなければならないですな」
「そうですかー? 税金上げすぎーって政府に言ってくださいよー!」
「あはは、それは内政干渉」
私たちはカパエルさんと楽しく飲んで、カパエルさんを見送ったわ。今日もどこかで、カパエルさんは日夜、地球と母星との外交頑張ってるのかしら?
「こちら、惑星侵略・エリート第一部隊。カパエル小隊。地球には残念ながら水資源は乏しく、廃れた砂漠の惑星であったことが判明した。生物の存在も確認できず。これ以上の侵略行為は不要と判断。以降の指示を願う」
地球は案外、いろんなところから狙われている事と、私たちの出会いが幾度となく地球を救っている事を当然、私たちは女神様の相手とかしているので、知らない。
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