第333話 莫耶とデュラさんのアジフライと角ハイボール・梅酒ツイストと
「金糸雀殿、勇者よ。本日であるが、我が魔王城の献立に入れようと思っている試作型アジフライがあるのであるが、食してはくれるぬであろうか?」
「むしろ是非いただきます!」
「うおー! 勇者さかなスキー。デュラさんめしくっそスキー」
さて、デュラさんの作る専用アジフライとは一体どんなのかしら? デュラさんは大きなアジを五匹用意すると、鱗を取り、骨を抜いて下準備を始め出したわ。というかそこから作るのね。
「ここでこれを使うであるぞ! 我、特製の漬け込み汁である」
ははーん、竜田揚げ的な味付けをして揚げるのね。梅の香りが……これはあれね。梅酒ベースの漬け込み汁とみたわ。
魚をつける前の漬け込み汁を小指でチョンと触れてペロリと舐めてみるわ。
「梅酒、醤油。砂糖とジャム? それともハチミツ? ニンニクと生姜おろし、刻み玉ねぎ、あとみりんと……何これ?」
「「!!」」
あと一つ、なんか味がある。つんとした、ええっとこれは……あー! わかったぞ!
「美酢のパイナップルね!」
「「!!!!!」」
二人がなんかドン引いてるわ。
「うぬぅ、我渾身の隠し味が全てバレるとは思わなんだである。さすがは金糸雀殿。この漬け込み汁に漬け込みアジの臭みを取りつつ身に味付けをするである」
そして取り出したのが大葉に刻んだカリカリ梅。一体デュラさん、貴方! 何をしようというの?
「アジに大葉を挟んで揚げても美味かったのであるが、やはり大葉は生の風味を殺したくない故、こうする事としたである」
ゆで卵、刻み玉ねぎ、レモン汁、マヨネーズ。そしてここでも梅酒。それらを混ぜ合わせて刻んだカリカリ梅をトッピングした梅タルタルソース。
「このタルタルソースをたっぷりとアジフライにつけてその上に大葉を載せて完成であるぞ! では、アジフライを揚げるとするである」
超能力で調理をするので、180度の油の中に手を突っ込んで調理ができるくらいデュラさんの揚げ物は芸術じみているわ。
「我は、服部先生に送るである!」
そう。日本料理会の重鎮、服部料理学校の服部先生が今月お亡くなりになったのよね。私もレシピを真似てよく料理をした物だわ。栄養があって美味しいをモットーにした食育の神様みたいな人ね。
「デュラさんのこのアジフライに対しての回答ってかなり難しいわね」
回答というのは、サケノミスの中でおつまみに対するお酒、あるいはお酒に対するおつまみの事ね。ブラジルに行った時におつまみにバターがそのまま出てきた事があったんだけど、この回答は正しかったって感じれたし、デュラさん至高の一品に対する私の回答はアレね。
「ビールじゃダメなり?」
「キッチンジローだったら間違いなくビール一択ね。でもこのアジフライはデュラさんの魔王軍を想って作り上げられたアジフライよ。その回答に私はこの二つを選ぶわ!」
ドン! と用意したのは私が今年の6月に漬けたウィスキーの梅酒※多分28話。
そして、日本の居酒屋・伝家の宝刀。
「梅酒と角瓶よ」
「カクテルでも作るであるか?」
「ううん、ちょっと違うのよ。私がデュラさんの想いに応えるわ」
ガチャリ。
そんな本気と本気のぶつかり合いをしようとしていている時に誰かやってきたわ。
「ここは? どなたかいませんか?」
「はいはーい!」
アジアンビューティーな人がやってきたわね。多分、大陸は中国系の人とお見受けするわ。
「姓は耶。名は莫。刀匠の頂き干将の妻。莫耶と申す」
「これはこれはご丁寧に。私は姓は犬神、名前は金糸雀。犬神家の長女です」
どうやら刀鍛冶の人みたいね。
「越の超剣に叶う剣、未だ到達できず。闇の中を瞑想していると扉を見つけひらけばここに……」
「なるほど、凄い剣を作ろうとしているんですね。今から私たちも凄いアジフライと凄いお酒を飲むんですけど、ご一緒にどうですか?」
「酒は……超剣を超える時にと……」
お酒を控えて剣作りをしているのね。凄い執念だわ。私ならお酒をやめてまで打ち込むことなんてないわね。
「じゃあアジフライだけでもどうですか?」
「あじ? 何か分からないですが、是非。超剣の手がかりとなり得るかもしれません」
リビングに案内するとそこには、デュラさんのアジフライが人数分用意されてたわ。あぁ、凄いいい香り。じゃあ、この回答を作ろうかしら。
ロックアイスにレモン汁を少々、そして45mlのウィスキーをグラスに注ぎ、かき混ぜる。炭酸水を氷が当たらないように慎重に注いで氷を持ち上げるように混ぜる。
はい! ここまでが完璧な角ハイボールの作り方ね。
そしてここから、梅酒を角ハイボールにフロートするわ。
「にゃあ!」
「うぉおおおお! その手があったであるか!」
気づいたみたいね。
ゆっくり飲めば梅酒、一緒に飲めば梅酒インハイボール。混ぜて飲めばカクテルよ。
「この美しい物が酒? 金糸雀さん、誠ですか?」
「はい! 莫耶さん、良い剣を作る時に私の国のとある地域ではお神酒。要するに神様のお酒を呑むそうです。試されてみてはいかがですか?」
落ちたわね。
「じゃあ! 莫耶さんの最高の剣が出来上がる事とデュラさんのアジフライに敬意を表して乾杯!」
「乾杯なり!」
「乾杯であるぞ!」
「ハハっ! 饕餮に摘まれたような気分だ。乾杯!」
狐に摘まれる的なね!
最高! 我ながら完璧な梅酒を今年も拵えたわ。からのハイボールを、ああああ! たまらない。
「ぷひゃああああ! うみゃあああああ!」
「おおぅ、我のアジフライがこの酒に対応し切れるか不安であるな」
「お! 美味しいー! 金糸雀さん、勇者ちゃん、デュラハンちゃん、美味しい!」
デュラハンちゃんって、まぁ、莫耶さんの方が年上かもしれないわね。
さて、本日のメインイベントと言っても過言ではないデュラさんのアジフライ。
「じゃあそろそろデュラさんのアジフライを頂きましょうか?」
「冷えても美味いように作ってあるであるが! 出来立てはより美味いと思うであるぞ!」
「うきゃあああ! さかなー!」
「これは? 魚なのか? 芳しい」
流石にフライなんて古代中国にはないわよね。
いざ実食。
全員がお箸を持ってアジフライを口に運ぶわ。
ザクっ!
小気味い音がリビングに広がる。うん、何これ? なんなのこのアジフライ。アジフライってもっと日本食感ある揚げ物なのに、洋食でも和食でもない。異世界食と言っても良いわね。アジの旨みと梅の香りが口の中に広がるわ。
これが残っている間に、
「角ハイボールの梅酒ツイストよ!」
他のみんなも喉を鳴らしながら角ハイボールの梅酒ツイストをゴクゴクと飲み干していくわ。デュラさんのアジフライ。ちょっとゴテゴテしているかなって想ったけど、物凄く美味しいわ。これはパンなんかに挟んで食べたら最高でしょうね。
あぁ、そうか! アジフライはそもそも和食カテゴリーだからご飯に合うようになってるけど、デュラさんはパンに合うアジフライを作ったんだわ。そしてアズリたんちゃんや魔王の事を想って作ったのね。
「うんみゃ……うんミャあああああああああ! これつよつよぉおお!」
「うわああああ! 美味しい! これが? さかなぁ?」
「莫耶殿、アジという魚を衣をつけて揚げた料理であるぞ! 沢山あるのでどんどん食べて欲しいである」
「デュラハンちゃん、お言葉に甘えていただきます」
私達は、貪りたべたわ。あまりにも美味しいデュラさんのアジフライを、そして比例して角ハイボールの梅酒ツイストがどんどん進む。一息ついたところで莫耶さんが、
「料理にもこんなものが、そして酒も……しかし未だ私の超剣は至らないな」
一息ついたミカンちゃんが、勇者の剣を取り出したわ。
「これ、持って帰れり? 勇者の剣。アーク・エッジなりにけり!」
久々に出たわね! 勇者の剣の大安売り。でもこんな物持っていって平気なのかしら? 莫耶さんはミカンちゃんの勇者の剣という名の短剣をまじまじと見つめて……
「これは凄い。とんでもない技巧だ……こんな剣を作れる者がいるとは……ミカンちゃん、これは譲り受けるわけにはいきません。私は、この剣すらも凌駕する超剣を作らなければならないのですから」
莫耶さんは私たちにお礼と何度も握手をして玄関から元の世界に帰っていったわ。遥昔に、莫耶さんの爪と髪を炉に入れて生み出した剣は、神剣と呼ばれる程の輝きと切れ味を見せ、伝説の剣と呼ばれるようになったらしいわ。
夫婦の名前を取って、干将・莫耶。激動の時代の中でそれらの剣は失われ、中国ではない異世界に転生した二人が生み出した剣こそ……
勇者の剣。
だったりするらしいけど、真実は定かじゃないわ。
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