第7話 エルフとルヴァンパーティーと贅沢搾りグレープフルーツと

 ときどきたまに甘いお酒が飲みたくなる事ってあると思うのね?

 カクテルは飲みに行くと高いし、自分で作るのは面倒くさいなって時。


 そういう時に重宝するのが、フルーツ系の酎ハイよね。よく、酒飲みは甘いお酒はジュースみたいで飲まないとかいうけど……ほんと人生損してると思う。


 私はただの飲兵衛だから、正直飲めればなんでもいいかなって思うのね? 当然甘いお酒だってその候補に入るの。むしろ、甘いお酒しか飲めない! って人もいるくらいなんだから甘いお酒の需要と人気は高くメーカーも頑張ってくれてまーす!


 はい、では本日飲むお酒ですが、こちらです。贅沢搾り! グレープフルーツ!


 ちなみにもぎたてという可愛らしい名前のお酒もあるけれど、とんでもない度数で襲ってくるのでお酒に弱い人は気をつけた方がいいわね。


 それにくらべてこちらは5%。だいたいビールくらいの度数かな? 

 でも、この飲みやすい度数のお酒はついつい飲みすぎちゃうから注意が必要だけどね。ここだけの話し、女子会にはこのお酒はもってこいなの。


 かわいいお酒を飲むならオツマミもかわいい物にしたいと思うのはわたしの中にかろうじて残っている女の子が、そうさせるのかしら? 


 今回のオツマミは!


 ガチャリ。


 ようやくご来店ね。今日はどんな人かしら?


「だれか? だれかいませんか?」


 なんだろう心地よい低めの声、歌劇とかの人にいそうな……さぁ、ここで問題です。


 色白で綺麗な薄いシルバーの髪色に、主張しすぎないグリーンの瞳。そして尖った耳をした人がご来場。


 これは、きっと……


「エルフ?」


 もう、さすがの私でも分かりますとも、そう異世界物といえば! 


 エルフとゴブリン。実はどっちも同じ森の妖精的な位置づけのハズなのに、片方は容姿端麗な賢者、片方は無法者みたいなイメージをつけられたのは日本のロールプレイングゲームのせいだとか、なんだとか……そんな話はいいとして、今!私の目の前には、きゅーとなエルフの男の子がいるわけなのね。


「いらっしゃい! 入って入って!」

「あ、ありがとうございます」


 役得役得。すっごい美少年。いやぁ、ホストクラブなんかにハマるようなタイプじゃないんだけど、可愛い男の子が目の前にいればお酒だっておいしくなるってものよね!

 

「あの? ここは? 僕は森で狩をしていたところ、獲物を深追いした先で道に迷ってしまって」

「うんうん、ここに迷い込んだんだねぇ! おっけーおっけー! 私は金糸雀。あなたは?」

「ヘイン、ヘイン=アイルです。一応、弓と精霊魔法が使えます」


 ヘイン君、きゃわわわわ! 年の頃はいくつくらいだろう? もしかして年下の男の子かな?


「年齢は、二十代……じゃなさそうだよね?」

「はい、まだ若年の311歳です」


 そう、確かこのエルフって種族は寿命が長いのだ。年上ぇ! 

 とか思って私はあわてない。見た目相当の精神年齢っぽいし、私の方がきっとお姉さん‘(?)。という事で私はヘイン君にお酒を見せて尋ねてみる。


「ヘイン君はお酒飲める人?」

「弱いですけど、好きです」


 いやーん、私の母性が目覚めちゃうぅ……という事で、今日の相席の相手はエルフのヘインくん。


 今日は、ふんばつしてブルサンを使います。カルディで売っているクリームチーズなんだけど、一度兄貴が買ってきてから私の方がハマっちゃって今日はこのブルサンをクラッカーとナッツで食べます。


「ヘイン君、ルヴァンパーティーしましょ!」

「えっ? な、なんですか?」


 そりゃそうよね。リッツパーティーもルヴァンパーティーも異世界の人は知らない……というか、あのリッツにキャビアとか乗せるリッツパーティー。ほんとうにしている人はいるんだろうか? 


 私は、そんな事を考えながら、ルヴァンにブルサンを塗って、その上にピーナッツ、カシューナッツ、アーモンド、くるみをのせる。これで完成。



 ワインやシャンパンとかもいいんだけど、ここはフルーツ系の贅沢絞り、グレープフルーツをこうやってシャンパングラスに入れると……



 はい、完成!


「じゃあヘイン、食べましょ!」

「えっと、はい」


 二人でグラスを掲げて、異世界も世界も共通の……


「「乾杯!」」


 缶チューハイもこうやって飲むとお洒落に見えるから驚きよね。


「んんっ、これ、果物の木酒……にしては上品なお酒ですね」


  木酒、あぁ、サル酒の事かな? ジュースみたいに美味しいグレープルーツの生絞りにヘイン君は感動している。可愛い。


「ヘインくん、これも食べてみて! おつまみにクラッカーのブルサンとナッツのせ」

「これは木の実ですか? それに、香りのいいチーズですね」


 塩味のクラッカーとガーリック風味のクリームチーズとナッツが合わさるこの美味しさ、これはきっと……あれ、ヘインくん、神妙な顔をしてる。おいしくなかったのかな?


「……凄い、こんな美味しいカナッペ食べた事ない。この木の実もチーズも生地も僕が一生かかっても購入できるような物じゃないんでしょうね」


 カルディで購入したミックスナッツ1000円、ブルサン、600円、ルヴァン198円、生絞り110円。合計2000円程、一食で言えば200円くらいでこんな美少年とお酒飲めるホストクラブとかある? 


「飲んで飲んで! 食べて食べて! ぜーんぶヘインくんのだから!」


 私は、残ったルヴァンやミックスナッツを全部彼に貢いだ。ホスト狂いの女の子が定価5万程のドンペリを20万くらいで貢ぐように、私はミックスナッツとルヴァンを定価で貢ぎ、この可愛い笑顔を独り占めできるのだ。


「本当に頂いてもいいんですか?」

「大丈夫大丈夫! また遊びに来てよね」

「是非、今度は僕のお嫁さんのパールも連れてきます!」

「……あ、そう。あそう! うん、夫婦で。うん、是非ね」


 いや、もう来なくていいわ。みじめになるから……


 ヘインくんは何度も私に可愛い笑顔を見せて去って行った。行った事ないけど、ホストクラブにハマる女の子の気持ちが少し分かった。


 そんな夜だった。


 夢を見て、夢をみせるのがあーいう店なんだろうな。


 私が枕を涙で濡らしたのはきっと久しぶりに酔ったからだろう。

 あぁ......2023年は彼氏が欲しい

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