第41話 デスナイトとホッケの開きと純米酒と

 本日兄貴の知り合いからお酒が届いた。毎年、送ってくれるお酒で純米酒“えべっさんのお酒”縁起物価格の500mlで1000円と少しお高めなんだけど、このお酒ちょっと面白いのよね。作っているお酒のメーカーが開けてみるまで分からないのよね。日本酒の聖地灘郷のお酒メーカーがそれぞれ作っていてどこが当たるか楽しみな逸品。



「今年は大関なんだ」


 ワンカップで有名な大関。安定のお酒なんだけど、私は寶娘という酒造メーカーと白鷹という酒造メーカーファンなのよね。また来年送ってもらった時の楽しみとしましょう。


「時に、金糸雀殿。そのような兄君への贈り物を勝手に飲んでしまっていいのであるか?」


 デュラハンのデュラさんの指摘。さすが元騎士だけあって適格ね。日本酒は足が速いので残しておいても無駄になるだけだから飲んでしまう方がいいのよ。


「デュラさん、兄貴はリカーラックにある一番上と一番下のお酒は飲んじゃダメって言ってるから、それ以外は何を飲んでもいいの! 当然、兄貴の友人から送られてきた物も例に漏れずよ! 本日は日本酒に合いそうな物を作るから楽しみにしててね!」


 ギィ、ガチャン。

 さぁ、誰か来たわね。いつも通りだけど……今日は……ん??


「あのぉ、ここってぇ、もしかして人間の方の住処ですかぁ?」


 私はこの時、どう反応すればいいか分からなかったのね。


「なっ……」


 と声を上げるデュラさん、そして瞳孔が開いた状態のミカンちゃんが伝説の剣らしい短剣に触れる。そして、私は目の前の人物というべきか、その威圧感、言うなれば死の概念そのものに反して、ちょっと乙女みたいにもじもじしている甲冑を着たしゃれこうべを見て固まっていた。


 何この人???


「えっと、私はこの部屋の家主の犬神金糸雀です。貴方は?」


 巨大な柱みたいな黒い剣を持っているそのしゃれこうべの人は、その巨大な剣を見て、


「やだ、私ったら。ごめんなさいね。私はデスナイト。死神の近縁種だから、伝説の魔物扱いされてたりしてるけど、本当は気さくなアンデット達の指揮官よ! よろしくね金糸雀ちゃん」

「あー、はい。ご丁寧に、あの。今からお酒飲むんですけど、どうですか?」

「えーほんとにー! 私ってお酒だーいすき! じゃあ、ちょっとだけお言葉に甘えよっかなぁ」

「あのぉ、こんな事聞くのは失礼かもしれないんですけどぉ、デスナイトさんに性別があるとすればぁ」

「金糸雀ちゃん、そういうのは野暮よ! 心がどうかじゃないかしら? 心は乙女なんだから」


 あー、はいはい。なるほどねぇ、おねぇ系だなぁとか思ったけど、今は性別は色々厄介だもんねー。とりあえず見た目は遭遇したら生存する事に絶望を覚えそうだけど、とても上品でなんかいい意味でおねぇ系ね。


「あらぁ、可愛いデュラハンに可愛い女剣士ちゃんじゃなーい! 宜しくね」

「あぁ、これはこれは魔王軍大幹部。悪魔の侯爵デュラハンである」

「同じく、魔王軍の女剣士なり」


 ミカンちゃんがしれっと嘘をついた。この反応だけで、実際異世界水準でも相当ヤバい存在なんだろうな。とりあえずお酒をだそうかしら。


「はい、みんなぐい呑み持ったらついでいくからねー!」

「あら可愛らしくていい香りのお酒」


 デスナイトさんに一献。デュラさんに一献、そしてミカンちゃんに一献。そして私に一献。ではえべっさんのお酒で、


「商売繁盛で笹もってこーい! かんぱーい!」


 くいっと一気に煽る。純米酒のやさしさが口の中からすっとお腹を温めてくれるわね。これは常温で飲むのが正解ね。


「うきゃあああうみゃあああ!」

「うむ、キリリとしながらそれでいて上品な味わいであるな」

「やだぁ! なにこのおさけ、おーいーしーいー!」


 デスナイトさん、しゃれこうべなのに、どうやって飲んだんだろう。でも乙女の秘密を聞くのは野暮よね。という事でここでオツマミです。


「はい! 前菜に国産マリネ。というか胡瓜とタコの酢の物です」


 ちょっとだけ酢はきつめにしてみたのよね。ご飯のお供ならもう少し薄目でいいけど、お酒を飲む時はちょっと主張させた方がおいしいの。

 さぁ三人はどうかしら?


「えー、私このオツマミだいすきかもー! デュラハンちゃんも女剣士ちゃんも食べて食べて―!」

「おぉ! 酸っぱい! そして、酒がすすみますな! デスナイト殿」

「うん、ゆうし……じゃなくて女剣士もかなりあの作る食べ物はちょうウマーだとおもー、デスナイト殿」

「やーん! デスナイト殿なんて他人行儀はためてほしいかもー! デスちゃんって呼んで」


 デュラさんはそうでもないけど、ミカンちゃん何か後ろめたい事でもあるのか極力関わらないようにしてるわね。ちょっと面白いから観察しておこうかしら。


「デスちゃんさん。えべっさんのお酒、お代わりどうですか?」

「金糸雀ちゃん、ありが・とー! いただくわ! やーんおいしい!」


 凄いなぁ、巨体で鎧をきたしゃれこうべがクネクネ乙女っぽい仕草をしているのを見てもなんとも思わないや、これが異世界クオリティよねくらいしか感じなくなってる私。

 そろそろ焼けた頃ね。

 

「はいみんな! 今日のメインはこれ! ほっけの開きです! これと日本酒は相思相愛なんだから!」


 丁度四枚あるので一人一匹ずつ。身をほぐして日本酒と一緒に……


「んんんっ! うまぁ!」


 はぁ、やっぱ焼き魚と日本酒のペアリング、ミカンちゃんじゃないけどつよつよね。延々と飲めそう。


「はい、女剣士ちゃん、あーんしてごらんなさい! 食べさせてあげるわぁ!」

「勇者は、一人で食べられる。あ……」

「勇者? 今勇者って言ったのかしら?」

「チガウ。女剣士はミカン=ユウ=シャという名前、勘違いは困る」


 物凄い目が泳いでいるミカンちゃん、それを聞いたデスナイトさんは自分でホッケをぱくりと食べて、日本酒をクイっと。


「んまーい! 最高よ金糸雀ちゃん、それにミカンちゃんごめんね間違えちゃった! 勇者って私の可愛いアンデットの軍勢をみんな浄化させたからもし見つけたら直々にすり潰しちゃおーって思ってたの! まちがえちった。テヘ!」

「そ、そう? 勇者は魔王軍としても厄介な存在であり、お互いに大変」

「…………うむ、ホッケという魚実に油が乗ってうまいであるな」


 デュラさんが空気を読んでるわね。四人で呑むとさすがにすぐにお酒がなくなっちゃった。デスナイトさんはお魚を綺麗に食べてくれると、手を合わせる。


「ごちそうさまー! おいしかったわーん! もし金糸雀ちゃん死んじゃったら私のところにきてねー? アンデットとして地位を約束するわーん」

「はは、そりゃありがとうございます。その時はヴァンパイアのイケメンでも紹介してください」

「もうおませさんなんだからー!」


 バシバシ叩かれると結構痛い。デスナイトさんは食べ方も飲み方も上品で帰る時も私にデュラさんにミカンちゃんを一人ずつハグしてから手を振り帰って行った。という事で、私は二人に尋ねてみる。


「デスナイトさんってそんなにヤバいの?」

「ヤバいどころじゃない。勇者の今の力では手も足もでないかもしれない災害級」

「そうであるなー。死神の直系のしもべであるから我等魔王軍大幹部より人類からすれば脅威であろう」


 デスナイトってRPGとかだとちょっと強いザコだと思ってたんだけど、全然違うのね。ミカンちゃんはそんなデスナイトさんに対して、


「ふぅ、あんなのがうじゃうじゃいる勇者の世界。命がいくつあっても足りないと確信す。やっぱりかなりあに永久就職を所望」

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