第40話 リザードマンとベビーチーズと黒糖焼酎と

 さて、私の父の話なのですが、トカゲが苦手なのよね。蛇は問題ないけど、蛇に手足がついているのが気持ち悪いとのことです。最近はレオパなど爬虫類を飼う人、それも女性が多いんですけどそういうお話じゃない人が本日いらしています。

 

「ほぉ、リザードマンが現在トロールの部族と戦争中とな」

「へぇ、連中。こっちの縄張りを少しずつ奪ってきて、お互いの若い衆が衝突して小競り合いから大きな戦に発展してまさぁ。おねーさーん、お茶お代わりいただけます?」

 

 はい、リザードマンさんがいらしてます。どんな感じかというとコモドドラゴンを二足歩行にして鎧着てる感じね。意外と理性的で異世界の住人って私の住んでいる地球水準で考えちゃダメね。爬虫類っぽいのに普通に会話ができるし、知能レベルも人間のそれなのよね。

 

「はいゆず茶。勇者はお茶としてだけじゃなくてこれをパンに塗って食べるのも好き!」

 

 そう、リザードマンさん、ゆず茶にハマったらしくさっきから何回かお変わりしているのね。勇者であるミカンちゃんを恐れない理由は野良の、というか集落で生活している亞人さんだからみたい。魔物であるデュラさんとも普通に話すし中立的な立ち位置なんだって。

 

「リザードマン殿。いろは殿からお土産でもらった酒がある故、付き合っていかぬか?」

 

 そう、いろはさんこの前までイフリータさんを連れて奄美大島に旅行に行ってたらそうなの。そのお土産で私たちに黒糖焼酎を買ってきてくれたのね。

 

「酒かぁ、ご一緒していいなら、是非に」

「勇者は一向に構わん! かなりあも多分そう」

「ですです! みんなで飲んだ方が美味しいですからね! ということで、じゃじゃーん! 本日は奄美黒糖焼酎・俊寛です! 私も初めて飲みますね。黒糖焼酎はサトウキビから作ったお酒なんで国産ラムなんて言われてるんですよ!」

 

 兄貴の受け売りだけど、お酒を飲む前は少し蘊蓄があった方がありがたみがあるのよね? 国産ラムにちなんでおつまみはチーズ。それもスーパーで安売りしているオツマミやオヤツの各種ベビーチーズよ。

 

 みんなの焼酎グラスに氷と一緒にそれを注いで乾杯を……と思った時、

 

「酒の名前に由来はあるのかい? カナリアの姐さん」

「ええっと、俊寛さんは平安時代の真言宗のお坊さん。要するに聖職者ね。色々あって鬼界ヶ島っていう今でいうこのお酒が作られた地域に島流しにあって自害しちゃったみたいですよ。でもなんでお酒に名前をつけたかまでは書いてないですね。長期熟成だから?」

 

 その話に、デュラさんもミカンちゃんもリザードマンさんも、少しばかり悲しそうな顔をして、リザードマンさんが焼酎グラスを掲げて、


「シュンカン殿に!」

「しゅんかんに!」

「無念であっただろうシュンカン殿」


 と各々見ず知らずの平安時代の坊さんと盃を交わしてるので、私は……

 

「はい乾杯!」

 

 流石に黒糖焼酎、コクと焼酎独特の香りがあってほのかに甘いわね。これは……

 

「こりゃうめぇ! うめぇですぜ!」

「うん。勇者はソーダ割を所望」

「うーむ。我は金糸雀殿に出会ってからこの焼酎という実に奥深い酒を知った事、誇りに思う」

 

 お酒に舌鼓を打っている三人の元に、私はオーブントースターで焼いたベビーチーズと味のりをお皿に乗せて持ってきた。ブラックペッパーに七味にカレー粉。好きな物をまぶして食べる飲兵衛スタイル。

 

「左からアーモンド、サラミ、スモークよ! 私はサラミをブラックペッパーで」

 

 さらに味のりを巻いて黒糖焼酎を口の中に! これは……ちょっと控えめに言って最強ね。

 

 アーモンド味をリザードマンさんは食べて、「こいつもすげぇうまい。酒がすすまぁね!」

 

 25度の焼酎を水みたいにガブガブ飲んでる。リザードマンってお酒強いのねー! ミカンちゃんはスモークに七味。そして黒糖焼酎もソーダ割。

 

「んぐんぐ、ぷはぁ! こいつだ! と勇者は確定する」

 

 デュラさんは味のりに醤油を少し垂らして軽く火の魔法で炙ってパクリ。そして流し込むように黒糖焼酎、

 

「うん。いろは殿が見立てた酒。実に口に甘い」

 

 ベビーチーズって子供の頃、給食で出てて嫌いだったのよねぇ。なんかあんまり美味しくなくてプロセスチーズって当時食べた事なかったからちょっと気持ち悪いくらいあったのに、今では私のおつまみの定番ね。

 

 黒糖焼酎にどことなく感じる南国感。お湯で割っても美味しいし、ジンジャーエールなんかで割るカクテルもあったような気がするわ。私も遅れて二杯目を頂きながらおつまみの減り具合をみる。ベビーチーズと黒糖焼酎のペアリングはまぁまず外す事はないけど、ベビーチーズも味のりも追加するつもりはないわ! (というか今、出ている物が全てなのよね)

 

「かなりあー、食べ物なくなったー!」

 

 ほら、遠慮しないミカンちゃんが最初におつまみの枯渇について訴えてくる。それにリザードマンさんもデュラさんですらちょっと本日はおつまみが少ないんじゃないか……そう思っているところでいろはさんのお土産第二弾よ!

 

「みんな、親子飲みしてみませんか?」

 

 たいそうな名前だけど、別に親と子が飲酒をするわけじゃないのよね。当たり前だけど。黒糖焼酎を飲みながら黒糖を齧ったり舐めて飲む。通のペアリング。

 

「はい! 黒糖。少しずつ食べてね。ミカンちゃんはガリガリ噛まない事!」

「ぐっ! 勇者はキャンディーを噛む事に喜びを覚えてり」

「これ砂糖だからキャンディーじゃないわよ。お二人も黒糖食べながら飲んでみてください」

 

 私も試してみる。もちろん、キャンディーやチョコレート等とスピリッツはよく合うのよね。めちゃくちゃ甘いのに黒糖焼酎が口の中を洗ってくれる。そのめちゃくちゃ甘い黒糖は風味を残して私の口の中から消える。

 結構上品かつ美味しい組み合わせね。

 

 カロカロ口の中で転がして時折噛むミカンちゃん、デュラさんは口に含みながら黒糖焼酎を、リザードマンさんは珍しい物を眺めるように、一舐めして首を傾げる。

 

「こんな上質な砂糖。一体どこで?」

「私の住む同じ国なんだけど、めちゃくちゃ離れた所ですよ」

「こうしちゃおれん! 戦争状態の現在、集落の子供達に少しでも甘い物を与えてやりたいんでさぁ。ちょっくらそこまで案内願えますか? カナリア姐さん」

 

 えっ? 鹿児島まで? 東京からどれだけかかると思ってるのかしら、流石にお断りね。あっ、代わりにこれ持って帰ってもらおうかしら。

 

「すみませんリザードマンさん、もうびっくりするくらい遠い所なんでお連れする事はできないですけど、この嫌がらせみたいなサイズで黒糖持ってきてくれたので、ジップロックに入れて差し上げますよ」

 

 ジップロックにパンパンになるまで入れた黒糖焼酎をもったリザードマンさん。リザードマンの表情なんて私は知らないけど、ペコリと頭をさげ、大きな口を開けてニンマリしているのできっと喜んでくれているわよね。

 

「カナリア姐さん、デュラハン兄さん、そしてちっせぇ姉さんも世話になりやした。友好の証にこいつを置いていきやす」

「あっ、やめ!」

 

 私が止めるのも虚しく、リザードマンさんはフローリングの床にご自分がお持ちの槍を突き立てて親指を上げて私の部屋からさっていった。

 子供のリザードマンさんたちも黒糖喜んでくれるといいわね!

 

 さぁて、私はこの床に突き刺さった槍をどうするか考えようかな……ハハ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る