第39話 オートマタとカティーサークとかりんとうと
皆さん、寒い季節どうお過ごしでしょうか? 暖かい国に行ってバカンスですか? まぁ、そんな上級国民は現地の水にあたってバカンスを棒に振ればいいのにとか昔の自分は祈っていました。
花の女子大生になると、英会話やらジムやらエステやらいろんな方面にデビューする人がいますが、私の場合一貫してやめられないのがお酒ですね。そしてお酒を飲めるようになる前からの趣味と言える程ではない趣味が読書です。
何故なら図書館で借りてきて読むのでご立派な書斎とかがあるわけじゃありません。時折購入するにしても電子書籍です。
私たちの日本語ですが、居候の勇者ちゃんことミカンちゃん、悪魔の侯爵デュラハンのデュラさん、来た時から完全にマスターしています。
まさかと思って文字を読ませてみると、読めるんですよね。という事で今日は読書をしながらお酒です。デュラさんは鈴木光司さんが書かれたシンギュラリティーホラーミステリーというべきか、“リング・らせん・ループ“の三部作を、ミカンちゃんは、児童文学なのにアル中やら離婚やらコアな内容満載の伊沢由美子さんが書いた“走り抜けて、風“を、ちなみに私は洋書の翻訳が好きで、クリス・ウィタカーさんの“我ら闇より天を見る“自分の好きな姿勢で、読み耽る。
「おつまみのかりんとう置いときますね。ウィスキーは好きに飲んでください」
「……」
「……」
二人とも読書の世界に没頭しているようね。
かりんとうに合うお酒という事で適当にスコッチを、読書という事で生ける文豪、村上春樹さんが愛した格安ウィスキー、カティーサークにしてみたの。これ、一時期芋焼酎みたいな味がしたのよね。
全員ロックでちびりとやりながら、時折バリバリと静寂の中咀嚼音が響く。読書とお酒、意外と合うのよね。一人でバーに行った時とか私はショートショートや短編集の一話だけを肴にお酒を飲む時がある。一度、お酒好きの人は好きな小説を肴に一杯やってほしい。控えめに言って幸せだから!
ガチャリ、私も本の世界に意識を追いやっていたので、誰かが入ってくるのを全く気づきませんでした。
「やや? これは不思議な飲み会の席じゃないか! 人間、そして強烈な加護を受けた人間、そして悪魔と来たかい? そこに唯が呼ばれる。実に興味深いよ」
「……」
「……」
「……」
私たちは時折かりんとうを食べて、ウィスキーを口にして、謎の来訪者の存在を完全に無視していたようなの。
「ふっ、選ばれし唯の存在に関して警戒していると見受ける。安心したまえ! 人間や魔物などと言った下等な存在と違い唯は高等な頭脳を得たオートマタ。名乗ろうじゃないか、唯の名はプレアデス!」
「……あっ、お酒切れた。あぁ、いらっしゃいませ! 私は犬神金糸雀です。お嬢ちゃんは」
「き、君たち! 唯の事をむ、無視していたのか?」
ゆっくりと面倒臭そうに視線を動かすミカンちゃんとデュラさん、読書の邪魔をされると確かに少しイラッとするのよね。
「なんだゴーレム。勇者は今この本を読むのに忙しい。静かにしている事を所望する」
「あぁ、ゴーレムであるな。どこぞの錬金術師が作って捨てたのであろう胸中察する」
彼女はオートなんとかとか名乗っていたけど、二人からするとゴーレムって言ってる。パッと見は女子中学生くらいの白衣を来た女の子だけど、よく見ると肌の質感とか瞳とかが生物のそれじゃない。
「ええっと、お名前は……」
「プレアデスと先ほど名乗ったが! 失礼じゃないかね? 金糸雀くん!」
「ご、ごめんなさい。あの、食べ物とかお酒とかって流石に……」
涙目だったプレアデスさん、彼女は私がそう話を振ると、ものすごい自信満々な表情で、
「最新式のオートマトンである唯は有機物を取り込んで魔素に変える事なんて容易いさ! それに、唯は酒豪と言われていてね!」
あっ、自分で酒強いとか言っちゃう人、大体弱いのよね。うっすいカティーサークのホット紅茶割で様子を見てみようかしら?
私は、アルコール度数1%以下にした物をプレアデスさんに渡してみた。
「どうぞ、お外は寒いので紅茶割りにしてみました。ハチミツも入ってますよー!」
「悪いね金糸雀君。それでは勇者に悪魔よ! 唯も杯を掲げようじゃないか!」
という事で、乾杯!
「「「乾杯!」」」
ノリノリのプレアデスさんに対してデュラさんとミカンちゃんは読書を中断されて少しだけ乗り気じゃない感じでカティーサークを口にする。時折かりんとうを放り込みながら、
「ふぅう! これは中々きつい酒じゃないか! よきよき」
顔が真っ赤に染まっているプレアデスさん、嗚呼。予想通りお酒飲める気でいるお酒弱い子だなぁ。ミカンちゃんとデュラさんがクイッと飲み干すので私はおかわりをすぐに注ぐ。そんな二人を見て、
「ふぃ〜、このほんわりと甘くて体の芯を振るわすこのお酒、唯にもお代わりをもらえるかい?」
「あー、はい。あんまり飲みすぎないようにね?」
「ふふっ、金糸雀君。大丈夫さ、唯はバカな飲み方はしないのさ! 時折この黒いおつまみを……んんっ! 甘くてサクサクして、実に悪くない? そうだろう? 勇者君、それに悪魔君!」
なんだろう、このプレアデスさん、初対面なのにすごいグイグイミカンちゃんとデュラさんに絡む。
「おおぅ、ゆ。勇者はかりんとう。甘くて美味しくてウィスキーに合うとおもー」
「まぁ、そうであるな。ウィスキーのピート感に甘くやや油っぽいこの菓子とのペアリングは相性良しと言えるか」
「そうだろうそうだろう! ふふっ、まぁ唯が運命に導かれた特別なオートマタである事は気づいていたけれどまさか、このような場所に呼び出されるとは唯も思いもしなんだよ! 星々に導かれたのだろうね」
うーーーーん、ミカンちゃんとデュラさんが若干引いているのは、いつもならおいしー! とかうきゅうううう! とか言っているミカンちゃんや味の批評を楽しんでいるデュラさんが出来る限りプレアデスさんに反応されないようにちびちびロックでウィスキーを飲んで、静かにかりんとうを食べている事から見てとれるわね。
じゃあここは!
「結構安いウィスキーなんだけど、チョコとかキャンディーとかも合うんだけどちょっと芋焼酎感のあるカティーサークにはかりんとうよねぇ! そんな流れでお湯割りならぬ紅茶割が合うのよね! でしょー? プレアデスさん」
「ははーん! 唯達の会話に入りたくて前にぐいぐいきたね? 金糸雀君、ふふっうい奴だな君は! さよう、この甘いお酒は唯の為にあるようじゃないか!」
あぁ、なんだろう。プレアデスさんというかこの子、私が空気読んで話し相手になってあげたのに、厨二病臭する思い込みと語りにちょっと私もどうすればいいか分からなくなってきた時、
「うっ……みんなぐるぐる回って、そんなにはしゃいで! まだまだ飲みたいところだけどちょっと用事を思い出したよ……金糸雀君、まぁあれだ。失礼するよまた寄らせてもらう。唯のピアス、いやぁね。これプラチナなんだ! まぁ、唯からすればいくらでも生成出来る物だから石ころみたいな物だが、取っておいてくれ」
フラフラしながら、青い顔で私が「プレアデスさん、大丈夫ですか? お水」と言ってみたんだけど、壁に手をついて格好をつけながら、「皆まで言うな。取っておいてくれたまえ!」とか言って部屋から出ていっちゃった。
大丈夫かな? トイレで吐いてないかしら?
プレアデスさんが帰ったのを見ると、ミカンちゃんがかりんとうを鷲掴んで食べる。そしてウィスキーをキュッと。
「ウマウマー! かりんとうの甘さがウィスキーを引き立てるのぉー!」
「うむ! 優しい甘さであるな。さて、本の続きをゆっくり読むとしよう」
炬燵に潜り込むミカンちゃんと、座布団に頭をポスと下ろしたデュラさんは再び小説を読み始めた。
私はゴーレムとオートマタの違いを聞こうかと思ったんだけど、邪魔をしたら悪いなと、私も先ほど読んでいた本に目を移す。
読書って秋より冬よね!
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