第337話 ザドキエルとおでん缶とおにころカップ酒と(ぼっちざロック コラボ酒)
「ぼっちざロック、おにころセットなりぃい!」
ミカンちゃんがまたよく分からない物を買ってきたわ。アニメのコラボグッツ見たいね。
ピンポーン!
「あ、はーい!」
そして、兄貴が全く同じ物を大量に注文していたという事実。ミカンちゃんが好きな作品ね。
「何これ? おにころって鬼殺しの新商品?」
「違うなりぃ! ぼっちっざロックの作中でアル中が飲んでる酒なりにけり!」
「あー、日本盛が作中酒のラベルを作ったのね。てゆーか、アル中キャラのお酒を作るとか白鹿(このすば)といい、灘郷のお酒は狂ってるわね」
今回の鬼ころは、日本盛の鬼殺しのパッケージ変更バージョンね。なので味は完全に鬼殺しなんでしょうけど……これに合わせたおつまみどうしようかしら?
「勇者、これを買ってきてり!」
「何? 何?」
そう言ってミカンちゃんが次々に取り出したのは一時期は秋葉原のレーションとまで言われた、缶詰。
「あら、おでん缶」
一昔前は秋葉原といえばオタクの街だったのに、今は半グレの巣窟だもんね。外国人観光客とオタク狙いのグレーな商売に味をしめたとか聞くけど、昔のお祭りみたいな街に戻って欲しいものね。
「意外にも合う組み合わせが揃ったわね。ジャンクフード的おでん。おでん缶とジャンク的なお酒、鬼殺し」
ガチャリ。
誰か来たわね。
「いらっしゃい。天使の方ですか? 私は犬神金糸雀。この部屋の家主です」
私の第一声に対して、純白の翼を持った青年的な見た目の人は……
「ほぉ、人間の分際で私が天使であると見破ったか、いかにも能天使・ザドキエルとは私の事だ」
「まぁ、白い羽根生やしている人は大抵天使かなって思ってます。今までもミカエルさんとか色々来られましたし」
「ミカエル? あぁ、異教の大天使か」
あら、天使の中でも崇めている神とか違うのね。ということでグーグル先生にお出ましいただくと、ザドキエルさんはキリスト、ユダヤ、イスラムの天使なのね。で、今回はおそらくイスラム系譜の人ってことかしら?
まぁ、この辺の宗教なんて元々同じ物なのにね。面倒ね。イスラムの天使という事はお酒とか飲めないんじゃ無いかしら?
でもまぁ、一応聞いてみましょう。
「ザドキエルさん、今から私たちお酒飲むんですけど一緒にどうですか?」
「いただこう!」
「えっ?」
「えっ?」
あぁ、そうだそうだ。イスラム教の人もヒンドゥー教の人も日本にいる人はみんなお酒は飲むわ豚は食べるわ、牛は食べるわしているわ。
※一部の人はマジで日本という神の国で好き放題してます。もしかすると大半かも
教えとは……と聞きたいところだけど、私はお酒を飲みたいという人がいればいくらでも擁護するわ。もちろん未成年はアウトだけど、天使なんて年齢ないでしょ。
「鬼ころです」
「鬼、デーモンか?」
「はい、そのデーモンですら美味しすぎて釘付けにするお酒です」
「ふん、天の使いである私にはそんな酒通用せんよ」
という事で、私たちはワンカップの鬼ころを持って、
「鬼ころが天使のザドキエルさんに通用するのか? いざ、尋常に乾杯!」
「乾杯なリィ!」
「乾杯であるぞ!」
「悪魔がいる! まぁいいや、乾杯」
私たちはクイッと鬼ころを喉からお腹に流し込む。鬼殺しってお酒は飲むというより入れるといった方が合っていると思うのは私だけじゃない筈よ。身体に取り込むような飲み具合だからアル中のお酒とか言われるのかしら?
「うん、まぁ。どこに出しても恥ずかしくない鬼殺し、もとい鬼ころね」
「ハハっ、あの鬼殺しがワンカップで飲めるとはな」
「んんみゃい!」
日本酒もピンキリだけど、たまにはこういう手っ取り早く酔う為の日本酒飲むのも悪くないわね。湯煎して温めたおでん缶をと思った時、ザドキエルさんが、
「かー! なんだこの美味い酒。神界にも存在しないぞ!」
「ニケ様とかも言ってたわね。ミードかネクターしかないって嘆いてたわ」
「あんな物、この酒に比べたら天と地程の差があるぞ! デーモン殺しなんて言わずに、神殺しと名乗っても差し支えはないだろう」
どこの宗教の天使の人もそうだけど、神様に何か恨みあるのかしら? まぁ、直属の上司だし、ニケ様をみていると恨みつらみも言いたくなるかもしれないわね。
「ザドキエルさん、これ、ミカンちゃんが買ってきてくれたおでん缶です。鬼ころによく合いますよ」
という事で私も和芥子を用意して、いざ実食。
かつては食事処が殆どないという事で、手軽に食べられるおでんを缶にして自動販売機で売り出したのが秋葉原名物になったとか言われているけど、定かじゃないわね。今となっては秋葉原も飲食店が非常に多くなったし。そんな歴史感じるおでん缶のこんにゃくを一つ。
「あー、しみてて美味しいわね」
つけすぎた和芥子がツーンと鼻を通っていくわ。涙が出ちゃうけど、そのまま鬼ころを投入よ。
「くあー、おいしー! たまんないわねぇ」
「うむぅ、牛すじもよく煮込まれていて美味いである」
おでん屋台とか見つけると、大体おでんを二回くらい注文して、屋台で売られているワンカップ大関を2本程飲んでフィニッシュするのよね。
「こんな小さな卵が……」
うずらの卵知らないのかしら? ザドキエルさんはうずらの卵をしばらく咀嚼して、鬼ころで喉を通す。
「これは汁だけで酒が飲める」
あら、通の飲み方してるわね。昔はお味噌汁や御すましなんかの汁物でお酒を飲むのが定番だったとか言われているわね。
ハフハフとザドキエルさんがおでん缶で鬼ころをぐぐーっと飲み干すので、私はレンジで温めた熱燗の鬼ころをザドキエルさんに手渡す
「2本目はホットでどうぞ」
「あちち、すまないな。金糸雀、人間の食事とはこうも簡易的で美味しいのだな? 開けたら料理の入っている筒」
ドラえもんの道具に割ると料理が食べられる大根ってのがあったけど、缶詰があれみたいなものかしら。
「しかしアレだな。首だけの悪魔はいるし、超越した人間はいるし、異教の神もいるし、金糸雀。ちょっと人員を整理すべきではないかと思う」
私たちは鬼ころを一口。そして、人数を数えるわ。私、デュラさん、ミカンちゃん、ザドキエルさん…………
そして。
「も、もう一人いる!」
「く、クソ女神降臨なりにけりぃ! 勇者、これにてドロン」
「最近、突如現れる術を会得しておるな。げに恐ろしいクソ女神である」
キラッキラに輝くオーラを纏い、ニケ様は愛らしい笑顔で私たちを見つめてこう言ったわ。
「来ちゃった!」
きちゃったかー。まぁ、毎日来るので別にいいんだけど完全に妖怪の類になりかけているのはどうかと思うのよね。ニケ様はザドキエルさんをチラリと見ると、
「あなたの仕える神は元気ですか」
「我が主が元気じゃないわけないでしょう。異教の女神」
天使なので一応謙るのね。でも、そんな対等じゃない関係を私に見せつけて、自分偉い感出すのがまたニケ様、小物なのよね。
天使のザドキエルさんをみてふと私は気になった事があるのよね。
「ニケ様ってザドキエルさんみたいな天使の方とか仕えている人とかっていないんですか?」
デュラさんが驚愕の表情を浮かべる。やっぱり盲点よね? それにニケ様は少し驚くと「もう、金糸雀ちゃん。何を言っているんですか」と微笑んだ。
ほんと、この人、可愛いより美しいの方が合うのに勿体無いわ。
「金糸雀ちゃんと勇者とデュラハン、貴方達が私を信仰しているじゃないですかぁ」
そっかー、やっぱりというべきか私たちが信仰していることになってるのね。要するに天使的な人はいないという事ね。ザドキエルさんは……無言で鬼ころを飲んでいる事からニケ様、多分神様界隈でも有名なんでしょうね。
天使って中間管理職だから、空気読めるのね。
ぼっちざゴッド、ニケ様
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