第338話 ファウヌスとベジドッグと野菜ジュース酎と
「勇者、飛鳥の家に泊まりに参り! デュラさんもセットにてゴージャスな夕食と朝食を候!」
「ミカンちゃん、ちゃんとデュラさんのお手伝いするのよ? 分かった」
「りょ!」
嘘くさいなぁ。私の従姉妹、烏子さんの一人娘と誰かしらの犬神家の人間が面倒見ているんだけど、私の別の従姉妹の碧狼ちゃんがカクテルアワードに参加で家を空ける為、兄貴に依頼が来たけど兄貴はどこにいるのか不明な為、私に白羽の矢がたった……んだけど、今日は私も家にいないといけない予定があるのよね。単純に大学の講義で珍しいセミナーを受けれる招待状をもらったのでオンラインでその受講をする必要があるから、ミカンちゃんとデュラさんにお願いしたの。二人は飛鳥ちゃんとも仲良しだし大丈夫でしょう。
デュラさんいるし。
異世界の、悪魔である首なし騎士。というか今は首しかない騎士だけど、が一番安心できるってどうよ?
私も飛鳥ちゃんの可愛い顔で癒されたかったけど、今日はニケ様の愚痴でも聞いてあげるか……
と思ったけど、一人の寂しい夜に限って来ないのよね。じゃあ、一人で晩酌しますか。
「あー、二階堂開けたままか、じゃあこれでなんか作ろうかな?」
ガチャリ。
久しぶりに一人でいる時の来訪者。どんな人かしら? と、そこに行くと、草木で作った冠をかぶっているおじいちゃん。
「私は犬神金糸雀です。おじいさんは誰ですか?」
「フォッフォッフォッ! おじいさんか、私はファウヌス。森の王と呼ばれた大精霊じゃよ」
「へぇ! それは縁起が良さそうですね。今から寂しく一人酒だったんですけど、ファウヌスさんもご一緒に?」
「こんなおじいさんと飲んで楽しいのかね?」
「何言ってるんですか! 一人より二人の方が楽しいに決まってますよー! ささっ、こっちこっち」
「おぉ、元気な子じゃなあ」
ファウヌスさんをリビングに上げると「お酒は飲めますよね? 食べられない物とかありますか?」と聞くと、「肉と魚は食べられないな」と言うので、私は頷く。
「わかりました! じゃあ、全力全開のベジタブル料理とお酒でおもてなししますよ!」
「料理もするのかね? 見ていて良いかな?」
「いいですよー! なら手伝ってくれますか?」
「よしきた!」
私はおじいちゃん、おばあちゃんっ子なので割とお年を召した方との会話が好きだったりするのよね。豆腐を潰して、人参、玉ねぎ、ピーマン、生姜、にんにく、そして隠し味にコーンスープの元を混ぜてタネを作るわ。で、腸詰の代わりに長ネギを使って、野菜ソーセージを作ると、湯煎。その後にオリーブオイルを引いたフライパンで焼き色をつけてそれをコッペパンに挟んで完成。
「完全お野菜の野菜ドックです! ちなみに、パンも卵を使ってない物です」
「こりゃうまそうだな!」
お酒は野菜ジュースを取り出すと、レモン汁、麦焼酎二階堂と一緒に大きめの氷一つをシェイカーに入れて、シェイク。
「従姉妹のバーテンダーや、兄貴は3段シェイクなんですけど、私は2段シェイクです」
一段シェイクからようやく進歩できた感じね。3段だから美味しくなるわけじゃないんだけど、やっぱり魅せる技は会得しておきたいわね。魅せて美味しい、飲んで美味しいがやっぱり一番ね。私は今まで海外でメジャーな2ピースシェイカーを使ってたんだけど、従姉妹の碧狼ちゃんにもらった日本独自の3ピースシェイカーに変えたんでこっちも練習中ね。
※最近海外でも日本の3ピースシェイカーを使っているバーを見かけますが、やっぱり2ピースがなんかカッコいいですね。ただ3ピースは合理的で使いやすいと思います。
「金糸雀ちゃんは、起用じゃなぁ!」
「えぇ、それほどでもぉー、ありますかねー? よっと、ほっ!」
そう言われたら、ちょっとだけフレアも見せちゃおうかなー。二階堂の瓶を腕から肩に乗せてくるくると回してシェイカーに、ペットボトルの野菜ジュースもジャグリングするように回して回して空中にある内にレモン汁。そしてキャッチと同時にシェイカーに入れて、シェイク。
「お待たせしましたー! 麦焼酎の野菜ジュース割。名付けて麦畑です!」
「おぉ! 凄い! 凄い!」
パチパチと拍手、ファウヌスがそうやって煽ててくれるので、そりゃ私もテンション上がりますとも。野菜だらけの宅飲みが完成したわね。
「それじゃあ、乾杯しましょうか? 森とファウヌスさんと野菜に感謝して、乾杯!」
「ありがたい事を言ってくれるのぉ! 乾杯」
うーん、麦焼酎ってなんでこんなに何にでも合うんだろう。焼酎の中でも全然喧嘩しないから海外ではカクテルベースとしてめちゃくちゃ人気なのよね。
「おぉ! 甘くて果物と野菜の良い味がしっかり出ていながら……酒じゃなぁ!」
「ですよねー! 芋とか蕎麦とかの焼酎だと主張しすぎるし、ジンとかラムだとちょっと違うかなーって感じなんですよ。ここは麦焼酎恐るべしですね」
美味しいのよ! ラム野菜ジュースもジン野菜ジュースも、でもね。20度前後の麦焼酎で割る事で柔らかいのよね。
「ファウヌスさん、野菜ドッグも食べてみてください! IKEAのフードコートで食べてみて、物足りないなーと思った部分を私の独自判断で作ってみたチョイスです」
「どれどれ、ではいただきます!」
私も一緒に実食。あーんっ! うんうん! 完全に野菜だけで作った擬似ソーセージ。長ネギもオリーブオイルで焼いてあるからうんま。
「おぉおお! こりゃうまいのぉ! 野菜料理の究極系じゃ!」
「ひこまろみたいになってるじゃないですかー! うけるー! そうですねぇ。そもそも私の国、日本では精進料理って言う肉や魚を一切使わずにそれっぽい物を作る文化が昔からあるんですよ。ヴィーガンとかいうぱっと出の栄養素皆無料理とはわけが違いますからね! いわばこれは、究極の精進料理です!」
はぁあああ! 野菜ドッグに野菜カクテル・麦畑がよく合うわー。野菜系の食べ物は炭酸系よりこんな柔らかいお酒がいいわね。
「金糸雀ちゃんはヴィーガンに何か恨みでもあるのかのぉ?」
「いやないですよ。ただヴィーガンの人は私達雑食の人間に謂れのない恨みを向けてきますからね。野菜だって突き詰めていけば、虫や動物を栄養としているので自然の円環の中にあると言えるんですよ。なので矛盾してるんですよね。だから私は食べ物は残さずに食べる事。これが一番大事だと思っています。それが人が世界に存在する意義だと私は思ってます。ファウヌスさんの森も人が育てますからね」
少し、尖った事を言っちゃったかしら? 社会学のセミナーを受けたばっかりだったから影響されちゃったかな?
「ほぉ、森は人が育てるとな? それは少し興味が湧くのぉ! どういう事かの?」
「そうですねぇ……お酒、お代わりいりますか?」
「はっはっは! いただこうかの!」
「こういう難しいお話はお酒しながらがベストです! お酒の席は酔っているので世迷いごとですからね!」
さて、どこから話そうかしら、万物の霊長たる人。その考えが驕りだとは私は思ってはいないのよね。秦時代の文王が説いたこの考え方、これはある意味逆説だと思うのよね。人は過ちを起こす唯一の生命体であるという事なのよ。
「人が世界を汚さなくて放置すれば自然環境はより生き残ると思うんだけど、それでも滅ぶ種は出てくるわ」
「それが自然の摂理じゃてな」
「いいえ、私達人間はそれを納得しないの。滅んでいい種なんてないって思ってるわ」
「じゃが、人間は最も種族を滅ぼしてきたとワシは思うが?」
「そうですね。所謂人間はまだ進化途中だからですよ。ハイヤーセルフなんて言葉をスピリチュアルの世界では使いますけど、ノアの方舟って昔の神話ですら、全ての種を生かそうとする哲学的な考え方でした。錬金術は命を生み出そうとして、人間は弱いが故に、他者を傷つけ、その癖寂しがりだから、友である世界中、異世界中の人間同士を、多種族同志を、草木を、動物がいなくなる事に不服を持ってるんですよ! 神の意思であろうとなんだろうと、私達、天然自然の中で生まれた人間の判断は、その生態系への判断だと思います。だから、四季の植物を同じ環境で育ててみたり、奇跡的に日本でのみ生存した紅葉を海外に植林し、滅ばない森を人は必ず育てると私は信じてますよ」
森の王様であるファウヌスさんに私は酔った勢いか、割と上から話してみたわ。さぁ、大精霊のファウヌスさんはどんな反応をするかしら?
野菜ドッグを食べて、グラスの野菜カクテルを飲んで。
「人は神である」
「あはは! そこまでは言わないですよ」
「いやいや、ワシら森の言葉じゃな? 破壊の神、創造の神。神の化身」
「ユダヤ系やアイヌ系の考え方ですね」
「面白い考え方じゃのぉ? じゃが、人は森で育てられるとも言えるの?」
「ですよねー! だって森や自然を大事にしたいって気持ちって自然がいかに美しいか、楽しいか、それを知ってないといけないじゃないですか? それが円環。森は神である。ですかね?」
「一本取られたのぉ! そこまでは言わんな!」
私とファウヌスさんは気がつけば紅茶を前にしてあははと笑い合っていたわ。そんな中で、ちょっと小難しい話だったから、話に入ってこなかった人が話しかけてきたわ。
「人も森も神じゃありません! 神は私ですぅ!」
ほら、何に対しての勝利かは分からないけど、勝利の女神・ニケ様がね!
ニケ様を神と仮定すると、人も森も神様なんていらないんじゃないかなって思ったのはきっと私だけじゃないハズよ。
ポイ捨て禁止とか当たり前のできる事から自然を大事にしていければいいかなって思うわね。
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