第339話 ハートの女王とサーモンの花造りとシャトー・テューレイ・ロゼ メイド・ウィズ・ラブ(ロゼワイン)と
「フルハウスである! これはもらったであるな!」
「チッチッチなりにけりぃ! 勇者、スペードのロイヤルストレートフラッシュにてなりにけり! よって勇者の勝ちにて本日はしゅわしゅわー!」
「うぉおおお!」
私たちは今日飲むお酒をポーカー勝負で決めてるのよね。デュラさんは日本酒の生原酒系、ミカンちゃんは安心と安全の炭酸系。そして私は今日、無性にワインが飲みたいの、赤でも白でもないし、アンバーワイン! って程の気持ちじゃないので、ロゼね。多分、女の子で最初にワインが好きになるのは白でハマるのはロゼ。見て楽しい飲んで美味しいに弱いのよ。
私はポーカーの最強役であるロイヤルストレートフラッシュに対して出せる手は同じ役を出す。でもスペードのロイヤルストレートフラッシュはルール上最強なのよね。
なら、私は二枚交換。手札はクラブの3、スペードの3、ハートの3。
「運命の一枚目……ドロー!」
ダイヤの3。フォーカード。ポーカーで三番目に強い役。これじゃあとてもじゃないけどミカンちゃんに勝てる気がしないわ。
「お待ちなさい金糸雀ちゃん! 誰か忘れていませんか?」
「げっ! クソ女神なり!」
「そういえばクソ女神は勝利に司っていたであるな……がしかし、この状況ひっくり返らぬであるぞ」
どこからニケ様が湧いてきたのかはあえて気にしない事にしましょう。
そう、公式のカジノなんかだったらもうどうしようもないわね。でも私はまだ諦めないわ。ポーカー界のエクゾディアと呼ばれたあの役を……
「金糸雀ちゃん、今こそ、女神ニケドローをするのです」
何それ? まぁいいや。
「ミカンちゃん、今日は何がなんでもロゼを飲むよの! 完全勝利の女神ニケドローぉおおお!」
私は山札から一枚のカードを引くとそれを見たわ。ミカンちゃんの手札、ロイヤルストレートフラッシュ。まさに勇者パーティーと言わん程の強さね。
「私の手札はこれよ」
「フォーカードなり?」
「フォーカードであるな?」
私は最後のカードをくるりと返し、仮面をつけたウサギがギロチンされている絵面のジョーカーを見せたわ。というか、パンクすぎるトランプね。
「ローカルルールのみで揃えばゲームエンドに持っていける神の役よ! その名もファイブカード!」
「ぐぁああああなりぃ!」
ミカンちゃんはバタンきゅー。ミカンちゃんを倒した事で今日のお酒はロゼに決まりね。
「これ飲んでみたかったのよ! シャトー・テューレイ・ロゼ メイド・ウィズ・ラブ。女性姉妹二人で作ってるロゼワインで、有名な評論家がベタ褒めしたワインなのよ。3000円くらいでお手頃なフランスのロゼね」
ワインクーラーで冷やしておいたそれを用意すると、全員にワイングラスを準備するわ。ニケ様の青く透き通った髪の色と薄いピンクのロゼはなんだか似合うわね。
「つまみは何なり?」
「シュワシュワは出せないけど、本日はサーモンのお刺身よ!」
「うおー! うおー! 勇者、さかなすきー!」
「サーモンの脂は魚の中でコッテリとして美味いであるからな!」
「けいじとかだともっと美味しいんだけどね?」
「ピンクのお酒に、オレンジのお魚ですねぇ!」
デュラさん、ミカンちゃん、ニケ様の異世界組のいいところはゲテモノも含めてなんでも食べれるところなのよね。飲み友としてかなりの評価ポイントが高いところね。
誰も来ないので乾杯しちゃおっかなと思った時。
ガチャリ。
「ここはどこじゃ? これ、誰か? 誰かおらぬか?」
というので、私は玄関に行ってみると「きゃわわ!」赤いエプロンドレスの女の子、そう! あの不思議の国のアリスの赤い衣装を着た女の子がやってきたわ。
「もしかしてアリス?」
「アリスぅう? どこをどうみたらこのハートの女王をあの忌々しいメスガキと間違えるというの! 誰か、この無礼者の首を刎ねなさい!」
「いやー、ハートの女王様かー!」
白いバラを赤く染めよう♪ ってよく小さい頃歌ったわね。私はディズニー作品の中では不思議の国のアリスが一番好きなのよね。
「誰かー! 誰かおらぬかー! この者の首を!」
喚き散らかすハートの女王の元に、ふよふよと浮いてデュラさんがやってきたわ。
「なんであるかー?」
「うぎゃああああ! 首を刎ねられた後の亡霊が飛んできておるー!」
殆ど正解だからどうしたものかしら。デュラさんの首ってなんで分離しているのか詳しくは知らないけど普通はこういう反応になるわよね。
「ハートの女王さん。こちら、居候の悪魔のデュラさんです」
「何処かの王族であったか! 首だけで失礼するぞ」
「失礼にも程がある! この者の」
「すでに首だけあるからな! わっはっは! 刎ねられる首もなし」
デュラさんが言うと笑っていいのかすごい困るわね。まぁ、とりあえず自己紹介ね。
「ハートの女王さん、私は犬神金糸雀。この家の家主よ! 今からワインとお魚でいっぱいやる所だったんだけど、ハートの女王も一緒にどうですか?」
「ふん! そんな事で極刑を免れると思われては困る……が、このハートの女王に対するその態度は褒めて遣わす! 案内せよ」
というので、ミカンちゃんがひっくり返ってスマホゲーしてて、ニケ様はご馳走を前に満面の笑みでキラキラ輝いているわ。
「ま、マッドティーパーティー! そっちのひっくり返って娘はまさか、マーチヘア?」
「勇者は勇者なりにけり!」
「私は女神ですよ! 小国の女王、席にお座りなさい、みっともない」
お酒が入った後のニケ様には絶対に言われたくないセリフだけど、ニケ様は早くご馳走を食べたいのね。
「じゃあ! ハートの女王のご来場に乾杯!」
「乾杯なりぃ!」
「乾杯であるぞ!」
「私も讃えてください! 乾杯!」
「みたこともない美しい色のワイン! ハートの女王である私に!」
クイッと飲み干し、私にグラスをハートの女王は向けるので私はおかわりを入れてあげるわ。
「いいわね! 美味しいわ! 赤はいいわ! 心が癒される」
ミカンちゃんは今回炭酸じゃないので、上品にワインを飲んで、デュラさんは口の中で転がして「おぉお、軽いが美味いであるな」と堪能。
「金糸雀ちゃん! 私にも!」
「はいはい、ニケ様もどうぞ」
さて、じゃあハートの女王さんの為に少しだけ頑張ろうかしら? 私はサーモンのお刺身をお花の形に成形する花造りにすると、オリーブオイルとレモンに醤油、バジルを混ぜたソースをかけて持っていく。
「さぁ召し上がれ! サーモンの花造りです」
「おぉおお! 美しい!」
「たまに金糸雀がこういうのするとき、勇者素直に尊敬せし」
まぁ、普通のバーでも働いているから飾り切りとかは得意だし、たまにはね。
「でも食べれば同じです!」
こういうニケ様みたいな人もいるからね。さてさて、ハートの女王さんは?
「あらぁ! ハートの女王の為に赤い魚を使ったのね。いいわいいわ! いただきましょう」
という事でいざ実食。サーモンのコッテリとした油をロゼで流してあげる。口の中に生臭さは残らない。シャトー・テューレイ・ロゼ メイド・ウィズ・ラブに合わないおつまみはないかもしれないわね。
「うきゃああああ! うんみゃああああ! 勇者、さーもんすきー!」
「うむ。しかし酒とよく合うである」
わきわきと私たちはロゼとサーモンのマリアージュを楽しむわ。「金糸雀ちゃん! お・い・し・い!」とたまに雑音も入るけど、ハートの女王は赤いお酒に赤い色の魚をみて機嫌が良さそうね。
「思えばハートの女王はいつも一人、誰かが必ず周りにいるアリスに嫉妬していたのかもしれないわ。忌々しい男の子。アリス……今度会う時は少しだけ、あの子の話を聞けるかもしれないわね」
そう言いながら燦々と輝く太陽にロゼの入ったグラスを掲げてハートの女王さんは太陽ごと飲み干すようにロゼをキュッと処理した。
「帰るわ。私の統治している世界に、犬神金糸雀」
「は、はい」
「私と一緒に来ない? 悪い扱いはしないわ」
ハートの女王は孤独なキャラクター。独裁により、トランプ兵やその他家臣に恐れられてはいるけどそれ以外の感情を持っていないの。きっとかつてはハートの女王に寄り添おうとした人もいたかもしれないけど、皆自分の手で処刑してしまった。彼女は永遠に満たされる事のない愛の囚人。それが愛であるハートを司る女王というのは少しばかり皮肉が効き過ぎているわね。
「私の居場所はここですから、ハートの女王と同じです」
「同じじゃないでしょ。赤身の魚、美味しかったわ」
そう言って去っていくハートの女王。それに「待ちなさい! ハートの女王」とニケ様が「何? 野蛮なりし女神」と聞き返すと、まさかの蘊蓄をニケ様は最後にハートの女王にぶつけたわ。
「サーモンは赤身ではなく白身の魚です! 赤いエビやカニを食べるから赤いんです。覚えておきなさい! わかりましたか? それと金糸雀ちゃん」
そう、白いものが何よりも大嫌いなハートの女王は最後、私たちにくれる一瞥が死ぬ程恨みをつらみを孕んでいた事を私は生涯忘れる事はないだろうと思ってロゼを太陽に掲げて「ハートの女王に」と飲み干したわ。
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