第340話 ガリレオ・ガリレイとシカゴピザとデュラさんの梅酒と
「ガリレオ・ガリレイ。おまっ……また教会と喧嘩して地上が回るとか、みんな知ってる事を言って裁判掛けられてるのかよ。あえて言わないんだよ。サイコパスかよおまっ、ほんと……」
「いやー、だってみんな思ってるっすよ? 天が回ってるか、アホでしょ教会」
歴史でも有名なガリレオジャッジを日本語翻訳した内容である。異論は認める。
いわゆる、ガリレオ・ガリレイが地上が回って昼やら夜が来てるに決まってんじゃん教会ってやばくね? 馬鹿じゃね? 死ぬの? みたいな事を言った結果、幾度となく裁判をかけられたアレである。
そして、
「判決、教会ってヤクザだから、敵に回すとやべーのでガリレオ・ガリレイにきつい沙汰を……」
「すいませんした。自分が間違ってましたー。多分天回ってるっすわー」
みたいな不毛なやり取りを繰り返した記録であり、ガリレオ・ガリレイは裁判終敗訴した後も教会に次はどんな報復をしてやろうかと考えてながら歩いていた時、なんかこう歌の歌詞が閃いた。
僕らの生まれてくるずっとずっと前にはもう
教会権力はヤクザじみてたろ?
本気で月を見ようって考えられないのか
なんだか教会ってやばくね?
「あっ! 月を肉眼で見よう。望遠鏡作らねーと」
目の前にある不自然な扉をガリレオ・ガリレイは躊躇なく開くと、そこには靴が何足か。
「さーせん、おじゃーしまーす」
靴を脱いで部屋に上がる生活はした事がないが、ピンと来た靴は脱いで上がるのだと。
「こんにちは〜。普通の人だ。私は犬神金糸雀です」
目つきが少し鋭いが可愛らしいお嬢さんが出迎えてくれた。なのでガリレオ・ガリレイは跪いて手の甲に触れない程度のキス。
「自分ガリレオ・ガリレイっす。なんだろ。色々勉強して教会に嫌がらせするのを生き甲斐にしてるっすよ」
「まぁ! ガリレオ・ガリレイさんですか? 知ってますよ。こんなやべー人だったんですね。今からお酒飲むんですけど、ご一緒にどうですか?」
「マジっすか?? いいんすか? じゃあお言葉に甘えて」
完全にイタリアの文化を凌駕している部屋、これ、王族とかそういうレベルじゃねーなとガリレオ・ガリレイは頷く。だって、見たこともない光を放つランプらしきものが高い天井から輝いているのだ。
「おぉ、今日の客人は普通の人であるな」
「ちわっす! 首だけでどうやって生きてるんすか?」
「おぉ、普通の人ではなさそうであるな。まぁ、我は悪魔でありずっと前に死んでこうなったであるな」
「マジっすか! 完全にアンチ教会っすね! 仲良くなれそうっす!」
「うおー! クレイジー野郎やりにけり!」
失礼な物言いの女の子も王族の完全敗北みたいな美少女プリにガリレオ・ガリレイは「ガリレオ・ガリレイっす! 座右の銘はそれでも地球は回ってる教会のばーか! っすね」「うおー! うおー! すげー! やべー!」と謎の場所での人たちとも秒で仲良くなった。
「今日は我が作った梅酒のテイスティングを兼ねた飲み会なのであるぞ」
ドンと大きな瓶に漬けられた梅の果実、それをデュラさんが超能力で掬って皆の氷が入ったグラスに注ぐ。
「ポンペイドライジンで漬けたジン梅酒であるぞ!」
「国産ジンで漬けるレシピが有名なんだけど、私もこれかタンカレージンで漬ける事をお勧めするわね!」
ジン、おそらくはスピリッツの類で果実を漬けた漬け込み酒かと、自分の生まれ育った国ではあまり見ないタイプのお酒だなと、しかしながら食前酒にスピリッツを飲む事はよくあった。
「それでは地球はやっぱり回っているガリレオ・ガリレイさんに乾杯!」
「乾杯であるぞ!」
「乾杯なりぃ!」
「くたばれ教会ぃ! 乾杯!」
一口飲んだ瞬間。ガリレオ・ガリレイは完全に1600年代イタリアの酒文化を凌駕している事に驚いた。甘い、甘すぎるくらいに甘い、そして香り高い、なんと言っても後味がいい。これはもはやワインだ! 最高級の白ブドウで作った最高のワインですらこの高みには到達しまい。
閃いた。
「果実、砂糖? 蒸留酒を漬け込み年月が経った酒。うますぎるっす!」
「そうであるぞ! これは四ヶ月目である。半年、一年と年数が経てば経つ程味に深みが出てくるのであるぞ」
「勇者、シュワシュワがいい!」
ミカンと名乗る少女はソーダ水を用意すると、それと梅酒をおもむろに混ぜ合わせて、一気飲み。
「!!!! そんなの美味いに決まってるっすよ!」
なんだここは? こんな酒の飲み方、見た事がない。落ち着く隙を与えずに次は鼻腔をよく嗅ぐチーズ臭が襲う。
「シカゴピザ作ってみたけど、結構上手くできたわね! チーズが飛び散るかと思ったわ!」
「我と金糸雀殿が動画を見ながら作った代物であるからな! 失敗の余地はないであろう」
「それもそうですね!」
ガリレオ・ガリレイは驚愕した。というか、恐怖した。好きすぎて日に三枚食べることもあったピザ。あぁ、ピザか! くらいで構えていたら。
「なんすかこれ?」
「シカゴピザなりぃ! ウェーイに候!」
「ウェーイっすか?」
ピザって、丸い生地にラード油とかチーズとか塗って焼いたやつじゃね? という概念があったが、金糸雀とデュラさんが持ってきたものは10cmはあろうか分厚い生地の中にグラタンみたいな物が入っている何か。
「シカゴピザは、ピザの中でも特殊ですからねー! パイ文化のアメリカで生まれたので死語であるピザパイの語源の祖かもしれないですね。普通は生地に具材乗せて焼くんでるけど、器型の生地にたっぷりのチーズとたっぷりのトマトソースぶっかけて焼くのがシカゴピザです。だから切ると」
雪崩のようにチーズが溶け出してくる。そんな謎の食べ物をガリレオ・ガリレイは出されて一口食べる。咀嚼して飲み込む。あぁ、これも完全に1600年代のイタリアの食文化を凌駕してるわ。
「ここで、梅酒のソーダ割りです! シカゴピザがいるうちにどうぞ!」
「マジっすか? これ絶対うまいやつじゃねーっすか!」
ごくり、嗚呼。成程、これは多分イタリアピザの魔改造料理だろうなとガリレオ・ガリレイは閃いた。美味いなぁ、悔しいなぁ。食はイタリアにありだと思ってたけど、この部屋ナイフ以外の食器も使ってるし……さてはここ、月じゃね?
月ってすごい文化進んでるんじゃね? これやばくね? と梅酒を堪能し、なんなら少しもらって、シカゴピザは持ち帰れないのでこれも鱈腹食べてガリレオ・ガリレイは小さな望遠鏡を金糸雀に手渡した。
「こんな物しかお礼ができねーっすけど」
「いえいえ、いいですよ別に大事な物でしょ?」
「もらって欲しいんす! 楽しく食事をするって、それだけ平和っすからね」
人は月を目指さなければならない。ガリレオ・ガリレイは閃いた。というか、未来視をした。いつか世界の誰かが、月の大地を踏む。
それ以来、金糸雀さん、デュラさん、ミカンちゃんのいる部屋に迷い込む事は無くなったけど、長い年月をえて、ついに月を見る事ができる望遠鏡を完成させた。
どれどれと眺めてみると。
「あっ! わかってしまった! そういう事っすか!」
あれ、月じゃねーわ。月ってなんかすでに死んでるクソみたいな星で、あの部屋は多分未来なんじゃね? そりゃ今のイタリア負けてしゃーねわ!
そんなガリレオ・ガリレイは、
「判決、毎回毎回、お前のファンが傍聴席に来るのクソだるいのでガリレオ・ガリレイにマジできつい沙汰を」
「さーせん! 自分が間違ってあーした! 教会パネっすわ!」
今日もまた、裁判を起こされる。
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