第341話 王子喬とキャベツ焼きとウィスキーの紅茶割と
「あら、珍しいわね。ミカンちゃんが剣の手入れ?」
ミカンちゃんの短剣をミカンちゃんがクレ5ー56を吹きかけてゴシゴシと布で拭いてるわ。それって刃物にかけていいやつなのかしら? ちなみにクレ5-56の数字の部分はかつてのアメリカの住所らしいわね。
「おぉ、勇者よ。我の魔剣も手入れをしたいのでクレ5-56を貸してもらえるとありがたいであるぞ」
「ぎょい御意なりぃ!」
「それってそんな高価な剣とかに使えるの?」
「刀剣の査定とかする奴らも使ってりぃ!」
そうなの? なんか、粉みたいなのでポンポン! ってやるのかと思ってたけど、今はスプレーかけて拭くのね。それにしても何故ミカンちゃんとデュラさんがそんな事知ってるのかしら?
「我らの世界ではクレ5-56は同じ重さの金と取引されるであるからな! まさかこの世界の物であると知った時驚いたであるぞ」
「勇者、旅立ちの日に王様に渡されり」
そうなんだ。クレ5-56すごいのね。大体の家に一本くらいあるわよね。二人が剣の手入れしているなら今日は私が何か作ろうかしら。
冷蔵庫の中には、キャベツが一つ、焼きそばはないわね。サムギョプサル用の豚肉の塊……お好み焼きを作るにしてもちょっと材料が心許ないわね。どうしようかしら? さて……よし! 具の少ないお好み焼き、要するにキャベツ焼きを作るわよ!
準備はこんな感じ。
一人前。
・千切りではなくみじん切りにしたキャベツ50g
・卵一個
・小麦粉30g
・水大さじ三杯
・豚肉、適量。
みじん切りにすることで歯ごたえ感アップね。スプーンを二つ取り出してキャベツと小麦粉と水を入れて突き刺すようにかき混ぜるわ。そしてある程度混ざったところで卵投入。
フライパンは油を引いて中火。そこに円状に生地を流し込むは。この円状からはみ出ない程の大きさに豚肉を切る。今回はサムギョプサル用で分厚いので、フライパンの横や淵側で片面に火を通しておくわ。そして火を通した方を下にしてキャベツ焼きの生地の上に乗せる。3分経ったらひっくり返して蓋をしてもう3分で完成ね。
見た目は完全にお好み焼きで味もお好み焼きなんだけど、どちらかといえばおやつ感覚なのよね。完成版お好み焼きは水をだし汁にして紅生姜も入れてあげるとグットね。
「おぉ、いい匂いであるなー!」
「お好み焼き勇者、すきー!」
「水と小麦粉だけでも結構膨らむのねー! 中学生時代、よく作ってたオヤツよ。味は保証するから食べましょ。お酒は……さっきティータイムに飲んだ紅茶がめちゃくちゃ残ってるわね」
「勇者が作れし紅茶にて候! 面目無しと謝罪被れ理!」
ミカンちゃんに紅茶作りを任せた私に落ち度があったわ。大きな薬缶に大量に紅茶を作ってくれたのよね。流石にティータイムに飲む紅茶なんて多くて三杯くらいだからまだまだ残ってるのよ。
「アイスにして紅茶割りで飲みましょうか?」
「えぇ、勇者しゅわしゅわがいぃ!」
自分でやらかしておいてこのワガママを通すミカンちゃんは世界くらい救えると思うのは私だけじゃないわね。炭酸がいいならと私はソーダストリームをドンと用意するわ。
「紅茶を炭酸化して割れば問題なしね」
「うおー! かなりあ、否定から入らないところ好き」
デュラさんが全員のキャベツ焼きにソース。今回は具材が少ないのでドロソース、マヨネーズ、青のり、鰹節をかけて完成。ウィスキーはジョニーウォーカーの赤を選んで、アイスティーと割るわ。
「じゃあ、乾杯しましょうか?」
「乾杯であるぞ!」
「乾杯なりぃ!」
かつんとグラスを合わせ「「「あれ?」」」と私たちは驚くわ。誰もこないの。恐る恐る私たちはウィスキーの紅茶割りを飲んでみてその安定と安心の味に満足。
ちなみに、ジョニ赤は午後ティーのミルクやレモンと割って飲んでも美味しいわよ。私はどちらかというとリプトン割りの方が好きだけどね。
「おぉ、紅茶割り。美味いであるな!」
「冬になるとホットもいけますよ」
「シュワシュワウマー!」
誰もこないのってなんか変な気持ちね。もしかしたらドアの効力とか無くなった感じかしら? 念の為に一応、お客様分のキャベツ焼きもウィスキーの紅茶割りも用意はしてたけど後でみんなで分けて食べようかしら?
「この前、かなりあが居酒屋にて男女で飲み会をしていたのを目撃せり」
「金糸雀殿であれば友人付き合いの一つや二つくらいあろうぞ」
「あー、東京に出ている昔の同級生達とプチ同窓会したのよ」
あの同窓会は酷かったわ。焼酎ロックで飲む事に謎のアイデンティティーを見出したのかかつてのクラスメイト男子が焼酎について語る語る。私も焼酎は好きだけど、浅学の知識から得られる物はないし、あの手の飲み会ってビールか酎ハイかカクテル飲みながらワイワイする事に意味があるのよね。別に何飲んでもいいだけど、空気感と選ぶお酒ってのはあるわね。あの場合女子にイケてると思われるのは焼酎ロックを飲んでても普通にワイワイ楽しめる男子ね。
「おぉ、その男子殿のせいで空気が悪くなったという事であるか?」
「えぇ、ちょーキモし」
「でしょでしょ! 私だって飲み放題なのに遠慮して生中30杯くらいで我慢してたのに」
「「えっ……」」
二時間飲み放題だから、普通に飲みつづけたらあんな小さい生中30杯くらいになるじゃない。私の部屋で使っている中ジョッキの半分も入らないのよ? 普段二人とも私と同じくらい飲んでるじゃない。なんなら私の家はビール飲む時のグラスはロング缶一本入るんだから、それを10本近く飲んでるじゃない!
※現在の中ジョッキが本当に小さくて、昔はロング缶ぐらいの量があったのに、現在通常の缶より少ないので、ロング缶二箱くらい普通に飲む人はガチで20杯、30杯出てしまうので金糸雀さんが強いとはいえ、割と普通かもしれません。ただ、飲み過ぎには気をつけてくださいね。
「おぉ、杯数で聞いたから我も引いてしまっていたであるぞ」
「勇者も、少なくなってり? 詐欺にて候?」
「まぁ、お店側も大変なのよきっと、さぁキャベツ焼き食べましょ」
ザクザクと。嗚呼! お箸でも綺麗に切れるわね。生地が小麦粉少なめキャベツみじん切りにしているからね。
いざ、実食。
「んんっ! んまっ! 結構いけるわね!」
「うおー、うおー! かなりあうましー! 勇者、これ好きー!」
「うむ! やはり、金糸雀殿は包丁上手であるなぁ! 美味い!」
二人とも何作っても美味しいって言ってくれるから好き。やっぱり作り甲斐があるわね。にしてもお好み焼きってビールやサワーが合うけど、割とキャベツ焼きはウーロンハイとか紅茶割りとかでも合うわね。
「勇者、キャベツ焼きおかわりにて!」
「じゃあ、お客様用の食べたら」
「ぎょい御意……食べられてり」
えっ? 私たちが気づかないでいたけど、真っ白な髪をした人が、口の周りにソースをつけてウマウマと食べてるわ。
「あなたは誰ですか? 私はこの家の家主の犬神金糸雀です」
「ん? わしか? わしは王子喬。そなたらが刃物を大事にするから顕現した刃物の仙人。尸解仙の王子喬だ。首だけの者は邪悪なる剣を、朱色の髪をした娘は小刀を、そしてお主。金糸雀は包丁を! 皆、刃物を大事にする者のところにわしはやってくる。昔はジャックザリッパーや、足利義輝、アーサー王と刃物を大事にする者が多くいたが最近はめっきり減った。金糸雀よ」
「はい?」
「酒と、この食べ物。おかわり」
「あー、はいはい」
私がキャベツ焼きをミカンちゃんの分と二つ作っている間に、リビングから、
「刃物とは使い方を間違えれば命を殺める事になる。そなたらはそれに関してなんと心える? 何故刃物を使う? 答えるといい。この王子喬が納得できる答えを持っているというのであれば、いざ!」
「うぜー! こいつ超うざいなりけりぃ! 剣は切れればよき」
「うむ。うざさとうざさが競い合うようなねっとりとしたうざさであるな。我は命を奪う事前提で魔剣を持っておるからな」
「はぁ……てんでダメダメだ。そなたらに剣とは刃とは何か、夜通し説明する必要があるか、金糸雀! 酒はまだか? 夜は長いぞ!」
あぁ、ニケ様タイプか。私はキャベツ焼きとウィスキーの紅茶割りをお盆に載せてリビングに向かう際、柱のところからこちらをじっと見ているニケ様と目が合ったので、怖いなぁ、怖いなぁと思って目を逸らしてもう一度みると消えていたので安心したら、リビングに既に座ってスタンばってるニケ様の姿を見て私は不思議と笑ってしまったのよね。
これからが、本当の地獄だ。
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