第354話 金毛の羊とラムビリヤニとジムビーム ハイボール〈ピーチハイボール〉と

「肉食べれり」

「あぁ、本日は感謝祭であるか」

「甘いお酒もいるけど」

 

 異世界組の唐突な記念日がやって来たわ。私たちの世界とは暦が違うけど、多分地球から行った人々によって大分近しいものになってるみたいだけど、そんな中で異世界の風習があるみたいなのよね。

 

「どんな感謝祭なの?」

「寒くなったら獣の肉を食べて温まり、働き者への感謝祭なりにけり!」

「ミカンちゃん、感謝されないやつじゃない」

 

 日がな一日、パソコンとタブレット、アニメとゲームに依存してるしね。じゃあ、どんなお祭りなのかできる限り再現する為に三人にお話を聞くことにするわ。

 

「ちなみにどんな物を食べるのかしら?」

 

 証言一 魔王城の感謝祭にて。

 

「肉は蒸しあがった鶏系の物を香辛料をかけて食べるであるぞ! ワインに甘みを加えた物と頂いたであるな!」

 

 モンスターもその感謝祭とやらはあるのね。まぁ、働く働かないという話だったら、会社制度のデュラさん達は働き者か。

 ポートワインと蒸し鶏と……

 

 証言ニ ミカンちゃん実家にて。

 

「馬に似たパイコの焼肉なり! 柑橘類の果実酒で決めっ!」

 

 多分、農家系のミカンちゃんの実家は年老いた家畜とかを食べるんでしょうね。あと果実酒は多分、ミカンちゃんの実家の柑橘類農園産ね。

 

 証言三 星々をかける神様達の場合。

 

「お酒は基本ミードだけど、お肉はその時々で決まりがないけど」

 

 それらのお話を聞いて私に分かった事。肉であればなんでも良さそう。あとお酒にも決まりがなくて甘い物ならいいみたいね。雑な決まりに感じるけど私の世界と比べて物の流通がそこまで良くないから、大雑把だけどみんな同じ事をしようとしている努力は凄いと思うわ。文化はこうして生まれると言うのを感じられるわね。

 

「お酒は昨日発売の新商品が届いているからいいとして……あっ! ラム肉もらったんだっけ? これでピリヤニでも作ってみましょうか?」

 

 インド風炊き込みご飯ね。材料は玉ねぎとご飯とラム肉だけ、サフランとかスパイスの類は必要だけど比較的簡単に作れるからキャンプご飯としても有名ね。これにインドウィスキーなんかを合わせて日帰りキャンプとかしたら雰囲気出そうね。

 

「この長い米はなんであるか? タイ米であるか?」

「インディカ米ね。日本のお米よりGI値が低いからダイエット食品としても注目されているけど、お米としての美味しさは圧倒的に日本のお米に軍配が上がるわね」

 

 日本のお米で作っても美味しいんだけど、ここはその土地土地の材料に合わせてみましょう。

 

「グラスを人数分出しておいて、お酒はミカンちゃんの好きな炭酸系。ハイボールよ」

「うおー! シュワシュワ勇者スキー!」

 

 知り合いのインド人の子がバイトしているカレー屋さんでも自国のビールやウィスキーより、アサヒビールや、ジムビームの方が何故か合うって言ってたけど、それって日本は食事とお酒を一緒に楽しむ文化だからなのよね。


「はい、じゃあ炊き終わったら完成。ピリヤニができるまでに乾杯しましょうか?」

 

 ガチャリ。

 ぞわっ!

 

 何かしら? 質量のある人が来たっぽいけどニュっと顔を出したのは、金色の毛をした羊さん?

 

「うおー! うおー! きゃわわわ! もふもふの動物なりにけり!」

 

 ミカンちゃん、動物好きなんだけど、動物にめっちゃくちゃ苦手意識持たれているのよね。

 

「なんだ、金毛の羊だけど」

「ケートスさん、お知り合いですか?」

「牡羊座って言えばわかると思うけど」

 

 あー! えー! 牡羊座ってこんな金色の毛をした羊さんだったんだー!

 

「可愛い! おいでおいで!」

「メェエエエ!」

「あぁ! ふわっふわ! 可愛い」

「な、なぜ……」

「羊さんもお酒飲みますかー?」

「メェエエエ!」

「飲むって言ってるけど」

 

 という事で、羊さんが飲めるように、お皿にジムビームハイボールのピーチハイボールを注いであげる。私たちはグラスに、

 

「じゃあ、羊さんの前でラムを食べるというアレな日に乾杯!」

「乾杯なりっ!」

「乾杯であるぞ!」

「乾杯だけど」

 

 メェエエエエエ! と羊さんも乾杯。

 

 あー、ピーチハイボール、これは美味しいわね。桃系の酎ハイを殺しに来ているくらい美味しい。少々酎ハイとしては高い事がネックなくらいかしら?

 

「うきゃああああ! うみゃああああ!」

「ウメェエエエエエエ!」

 

 まさかのミカンちゃんと羊さんのコラボが起きたわ。デュラさんも「うまい」とケートスさんは「すっごい美味しいけど」とご満悦ね。

 

 じゃ、じゃあ。羊さんには悪いけど、今日のおつまみ兼夕食のビリヤニを人数分出すけど……

 その空腹感を煽る香りがミカンちゃんのお腹をダイレクトアタックよ。

 

「うまそー! 勇者肉多め! 肉多めが良き!」

「我も我も!」

「あーしも肉多めがいいけど」

 

 みんなお肉大好きなんだから! まぁ、お肉は多めに炊き込んでるから余裕よ。

 

「メェエエエエエ!」

「羊さんはお肉はアレなのでご飯だけにしましょうね!」

 

 と言う事でみんなで実食よ。

 

「さぁ、召し上がれ」

 

 スプーンでみんなお米とラム肉を一緒に頬張るわ。うーん、私的にはまぁ、普通に美味しくできたと思うんだけど、みんなのお味の方は……

 聞くまでもないわね。

 

「うまうま! かなりあ、かみぃ!」

「うむ、やはり金糸雀殿の料理は実にうまい。脱帽である! 我、首しかないであるがな」

「最高に美味しいけど」

「ウメェ! ウメェエエエエエ!」

 

 ミカンちゃんと羊さんがバクバクとビリヤニを食べて、同じタイミングでジムビームピーチハイボールをグビグビと飲むわ。

 

 そしてミカンちゃんと羊さんはお互いを見つめ合い。

 

「獣と勇者、気が合い!」

「メェエエエエエ!」

 

 ミカンちゃんと羊さんが抱き合ってるわ。良かったわねミカンちゃん! 動物好きのミカンちゃんが初めて好きなだけモフってるわ。

 

「ジムビームピーチハイボールお代わりいる人!」

「「「はい!」」」

「メェエエエ!」

 

 全員お代わりね。

 プシュと2本目とビリヤニも追加を持ってきて楽しんでいると、羊さんが私にツンツンとツノで突いてくるので、私はケートスさんを見るわ。

 

「お部屋を貸して欲しいって言ってるけど」

「あぁ、全然いいけど。私の部屋使っていいわよ」

「メェエエエエエ」

「今から機織りをするから見ちゃダメって言ってるけど」

 

 えっ? 鶴の恩返し的な? 確かあれってジジイが覗いて鶴であることがバレて逃げていくのよね。あの類のお話ってどうして見ちゃうのかしらね? 押すなと言うボタンを押しちゃう系かしら?

 

「みんな、羊さんが何かしてるので私の部屋は開けないようにね! じゃあ、私たちは飲み会続けましょうか? 実はカレー味のスープをかけて食べても美味しのよ」

 

 と、カレースープを用意して、ビリヤニを辛めのスープに浸して食べると……ああん、これはお酒が進むわ!

 

「よし、3本目、いきまーす!」

 

 ガチャリ。

 

「かなりあちゃん! 推しの子の実写を見にきましたよー!」

「アマプラですか? 28日からですよ! 明日また来てくださいよ」

 

 と言ってニケ様が帰るわけもないわよね。テーブルを見て嬉しそうに微笑むと、ニケ様はミカンちゃんの隣に座り「げっ!」ミカンちゃんが逃げられないようにホールド。

 

「かなりあちゃん、私にもご飯とお酒をお願いします」

「はい」

 

 ビリヤニとジムビームピーチハイボールを用意すると、ニケ様はスプーンでビリヤニを一口。ほっぺたに触れながら「うーん、美味しいですね。じゃあお酒もいただきます」長い夜の始まりね。デュラさんがピーナッツとかりんとうのポーションを用意。

 

「デュラハン! 気がきく!」

 

 酔ってるニケ様相手にこんな事をしているのは私の部屋にいる羊さんの邪魔をさせない為ね。

 

「デュラさん、ナイスアシストだけど」

 

 これにはケートスさんも親指を立ててるわ。「ふぐぅ、勇者、消えたし」と辛そうな顔をしているけど、ミカンんちゃんも羊さんのところにニケ様が行かないようにしてくれているわ。

 

「ニケ様、さぁ飲んで飲んで飲んで!」

 

 さっさとニケ様を酔いつぶして障害排除しておきましょうか……私たちの完璧すぎるチームワークでなんとかなったかと思ったけど……もう一人のレジェンドがこういう時に限ってやってくるのよね。

 

「うおーい! 金糸雀ぁ! 酒とつまみぃ! ここかぁ? おぉい?」

 

 普通に部屋に入ってきたセラさんが、羊さんが機織りしているところを開けちゃったわ。

 

「あっ!」

「なんだこの小僧? 金糸雀の知り合いか?」

 

 えっ? 小僧?

 

 私の部屋から恥ずかしそうに巻毛の金髪美少年が飛び出してきて、私にマフラーを「こ、これあげる!」と言って玄関から出ていっちゃったわ。

 

 えっ? 羊さん、あんな美少年だったの? えっ? セラさん、何してくれてんのよ!

 

「あのセラさん」

「あぁ、金糸雀。今日はベビースターラーメンを」

「帰ってもらっていいですか?」


 私は美人とイケメンに目が無いけど、美少女と美少年も大好きなのよ。私の首に巻かれた金色の羊毛で作られたマフラーは羊さんの体温の温もりがまだ残ってる。私はそのマフラーに触れながらもう一度行ったわ。

 

「セラさん、帰ってください」

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