第344話 マーマンとシャウエッセン夜味とサントリー ノンアルでワインの休日 桃香るロゼスパークリングと
「昨今の異常気象、災害は地球の痛みやとなんで分からんのや!」
「はぁ……」
「う、ウゼェなり!」
「分からなくもないが我らにそれを言われたとてであるな」
「ほらでた! すぐに自分には関係ない! その他大勢が言っているから知った事かと目を背けてきた現実が今ちゃうんか?」
私たちは何故か、私の部屋で半魚人なのかしら? マーマンさんがやってきて環境問題についてなんか浅い説教を受けている最中なのよね。セイレーンさんもそうだけど、人魚的な人はみんな関西弁なのかしら。
「お前らが垂れ流す生活用水が結局お前らの口に入る! 分かるか? お前らは自然を破壊する事で自然から生まれたお前らをも破壊しようとしてるんや? それやと、あーかーん!」
ミカンちゃんのイライラがマックス付近にまで溜まっているわね。下手したら面倒になって討伐しちゃうかもしれないわね。
そういう時は飲んで忘れるのが一番よ。
「マーマンさん」
「なんや! 今からどうやってこの美しいみんなの世界を綺麗にするか案をそれぞれ出していくところやで!」
「まぁ、とりあえずディナーというか晩酌ミーティングをしながらその話しましょうよ」
この前私はインターンに行ってきたわ。そこで一つ学んだ事があるの。社会人って対してうまくできてないけど意識高い系の人がいるのよね。このマーマンさんもその類だわ。どこかで仕入れてきたあっさい事をさも自分の言葉のように語る面倒な人ね。
「ディナーミーティングかぁ! そやな! できる奴は食の時間も大事にする! 分かるかお前らぁ? 普段ジャンクな物ばっかり食べてたら未来の自分を破壊する事になるぞー! 食べる物も選んで良い物を接種し、未来の自分を育てるんや! 全ては日々成長する為や!」
「勇者、もう成長してり、半魚人の言っている事は変化と知り!」
言ったわねぇ。そう、今現在日本で大人気の“成長“という言葉、これ占い師とかが使うような曖昧な言葉と同じなのよね。ミカンちゃんが言うように成長は本来限界のある言葉なのよね。それ以降は変化、熟練とかになるのよね。日本人らしい曖昧で使い勝手の良い成長という言葉を神様か何かと後生大事に使っているのに実際は経済も、手取りの給料も30年くらい前から成長できてないのよね。学生とか新社会人とかが成長って使っているのは分かるんだけど、中年以上の人が使う成長って言葉は普通に考えるとやばいわよね。
えっ? この人、まだ成長できてないのって感じ。そんなマーマンさんの幻想を打ち砕くにはこれしかないわ。
「じゃじゃーん! ノンアルでワインの休日 桃香るロゼスパークリング!」
「ノンアルであるな!」
「禁酒なり?」
「ええやん! ええやん! 金糸雀ぁ! ソバーキュリアスかいな!」
飲めるけど、あえて飲まない人? 私が? そんなわけないじゃない。私はお酒が大好き、というか愛してる。きっとお酒も私の事大好きで愛してると思う。
「ここに私の部屋の鉄板ウォッカ、アブソリュートウォッカがあります。これをショットグラスに入れて」
もう分かるわよね? ノンアルでワインの休日 桃香るロゼスパークリングをジョッキに入れてウォッカのショットグラスを全員に配るわ。
「じゃあ。乾杯の温度で! ショットグラスを落とすわよ!」
「まてぇ! 待て待て金糸雀ぁ! ノンアルに酒入れるて、お前アホか!」
「そうでもないですよマーマンさん、破壊なくして再生がないように、ノンアルをノンアルとして飲むだけなんて、成長がてんでないじゃないですか。そこでお酒をブーストする事でカクテルに早変わり、そう! 今、ノンアルでワインの休日 桃香るロゼスパークリングは成長したんです! じゃあ、乾杯!」
「乾杯なりぃ!」
「乾杯であるぞ!」
「み、認めへんぞ! そんなん屁理屈やろ!」
出たわね。散々屁理屈捏ねといてこちらの意見は屁理屈扱いする人。学校の先生にこのパターンが多いわね。でも、自分で言った建前、マーマンさんもウォッカを落としたわ。
そして私たちはこれをぐいっとやる。
「かー! いいウォッカ使ってるからまさにプレミアムサワーね。美味しいわ」
「うんみゃい! 勇者ノンアルにアルコールブーストするの背徳的でスキー!」
「うむ! わかりみが深いであるな」
マーマンさんは私たちが美味しそうに飲んでいるのを前に、ゆっくりとノンアルでワインの休日 桃香るロゼスパークリングの入ったジョッキにウォッカのショットを落とし、そして……一口。
「!!!!!!!!」
落ちたわね。
「たまには新しい事するのも悪くおませんなぁ? 一つ勉強になったわ!」
なら、マーマンさんのその偏った常識というダム、壊して見せるわ。私はフライパンを出すと日本の朝食、伝家の宝刀……シャウエッセンを取り出したわ。
「おぉ! シャウエッセンかいなぁ! 朝食うもんやろぉ、まぁでもソーセージは酒のつまみにはもってこいやからなぁ!」
なんでこの異世界から来た半魚人らしきマーマンさんはこうも日本の文化に詳しいのか私には知るよしもなかったけど、今から行う事でマーマンさんにトドメを刺すわ。私は熱したフライパンに……
「ちょ、そらあかんて金糸雀……」
「かなりあ……勇者もマーマンに同意と宣言せり」
「金糸雀殿……壊れてしまったであるか?」
シャウエッセンを落としたわ。
四十年という長い長い歴史の中で、シャウエッセンをフライパンで焼く事、死刑と同罪と日本ハムでは言われてきたわ。
平成中期のギャル達もこう言ったわ。
“えー! マジシャウエッセン焼いてるの!? キモーイ“
“シャウエッセン焼いていいのは小学生までだよね! キャハハハハ!“
そう、数多の男の子がシャウエッセンを意中の女の子の前で焼いて調理し、別れる原因となった事が数知れないのは語るまでもないわね。
「歴史は変わったのよ! このシャウエッセン夜味によってね!」
「「「な、なんだってぇ!」」」
日本ハムはシャウエッセンをボイル調理する事を日本国民に勧告していたのよね。それこそがパリッ! と食べられる究極の調理方法だと。
日本ハムにおいてシャウエッセンを焼き調理する事、それ即ち自らクビ、あるいは窓際部署へ追いやられる事として長らく禁忌、禁句、違法とされてきたのよ。
「ところがある日、日本ハムの若い社員の方が……言ったのよ。焼きませんか? って」
「勇者ぁ! 勇者とは違う、別の勇者なりにけりぃ!」
「悔しいであるが、天才はいるのであるな……」
「いやいや、流石に擁護できひんて」
「話は続きがあるのよ。そもそもシャウエッセンを焼いて食べる国民の方が圧倒的に多いという事実は元々あって日本ハムも把握していたのよ。だけど、社内もそうだったの……そして生まれたのが、禁じ手! 焼き調理を推奨したシャウエッセン夜味。伝統の破壊と新たな伝統の創造者よ」
答えはシンプルでいいの。キャベツとピーマンを一口大に切って、シャウエッセン夜味と炒めるだけ、たったそれだけ生まれるご馳走的おつまみよ。
「いいから、食べてごらんなさいよ」
終わりにするわ。この不毛な戦いを、世の中ではきのこだたけのこだ、ボイル調理だ焼き調理だと戦争ばかりしてるけど、もう戦争には疲れたのよ。平和が何よりも大事ね。
ボイル調理でなくともシャウエッセンは割といい音でパキッと食べられる。ただし、夜味は……
「これは……信じられぬである」
「なるほどなぁ、こりゃ焼き調理上等、そしてこの野菜を合わせてるの上等やでしかし!」
スパイス感、ハーブ感マシマシの夜味はおつまみはもちろん、ご飯のおかずにもってこいの味の濃さなのよ。それそのものが薬味のように他食材と焼き調理にて手を繋ぐわ。
ミカンちゃんがハグっ、ハグ! とシャウエッセン夜味に取り憑かれたように食して、ノンアルでワインの休日 桃香るロゼスパークリングのウォッカブーストをジョッキで一気飲み。
「う、う、う……うんみゃああああああああ! シャウエッセンつよつよぉおおおお! 勇者これしゅきぃ!」
レアなしゅき! 出たわね。そう、かくいう私もたまにシャウエッセン焼いて食べてたわ。これが日本ハムが導き出した答えなのよ。
「金糸雀、おじさん間違ってたわ……ノンアルにアルコール入れて何が悪いねん。シャウエッセン、焼いて何が悪いねん。地球環境汚染して何が悪いねん!」
「最後のは悪いですよ。まぁ、考えの押し付けは良くないですよねってお話ですね。わかってくれれば結構ですよ」
「ほんまか? すまんかったな。みんな、おじさん。反省して帰るわ」
マーマンさんの背中はなんだか酷く小さく見えたわ。きっとまだ思うところもあったんでしょうけど、少しずつ考えを改めてくれればいいわよ。
ガチャリ。
来たわね妖怪。
「金糸雀ー! 酒ぇ、それとつまみ!」
今日はエルフの方の妖怪か、私は食器を用意していると、ハイエルフのセラさんは何か巨大な魚のヒレのような物を持っているわ。
まぁ、嫌な予感がするけど。
「それなんですか?」
「これか? 川を汚染しようとしていた邪悪なマーマンがいてな。周囲の人たちや、神社仏閣、霊能力者関係からカッパ退治をしてくれって私に言われてな! これでもかつては伝説の勇者のパーティーにもいた私が魔法でちょちょいのちょいだ! 塵一つ残さずやっつけてやったんだ!」
まぁ、うん。まぁ……今回はセラさんが正義ね。偏った考えを持つ人って、多分絶対に治らないんでしょうね。
私も一つ勉強になりました。マーマンさん。
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