第345話 サキエルと牡蠣飯おにぎりとブリュードッグ パンクIPAと

 ガールズバーのお客さんの一人が、水産系の会社のお偉いさんで、従業員にと大きな牡蠣を持ってきてくれたのよね。自炊しない子達が結構遠慮したので、私といろはさんとひなさんの三人で殆ど分けたので、ホクホクな状態。

 生牡蠣やら焼き牡蠣も楽しんで、あとわずかになったから、今日は総仕上げの牡蠣飯を作るわ。

 

「かなりあぁ、勇者。はらへりかもー」

「はいはい。今日はガツンとお腹をダイレクトアタックしてくれる牡蠣飯でおにぎり作るわよ」

「先日、醤油で洗うという珍しい方法をとっていたのはこの為であるか!」

「牡蠣の煮しめを一日置いておいたのもタレに牡蠣の味をなじませたかったからね。人参、牛蒡、筍とこんにゃくも入れて煮込みなおします。ご飯が炊き上がったら、これらを混ぜ込んで完成……じゃないのよね」

「既に、究極的にうまそうなりっ!」

 

 このまま食べてもそりゃ美味しいんだけどね。今回はおにぎり。少し冷ました物をポンポンと握っていくわ。お漬物はたくわんでいいかな?

 

「はい、本日のご飯兼、晩酌のお供完成よ!」

「うおー! うおー! うまそー!」

「金糸雀殿の手際の良さ、やはり勉強になるであるな」

 

 そしてこれに合わせるお酒。日本酒! 冷酒? それとも熱燗?

 ノンノンノン!

 

「この牡蠣飯おにぎりには、ビールを合わせるわ」

「やりぃ! 勇者、麦酒、ちょー好きー!」

「おにぎりに麦酒は合うであるからな!」

 

 私の最高の飲み友であるこの二人、本当にいいわー! おにぎりはビールに合わないという人が実は一定数いるのよね。かつて、プールにビールが持ち込み可だったり、プール内販売されていた時代があるのよ。

 ※ガチで狂っていますね。最近は海でもお酒飲むのは日本でもアウトになってきました。

 

 その頃なんて奥さんや彼女の手作りお弁当とビール。要するにおにぎりとビールというのは鉄板の組み合わせで、ライスボールは日本酒にもビールにもワインにも合うと海外では普通の組み合わせ。

 ちなみに私たちは行楽シーズンお弁当を作ってビールをクーラーボックス一杯入れて公園とかで飲むわね。

 

「アサヒスーパードライや黒ラベル、エビスとかもいいんだけど、今回の牡蠣飯おにぎりにはあえて、海外のビールを合わせてみる事にするわ。ブリュードッグ パンクIPAよ!」

 

 スコットランドの異端児と名高いクラフトビールね。このビールが何故かかつての日本のビールみたいな苦味と切れ味を持っているのよね。

 名前の由来は、ポップミュージック人気をパンクミュージック人気がうわ回った時のように英国ビール圏に新風を! という素晴らしい考えの元に作られたビールね。

 何度も言うけど、旧麒麟赤ラベルはこのビールに匹敵する美味しさがあったのよ! 一本400円程で割とお高めだけど……

 兄貴が箱買い契約しているので飲み放題!

 

「二人ならこのビールの味わいを楽しんでくれると思うわ」

 

 ビール専用グラスを用意していると、ガチャガチャと玄関のドアが開かれるわ。なんだろう。お花みたいな香りが広がるわね。

 

「ごめんください。どなたからいらっしゃらない?」

 

 なんだか白い女の子? いや、2対の羽があるからこの子は天使ね。一番最初にきたミカエルさんが天使には性別概念がないって言ってたわ。

 

「天使の方ですか? 私は犬神金糸雀。この家の家主です」

「貴女が金糸雀なのねぇ! 他の天使達から聞いているわぁ! 嗚呼! 嵐に巻き込まれたけど、今日はなんて幸せな日なんでしょう! 私は木星の天使サキエル」

「わわっ!」

 

 めっちゃ抱きつかれたけど、可愛い子に抱きつかれるのは悪い気はしないわね。

 

「サキエルさん、天使の方は人間が食べる物は嫌がるかもしれないけど、今から晩酌なんですが、よければどうですか?」

「いいわ! とってもいい! 金糸雀、貴女最高よ!」

「そうですかぁ! なんか照れるなぁ」

 

 という事でリビングまで連れていくと私が座った椅子の膝に座ってるわ。ああん、可愛い!

 

「ほぉ、天使であるな!」

「勇者の膝にも乗って欲しいと宣言せりっ!」

 

 ミカンちゃんがパンパンと膝を叩くけどプイと小鴉みたいにサキエルさんはそっぽを向いたわ。

 

「な、なぜぇ!」

 

 ミカンちゃん、何故か小動物系に嫌われるのよね。とりあえず全員の目の前にビアマグとブリュードッグ パンクIPAを用意。

 

「サキエルさんと、常識を打ち壊すビールに乾杯!」

「乾杯なりぃ!」

「乾杯であるぞ!」

「主よ! あなたが飲む物よりも最高のお酒を飲むことをお許しください! しょーこらぁ!」

 

 ぐいっと私たちは力強いブリュードッグ パンクIPAを飲み、喉に、喉の奥に乱暴に流し込むは!

 

「ぷはー! うんま!」

「うんみゃい!」

「ほっほっお! これは力強い」

 

 さぁ、地球のお酒に慣れている異世界組は単純にブリュードッグ パンクIPAを楽しんでいるけど、サキエルさんは、バタバタバタ! と羽を羽ばたかせているわ。

 

「天地鳴動! 天地鳴動級!」

 

 目を丸々として何が怖い物でも見たようにサキエルさんはブリュードッグ パンクIPAを見つめているわ。私はそんなサキエルさんを見つめて頷く。

 

「飲んでいいんですよ! もっと、ずっと、好きなだけ!」

「悪魔的! 悪魔的麦酒だわ! ああー、神よ。こんな物を飲んでいいのでしょうか?」

 

 天使のサキエルさん、日本へようこそ! そして、このビールに合う、おつまみを食べてさらに日本晩酌沼に染めてあげるわ!

 

「じゃあ、牡蠣飯のおにぎりもどうぞ!」

 

 大きな牡蠣をふんだんに使った牡蠣飯のおにぎり、ニケ様を見ている限りでは神様の世界にこれを超える食べ物は存在しないわね。黄色いたくわんとセットで召し上がれ!

 

「これ、なんか茶色いけど、食べ物なの? 不穏だわ! とっても」

 

 天使の人って基本人間ディスってるんだったわね。泥と土でできたーとかで茶色が苦手なのかしら? でもまぁ食べてみればわかるわ。

 

「んまー! うきゃあああああ! んまんまぁ! 勇者、麦酒を飲む手が止まらぬ!」

 

 ゴキュごきゅとブリュードッグ パンクIPAを飲みほして3本目に突入のミカンちゃん、かたやデュラさんは。

 

「うむ。牡蠣飯の上品な香り、どれ一口。ククッ! 金糸雀殿の完璧な硬さでの握り方。これがまたたくわんとよく合う。そして、麦酒。うん、うまい!」

 

 二人が美味しそうに食べているのを見て、サキエルさんは……「木星と同じ色をした食べ物……えい!」

 

 勇気を出してかぶりついたわ。もう、戻れないわね。牡蠣の旨み成分に日本人は取り憑かれてるんだから、麻薬なんてめじゃないわ。それだけの魅力のある牡蠣飯のおにぎりを食べてしまったサキエルさん。もう瞳から色が失われているわ。

 

「なんという事かしら。怖い、怖いわ金糸雀! これが人間の至高の食べ物なのね? ダメとわかっているのに、手が止まらない。この漬物も癖があって美味しい。頭がダメになりゅうううう!」

 

 完全に落ちたわね。でも、これで終わりじゃないのよ! サキエルさん、日本の晩酌には〆があるの。

 

「さぁ、牡蠣飯おにぎりにだし汁をかけて、お茶漬けをどうぞ!」

 

 ミカンちゃんとデュラさんはスプーンで美味しそうにそれを食べているけど、サキエルさんはこれを食べたらもう戻れないってわかってるんでしょうね。

 

「こんなの……こんなのあんまりよ金糸雀!」

「食べさせてあげますね! はい、アーン!」

 

 それにサキエルさんはもう抗えないわ。ゆっくりと、ゆっくりとスプーンに向かって顔を近づけて……

 

「金糸雀ちゃん! 天使を甘やかしてはいけません! ぱくっ!」

 

 おぉおお、ニケ様。ご立腹の表情で私を見つめているわ。ミカンちゃんはシメを食べていなくなったわね。デュラさんはこれから始まる長い夜に備えて、洗い物を始めたわ。

 

 さぁ、どうする?

 

「うわーん! あんまりよ! せっかく金糸雀が、ああーん、わーん! 異教徒の神にお茶漬けとられたー! わー!」

 

 めっちゃ泣いてるわ。

 それにニケ様は知らぬ存ぜぬの表情。

 

「なーかしたーなーかしたー! にーけ様がーなーかしたー」

 

 私は日本の古来より受け継がれてきた呪禁の歌を歌ってみたわ。サキエルさん、よっぽどお茶漬け食べたかったのね。もう一杯くらい作ってあげるわよ。

 

「なんですか! 金糸雀ちゃん。ばかー! 天使にばっかり甘やかして〜! 女神を甘やかしてください! もう、金糸雀ちゃんなんて知らない!」

「…………」

 

 めっちゃこっちをみて追いかけてほしいオーラを出してるけど、無視しましょう。私はそれから30分近く、ニケ様と見つめ合う事になったのよね。

 

「サキエル殿、お茶漬けであるぞ!」

 

 デュラさんがお茶漬けを作ってくれるまで……

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